終末を歩く魔女と少女   作:しぃ君

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 今回は遅刻しませんでした!


3話「関係の名前」

 魔法とは、七奈たちの世界からすれば便利な超能力のようなものである。そこにないものを生み出し、又はあるものを操り常識を捻じ曲げる異能力。世界が融合したことで、魔法の才能は七奈たちにも現れるようになったが……まともに使えるのは一握り。ルーシェに直接指導を受けている七奈や、一部の例外のようなものだろう。

 もっとも、まともに使えるからといって、ルーシェの世界の魔女には遠く及ばず、よくて日常生活の手助けが関の山。

 

 

 ——魔女の弟子である例外なんてものを除けば。

 

 

「……疲れたぁ」

 

「——はぁ。まだ始まって一時間よ、七奈。そんなんじゃ、いつまで経っても一人前にはなれないわ」

 

「わかってるけどぉ……ルーシェさんすごすぎるんだもん! わたしじゃ全然追いつけないよ!」

 

「無理に追いつかなくて良いと言ったでしょう? あくまで、魔法を学ぶのは自衛のため。それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

 

 いつかは自分を倒して欲しいけど、なんて言えるはずもなく、魔法の訓練は続く。

 来訪者が来た翌日、遠出でできなかった分を取り戻すように、二人は魔法の訓練に勤しんでいた。基礎の基礎を何度も繰り返し、体に染み込ませる行為は遊び盛りな七奈には酷だろうが、世界は弱肉強食。

 戦う選択肢がないものの人生は広がることなく切れてしまう。そんなことが起こらないように、ルーシェは心を鬼にして師匠に徹する。

 

 

「いつも言ってるけど、魔法は想像力の世界よ。目の前に『ない』ものを『ある』ように書き換える。もしくは、そこに『ある』ものを自分の意思で操る。大まかに分けてこの二つが基礎中の基礎」

 

「……耳にタコができちゃうくらい聞いた気がする」

 

「そうね。でも、まだ七奈はできてない。既に存在するものを操るのは得意だけど、『ない』ものを生み出すのは苦手。系統的には自然に由来する魔法が得意って言えばいいのかしら。まずはそこを伸ばすのが最初の課題ね」

 

「魔法にも得意とかってあるんだ……」

 

「当たり前よ。ようは、自分が一番想像しやすくて、そこから連想して発展させやすい分野だもの。もし、雷の魔法が得意な私がいなかったら、あなたの大好きなゲームなんて二度とできなかったでしょうね」

 

「ひぇっ……怖いこと言わないでよぉ!」

 

 

 怯える七奈を他所に、ルーシェは続けて魔法をより高度に扱う術も話していく。彼女曰く、一番大事なのは想像力。それこそが全ての源であり、始発点。連想力というのは、最初に想像したものから連想できるものに変化させる力。例えば、水から氷、砂から泥、花から毒。本人が思い浮かび、完全に系統が隔絶してさえいなければ魔法は発動できる。

 

 

「七奈ならそうね……小石を大きな岩にしたり、辺りの砂で泥沼を作ったり、かしら。なるべく最初は手近にあるものがいいわね。『ない』ものが『ある』光景を想像できないなら、既にあるものを利用すればいい。簡単なことでしょう?」

 

「うーん、なる、ほど?」

 

「……まぁ、最初は簡単なものでいいわ。小石を大きい石に変える、大きい石を岩に変える……そうやって連想していけばいいの。大事なのは慣れよ。どんな状況でもそれが自然とできるようになれば、半人前くらいにはなれるから」

 

「それでも半人前なんだ」

 

「一人前は一足飛びに『ない』を『ある』に変えるのよ。ほら、お喋りで少しは休憩できたでしょう? 訓練再開、小石から岩の変化を一回でできるようになるまで、ゲームはお預けだから」

 

「えぇ! そんなの酷い! 折角いい感じの所まで進んでたのにぃ! 鬼! 悪魔! 魔女!」

 

「はいはい、魔女ですよ。セーブデータの上書きなんて嫌でしょう? 嫌ならがんばりなさい」

 

 

 ひらひらと軽く手を振って、ルーシェは庭から離れ家の中に戻っていく。後ろから聞こえてきた悲鳴に、聞こえないフリをして。

 

 

 ——今の彼女はまさしく、魔女だった。

 

 ◇

 

『姉御、いいのか?』

 

「何の話?」

 

『いや、お嬢に一人で魔法使わせるなんてよぉ。暴発とかあるだろ?』

 

「今のあの子のレベルなら、暴発なんてしてもケガで済むわ。それに……」

 

「それに?」

 

「魔法の危険さはどこかでわからなくちゃいけないもの」

 

 

 魔法とは便利な超能力。それは間違えた認識ではない。ルーシェ自身も、何割かはそう思っている。だがしかし、魔法とは傷つけるものであり、傷つくもの。魔女の魔法は殺しの術であり、願望を叶える奇跡ではない。御伽話に出てくるような綺麗なものでもない。

 使い方を間違えば簡単に人を殺せる、危険で、恐ろしいものなのだ。

 

 

『……厳しいねぇ』

 

「師匠だもの、厳しくなくちゃ意味がない」

 

 

 別に魔法を極めて欲しいわけじゃない。ルーシェはただ、一人で生きていく力をつけて欲しいだけなのだ。なればこそ、程々に導き、最低限の生きる術と抗う力を教える。

 

 

「もしもの時は……わかってるでしょう?」

 

『あいあい。お嬢の使い魔になってやるよ。——お前の頼みならな』

 

「気が利いて助かるわ。他の子たちじゃ、こうはいかないもの」

 

『仕方ねぇだろ。みんながみんな、割り切れる問題じゃない。オレたち使い魔は、「お前」だったから契約したんだから』

 

 

 そう言うと、ハムスターになったルークは、主の頭に飛び乗り体を丸める。使い魔でありながら対等を貫く態度に、ルーシェは特に苦言を零すこともなく読みかけだった本に目を落とした。

 契約が、一人と一匹を縛る。

 誰にも介入することのできない領域——だった。

 主従という名の親子。そんな関係は、七奈を通して変わりつつある

 

 

 重ねた時間は短いはずなのに、少し、また少しと変わり。今がある。師匠と弟子。それ以上でもそれ以下でもないとルーシェは言い張るだろうが、きっと違う。何故なら……

 

 

「ルーシェさん! できた! 石をおっきくできたよ!!」

 

「あら、思ったより早かったわね……じゃあ、テストをしましょうか。私の前でちゃんとできることを証明できれば、ゲームの時間を一時間増やしてあげる」

 

「ほんと! よーし! よ~く見ててよ~!」

 

「えぇ、ちゃんと見てるわ、七奈のこと」

 

 

 そう、何故なら、ルーシェは成長する七奈を笑顔で見守っているのだから。

 




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