終末を歩く魔女と少女   作:しぃ君

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6話「さみしいをなくす方法」

 夜が明け、朝日が昇る。

 人が増え、いつもより賑やかになるはずだった朝食の場に会話はなく、各々が静かに食事を摂る。

 当事者の二人は、昨夜のことを話さず。あの時、既に夢の中にいた七奈は理由のわからない現状に困惑するしかなかった。

 

 

「……ねぇねぇルーク、昨日なにかあったのかな? ルーシェさんもジェリーさんも、全然話さないし……なんか暗いよ」

 

『さぁなぁ。アレだろ、ちょっとした喧嘩みたいなもんだろ? 二人とも大人なんだ、オレたちが気を遣わなくても勝手に冷静になって、仲直りなりなんなりするさ』

 

「そうかなぁ……」

 

 

 事情を知らない七奈から見ても、二人の間にある雰囲気は暗く、深い溝があるように思える。それは修復不可能ではないにしろ、他者の介入が必要なレベルのものだ。まるで、子供の喧嘩のような、そんな意地を張った対立。

 きっと、そう思った七奈の解釈に間違いはない。いくら歳を重ねても、心の成長は時間が解決してくれるものではないからだ。

 

 

 大人になるために必要な他者との関わりを、二人は正しい形で終えていない。正確には、終えられなかった。

 若くして両親と別れ、故郷はなくなり、縁のある知り合いはお互いだけ。一人は、社会の闇に潜むネズミ(情報屋)として生き。もう一人は、全てを滅ぼす魔女として生き。まともな時間は、ある時を境に止まってしまったのだ。

 

 

(知らなくても……やれることはあるよね)

 

 

 知らない。七奈は二人を知らない。元の世界で何があったのか、二人の関係がどういうものなのか、詳しいことは何も知らない。

 だとしても、一つだけわかっていることがある。それは、シンプルな答え。

 

 

(一人ぼっちはやっぱり……寂しいよ)

 

 

 同じ世界の同じ故郷で育った友人。幼馴染みとも言える大切な存在。そんな人と仲違いして、苦しいまま別れてしまうのは、寂しい。

 

 

(友達なら……笑っていられた方が、きっと楽しいもんね)

 

 

 自分にはもうないもの。

 でも、ルーシェにはあるもの。

 違いを理解してるが故に、その大切なものを大事にするべきだと七奈の心が叫ぶ。

 

 

 別に説教をしたいわけでも、するつもりもない。でも、大切だと思うものがまだあるなら、触れる場所にあるなら、それを大事にすべきだと彼女は思う。

 それが、こんな終わりの世界で七奈が学んだこと。誰かの死が自分の命を繋いだなら、その分生きるべきだと。誰かの優しさが自分を支えるなら、自分もまた誰かに優しさを渡すべきだと。

 

 

 些細な、本当に些細なことだ。

 迫られて、進んだ先で気付く当たり前。

 

 

「……決めた! わたし、仲直りのデザート作る!」

 

『デザート!? よっしゃ! オレも手伝うぜ、お嬢!』

 

「ふふっ、ありがとね、ルーク。でもでも、つまみ食いはあんまりしちゃダメだよ……?」

 

『わぁってるって! オレにできることなら何でも手伝うぜ!』

 

「……何でも、ね。じゃあ、がんばってもらおうかな!」

 

 

 終わりの世界で学ぶことは沢山ある。

 ルークはこの日、安易に『何でも』なんて言葉を使うべきではなかったと、深く学ぶことになった。

 

 ◇

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 朝食後、お昼を過ぎても二人の間に会話はなかった。それもそのはず、昨日のことを考えればそうそう話題なんて思いつかないし、下手に行動も起こせない。ただ、静かに仄暗い雰囲気のまま、ルーシェとジェリーは隣り合って座っている。

 その何とも言えない距離感や、離れられない無意識の執着はお互いがお互いに向けている感情そのもので、表現し難い関係だ。

 

 

 親友、幼馴染み、大切な人。言い方は多くあれど、辿ってきた道が関係を明確な言葉に当てはめることを許さない。

 

 

 ただ、一人を除いて。

 

 

「ルーシェさーん! ジェリーさーん! おやつができましたよ~!」

 

「……おやつ?」

 

「そんなの作る材料あったかしら……」

 

 

 自分たちを呼ぶ七奈の声に引かれるまま、二人は顔を見合わせながら立ち上がりキッチンに向かう。そこには、何故か小さい牛の姿のまま倒れているルークと鉄製の容器とスプーン片手に佇む七奈がいた。

 彼女が抱える容器にはルーシェとジェリーが見たこともないようなおやつ——アイスクリームが詰まっていた。

 

 

「……黄色い、これは?」

 

「アイスだよ! アイスクリーム! 二人とも食べたことないだろうな~って、ルークに手伝ってもらって作ったんだ!」

 

『卵産んだり……乳を搾られるのって痛いんだな……身をもって思い知ったぜ……』

 

「はぁ……ルークまで巻き込んで。こんなことしなくても——」

 

「でも! わたしは二人が仲良くしてくれる方が好きだから……だって、さっきまでのままだったら、ずっと話せなくて仲直りできなかったでしょ?」

 

「それは……まぁ」

 

「……七奈の言うとおり、ね」

 

 

 静かに、ルーシェがそう言うと、彼女は深々とジェリーに頭を下げた。

 一言、ただ一言の謝罪を添えて。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 何に対してか、ルーシェは口にしなかった。

 謝罪を受け取ったジェリーも、赦しの言葉を伝えるわけでもなくそっとルーシェの頭を撫で、「うん」と頷いた。

 互いに伝えた一言の意味は、七奈にはわからなかった。

 

 

 わからなかったけれど、謝り終えた二人が美味しそうにアイスを食べているのを見て、笑みが零れた。冷たいけど温かい、そんな時間がそこにあった。




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