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「そぉうら!!」
「イヤーッ!!」
速疾鬼が雑に薙ぎ払うように抜き放った大太刀の一撃で、サツバツナイトが借りたバイクは真っ二つになった。金属が擦れ合う火花がエンジンタンクから漏れたガソリンに移り爆発炎上、凄まじい爆風が吹き荒れても鬼は小揺るぎすらしない!
「クソッ、だからオヌシの相手をしている時間など……」
「ケンカはエドの華だってんだろ! だったらここも実際エド! 混ざらなくっちゃエドっ子の名が泣くってもんだろ!」
「何がエドっ子か! オヌシはマゾクであろうが!!」
サツバツナイトは爆風を利用し後方に大ジャンプ、バギーのフロントに降りるや否や、そのまま蛙めいて伏せて銃弾を回避。腹ばいのまま横に転がって地面に落ちると、掌、肘、肩、腰、膝の順に落着するゴテンチャクチ・ジツを用いて威力を減衰。更に転がる勢いを借りてスリケンを速射した。
「ははは! 上の口は反抗的でも殺気は素直じゃないか!」
「黙れラーヴァナ=サン! 本当に今はそういう時ではない!!」
しかし、一発一発が戦車砲に等しい運動エネルギーを持つスリケンを太刀で両断した速疾鬼は呵々と笑うばかり。バイクを失ったサツバツナイトはつき合っていられるかと自前の足で色つきの風となって疾走するが、龍門の追撃部隊が逃走を許さなかった。
彼等にもメンツがあるのだ。検問所を潰されて、追跡部隊まで言いように弄ばれて、挙げ句逃がしましたとあっては隊長がケジメ程度ではすまない。残虐な統治者が君臨するマフィアの中では、サンシタであってもその場の空気でセプクさせられることがあるのだ。
こうなってはもう、増援を要請して是が非でもサツバツナイトを殺す以外の選択肢が彼等にはなかったのである。
しかし、その健気な反抗も鬼の中の鬼、不死身の速疾鬼に適うはずもなし。太刀の絶大な間合いに巻き込まれて次々と散っていく。
さしものサツバツナイトとて、彼女の剣戟を捌くのは楽ではなかった。
まず攻撃に粘りがある。押しのけようにも直進する力が強くて刃圏から逃れるの満身の力を必要とする上、大太刀を扱っているとは思えない程に返しが速い。その上、一撃一撃の刃筋が完全に立っていて不完全な斬撃がないのだ。
全てが一の太刀、必殺の一撃にして恐ろしきカラテの産物。一刀受けるだけで致命の斬撃となるだけあって、サツバツナイトにも余裕がない。知らぬ内に冷や汗が一滴メンポの内に伝った。
「イヤーッ!!」
「やるねぇ! 私の太刀を捌けるヤツぁそういない! 戦いってのはこうでなきゃ!!」
一人で勝手に良い空気を吸っている鬼だが、そもそも鬼とはそういう生物だ。鬼武衆そのものが愉快な闘争を求め、弱者を嬲るより強者に突っかかっていくことを選ぶ存在であるが故に、勝手につぶし合ってくれとサツバツナイトは彼等を捨て置いていた。
だが、その矛先が自分に向いたら別だ。
「イヤーッ!!」
「おおっ!?」
胴に向かって放たれた斬撃をサツバツナイトは肘鉄の振り下ろしと、叩き上げる右膝で挟んで止めたではないか! 破壊こそ適わなかったがギリギリと金属音を立てて数秒拮抗している間に、そこを支点として首狙いのハイキック! 美女の顔面が跳ね上げられて、盛大に鼻血と牙が散った! 何たる陰惨な光景か!
