ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・アフターマス2

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 マゾクは皆、殺す。

 

 そう公言して憚らぬマゾクスレイヤーこと現在はサツバツナイトを名乗っている森田であるが、少し考えることくらいある。

 

 ヨミハラに開いた魔界の門、そこからやってくるマゾクは大概……というより九割九部が腐れ外道か性的倒錯者なので、スレイするのに何ら良心の呵責を覚えることはない。

 

 ただ彼の中には一応、三種類のマゾク分類がされていた。

 

 一つは必ずスレイする普通のマゾク。

 

 二つは〝これ今スレイするとちょっと拙いな〟と思うマゾク。

 

 この分類には曲がりなりに治安を保っている魔族が振り分けられ、鬼哭と呼ばれるマフィアや東京キングダムを根城にしている鬼武衆が含まれる。

 

 前者は地上進出をうたってこそいるが割と穏健な方で、目的が終わったら魔界に帰りそうな、極めて珍しい魔族であること。

 

 そして後者はカラテ強者である森田が触れたが最後、東京キングダムがしっちゃかめっちゃかになって他のマゾクをスレイする余裕がなくなるため、一旦置いてある。

 

 三つは、流石にコレを殺すのは倫理観的にどうなのだ、となる無辜の魔族である。

 

 非常に珍しいがいるにはいるのだ。門が開いてしまった際に偶発的に放り込まれてしまった個体や、両親がこっちに来てから産んだ人界の常識を弁えた個体、魔界での激しい闘争に嫌気が差して人界に逃げてくる個体。時に早くお家帰りたいと、人界で迷って彷徨いている個体も。

 

 「つ、通行料!? そんなのき、聞いてない……というより、せ、先週まで普通に通れたんですけど……」

 

 諜報活動の――主に次にスレイすべきマゾクを探す徘徊――最中、トレンチコート姿で小汚い路地を歩いていた森田の耳が何処か甘ったるい、そして気弱そうな声を拾った。

 

 何事かと思って小路の角から手鏡を出して向こうを窺ってみれば、一人の魔族が三人のオークに絡まれていた。

 

 魔族の中でも最低位、もう数が多すぎて〝悪さしてなきゃスレイするのも面倒だな〟となるほど数がいるオークのことは良いとしよう。勝手に縄張りを主張して小銭集めをしようとしている、ヨミハラではごく有り触れた光景だ。

 

 問題は、絡まれている側であった。

 

 紺色のオーバーオールにフリルのブラウスを着込んだ女性と呼ぶべきか、少女と呼ぶべきか悩む外見の乙女であった。眼鏡を掛けたライラック色の瞳が特徴の童顔は、見るからに魔族であり、その証拠に頭部より一対の角が生えている。

 

 そして、恐ろしい程にバストは豊満であった。

 

 『……ミノタウロス族か』

 

 魔族の中でも凄まじい膂力と〝赤い物〟を見ると暴走する恐ろしき闘士として知られる一族であるのだが、一見して分かるほど彼女は温厚そうで頼りない。それこそ、ヨミハラで生きるのが向いていないと断じられるほどに。

 

 やろうと思えば、その豊満に過ぎるバストの下に抱えた荷物を置いて、ショットガンで武装した程度のオークなんぞ空き缶のように捻れるであろうに、通行料に対して消極的な抗議をしているのが良い証だ。

 

 「で、でも、お届け物があってぇ……」

 

 「そんなの関係あるか! ここは今日から通行料が必要だって決まったんだよ」

 

 「……待てよ兄弟、この女、かなり上等だぜ」

 

 「そうだな、げへへ、何ならお前自身を通行料として貰ってもいいんだぜ」

 

 「ひぇぇぇぇぇ……」

 

 そんな豆鉄砲めいたジップガンの12ゲージが効くのか? と森田は思ったが、本人が脅えているのだから仕方ない。

 

 しかし、これもヨミハラでは有り触れた光景だ。一つ一つに介入していてはキリがないし、サツバツナイトが無駄に暴れ廻れば、より多くの魔族をスレイする好機を逃すやもしれない。

 

 それに所詮は魔族だ。魔族のクズ同士が殺し合って数を減らしてくれる分には、森田としても大いに歓迎するところである。

 

 ここは非情ではあるが、捨て置くしかないかと心の中にチクリとした物を感じながら、彼は踵を返そうとした。

 

 悲しいかな彼はブッダでもジーザスでもない。全てを救うことなどできず、大いなる目的の前に小さな悲劇を見捨てることを求められることもあったのだが……。

 

 「せ、折角魔界と違って人界は平和だって聞いたから逃げてきたのに……やだよぅ……」

 

 掠れるような声が彼の足を止めた。止めてしまった。

 

 何たる愚かなカンショウ。平和を求めてやって来た、その勝手な目的はさておくとして、闘争から遠いところで和に生きたいという欲求は理解できる。しかし、自分は魔族を全て殺すと誓った存在。

 

 そんな自己定義と一般的な倫理観の中で魂が震える。去るべきか、残るべきか、靴裏が微かに地面を躙り葛藤を現す。

 

 「ブツブツとウルセぇな! 決まった! 通行料はお前自身だ!」

 

 「兄貴! 最近噂のアンダーエデンって娼館が良い根で買い取ってくれるらしいですぜ!」

 

 「なら、奪った荷物も含めて今夜は豪遊だ!」

 

 「「イヤー!!」」

 

 さて、ここで非凡なるニンジャ読解力をお持ちの読者諸君なら気付けたであろう。

 

 悲鳴は二つ重なっていた。

 

 いや、一つは悲鳴ではない。

 

 決断的なカラテシャウトだ!!

