シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.37 ホシノ救出作戦 - 4

「くくくっ、武器にも見放されたようだな。……だが、貴様の意向はわかった」

 

 ミズキの武器が壊れ、勝ちの目を失ったと革新した理事は高らかに宣言し、銃口をミズキへ向けてくる。

 

「そのくだらない理想とともに……消え失せろっ!」

 

 これまでの光弾よりもひと回りほど大きい光弾が、ミズキめがけて発射される。

 あれはちょっと身体を捻ったり移動したりする程度では、とてもかわしきれない。

 手持ちの武器は故障してしまったし、仮に故障していなかったとしても、光弾には太刀打ちできない。

 絶体絶命の窮地に、ミズキが歯を食いしばった瞬間。

 

「ミズキ、いいよ」

 

 先生からの通信が入った。

 たったそれだけで通信は切れたが、ミズキはスイッチが切り替わったかのように目つきが変わる。

 

「おぉぉおああァァあっ!」

 

 愛銃を放り投げて雄叫びを上げ、両手で光弾を抑える。

 そのまま、勢いをそらすように光弾を打ち上げる。

 

「何っ! バカなっ!?」

 

 光弾をそんな風に対応するとは思っていなかったのだろう、理事の表情がこれまでの勝ち誇ったものから、驚きのものへ一転する。

 その様子を尻目に、ミズキは自身の両手を見つめ、先程の動作による影響がないことを確かめる。

 

――久しぶり……だったけど、なまってはない……ね。

 

 久しぶりの使用だったが、この様子なら問題ないだろう。

 視線を理事へ戻すと、まだ余裕があるようで、驚きの表情は消えていた。

 

「確かに驚いたが、所詮まぐれよ。……このスピードに……」

 

 そう言いながら、理事の姿が消える。

 

「ついてこれるかっ!」

 

 ミズキの背後へと回り込み、理事が砲撃を繰り広げる。

 しかし、理事が放った砲撃は、ただの1発もミズキを捉えることはない。

 

「当然、今ならついていけるよ?」

 

 理事の背後へと回り込み、言葉をかける。

 ビクッと身体を震わせ、こちらを向いた理事へ、ミズキはニコニコと笑顔を見せる。

 そのまま数度、2人は高速移動を繰り広げるが、ミズキはすべて理事の背後を取り続ける。

 

「くっ、一体何故だ……エネルギー系統にも動力も問題ないというのに……っ」

 

 先程までの様子から一転、理事の表情から徐々に余裕が消えていく。

 それまで圧倒していたはずの相手に、突如圧倒され始めれば、仕方がないだろう。

 

「答えは簡単。今の私が、あなたより強い、からよっ!」

 

 理事の背中を蹴り、宙返りしながら理事との距離を取り、着地する。

 流石にバランスまでは崩してくれないようで、こちらの方へ向き直した理事は、銃口を向けてくる。

 そのまま光弾が発射されるが、ミズキは既のところで、少しだけ身体を動かして避ける。

 

「くそっ、一体どうなって……」

「あなたが知る必要はないし、知ったところで理解できないでしょうね」

 

 そう言い放つミズキへ、理事はもう片腕の銃口も向ける。

 

「調子に乗るなよ、この弾幕ならどうだっ!」

 

 ガトリングのようにエネルギー弾が乱射され、ミズキへ襲いかかる。

 しかも弾速もまばらなため、普通であれば避けるのは不可能だろう。

 しかし、今のミズキは、普通ではない。

 自分へ飛んで来る光弾の軌跡を見極め、必要最小限の動きで避け続ける。

 それでも避けきれない光弾は、先程と同じように弾いて対処する。

 

「くそっ……この状況で、近づいてくる、だと……っ」

 

 弾幕を避け、時には弾きながら、ミズキは理事との距離を少しずつ詰めていく。

 その事実に焦りを覚えたのか、理事からの弾幕の密度が濃くなっていく。

 それにつれて、避けきれない光弾の量が増えていき、ミズキも弾く動作が増えていく。

 しかし、それでもミズキの詰める速度が遅くなる程度で、ミズキの歩みを止めるまでには至らない。

 

「ならばっ、これで……どうだっ!」

 

 弾幕がやみ、直後にミズキの背丈ほどの巨大な光弾が放たれる。

 

――弾けなくはないけど、これを使わない手は、ないっ!

 

 この光弾も、今のミズキなら弾くことは十分可能だ。

 しかし、これだけ大きければ、これに身を隠して色々できる。

 あのパワードスーツの機能を持ってすれば、行動を補足されるだろうが、今の頭に血が上っている理事なら、そこまで思考は回らないだろう。

 そう決断するや否、ミズキは地面を蹴って加速し、迫りくる光弾の直前で勢いよく飛び上がる。

 直後、先程までミズキがいた地点に着弾した光弾が爆発し、砂と煙が巻き上がる。

 

「甘いわぁ!」

 

 流石にそれで見失うほど冷静さは失っていなかったようで、砂煙から飛び出た瞬間、理事の怒声ととともに銃口が向けられる。

 そこから再び光弾の弾幕が発射される。

 空中なら、先程みたいに避けられないと思っているのだろう。

 

