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「イヤーッ!!」
「アバーッ!」
森田ことサツバツナイトは悩んでいた。
「イヤーッ!!」
「アバーッ!」
というのも、一つの大きな矛盾に挑んでいるからだ。
「イヤーッ!!」
「アバーッ!」
不死者、死なぬ者をどうやって殺すのか?
「イヤーッ!!」
「アバーッ!!」
実に遠大にして不可思議。何ともトンチめいた問いに答えはまだ、出ない。
「イヤーッ!!」
「アバーッ!!」
今、サツバツナイトは一人の魔族と交戦……いや、これを交戦と呼んで良いのだろうか。
ともあれ、一人の高位魔族、死霊騎士を自称した女の首を延々刎ね続けている。
名前は知らない。スゴイシツレイなことにアイサツに名前を名乗らず身分だけで返したからだ。
大量の死霊を操り、死者の怨念を耳元で囁かせ、過去の幻影を呼ぶ油断ならない相手であった。
だが殺した。
そして、殺し続けている。
「イヤーッ!!」
「アバーッ!」
六六六回目の斬首が決まったが、絶命の悲鳴から少しして、切断部位が霧散して元に戻ってしまう。両手足もケジメしようが生えてくるため、やむなく壁にスリケンで磔にしてあるのだが、如何せんどうやっても死なない。
中々有り得ないことだ。ニンジャでさえ首を刎ねられれば、しめやかに爆発四散するというのに。
取りあえず思いつく限りのことをやってみてダメだったので、今は向こうが根負けするまで殺してみたらどうだろうという発想に至り、取り急ぎ再生する端から延々と首を刎ねてみているのだったが、あまり効果は見られない。
普通に再生速度は一定で鈍ることはなく、発し続けている薄赤い瘴気と共に留まることを知らないのだ。
「ふーむ……」
「あ……ああ……」
実に十数分ぶりにカラテシャウト以外の言葉を発したサツバツナイトは、遂に困って顎に手をやって首を傾げた。
再生した首は白目を剥いており、鈍色の髪と赤に近い褐色の肌が特徴の美人が完全に残念なことになっている。そして、その胸は完全なほどに平坦であった。
「名前は何ですか?」
「あ……あう……」
「名前は何ですか」
「アバーッ!」
頭を引っ掴んで壁に叩き付けてみたが、悲鳴を上げるばかりで返事が出ない。せめて名前くらい言ってくれないとインタビューのしようがないのだが……。
「名前は何ですか」
「アバーッ!」
「名前は何ですか」
「アバーッ!」
「名前は何ですか」
「アバーッ!」
妙に感度の悪いマイクを使ったUNIXボイスチャットめいたインタビューを敢行しても、残念ながら答えは帰って来ない。
そして、まだ完全に死なないと首を傾げる。
だがサツバツナイトは気付いていないのだろうか。一時的にではあるやもしれないが、ある意味で不死者を殺しているという事実に。
真面に返事ができないくらい、この死霊騎士を自称した高位魔族は壊されていたのだから。
ともあれ、そんなことを露知らず、サツバツナイトは本当にどうやれば不死者をカラテで殺せるのか考えていた。
いや、殺そうと思えば殺せなくもないのだ。彼が操る秘中の秘、カトン・ジツの極みであり藤木戸家相伝のユニーク・ジツ、アビ・インフェルノ・ジゴク・ジツは形のないジツや魂でさえ燃やし尽くす。
今も彼の魂の中で燃えながら藻掻いている者もいるのだが、試みさえすれば一辺の欠片も残さず燃やせる。
ただ、それをしないのは彼が偏にサツバツナイトでありマゾクスレイヤーであるからだ。
ノーカラテ・ノーニンジャ。ジツ頼りのサンシタが直ぐ死ぬのがこの界隈。
強力なジツを持っているからと言って、それに頼り切ってはいけないし、見せびらかしてもいけない。
さすればあっと言う間に対策を立てられて死ぬし、優秀な敵であればイクサの最中、短時間で対策を思いつくこともあろう。
だから彼はひたすらに、本当に必要な時以外にジツを使わない。
そして、この程度カラテしたくらいで一回殺せる相手に使って良い物かと頭を捻っているのであった。
「ヌゥー……」
数度カラテを素振りするが、流石に手で魂を断つ感覚といってもパッと来ない。さりとて、こんな誰が見ているかも分からぬヨミハラの片隅で奥義を使うのも拙い。
本当にどうしたものか困り兼ねるという事態にサツバツナイトは久方に陥った。
アレは何時のことだっただろうか。幼少の砌、今は亡き親友、キョウスケ=サンと一緒に参加したアサギ=サンの私的な誕生日会で、運んでいたケーキをひっくり返して泣かせてしまった時以来の難事である。
あの時、アサギ=サンは本気で泣いて、どれだけ慰めても泣き止んでくれなくて、参列者一同で――言うまでもなくアサギの父は不在だった――大変困ったものだった。
