シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.6 アビドスの日常

「……想像以上に、アビドスには厄介な事情がありましたね……」

 

 ヘルメット団襲撃の翌日、アビドス高等学校の周辺を調査目的で巡回しながら、ミズキが切り出す。

 思い出されるのは、ヘルメット団基地への襲撃作戦後に聞かされた、アビドスが置かれている実情だ。

 9億6235万円、それが砂嵐や砂漠化による被害、それらの対策の失敗によって膨れ上がった、アビドスの負債額だ。

 その金額では利息もかなりの額となっており、月々の返済額は利息分で大半が消えている、とのこと。

 しかも、学校自体が担保となっているため、仮に返済できなければ、廃校手続きに進まなければならなくなる。とのことだ。

 

「高校生活の全部を借金返済にあてたとしても、1年や2年程度で返済できるがくではないですし、一体何代まで続くのか……」

「そうだね……。だから、アビドスから転向する生徒が出るのも、ある種仕方がない、かもね……」

 

 キヴォトスにとって、所属している学園がなくなることの意味合いは重い。

 返せる見込みの薄い借金を返済するために、アビドスに残り続けるよりも、他の学校へ転校した方が、有利に働くだろう。

 

「でも、彼女たち……対策委員会の子たちは、それでも諦めない選択をしたんだよ」

 

 自治区は砂嵐や砂漠化の影響で風化、膨れ上がる借金も相まって生徒数が少なくなった学校へ、今後新たな生徒が入学する見込みは薄い。

 むしろ、3年生のホシノに2年生のシロコとノノミ、そして1年生のセリカとアヤネ。

 全学年揃っている事自体が、ある種の奇跡だろう。

 そんな状況でも、借金返済を諦めず、完済する道を、彼女たち対策委員会は選んだ。

 なら、それを尊重し、できる限り支援するのがシャーレの――先生の――仕事だ。と、先生が言葉を続ける。

 

「……わかりました。なら私も、できる限りのことは、してみます」

 

 それが、シャーレのエージェントである、自分にできることだろう。

 そう言い聞かせるように言ったミズキは、1つ気になることを思い出した。

 

「ただ……全員が全員、肯定的ではない、ですよね……」

「そうだね」

 

 ミズキと先生が思い出すのは、昨日の借金の話でのやり取りだ。

 対策委員会から借金に関する話を聞いたとき、セリカだけ異様にその話をするのを拒んでいた。

 加えて、シャーレが手助けするのも、否定的な言動を見せており、すんなりとはいかせてくれなさそうだった。

 

「シャーレが……大人の先生が気に入らない、というのではなさそうでしたけどね……。もしそうなら、支援物資を届けた段階で、そういう反応するはずですし」

「そうだね。セリカが怒っていたのは、アビドスの借金の話が出たときだったからね。……まぁ。今までの対策委員会の状況を考えると、セリカの気持ちもわかるけど、ね」

 

 こればっかりは、本人ときちんと話合わないと、解決するのは難しいだろう。

 一旦そう結論付けたミズキと先生は、ふと時計を見る。

 

「そう言えば、そろそろお昼の時間ですね」

「みたいだね。だけど……」

 

 現在2人が歩いているのは、ほとんど人がいなくなった住宅街エリアだ。

 昨日シロコたちに聞いた話では、飲食店の類は、住宅街エリアよりもっと郊外寄りの市街地の方まで出歩く必要がある。とのことだ。

 しかし、ここで問題が1つある。

 

「道、知らないんですよね……」

 

 アビドス自治区内で遭難した記憶が新しい以上、土地勘がない2人でナビだよりに行くのは危険だ。

 仮に市街地エリアまでたどり着けたとしても、今度は市街地エリアから学校へ戻るための道順がわからない問題もある。

 むしろ、人と遭遇する可能性の少ない帰り道のほうが、危険だろう。

 1度学校へ戻り、シロコたちに相談しようかと考えていると。

 

「先生、ミズキちゃん、やっほ~」

 

 のんびりとした口調で呼び掛けられ、ミズキと先生はそちらを向く。

 

「ホシノに、対策委員会のみんな。おはよう」

「ん、おはよう」

 