「甘いのは……そっち!」

 

 避けられないのなら、弾き続ければ良い。

 迫りくる光弾を次々と弾きながら、跳躍の勢いのまま理事へ接近する。

 そのまま、理事の顔めがけて足を伸ばすが、理事の両腕で防がれる。

 

「くっ……」

「新型兵器って言っても、大した事ないのね」

 

 理事の両腕を蹴って後方宙返りをしながら、着地したミズキは言い放つ。

 それに怒った理事が、パワードスーツの機動力を活かして、一気に距離を詰めてくる。

 しかし、操作している本人が怒りに身を任せている状態では、その動きや繰り出される攻撃も、単調だ。

 飛んでくる右ストレートを滑りながら伏せて避けつつ、右の拳を強く握り。

 

「せえぇぇいぃっ!」

 

 無防備な理事の腹部へ振り抜く。

 空気の振動と鈍い感触が伝わり、理事は身体をよろめかせながら、数歩後退する。

 流石に倒れるまではいかなかったが、相当なダメージにはなったはずだ。

 

「ぐっ……こ、の小娘……がぁ!」

 

 怒りに任せ、理事が光弾を乱射し始める。

 しかし、狙いが定まっていないそれは、ミズキを捉えることはなく、周囲へ着弾していく。

 絶好の機会と見て、ミズキはOne for Oneを取り出し、銃弾を装填する。

 しかし、銃口を理事へ向けようとした瞬間、ミズキの足元へ光弾が着弾する。

 間一髪後ろへ跳んで避けるが、着弾の爆発で砂が舞い上がり、視界が奪われる。

 そして砂が舞い落ちて視界が戻ると、理事の姿がないことに気がつく。

 

「まさか、この手を使わざるを得ないとは、な……」

 

 ミズキが視線を空へ向けると、飛んでいた理事の姿が見えた。

 理事はこちらへ銃口を向けると、エネルギーを溜め始める。

 

「黒服には悪いが……小鳥遊ホシノは諦めてもらおうか」

「まさか……基地ごと吹き飛ばす気!?」

 

 問答を続けている間も、理事はエネルギーを溜め続けている。

 この一撃で、ミズキやホシノ、対策委員会ごとまとめて吹き飛ばすつもりなのだろう。

 すでにエネルギー量はこちらから視認できるほど溜まっており、中断させることは無理いだろう。

 

「対策委員会もろとも……そのくだらない夢ごと……、消し飛べぇぇええ!」

 

 溜まり切ったエネルギーが一気に放出され、巨大なビームのような形でミズキへ襲いかかる。

 あれは今までの光弾とは比べ物にならないエネルギー密度で、とても弾くことはできない。

 回避だけに全力を注げば直撃は免れるだろうが、基地自体が消し飛んでしまう。

 それは、ホシノはもちろん、ホシノを救出に言った対策委員会のみんなも消し飛んでしまうことを意味する。

 ならば、ミズキが取れる行動は1つのみ。

 

「割るけど、あの子たちの未来を消させるわけには行かないっ!」

 

 One for Oneの銃口を迫り来るビームへ向け、ミズキは照準を合わせる。

 

「……シュートっ!」

 

 そして、引き金を引き、1発しかない弾丸を発射する。

 その銃弾には、光り輝くオーラが膜のように張っていたが、それを理事が認識することは、ない。

 

「ふっ、無駄なあがきだ! シャーレのエージェント!」

 

 高密度のエネルギー体であるビームと弾丸とでは、まず勝負にならない。

 それを知っているからこそ、理事は高笑いする。

 しかし、その笑い声も、ビームと銃弾が激突した瞬間に消え去る。

 

「馬鹿な……何故、銃弾ごときに止められる!? こっちは基地のほぼ全エネルギーを注ぎ込んだと言うのにっ!」

「あなたは何もわかっていない……。キヴォトスの奇跡も、そして……」

 

 銃弾がビームを貫通していく様を見ながら、ミズキは言葉を続ける。

 

「私のことも、ね」

 

 銃弾がビームを完全にかき消し、輝きを増しながら理事めがけて一直線に跳んでいく。

 そして、その輝きが突然爆ぜたかと思うと、光をまとった巨大な虎のようなものへ姿を変える。

 

「こんなことが……はっ、これが黒服の言っていた神秘、なのか……」

 

 ようやく悟った理事であるが、目の前に迫り来る巨大な光の虎をどうにかする方法はない。

 巨大な光の虎は、その口を大きく開き、パワードスーツごと理事を噛み砕く。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアア!」

 

 理事の断末魔とともに、パワードスーツが大爆発を起こす。

 パワードスーツの残骸とともに、理事の身体が砂漠へ落下し、頭から砂漠へ突き刺さる。

 上半身が砂に埋れた状態で、数度ビクビクしたと思えば、脱力したように下半身が倒れ込む。

 その様子を最後まで見届けたミズキは、一息つくと、One for Oneを仕舞って空を見上げる。

 ちょうど、見覚えのあるシャーレのマークを機体に付けたヘリコプターが1機、ホシノと対策委員会のメンバーがいる建物の方へ向かっていくのが見えた。

 




これでアビドス編は一段落となります。
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