正にアレ以来の困難。解決不能な事態をどう調理した物かと思っていると……。
「イヤーッ!!」
「ちぃっ!?」
アンブッシュ! その気配を悟ったサツバツナイトは即座に目の前のハーフデッドを放っておいて、適切に迎撃! 降り注ぐ無数のハリめいた光線を弾いた。
「ドーモ・サツバツナイトです」
「その奇っ怪な名乗り、やっぱり界隈で噂の狂人ね」
初撃で殺し損ねたことを悟った敵は、大人しく姿を現した。
青い肌、オニビめいたグリーンの瞳、酷薄そうな美女は魔族の中でも殊更生を感じさせず、死を濃密に放つ瘴気を放ちながら三体のハエ型ゴレムを従えて現れた。そのボディは上も下も豊満であった。
「なるほど、オヌシも死霊騎士とやらか」
「そこの木っ端と同じにしないで欲しいわね。私はウィスプ、誇り高き屍の王に仕える騎士よ」
何たるコウマンな名乗りか! アイサツもなく言い放つ様は高位魔族にありがちであるが、ウィスプと名乗った騎士は殊更に酷い。人間であるサツバツナイトを完全に舐めきって、いや、見下しているが故の態度に他ならない。
油断なくジュージュツの構えを取りながら、彼はスレイし続けても殺せなかった死霊騎士を見て、やはりサンシタであったかと悟る。
ジツ頼りの戦闘スタイルでカラテはからきし、暗い記憶を呼び起こさせて最終的に自死を狙うようなヒレツなやり口であるからして、幹部だとは想っていなかったが、やはりキンボシ首ではなかったらしい。
じり、と躙るような足取りで間合いを見つつサツバツナイトは悩んだ。
ここで戦うべきか、否か。
未だカラテで不死者を殺す矛盾を達成できていない。まだ何も掴みかけていない中、ウィスプをスレイしようとしてもジツの情報が漏れる危険性が増すだけだ。
さすれば、不死者を殺すという矛盾を体得しているサツバツナイトは、今より更に行動をマークされて動きづらくなることであろう。
自らの不死性を鼻に掛けた魔族は多い。その魔族が、自分の矜恃と強さの依拠たる不老不死を破るアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツを知ればどうするか。
なりふり構わず、命欲しさと安心欲しさに彼が死ぬまで追い続けるだろう。
そして、さしものサツバツナイトとて一切の支援なくして凌ぎきれるはずもない。
何より、この魔族は強い。全身から溢れる瘴気の悍ましさは言うまでもなく、三機のゴレムを引き連れた体からは油断のないカラテが香る。
一息に殺せるほど楽な相手ではないと肌感で読んだサツバツナイトの判断は……。
「フーリンカザン……」
「なにっ!?」
逃走であった。
イクサの極意、それはフーリンカザン。場の状況を読み、自分の拘りに囚われすぎることなく全てを利用し勝利する。
この場での勝利、その最低条件はアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツの秘匿だ。
それに得た物がない訳でもない。
今までヨミハラは暗黒メガコーポ、ノマドのナワバリであって死霊騎士なる存在が彷徨く場所ではなかった。
魔界で何らかの勢力争い、あるいはパワーバランスの変動が起こったことは確実。それを知ることができただけでもキンボシ大きい。
「臆したか狂人!!」
「オヌシ如き何時でも殺せるが、痩せ首二つで得られるより大きい物に気付いた。今しばらく、その命を預けてやるが故、短い余生で首を磨いているがいい」
文言だけ見れば無力に逃走するマケイヌめいているが、ウィスプはそれが虚勢だと感じなかった。逃げ文句にしては力強すぎるし、追ってくるなら追ってこいとばかりに迎撃する気満々の殺気を放つ背中が逃げているようには見えなかったのだ。
彼女は追い討つかしばし悩み、足を止めた。本来の目的は果たせたのだ。
使えない後輩の回収という、自分には似合わない仕事のため、進出を果たしたばかりで地盤が固まっていないヨミハラを荒らし、遠大なる屍の王が練る計画を邪魔するのは悪い。
「命を預けておくのはこちらよサツバツナイト! その命、必ず死霊騎士がもらい受けるわ!」
せめて一言返しておかねばと声を張り上げるも、ヨミハラの凝ったような夜は全てを呑み込んで黒々とした沈黙を守った…………。
二日連続日刊一位!? しかもまだブクマが伸びている!? ナンデ!?
驚いたので更新です。
序盤にスレイされていた死霊騎士はモブで公式キャラではないです。
死霊騎士にもピンキリいるだろうなと思いまして。
今回のゲストはウィスプ=サン。豊満すぎる&RPGからのお人なので検索するときは注意重点な! 職場閲覧注意!