ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・アフターマス6

◆◆◆◆◆◆◆◆ 

 

「インストラクション・ワン! 鋼の刃で断てぬ物が風の刃で断てぬ道理ナシ!」

 

 「いやーっ!!」

 

 未熟なカラテシャウトが深夜のヨミハラ、アオゾラドージョーに響き渡った。そして振るわれる刃がバイオではないバンブーを軸にし、濡らした筵を五枚撒いたマキワラを叩き斬る。

 

 育った竹は丁度骨の硬さであり、そして濡らした藁は肉と近い。しかも、それを五重に重ねることで殆どオークの首と同じ頑強さにすることができる。

 

 すぱりと断たれたマキワラであったが、先端が飛んだそれを片手で受け取り森田は不満そうに鼻を鳴らした。

 

 「触れてみよ」

 

 「……ざらざらしてます」

 

 カラテシャウトの持ち主、葉月はそう答えた。指で断面を撫でると指の上に不愉快な藁の層が当たる。

 

 「まだ刀身がよれている証拠だ。見てみろ……イヤーッ!!」

 

 鋭いシャウトと共にカラテチョップがマキワラに振るわれ……何も起きなかった。

 

 「あれ?」

 

 「力が完璧に伝わり、斬ることができていれば、こうなる」

 

 森田が指でちょんとつつけば、マキワラの先端が今ようやっと斬られたことに気付いたように斜めに滑り落ちた。ゴウランガ!!

 

 「オヌシの刃は垂直にではなく僅かに斜めに入った。故に斬り飛ばした先が飛んだのだ。そして断面が荒い」

 

 「う、うわ、鑢でもかけたみたいにツルツル……」

 

 カラテで斬られた断面は指先で撫でても殆ど不快に感じないほどつるりとしており、乱暴に擦ってようやく筵の存在を感じられる程度。そのワザマエに感服した葉月は、今まで風の刃を纏わせて斬っていたカタナの腕にどれだけの無駄があったのか悟った。

 

 その無駄を一切省けていれば、先のイクサでも血脂で切れ味が落ち、メインウェポンたるカタナが折れて破れることもなかったであろうに。

 

 そして、このインストラクションによって益々思うのだ。この人はきっと、群れの誰より強い。教えは必ず身になると。

 

 それと同時、人狗族の本能が甘くニューロンを擽る。この雄性体に従えばよいと。

 

 「ノーカラテ・ノーニンジャ。まずカラテでできるようになってからジツで応用をする。然もなくばどちらかが相手より劣っていた瞬間に負ける」

 

 「ハイ! センセイ!」

 

 本能に従って元気よく応えながら、葉月は「ボクはニンジャじゃないですけど」という言葉をギリギリで呑み込んだ。

 

 そして再び刃を振りかぶり、短くなったマキワラに斬りかかる。

 

 二度、落とした先端が飛んだ。無駄な力みが伝わって、その作用によって弾き飛ばされてしまったのである。

 

 「刃の角度に常に気を付けろ。垂直に入れ、引くように斬らねば、それは叩き斬っているだけだ。カタナを活かしているとは言えん」

 

 「ハイ! センセイ!!」

 

 次のマキワラを立てながら、目標は斬った部分が即座に飛ばないようにすることだと言い付け、森田は脇に退き弟子の鍛錬を見守ることにした。

 

 フォームは悪くない。握りは緩く、脇の締め具合、腰の連動もできている。ただ少し背の筋肉を使いそびれていることと、足首が完全に捻りきれていないのが惜しい。地面と自分の摩擦をもエネルギに代えてこそ、真にツヨイカラテや斬撃となることを、この鍛錬を通して学んで貰わねばならぬ。

 

 ふと、森田は自分の財布を思って弟子に聞こえぬよう独り言ちた。

 

 「……財布の中身が足りる内に会得して欲しいのだが」

 

 そう、何も鍛錬とは無料で行える物ではないのだ。彼が愛用している革や砂ではなく〝砂鉄〟を仕込んだ特製のサンドバッグやワンインチ距離戦闘鍛錬用の木人、筋力を鍛える超圧縮合金製バーベルなどを買うと活動資金はあっと言う間に底を突く。

 

 いくらアサギ=サンが気を回して、足の着かない口座から金を回してくれているからといって――当然ながら、今までの口座は凍結されていた――それに頼り切りもいけない。

 

 かといって、マキワラ一本作るのにも金が掛かるのだ。

 

 ヨミハラは地下で太陽光が差さず、ケバケバしいネオンの光が虚しく差すばかりで健康的に植物が育つ環境ではない。オーガニック・バンブー一つ取っても中々馬鹿にした金額ではないし、そこら辺の住所不定者が敷いている茣蓙も簡単に手に入るものではないのだ。

 

 故に森田には、サツバツナイトにはあまり金の余裕がなかった。

 

 基本的に彼はスレイした標的が持っていた金は汚い物として、綺麗な用途に還元されるよう慈善福祉団体に寄付していることもあって――一応、ロンダリングはしている――自分の財布の底は深くない。

 

 そろそろアサギ=サンから貰う活動資金意外にも銭を稼ぐ方法を見つけねばならぬかと思ったが、やはり普段に魔族をスレイする活動のため忙しい。

 

 何か一石二鳥の案はないかと頭を捻っていた森田であったが、彼は不意に自分の仮宿に近づいてくる気配を察知して壁から背を離した。

 

 「センセイ?」

 

 「何でもない、続けろ」

 

 訓練を続行するよう命じてヤスブシンの古アパートに引き返した彼は、壁にペタペタとピンクチラシを貼っている影を見つけた。

 

