終末を歩く魔女と少女   作:しぃ君

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11話「魔女の夜会」

 月明かりだけが照らす夜。魔女と双頭の大狼は相対し、視線を向け合う。一方は飄々と、一方は明確な殺意を持って。

 

 

「怖いなぁ、ルーク。そんな目で見ないでよ? ワタシ、まだ何もしてないよ?」

 

『これからするんだろうが、何かを。いいか? 一度しか言わないから、よく聞け。それ以上近付くな、それ以上動くな、要件だけ言ってさっさと消えろ』

 

「……もし、無視したら?」

 

『殺す。オレの娘たちに危害を加えるつもりなら、容赦はしない。地獄の底まで追いかけて、嬲り殺す。……だから、嫌ならさっさと話せ』

 

 

 ドスの効いた声で脅すルークに対し、恐れ知らずなのかなんなのか、カリーナは特に気にした様子もなくローブのフードを取ると、どこからともなく取り出したとんがり帽を被り直し、顔つきを真剣なものに変える。

 短く切り揃えられた赤髪に、ドロリと濁った朱の瞳。顔立ちはルーシェより少し大人びており、自然体でありながら妖艶とした魔女の雰囲気を醸し出す彼女は、紛れもなく強者の側にいる人間。

 

 

 故に命のやり取りにミスはなく、面倒な要件を淡々と言葉にする。

 

 

お母様(団長)がね、ルーシェの力が欲しいんだって。今のまま戦争が続けば両陣営の被害は最悪になって、復興すらままならなくなる。ワタシたち魔女の力だって無限じゃないし、不可能を可能にはできない。死んだ人は生き返らないし、一瞬で世界を元通りに〜なんて、夢物語は叶わない。だからさ、和平を結ぶことにしたんだ」

 

『……和平? 今更か? この荒れに荒れた地で、そんなことを?』

 

「上が決めたことなんて、知らないよ。お母様だって渋々って感じだったし」

 

『なら、何故、ルーシェの力を欲する? 和平を結ぶだけなら、言葉で解決できるだろう? あの子の力は本当に必要なのか?』

 

「違う違う。ルーシェ自体はオマケだよ。第一、あの子の実力はよくて私とトントンかそれ以下だし。本命は──」

 

使い魔(オレたち)か』

 

「あったり〜」

 

 

 使い魔。それは魔女が契約する魔獣たちの総称。本来なら、1人につき数匹。片手で足りるほどが使い魔の契約数の限界だが、ルーシェは違う。彼女の天性の才か、はたまた魔獣に好かれるフェロモンでも出ているのか。ルーシェの使い魔の数は両手で収まることを知らず、その数は100匹に迫るほど。

 加えて使い魔の中には、ルークのような神話の時代から続く古き血の末裔や、伝説の中でしか存在を確認されたことのなかった特別な魔獣もいる。故に、カリーナたち魔女団が求めるのは、ルーシェ本人ではなく彼女の契約する使い魔と言った方が正しいのだ。

 

 

『……使い魔が欲しいのはわかるが、答えにはなってないな。何故だ? 言葉以外に、力が必要なのか?』

 

「なるべく有利な条件で話を進めたいんだってさ。それならほら、力があるに越したことはないでしょ? 君たちみたいな、見てわかりやすい力が」

 

『飼い主の言うことすら気分で無視する奴らが欲しいなんて、奇特な奴らだよ』

 

「居てくれるだけでも圧があっていいでしょ? それに、飼い主すら扱えない狂犬ってのも、いい脅しになるしさ」

 

『…………わかった、話を通してやる。着いてこい』

 

「ラッキー! やっぱルークは話がわかるねぇ〜!」

 

『言っておくが、話を完全に信用したわけじゃねぇ。会うことは許すが、要件を受け入れるかはルーシェ次第だ。魔法を使おうものなら、その場で殺す』

 

「はいはい。わかってますよ〜」

 

 

 真剣なターンは終わったのか、それともルーシェに会うためにわざと態度を崩しているのか。カリーナはまた飄々とした雰囲気を身に纏い、先を行くルークのあとに着いていく。

 

 

 邂逅は、すぐそばに。

 

 ◇

 

 あの日、裏切りの日と変わらぬ姿の2人は再会し、見つめ合う。ルークの時とは違う、憐れむような慈しむような視線を向けるカリーナに対し、ルーシェの視線は冷たい。今すぐにでも手を出さないのが慈悲だと言わんばかりの視線を向けたまま、彼女は向き合っている。

 

 

「よく、会いに来れたわね」

 

「仕方ないじゃん。魔女団で一番穏健派なの、ワタシしか居ないんだもの。他の子達は、使い魔だけ連れてきてあなたを殺して来いって言ったのよ?」

 

「私はそれだけの事をした。それくらい、理解してるわ」

 

「でしょうね。でも、ワタシにとってあなたは弟子で後輩なわけだし、そりゃあ待ったをかけるわけ。殺したら面倒だ〜とか、あの子の使い魔に何されるかわかんないぞ〜とか。色々脅して、なんとか連れ戻すだけの形に落ち着けたんだから」

 

「無駄な努力ご苦労様」

 

「きっついなぁ。お礼くらい言ってくれてもよくない? あの時だって、ワタシが任務を取り換えなかったら、そのまま死んでたかもしれないんだよ?」

 

「っ!! それなら! そのまま死んだ方が良かった!!! 自分の家族を! 友人を! 故郷を燃やすくらいなら!! そのまま──」

 

「けど、あなたがやらなかったらワタシがやってただけ。そうなったら、お友達も生き残らなかったんじゃない?」

 

「……それは……」

 

 