 

 「「「グワーッ!?」」」

 

 一薙ぎでチンピラオークの首が三つ飛ぶ! 即座にハヤキガエ・ジツでサツバツナイトの姿を現した森田が、一筋の手刀で首を刎ねたのである!

 

 しかも、敵一体ごとに手首の入射角を考慮し、大量に噴出する血がミノタウロス族の魔族に掛からないようにする気遣いが払われていた。何たるタツジン!

 

 「……ドーモ、サツバツナイトです」

 

 アイサツをしながら、サツバツナイトはしまったと思った。ついつい人間的なカンショウによって助けてしまうなど、マゾクスレイヤーと名乗っていた自覚が足りない。本来ならば、手刀の軌道上に彼女の首もあってしかるべきだというのに。

 

 平和に生きたい。そのあまりに人間的な言葉に絆されるとは、成っていないと心の中で自分を戒める。きっとサツバツナイトの魂にもナラクが同居していたならば、酷い嘲笑とバトウを浴びていたことであろう。

 

 「あ、ありがとうございます……わ、私はリーシアです」

 

 「……今からオヌシにインタビューを行う」

 

 「はい?」

 

 当人からすると何の脈絡もなく、しかも上から降ってくるという凄まじい助け方をしてきたニンジャ装束にメンポを被った、変人の坩堝たるヨミハラでも奇っ怪な姿の男に助けられたかと思えば、今度はインタビューときた。豊満なバストを揺らしながら、彼女は目を白黒とさせた。

 

 「人を殺したことは?」

 

 「あっ、あるわけないじゃないですか! そ、そんな酷いこと……」

 

 「今は何をしていた」

 

 「た、宅配の仕事ですぅ……お届け物を配って回る、普通のお仕事……」

 

 見れば、彼女が抱えているのは牛乳瓶が詰まった、ただの箱であった。ヨミハラでは炭酸飲料と同じくらいの気軽さで売られている麻薬でもなければ、花火と同程度の手軽さで手に入る爆弾でもない。

 

 「スゥー……」

 

 「あ、あの……?」

 

 サツバツナイトは額に手をやって、深く呼吸しながら天を仰いだ。しばしの葛藤、その様を不安そうに見つめるリーシアと名乗った牛乙女から怪訝そうに見られながらも、彼は自分の心と折り合いを付けた。

 

 ニンジャスレイヤーも邪悪ではないニンジャをスレイしなかったこともある。邪悪でない魔族なら、無駄にスレイすることはないのではないかと。

 

 心の中に大きな棚を作るような、彼のレゾンテートルを脅かしかねない決定であるが、最早この魔族を手に掛けることは細やかなりし良心が咎めてきていた。

 

 故に彼は一歩横に引いて、オークの死体を蹴飛ばし、道を指さした。

 

 「行け」

 

 「えっ?」

 

 「いいから行くがよい。俺の気が変わらぬ内に」

 

 なんたるダブルスタンダード! 己を恥じながら、さっさと行けと促したサツバツナイトであったが、リーシアは少し考えたあと、荷物を置いてその中から一本の牛乳を取りだして差し出したではないか。

 

 「その、これ、お礼……」

 

 「礼?」

 

 「助けて、い、いただいたので……わ、私そそっかしいから、よく割っちゃうし、いつも予備を運んでるんで……」

 

 また葛藤、逡巡。もし彼女が無辜のマゾクを装った、サツバツナイトの首を上げることを狙ったマゾクならどうなるか。多少の毒に抗体がある森田でも危険な毒が含まれていたならば、とマゾクスレイヤー的思考が巡らされるが……。

 

 「ドーモ」

 

 結局、彼は彼女の善性を信じて牛乳を受け取っていた。

 

 そして、立ち去ろうとしてふと疑念が一つ。

 

 「……これは君が?」

 

 「へ? 私が貴方にあげた物ですけど」

 

 急に何言ってんだコイツという顔をしたリーシアであるが、別の解釈に気付いて顔を負かったにした。

 

 「ふっ、普通に牛さんの牛乳です!!」

 

 「シツレイした。配慮にかけていた。ケジメしておく、許してくれ。イヤーッ!!」

 

 「イヤーッ!?」

 

 つい、その豊満すぎるバスト、そしてミノタウロス族という出自から興味が湧いてしまったのだ。

 

 コンプライアンス。上忍になるに至って上層部から百回くらいシャキョーさせられた言葉を思い出した彼は、即座にケジメとして自分の顔面をぶん殴った。

 

 年頃の乙女に、これは君の母乳か? と訪ねるなどなっていない。世が世ならセプクものである。

 

 「では、オタッシャデー!!」

 

 「えぇ……」

 

 唐突に現れて勝手に助けて、最後はセクハラをかましたかと思ったら自分の顔面を殴って帰って行く。謎の存在にリーシアは大いに困惑したが、これが人界なのかと思って気にしないことにした。

 

 何より、人間に助けられたことなど、あまりなかったから嬉しかったのだ。

 

 それから少し後、丁寧に洗った牛乳瓶が職場に一本だけ帰ってきたことが嬉しくて、リーシアはサツバツナイトの悪い噂を聞いても、ちょっと奇行が目立つだけでコワイ人ではないよと思うようになったそうな…………。




アイエエェェェェ!? 日刊一位!? 一位ナンデ!?

ビックリしたので更新です。

対魔忍RPGの登場人物なので詳しい容姿を知りたい方はドネートしてガチャでお招きするか、Wikiを決断的に参照だ!
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