 普段なら迷惑なので、ちょっとやめないかと言うところであるが、それが静流の雇ったバイトであることを察した彼はするがままにさせ、貼り終えるのを確認すると暗号に眼を通した。

 

 内容は存在しない風俗店の――たまにお茶目のつもりかアサギやシズルの目隠し自撮りが混じっている――電話番号と、不規則なように見えて規則的な貼り方から算出できる。

 

 今回の要件は至急出頭されたし、というものであったので、森田は葉月にマキワラがなくなっても自分が戻らなかったら、そのまま仮宿で待つように伝えていつもの酒場に戻った。

 

 「……バリキを」

 

 「あいよ」

 

 相変わらず人気のないバーで高給栄養ドリンクとエナジードリンクを1:1で混ぜるという体に悪いこと極まりないノンアルコールカクテルを二杯頼むと、際どいメイド服の静流が現れた。そのボディは全体的に豊満であった。

 

 「早く来てくれて助かるわ森田くん」

 

 「ドーモ、シズル=サン。何があった?」

 

 「かなり拙いことになっているの」

 

 そう言って彼女は一枚のフォルダを差し出した。五車学園の名が記されたそれは、有り触れた人事ファイルであり、開けば見知った顔の情報が記してあるではないか。

 

 「サクラ=サン? まさか、五車に転入するつもりなのか」

 

 森田・一郎こと藤木戸・健二の盟友、井河・アサギには妹が一人いる。名を井河・さくらといい、アサギと歳が離れていることや対照的な性格にファッションから〝似てない姉妹〟として定評のある彼女は、既にジツに目覚めているにも拘わらず対魔忍養成学校たる五車学園には通っていなかった。

 

 これはニンジャ闘争の激しさに妹を巻き込みたくなかったアサギの意向が働いての仕儀であったが、どうやら恭介が散ることとなった惨劇の結婚式以降、対魔忍の血筋である以上、自衛能力は必要かと考えを改めるに至ったようだ。

 

 元よりさくらは対魔忍になりたがっていたし、その一環で藤木戸がカラテ・インストラクションをしょっちゅうつけていたので――その度、悪影響だから止めろとアサギから叱られていたが――才能ある若人の体力を持て余させるはよくないとして、こっそり鍛え続けてやっていた。

 

 故に彼女のカラテは姉には劣るが凄まじい領域に高まっており、同年代の対魔忍では髪の毛一つ揺らせない高みにある。

 

 「しかし、考えようによっては良いことだろう。彼女のカゲ・ジツは目を見張る物がある。対魔忍として成長すれば立派に魔族をスレイして……」

 

 「そこじゃないの。彼女、東京キングダムに向かっちゃったのよ」

 

 「……ナンデ!?」

 

 あまりのことにアイエエェェェェ!? と叫ばなかった森田のニンジャ精神力を誰か褒め称えてもよかろう。

 

 年頃の女子高生が東京キングダムを訪れるなど、喩えるならばヨハネスブルグを全身ブランド物で固めた上、護衛無しで彷徨くようなものだ。150%の確率で襲われて大変なことになる。

 

 陵辱されるだけや、殺されるならまだいいほうだ。最悪、人の形を保ったまま都市を出られるかも分からない。そんなことに盟友の妹がなってしまったら、森田は今まで以上に自責の念で暴れ廻ることになるだろう。

 

 「その……けんにぃが抜け忍になるなんて有り得ないって飛びだしたみたいで。何か事情があるなら聞いてくると。お父様のことは特に気にしてなかったようなんだけど……」

 

 「ブッダシット!!」

 

 挙げ句、そんな危険を冒したのが自分のせい!? ブッダよ、まだ寝ているのですか! と森田は天を仰いだが、幻視したブッダは降魔印で人差し指の代わりに中指を立てていた。どうやら寝ているどころかこちらを煽っているらしい。

 

 「位置情報は!?」

 

 「影遁を使って言ったみたいで、目撃情報はナシね。多分、他人の影に潜ってキセルで公共交通機関を使っているわ。今のところ、こっちの情報網には何もなし」

 

 「ブッダファック!!」

 

 その上、手掛かりゼロとはどういうことか! 森田は天を仰ぐ代わりにハヤキガエ・ジツでサツバツナイトに転じると、そのまま脱出口から勢いよく飛びだした。

 

 もう東京キングダムの勢力均衡なんぞ知ったことではない。取りあえず悪さしていそうな所へ片端からカチコミを掛けて、大事な盟友の妹がほとんど違法行為の餌食になっていないか確認せねばならぬ。このままでは青少年のなんかがアブナイ。

 

 彼女はツヨイ。逆手にクナイダートを握った藤木戸仕込みのカラテと、隠行において右に出る物のないカゲ・ジツを組み合わせた強力無比な戦闘スタイルで、ことアンブッシュにおいては師である森田以上のワザマエを誇るが、まだ実戦経験のない未成年。前後どころか実戦すら早すぎる年齢だ。

 

 無事でいてくれ、サクラ=サン! 祈りながら暗夜を飛ぶサツバツナイト。

 

 走れサツバツナイト! 井河の血筋はトラブルに恵まれているから、お前が征かねば何が起こるか分かった物ではない! 走れ…………!!

 

 




アイエエェェェェ!? 寝て起きたらブクマ7,000越え&IUA10,0000越え!? ナンデ!?

クロス先にもアッパー調整重点な、ということでサクラ=サンも大分強化されています。具体的にはシャドウウィーヴ=サンの完全上位互換。
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