セリカと連絡が取れなくなった。
その報告をアヤネから受けたミズキと先生は、再び対策委員会の部室へと向かっていた。
途中、ホシノから「先生の権限を使って、連邦生徒会のネットワークから捜索できないか」と提案され、先立って合流したホシノに先生を預け、ミズキは一足先に部屋へ入る。
「ん、ミズキ。来てくれたんだね」
どこかへ電話をかけ終わったところなのか、スマートフォンを耳から離して入口へ視線を向けたシロコに一礼し、会議机の上にリュックを乱雑に置く。
「それで、状況は?」
「さっき大将に電話で確認した。バイト自体は定時で上がったって」
リュックから付箋を取り出し、シロコから聞いた情報をメモしていく。
「ミズキちゃん、頼まれていたものです☆」
「ありがとノノミ、そこに広げて」
アヤネ経由で手配依頼していた白地図を広げてもらい、柴関ラーメンの位置に先程の付箋を貼る。
続けてもう1枚の付箋にセリカの名前を書き、予め聞いていた彼女の自宅の位置に貼る。
「……また、セリカとは連絡つかないんだよね?」
「今、アヤネちゃんがかけているところですが……」
部屋の扉の開く音が聞こえ、ミズキたちはそちらの方を向く。
そこにいたアヤネの表情から、成果は芳しくないと悟ったミズキは、アヤネの対応をノノミたちに任せ、思考を戻す。
――バイト後に更に別件がある……も、ありえない話じゃない。でも、対策委員会の皆の様子的に、ここまで音信不通となったことはないみたいだし……。
柴石ラーメンからセリカの自宅まで、考えられるルートを地図上でペンを走らせるが、ここまで遅くなるのは普通なら考えられない。
となると、普通ではない状況――例えば建物の崩落に巻き込まれた――などが考えられる。
しかし、それなら例えセリカが連絡できない状況に陥っていたとしても、他の対策委員会のメンバーがその情報を掴んでいるはずだ。
それがないとなると、その線はありえない話となってしまう。
「……まさか、ヘルメット団?」
「……あり得る、ね」
昨日手痛い被害を受けたヘルメット団が、報復として1人になっていたセリカを襲った。
考えられない話ではあるが、ミズキは引っかかりを覚える。
――一応、昨日基地を1つ潰されたばっかりのはず……。なのに、もう動けるの? ただの生徒の集団が?
ヘルメット団の規模の全容はわからないが、1つ基地を潰された程度でも問題ないほどの大規模勢力なのであれば、可能性としてはあり得る。
しかし、昨日見た団員の内容からは、よくある不良集団の域を越えない程度、という認識だ。
それにそんな大規模勢力なら、ちまちまアビドス高校へ襲撃をせずに、物量で押しつぶした方が遥かに効率的だろう。
その手段を取ってこなかったということは、ヘルメット団自体の規模はそんなに大きくなく、バックに何らかの支援者がいるのだろう。
「ただいま」
再び部屋の扉が開き、先程別れた先生とホシノが入ってくる。
シャーレの先生の権限でも、厳密には連邦生徒会のネットワークを使って、特定の生徒の位置を検索する、のは越権行為に当たる。
バレたら始末書ものの捜索方法であるが、先生は親指を立てて、笑顔を見せる。
連邦生徒会長が行方不明となった現状の連邦生徒会なら、そこまで確認に人員を避けないだろうから、よほど大規模な捜索をしていなければバレないだろう。
しかし、バレなきゃオッケーの姿勢は、先生としていかがなものか。
その言葉が喉まで出てきたが、ミズキは言葉にはせず飲み込む。
「ミズキちゃん、1枚もらうね。で、最後の発信地点、ここだったよー」
ミズキから付箋をもらったホシノは、調査結果の位置へ付箋を貼り付ける。
その位置は、柴関ラーメンのある市街地エリアの端、砂漠化が進んでいる箇所だった。
「こんな場所に、用があるとは思えない」
「ですね……、やっぱり連れ去られた、と考えるのが妥当、ですね……」
位置も、セリカの自宅とは反対方向であるし、わざわざバイト終わりに向かう場所ではない。
ノノミの言う通り、襲撃にあったセリカがここへ連行された、という線が濃厚だろう。
「この位置……ヘルメット団の主力が確認されたエリアですね」
アヤネがノートパソコンの画面をこちらへ向けてくる。
その画面の座標と、ホシノが付箋を貼った座標を比較すると、確かに当該エリア内だった。
「それじゃあ、セリカちゃんをお迎えに行こっか」
セリカの位置、相手の情報が揃った以上、相手の出方を待つ必要はない。
相手としては、おそらく翌日に対策委員会へセリカを誘拐した旨と、身代金の要求を仕掛けてくる気なのだろう。
なら、それよりも早く、セリカを救出すれば問題ない。
直ちに準備を始めたホシノは、ミズキと先生の方を向く。
「先生、ミズキちゃん。もう少し手伝ってね」
「うん任せて、大事な生徒だからね。ミズキ、今回はホシノたちと一緒に行動して」
「了解です」
今回はセリカを救出、そのまま退却するだけなので、昨日みたいな別行動の必要はない。
戦力を分散させずに1点突破で対応する作戦方針に、ミズキは承諾し、他の対策委員会のメンバー同様、準備を始めた。
「……すごい、ね」
目的地の砂漠地帯は、廃線となった電車の線路が走っている地帯だった。
そこを走っているトラックを、的確な支援砲撃で横転させたアヤネに、ミズキは内心拍手を送る。
トラック全体へダメージが入ったように見えるが、激しく炎上しているのは前方で、貨物のコンテナ部分は少しひしゃげただけだ。
そのひしゃげたことで生じた亀裂を、シロコが無理やりこじ開ける。
「ん、半泣きセリカ発見」
「いや泣いてないからっ!」
コンテナから引きずり出したセリカを支えながら、シロコがこちらへ戻って来る。
シロコたちの元へ駆け寄ったホシノとノノミに、もみくちゃにされているセリカを眺めながら、ミズキも彼女の元へ歩み寄る。
「思ってたより元気そうで、なによりだねっ」
「なっ、ミズキ先輩までっ!? 一体どうやって……?」
付き合いの長い対策委員会のメンバーたちはともかく、出会って2, 3日程度しかないミズキも救出へ来たことに、驚きを隠せないのだろう。
「それはおいおい話してあげるとして……」
「ええ、多数の敵性反応があります。包囲網を形成してくるかと!」
敵陣のど真ん中で、トラック爆撃の大胆な奇襲を仕掛けた。
それに対して、黙ってくれるほど、相手も愚かではないだろう。
それを裏付けるように、大量のアラート情報が、アヤネからもたらされる。
「……気を付けて。あいつら、
「ん、知ってる」
セリカ捜索の過程で確認された、副産物の情報だ。
当然、対策委員会のメンバーやミズキも把握しており、対策も検討してきている。
それなら、とセリカはシロコから受け取った愛銃――シンシアリティ――のグリップを握り直す。
「それじゃ……行こうか?」
そうして、ホシノを先頭に、対策委員会とミズキは包囲網突破戦へと突入していく。