対策委員会の基本的な戦闘陣形は、機能のヘルメット団との戦闘で、ある程度把握していた。
盾持ちのホシノが先陣を切り、その小柄な身体からは想像できない防御力とシールドバニッシュで、相手陣営を崩していく。
それによって生じた隙を突き、切り込み要員のシロコとセリカが銃撃を仕掛ける。
仮にシロコたちが撃ち漏らしたとしても、後方に控えているノノミが面を制圧できるミニガンで盤面を詰めていく。
そして、オペレータとして全体を俯瞰できる後方要員のアヤネがサポートしていく、というスタイルだ。
しかし、今は奇襲を受けたセリカを切り込み要員にはできず、ノノミの側に下げざるを得ない。
その代理となったミズキはと言うと、これが対策委員会との初の共同戦線であり、普段通りの連携ができるかが、対策委員会の唯一の懸念事項であった。
「ん、ミズキ。リロード入る」
「オッケー。カウント2でスイッチ、行くよっ!」
しかし蓋を開けてみれば、ミズキと対策委員会の動き、とりわけシロコとの息が異様に合っていた。
リロードへ入ったシロコの1歩前へ進み、ヘルメット団へ牽制の銃撃を強める。
そしてシロコがリロードを終えるであろうタイミングで、再び1歩下がり、各個撃破の体勢へ戻る。
「ふふっ、ヨーソロー☆」
「やらせないんだからっ!」
このペアの銃撃をかいくぐった先には、ノノミによる面での支援砲撃と、セリカによる点での支援砲撃が火を吹く。
――ミニガンであれだけブレずに狙えるのは、すごいね……。
こちらは特に回避行動をしていないが、フレンドリーファイアが起こらないように調整された砲撃精度に、内心舌を巻く。
特にセリカは、負傷状態に加えて普段とは違うポジションだと言うのに、だ。
流石にノノミと比べれば反応が遅れることはあるものの、ノノミが上手くカバーしてくれるため、致命的な影響は起こらない。
徐々にヘルメット団員の山を築きながら、ミズキたちは包囲網を突破するために前進し続ける。
「前方、例の重戦車ですっ!」
ヘルメット団の包囲網に綻びが見え始めたタイミングで、アヤネの無線が入る。
直後、砲撃音が鳴り響き、重戦車の主砲の一撃が対策委員会へ襲いかかる。
着弾の衝撃によって砂が巻き上げられ、雨のように降り注ぐ。
「お~いちち。おじさんも年なんだから、もう少しいたわってほしいなぁ~」
「いやホシノ先輩、2つしか違わないじゃない!」
砂の雨が止み、対策委員会の姿が見える。
地面へ盾を突き刺して主砲を一手に引き受けたと思われるホシノが、大げさに腰をさすっているものの、余裕の雰囲気を見せている。
その後ろにいるミズキたちも、かすり傷1つすら負っていない。
「あれが向こうの主力、かな?」
「ん、支援する」
ミズキが一気に飛び出し、シロコがドローンによる空中からの爆撃と、アサルトライフルによる銃弾でサポートへ入る。
1人、2人とヘルメット団員を無力化したところで、ヘルメット団員たちが再び動き始めるが。
「うへ〜ミズキちゃん、もうちょっとペース落としてくれないと、おじさん疲れちゃうよぉ〜」
いつの間にか並走しているホシノが、愛銃のベレッタ1301――Eye of Horus――でヘルメット団員たちを制圧していく。
2人の後方からも、シロコたちが支援砲撃を継続し、ヘルメット団員へ銃弾の雨を浴びせていく。
取り巻きのヘルメット団員たちが次々と倒れていき、重戦車のみとなったタイミングで。
「主砲、来るよっ!」
重戦車の主砲が、再びこちらへ照準を合わせているのに気がつく。
放たれた主砲を、ホシノが盾で防ぎ切ったのを確認し、ミズキは重戦車との間合いを一気に詰めにかかる。
「くそぉ、これ以上……ナメられた真似、させるかぁ!」
しかし、接敵が完了するよりも前に、重戦車の機銃が火を吹いた。
ノノミのミニガンをも超える密度の弾幕が、ミズキへ襲いかかる。
遮蔽物は近くになく、弾幕の範囲的に範囲外へ出るのは不可能。
盾持ちのホシノとの距離もあり、双方が合流しに行ったとしても、着弾までには合流できない。
機銃の雨に撃たれるのは必然かと思われたが。
「なっ……」
「にぃぃいっ!?」
