シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.36 ホシノ救出作戦 - 3

 互いに銃口を向け、にらみ合いへ入る。

 時が止まったかのように双方微動だにしなかったが、ミズキが先に動き出す。

 弧を描くように動きながら、引き金を引き続けて弾幕を張る。

 まずは理事の言う、新型の様子を伺う1手だ。

 

「ふっ、遅いな。そんな弾幕で捉えられるとでも思ったか?」

 

 パワードスーツの脚部のモーターが駆動したかと思うと、理事の姿が一瞬で消える。

 直後、ミズキが背後を向くと、後ろへ回り込んでいた理事がパワードスーツの装備を振り下ろそうとしていた。

 既のところでその一撃を避け、ミズキは理事との距離を取り直す。

 

「無駄だ」

 

 しかし、再び銃口を向けるよりも先に、理事が機動力を物をいわせて距離を詰めてくる。

 そのまま振り下ろされる一撃を、ミズキはとっさに愛銃で防ぐ。

 ただ、パワー差まではどうにもできず、そのまま地面へ叩きつけられる。

 

「ぐっ、こ……のぉ!」

 

 叩きつけられた際のバウンドを利用して、体勢を空中で立て直し、ミズキは愛銃の銃口を理事へ向け、引き金を引く。

 この新型パワードスーツは、装着者部分の装甲があまりないため、パワードスーツの駆動部を破壊するより装着者を行動不能にした方が早く無力化できるだろう。

 それに、いくらパワードスーツの機動力があっても、装着者が反応できなければ意味はない。

 加えて、理事は武器を振り下ろした直後で、仮に反応できたとしても、行動に移るまでワンテンポあるはず。

 

「甘いな。その程度で、この新型パワードスーツを捉えられるとでも思ったか?」

 

 しかし、理事は脚部のジェットを吹かせ、その巨体を飛び上がらせる。

 そのまま踏みつけようと急降下してくるのが見え、ミズキは急いでその場から離れる。

 直後、先程までミズキがいたところへ理事が着地し、凄まじい衝撃音とともに地面が少し凹む。

 その様子を見ながら、ミズキは近くの遮蔽物へ転がり込み、武器のリロードを始まる。

 

――なるほど……あの理事が大きく出てくるわけね。

 

 銃弾を見てから避けられるほどの反応速度と機動力に加え、キヴォトスの生徒を余裕で吹き飛ばせるほどのパワー。

 それらがあるのなら、確かにキヴォトスの生徒と渡り合えるし、あの理事が大口を叩くのも納得できる。

 しかし、とリロードを終えたミズキは、思案を続ける。

 あのパワードスーツが高性能だとしても、結局あれを操縦しているのは、理事本人だ。

 いくら機械の身体を持っているとはいえ、ヘイローを持たないのであれば、付け入る隙はいくらでもあるだろう。

 理事本人も、戦闘は基本部下の隊員任せで、実践経験は乏しいだろう。

 加えて、あのパワードスーツがいつまでも稼働し続けるとも思えない。

 ならば、持久戦へ持ち込めば、ミズキにも十分勝ちの目はある。

 例えば、先にホシノを救出しに行ったシロコたちが戻ってくるまで耐え、合流して倒す、などだ。

 

――……いや、この戦いにシロコたちを巻き込むわけには行かない、よね。

 

 そこまで考えたが、最終的にミズキはこの考えを否定する。

 彼女たちの目的は、あくまでホシノを救出して、5人でアビドスへ帰還することだ。

 頼めば快諾してくれるだろうが、自分から囮になると言った手前、それはシャーレのエージェントの面目丸つぶれだ。

 となれば、自分がすべきことは1つ。

 

「やあっ!」

 

 跳躍して遮蔽物から飛び出し、銃弾の弾幕を理事へ浴びせる。

 嘲笑うかのように、理事は高速移動をして避けていくが、ミズキはその動きをしっかり観察する。

 

――やっぱり、パワードスーツのパワー任せで、動きが大雑把……。これならっ!

 

 理事の動きは、自分へ命中する銃弾を識別して避けるような形ではなく、銃弾を大きく避けるような動きだ。

 それだけの動作を続ければ、あのパワードスーツも長時間稼働し続けられないはずだ。

 そんな事を考えていると、理事が武装の銃口をこちらへ向け始める動作が見えた。

 こちらも銃口を向け、銃弾を銃弾で弾こうと構える。

 そして、理事が銃弾を撃った瞬間に、こちらも発砲するが。

 

「なっ……この弾は……」

 

 理事の武装から発砲された銃弾は、普通の銃弾ではなかった。

 青白い光弾とも言うべきそれは、ミズキが発砲した銃弾を飲み込み、弾かれることなくそのままミズキめがけて飛んでくる。

 身体を捻り、既のところで光弾を避けるが、僅かにかすったのか、やけどしたかのような熱さと痛みが襲いかかる。

 一瞬確認すると、袖部分が焦げているのが見えたので、そこにかすったのだろう。

 

