終末を歩く魔女と少女   作:しぃ君

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5話「燃えなかったものは一つだけ」

 魔女は眠らない。その身に受けた不眠の呪い故に、眠れない。

 だが、脳を酷使することは魔法の使用に多大なる影響を及ぼすため、ルーシェは何日かに一度目を瞑り脳を休ませる。そして、過去に思いをはせるのだ。

 

 

『——————————』

 

 

 燃えて、燃えて、燃え尽きた思い出の中で、唯一残る幻想を見続ける。炎に包まれた幻想の中で、ジェリーだけがルーシェの魔法を見て笑っていた。本の中でしか見たことのない花を咲かせたり、池に氷のオブジェを作ったり、二人だけの土のお城を作ったり。色々なことをした。

 けれど、思い出を語る故郷は既になく、墓すら残っていない。

 

 

 燃やしたから。

 全部、ルーシェが燃やしたから。

 彼らが生きた軌跡も、証も、なにもない。

 

 

「……朝、か」

 

 

 枯れた涙が零れ落ちることは、きっともうないけれど。ルーシェはいつかを願う。

 いつか、いつか自分が死んだなら、自分が殺されたなら、もう一度みんなに会いたい、と。

 

 

 ◇

 

「ごめんね、またお邪魔しちゃって」

 

「……別にいいわ、それで頼みって何? ジェリー」

 

「あはは、そんな怖い顔しないでよ」

 

「してない。してないから、早く要件を言いなさい。外に放り出すわよ?」

 

「わ、わかったよ。その、ね。魔女団が、ここに来てるの。近くはないよ! 西日本だっけ? ここよりもっと遠い西にある都で、会談してるんだって。んで、小競り合いもありそうだから、少し匿ってもらえないかなぁって。ほら、雇われとは言え、使い捨ての密偵扱いも嫌だしさ」

 

「——なるほどね」

 

 

 身内が近くに来てる。ルーシェからしたらそれだけでも大問題だ。彼女は魔女団の裏切り者。創設以来、死ぬこと以外で団から人が抜けたことがない歴史に泥を塗った生きる汚点。いつ、どこで、誰に狙われるかもわからない立場だ。

 同僚の一部には、七奈を連れて逃げた際も殺されかけており、間一髪で助かったのが今。そうそう何度も追いかけっこはしたくないし、する余裕もない。

 

 

「わかった。匿ってあげる。その代わり、もしも非常事態が起きたら、絶対に七奈を連れて逃げなさい。それが約束できるなら、あなたを受け入れるわ」

 

「……ありがと、助かるよ。約束は守るから安心して! まぁ、もしもが来ないのが一番いいんだけど……」

 

 

 そうして、ジェリーの居候が始まった。ルーシェとしては、七奈を安心して任せられる数少ない存在が彼女なため特に不満はなく、当の七奈本人も久しぶりに顔を合わせたことに喜び、一緒に遊んでいた。

 心安らぐ時間がそこにあったのだ。

 

 

 終わりかけの世界で、誰かに害されることのない安寧の空間。自分が大切だと思う人たちがそこにいて、笑っていて、ルーシェは嬉しかった。まるで、故郷にいたあの頃が戻ってきたかのような、そんな感覚。

 幸せだった時間の再生産。

 起きたまま夢を見るかのような心地よさ。

 

 

 故に、警戒する。

 幼きある日、唐突に終わった輝かしき日常と同じだったから。

 

 ◇

 

 普通なら誰もが眠る丑三つ時。家の中に音はなく、静かな、静かな場所の中で動く影が一人。それは不眠の魔女でもなく、古き血の末裔でもなく、ただの人——ジェリーだ。息を殺し、足音すら殺し、廊下を歩く。

 如何にも怪しい行動をする彼女が、匿ってほしいと話した時についた嘘は一つだけ。

 魔女団が西日本に来ているのは、本当だ。その理由が話し合いにあるのも、嘘じゃない。

 

 

 たった一つの嘘は、ルーシェたちのもとを訪れた理由、それだけである。

 

 

「…………」

 

 

 手に持ったナイフを微かに震わせ、緊張により乱れる呼吸を何とか整えるジェリーはとても冷静とは思えない。揺れる視線、その先にあるのは——七奈の寝室。ここまでくれば、嫌でもルーシェたちに会いに来た理由が見えてくる。

 

 

「……ジェリー」

 

「っ! る、ルーシェ……ちゃん」

 

「なにを、しようとしてるの」

 

「……わかるでしょ? お仕事だよ、魔女団の」

 

「七奈が死ねば、私が大人しく戻ってくるとでも?」

 

「っ! そんなの! 知らないよっ!! でも、こうしないと今度はあたしが——」

 

「言ったでしょ、最初に。あなたを匿うって。魔女団がどんな細工をしてようと、この場所はバレないし結界の破壊もできない。だから——もう、自分の心まで殺すのはやめて」

 

 

 例え、最初に彼女の心を殺したのが自分だったとしても。

 例え、最後に彼女の心を殺すのが自分だったとしても。構わない。ルーシェにとってそれは、自分が背負えばいい罪であり、罰だ。

 だが、親友が自分を、自分自身の心を殺そうとしてるのは見過ごせない。そこに修復不可能な亀裂があっても、最低で身勝手な説教だったとしても、構わない。

 

 

 今まで過ごしてきた人生の中で、ルーシェにとってジェリーは間違いなく善人で、大切な親友で、最後に残った縁。

 

 

「……今更だよ」

 

「でも、まだ間に合う。あなたはまだ殺してない」

 

「ほんと、今更過ぎるって。昔みたいに戻るなら……戻れるなら……もっと早く戻ってくれればよかったのに。そしたら、あたしたちの村だって……あんな……」

 

「…………」

 

「——謝っては、くれないんだね」

 

「許されないことを許してと願うのは傲慢でしょう? 私だって、理解してる」

 

「……それこそ傲慢だよ、ルーシェちゃん」

 

 

 暗い廊下で、ジェリーはそれ以上何かを口にすることはなくナイフをしまい、自分の部屋に戻る。残されたルーシェは、微かに見えた彼女の涙の意味を考え続けた。一人、夜が明けるまで。

 




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