 振り向いた先には、セリカを除く対策委員会のメンバーが、こちらの方に手を振っていた。

 学校ではなく住宅街で会うのは珍しい、と思いつつ、彼女たちと合流し、話を聞く。

 どうやら今日は自由登校日で、昨日のヘルメット団関連の後処理のために、4人とも登校して作業していたらしい。

 その作業も一段落して、ちょうどよい時間だったので、お昼を食べに行こうと歩いていたら、ミズキたちを見つけた。とのことだった。

 セリカについて聞いてみると、今日は別用があるとのことで、登校していないとのことだった。

 昨日の件で話し合いするのは、明日以降になりそうだ。

 

「先生もミズキちゃんも、お昼まだですよね? ご一緒にどうですか?」

 

 ノノミの誘いを断る理由もなく、ミズキと先生は二つ返事で了承する。

 そのまま、彼女たちとともに、移動を始める。

 

「……そう言えばさ、みんなはどこで食べるの?」

「あっ、それはですね……」

 

 ミズキの質問に答えようとしたアヤネを、ホシノが静止する。

 

「ふっふっふ。先生もミズキちゃんもせっかくアビドスに来たんだから、アレ、食べていかないと損だよ~」

「アレ……?」

 

 含みのあるホシノの言葉に、一瞬戦慄が走る。

 そんな様子はお構いなしに、ホシノは回り込むようにミズキと先生の前へ立つ。

 

「もちろん、アビドス屈指のグルメ、『柴関ラーメン』をさっ!」

 

 

 

 ホシノたちに連れられて、ミズキと先生は、『柴関ラーメン』と書かれたお店の前までやってきた。

 メインの通りから少し外れたところに構えた店舗は、年季の入った暖簾や扉の隙間から漏れてくるラーメンの匂いが、知られざる名店の雰囲気を醸し出していた。

 

「看板メニューは……この柴関ラーメンかな?」

 

 店の入口に立てかけられている看板には、『柴関ラーメン 580円』とでかでかと書かれていた。

 他にもいくつか種類があるようで、どうやら1品勝負のお店ではないらしい。

 

「そうそう。他にも色々あるし、中にちゃんとメニューもあるから、じっくり見て決めちゃいなよ〜」

 

 看板を見ていると、ホシノに背中を押される形で、ミズキは店の扉の前へ移動させられる。

 一息ついて店の扉を開けると、店主と思われる犬型の壮年の男性に、ホール担当の店員が見えた。

 お昼時なのもあってか、店内はそれなりに混雑しており、見える範囲で店員は1人しかいない。

 しかし、ホール担当の店員の手際がよいのか、お客が待っている様子はほとんどみえない。

 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンで……」

 

 その店員が入店してきたミズキたちに気がついたのか、こちらを見て案内をしようとして、言葉が止まる。

 

「なっ、なんでみんなここに……」

 

 柴関ラーメンのユニフォームを身に着けたセリカが、わなわなと震える様子を見ながら、対策委員会のメンバーはやいのやいのし始める。

 その様子を見るに、セリカはここでアルバイトしていることを他のメンバーには言っていなかったみたいだが、他のメンバーは知っていたみたいだ。

 

「どうも、みんながここのラーメン美味しいって言うから、連れてきてもらったの」

「こんにちは、セリカ」

 

 ミズキと先生が挨拶すると、セリカが目線をこちらへ向け、一段とビクッとする。

 

「先生にミズキ……先輩まで……っ。ああもう最悪……」

「セリカちゃん、先生とミズキちゃんはここで働いているなんて知らなかったんだ。ママの顔に免じて許してあげてよぉ〜」

 

 更にヒートアップしそうなところで、店主と思われる男性が声をかけてくる。

 

「セリカちゃん。そこまでにして、お客様を案内してあげて」

「ぐっ、大将……はーい。6名様ご案内ですー」

 

 先導するセリカに続く形で、全員移動を始める。

 その途中で、ミズキと先生は大将に呼び止められる。

 

「噂のシャーレのお二人だろ? 期待に違わないラーメン、楽しみにしていな」

「ふふっ、なら、楽しみにしていますね」

 

 よほど自信がある様子の大将が厨房へ戻っていくのを見ながら、ミズキと先生は対策委員会のメンバーの後に続いて案内された席へ座る。

 対策委員会のメンバーや大将が言うだけあって、柴関ラーメンの味は逸品だった。

 このレベルの味をこの値段で提供できる、大将の努力に称賛を送りながら、ミズキたちはラーメンに舌鼓をうつ。

 そして、ホシノの策略により、先生は6人分の会計を支払うことになった。

 

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