「高エネルギーの……弾丸?」

「どうだ? 貴様の射撃の腕前がいくらあろうが、この光弾には意味あるまい」

 

 その状況から考えられる可能性を口にすると、理事が勝ち誇ったような表情を浮かべ、こちらへ再び銃口を向ける。

 そこから何発もの光弾がミズキへ襲いかかり、ミズキは弾かれたように走る。

 ジグザグに動いて避け続けながら、光弾の対策を考える。

 

――まずあれを銃弾で弾くのは無理。One For Oneなら行けるだろうけど、効率が悪すぎる……。

 

 高エネルギー体のあの光弾に、普通の弾丸は役に立たない。

 ブラックマーケットで二足歩行型戦車を無力化したOne For Oneなら撃ち抜けるだろうが、あれは1発ずつしか撃てない。

 一方の光弾は連射が可能なことを踏まえると、One For Oneを抜いて対処するのは、効率が悪い。

 しかし、と、ミズキは思考を巡らせる。

 銃弾を溶かすほどの高エネルギーなら、エネルギーの消費量も相当なはず。

 あのパワードスーツを見た限り、エネルギー炉や貯蔵できるようなユニットは見当たらない以上、エネルギー切れとなる可能性は十分あるはず。

 その瞬間を見極める必要がある、と結論付け、反転するが。

 

「ふっ、このパワードスーツがエネルギー切れなど起こすと思うか?」

 

 後ろに理事はいなく、代わりに上から理事の声が聞こえた。

 ミズキが見上げた直後、周囲に光弾が雨のように降り注ぐ。

 爆発とともに砂や煙が巻き上がり、視界が遮られる。

 

――直撃はなかったけど……不味いっ!

 

 砂や煙で視界を奪われ、爆発で聴力も落とされている。

 この状況でパワードスーツの駆動音を聞き分けるのは難しいし、あの光弾は発射音がしないため、見極めが困難だ。

 一方のパワードスーツは、センサーが何かでこちらをハッキリ捉えていると考えられる以上、ここに留まるわけには行かない。

 行動へ移そうとしたミズキであったが、目の前にパワードスーツの武装の銃筒が迫っていた。

 

「くっ……」

 

 銃筒で殴打されて、地面へ背中を打ち付けながらも、ミズキは体勢を立て直し、滑るように理事との距離を取る。

 すぐに詰められないよう、マガジン内の銃弾を撃ち尽くして牽制し、その間に次の手を考える。

 

――あの理事なら、この有利状況でブラフを言うようなことはない……。なら、エネルギー切れを狙うのは無理、ね……。

 

 そうなると、1つ疑問が浮かぶ。

 

「不思議か? これだけ縦横無尽に動いているはずなのに、エネルギーが無尽蔵なことに」

 

 こちらの疑問を目ざとく潰してくる理事を無視し、思考を巡らせる。

 無尽蔵とは言うが、キヴォトス一の学術学園であるミレニアムですら、そのような研究を完遂できていない以上、物理的に無限のエネルギーを有しているのは考えられない。

 そうなると考えられるのは、ミズキすら感知できない速度でエネルギーを補給している。ということになるが、この可能性も低いだろう。

 その手のエネルギー重点は、得てして高速駆動下ではできず、わずかにスピードなどが落ちるのが常だ。

 しかし、これまでの戦いを振り返っても、そういう機動力の低下などは、ミズキ視点では見えなかった。

 

「……ここは、カイザーPMCの基地。基地のエネルギーをそのパワードスーツへ集めれば……」

「ふっ、流石シャーレのエージェント、と言ったところか。お察しの通りだ」

 

 理事の言葉に、ミズキは舌打ちする。

 この大きな基地のエネルギー、それもホシノの管理用リソースや基地の運営に必要な最低限のものを除いた全エネルギーが集まっているとすれば、局地戦において無尽蔵と言っても差し支えないだろう。

 こちらがあくまで1人分の出力しか出せないことを考えると、非常に厄介な状況となる。

 

「貴様が今相手しているのは、この基地すべて、と言っても過言ではない」

「……っ」

 

 ミズキは黙って観察を続ける。

 パッと見では供給ルートを判断できない以上、パワードスーツへの供給網を破壊するのは、現実的ではなさそうだ。

 

「……どうだ? ひざまずいて命乞いするなら、助けてやってもよいぞ?」

「……?」

 

 唐突な理事からの提案に、ミズキは眉をしかめる。

 

「貴様……いや、貴様らの居場所を奪ったとも言える連邦生徒会……そこの消えた生徒会長が作った組織の一員として、なぜ貴様は働く?」

「……笑わせる」

 

 理事の話を打ち切らせ、ミズキはリロードを済ませた愛銃の銃口を理事へ向ける。

 

「今の私はシャーレのエージェント、今ここに立つ理由は……手を伸ばそうと必死にもがいているあの子たちを助けるためっ!」

 

 そう言い放ち引き金を引くが、ガキンッという何かが折れるような音だけ、虚しく響き渡った。

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