 自分の村を、故郷を燃やしたあの日。本来のルーシェの任務は戦争への援軍参加だった。まだ戦闘経験も浅い彼女を死地に向かわせるのは危険と判断したカリーナが、独断で任務を交代したのだ。幸いにも、任務は無事成功。団長からのお咎めはなかったが、もし彼女が任務の交換を提案しなければ、今は──なかったかもしれない。

 

 

 そういう意味では、カリーナはルーシェたちの命の恩人だった。だが、それでも、許せないことはある。

 

 

「……んで、ルーシェはどうするの? 和平に協力してくれるなら、願ったり叶ったりなんだけど」

 

「するわけないでしょ。そんなの、勝手にやっててちょうだい。私たちは、どちらにも属さない。だから、私たちが生きる邪魔をしないで」

 

「…………そんな答えで、お母様が納得するとでも?」

 

「なら、見張りの1人でも結界の近くに置いておけばいいでしょう? 私たちは勝手にやってるんだから、そっちの事情に巻き込まないで。……もし、ジェリーや七奈に手を出すつもりなら、容赦はしないから、そのつもりでね」

 

「はぁ……こうなると思った。だから、嫌だったのよ。こんなの、わざわざフラレに行くようなものじゃない」

 

「自分で選んだんでしょ?」

 

「なるべくいい方向に持っていきたかったのよ。まぁ、それもあなたのわがままで意味がなくなったんだけど」

 

「ご愁傷さま。ほら、これ以上用がないなら、早く帰ってちょうだい。面倒ごとはゴメンなの」

 

 

 面倒ごとなんて、これ以上起りっこないことはルーシェも理解している。しているが、それ以上にカリーナと話すことが、彼女にとって苦痛だったのだ。任務交換の真相を知っても尚、それは変わらない。

 だから、シッシと追い払うように手を振って、家に中へと消えていこうとする。カリーナの真剣な声色が聞こえるその時までは。

 

 

「じゃあ、ワタシが捕虜になる」

 

「……正気? 結界内で居候にでもなる気なの?」

 

「正気も正気よ。……正直さ、終わらない戦争とか、もう、色々嫌になってたんだよね。和平って言っても、魔女団が解散するわけじゃないし、ワタシたちの仕事(虐殺)は終わらない。なら、さ。捕虜にでもなって、少し不自由に過ごす方がいいなぁ、って。それに、これならこっちの状況をより詳しくお母様に伝えられるし、あなたたちも魔女団たちの動向が知れるじゃん? ウィン・ウィンの関係だと思うんだよね〜」

 

「……団長が許すの? その判断と行動を」

 

「わかんない。でも、最近のお母様。ワタシのこと戦場からどんどん遠ざけてたんだよね。きっと、嫌になってるのわかってたのかも。もう、心が痛むとか、そんな高尚な感情は残ってないけどさ、疲れだけは……なくなんないんだよね、ほんと」

 

 

 知らない。わからない。ルーシェはカリーナの表情から、それが本音か嘘かわからない。ただ、本当に疲れたような声だったことは理解できて、思考が鈍る。

 魔女の中で、カリーナのような社交的で話し合いが通じるタイプは稀だ。多くの魔女は、魔法という奇跡にも似た力の全能感に酔い、狂っていく。

 

 

 人を殺すことも、生かすことも指先一つで終わる力はそれだけで人の心を壊し、化け物にする。

 残念なことに、カリーナはそうはなれなかった。魔女団の団長、お母様の娘として生まれ、幼い頃から魔法の教育を受けてきた彼女は魔法をよくよく知っている。全能でも万能でもなく、人間の限界を超えることはできない、そんな術。

 

 

 魔女は人の形をした兵器。

 一人いるだけで、辺りを灰燼と化す化け物。

 

 

 もし、もしもそんな中で人としての意識を保っていられたなら、それは異常で、苦痛だろう。

 

 

「……条件がある」

 

「なに〜? ワタシにやれることなら、やれるだけやってみるつもりだけど」

 

「私かルークがいるところ、もしくは許可しない限り魔法の使用は禁止。約束を破って使用した場合は即刻処分。それでもいいなら、捕虜として置いてあげる」

 

「うそ、それだけでいいの? 優しすぎない?」

 

「……もっと厳しくした方が好みかしら?」

 

「いやいや、それでいい! その条件でいい! っしゃ! 早速、お母様に報告してくるね〜!」

 

 

 本当に嬉しかったのか、自分の知っているカリーナとは違う反応を見せ報告に行く彼女を見送り、ルーシェは玄関に寄りかかる。

 自分の選択は正しかったのか。

 考えるのはいつもそんなことばかり。

 否定が欲しいわけでも、肯定されたいわけでもなく。

 

 

 意味のないことだとしても、自分に問いかけてしまう。

 

 

『カリーナが捕虜、ね。まぁ、悪くない落とし所だったんじゃねえか? これ以上もこれ以下もない。……満点とは言えねぇがな』

 

「ふん。満点の回答なんて、この世にはないわ。だから、ずっと考え続けるしかない。自分に問い続けるしか、ない」

 

『……だな。自分の答えに自信が持てる日まで、そうやって足掻くのが人間。いいと思うぜ、そういう考えは』

 

 

 満点のない回答。

 それは、当事者だけでは絶対に出せないもの。神の如き視点と視野がなければ、出せないもの。

 一つ、ただ一つ神が答えを出すならば。ルーシェの考えは満点に近い答えだった。

 

 

 先送りにした問題。

 話せていない秘密。

 いつか絶対に牙を剥くそれが、早い段階で、致命的にならないタイミングで、爆発する芽が生まれたのだ。

 

 

 きっと、苦痛を伴うだろう。

 きっと、無事ではいられないだろう。

 けれど、いつか清算する罪だった。いつか暴かれる罪だった。

 

 

 親殺しの罪とは、そういうものだから。




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