機銃を撃ったヘルメット団だけでなく、その場にいる対策委員会のメンバーや、モニター越しでオペレートしているアヤネさえも、思わず目を疑う。
機銃の雨の中、ミズキが取った行動は回避ではなく前進。
一見無謀に見える行為であるが、よく観察すると、彼女より少し前のところで、火花が幾重にも飛び散っていた。
「ミズキ、すごいね」
「……あれ本当に人間業なの? 《機銃の弾丸を銃弾で弾く》なんて……」
重戦車の機銃から放たれた弾丸の内、本来であればミズキへ命中するであろう弾丸だけが、ミズキが手にしている銃から放たれた弾丸に弾かれていた。
マガジンの弾丸を撃ち尽くしてリロードへ入っても、弾かれた機銃の弾丸や弾いた銃の弾丸が他の弾丸をビリヤードのように弾き続け、ミズキへ命中するはずだった弾丸をなくしていく。
その繰り返しを経て、重戦車との間合いを詰めていくミズキは、インカムを2度タップしてサインを送る。
直後、小型ドローンから小型ミサイルが2発発射され、重戦車へ命中する。
「くそっ、これ以上アイツを近づかせるなっ!」
小型ミサイルを受けてもなお、十全の状態を見せる重戦車であるが、ミズキは更に距離を詰めてくる。
張り付かれてしまえば、主砲は基より機銃も当たらなくなり、一方的に攻撃されるだけ。と判断したのだろう。
重戦車の主砲が動き、ミズキへ照準を合わせてくる。
機銃と違い、主砲の弾は先の芸当で避けることはできない。
当然、直撃すれば、ただではすまないだろう。
主砲が発射される直前、ミズキはインカムを特定のリズムでタップする。
タップし切った直後、主砲の砲弾がミズキへ襲いかかり、激しい爆発を引き起こす。
「直撃を確認っ!」
「よし、これで……」
爆発による煙が晴れると、再び一同目を見張る。
「うへ~ちょーっと人使い、荒いんじゃないのぉ~」
直撃したと思われたミズキの姿はなく、代わりにいたのは、シールドを展開していたホシノの姿だった。
軽く不平を漏らしているが、当然、その姿は無傷そのものである。
そして当のミズキはというと。
「上だっ!」
爆風に紛れて飛び上がっていたミズキは、そのまま重戦車へ銃撃を始める。
しかし、ミズキの愛銃はアサルトライフル。
普通であれば、どれだけ撃ったとしても、重戦車の装甲を貫くのは不可能だ。
事実、ミズキがリロードするまで銃弾を撃ち尽くしても、重戦車の装甲に弾かれ、ダメージを与えるまでには至らない。
重戦車が反撃のため、機銃を空中にいるミズキへ向けてきた瞬間。
「やらせないんだからっ!」
「ん、一斉砲撃」
「ヨーソロー☆」
後方から押し上げて来ていた、シロコたちが一斉砲撃を仕掛ける。
特殊装備のないシロコたちの銃撃も、ミズキと同様、重戦車の装甲に弾かれるかと思われたが。
「なっ……そ、装甲が……っ?」
銃弾の命中した装甲部分が、徐々に凹んでいき、亀裂が入り始めていた。
向こうは知らないだろうが、重戦車がいると把握してから、予め用意した特製弾のおかげだろう。
最も、作成時間の関係で、作戦時間までには作成できない上に、対策委員会のメンバーの武装用に1マガジン分が時間的な許容範囲だったが。
そこで立案された作戦が、ミズキが先導して重戦車の注意を引き、その隙にアヤネのドローン支援で4人分のマガジンを運んでもらう。というものだった。
そして、上空のミズキ、側面を攻撃するシロコたちに気を取られていれば。
「おしまいっと」
ドローン支援で受け取った特製弾をリロードしたホシノが、シロコたちの作った亀裂めがけて全弾砲撃する。
至近距離からのショットガンの銃撃に、ついに重戦車の装甲が貫かれ、煙を上げ、エンジン音が聞こえなくなる。
切り札とも言える重戦車が無力化されたことで、ヘルメット団員たちに明らかな動揺が見える。
そして、ミズキたちがジリジリと距離を詰めていくと、誰かが武器を捨てて逃げ出した。
1人逃げ出したことで歯止めが効かなくなったように、次々とヘルメット団員が武器を捨てて逃げ始める。
「作戦終了、てとこかな?」
「そうだね。皆、お疲れ様。帰投しよう」
包囲網がなくなったことで、ミズキたちは誰にも妨害されることなく、アビドス高校への帰路についた。