「あっはははは! 私が血を流すなんて本当に久方ぶりだ! いいよ、やっぱお前いいわ!!」
「ちぃっ!!」
しかし、確かな手応えを足先に感じているのにサツバツナイトの蹴りは、ただ歯を折って口の中を切らせただけに過ぎない。速疾鬼には大した傷みも与えられていないのか、むしろ自らの負傷を喜んで笑うばかり。
尋常の魔族であったならば、首がねじ切れて高層ビルディングの頂点にまで届いていてもおかしくないハイキックを叩き込んで〝コレ〟なので、高位の鬼族は本当に始末が悪い。
「イヤーッ!!」
「ちぇいりゃぁ!!」
「イヤーッ!!」
「おらぁぁぁぁ!!」
「イヤーッ!!」
「せいぃぃぃ!!」
斬り合いは激しさを増すばかり! 余波に紛れて違法改造バギーが横転! 違法横流しAPCが横転! 遂に引っ張り出された旧式MBTが爆発四散!!
「畜生! アイツらを止めろぉ!」
「もう無理だ! 逃げろ!!」
「人型の嵐が吹き荒れてるようなモンだ! 撤退! 撤退!!」
そのあまりの被害にさしもの龍門も困惑! 士気がへし折れてニゲゴシとなり撤退を試みるが……祭りを始めてしまった鬼が参加者を簡単に逃がすはずがない。
「おいおい、祭りから逃げようたぁいい度胸だなぁ! そうはいかないんだなコレが!!」
速疾鬼はただの力自慢ではない。紛れもないカラテ強者であり、サツバツナイトが逃げ出せないように攻撃をしつつ、進行方向を誘導するような離れ業をやってのけるのだ。そして龍門のマフィア達は強制的に戦いに巻き込まれ、派手に吹き飛び、切り刻まれて死んでいく。
この場で生きていられるのは、返り血を浴びて美しさを増す速疾鬼とサツバツナイトのみ! 炎上する車両と横たわる死体の数は膨大な量に及び、いよいよ以て繁忙期のツキジめいた光景か!!
ここでサツバツナイトは歯噛みした。ジッサイ相手をしている時間などないが、速疾鬼は片手間に相手をできるようなカラテの持ち主ではなく、しかも尋常ではなく素早いこともあって撤退は困難。
こんな衆目の下で切り札を使うのは大問題であるが、そうでもせねば倒せぬ相手かと無意識にアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツが練られ、体内でジゴクの炎と化した対魔粒子がメンポの間から僅かに溢れ出る。センコめいた特有の眼の光が強くなり、残光が太さを増す!
その殺気を速疾鬼は見逃さなかった。今までは状況判断やフーリンカザンで上手く躱してきていたサツバツナイトが、本当の意味で自分を見据えて本気になったことを悟ったのだ。
これでもっと楽しいイクサができる……!
そう歓喜した刹那……サツバツナイトの姿が消えた!!
「ああっ!? 何処行ったんだい!?」
瞬間移動やお得意の高速移動の類いではない。正に、ふっとかき消えるように消えてしまった。せっかくの殺し合いに水を差された速疾鬼は激怒し、その怒りを逃げ損ねた龍門に叩き付けて叫ぶのであった。
「出てこいサツバツナイト! こっからが本番だろうが! やらせろ! 本気で! ついでに終わったら一発やらせろ!!」
しかし、返って来るのは虚しい悲鳴ばかり。
彼女は気付かなかったのだ。幾つか掛かった空中歩道、その影に紛れた瞬間、サツバツナイトが呑み込まれるように消えていったことに…………。
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「ぶはっ……」
東京キングダムのとある路地、そこの影から溺れるようにしてサツバツナイトが吐き出された。しばらく呼吸がままならなかったのか、彼はチャドー呼吸ではなく喘ぐように息をして、何も飲み込んでいないのに肺に入った変な物を吐き出すような咳をした。
「いやー……流石は聞きしに勝る東京キングダム。危なかったねけんにぃ」
そして、同じく影から現れた一人の少女が何でもなさそうに呟いた。
勝ち気な瞳とオレンジがかった金髪、猫を思わせる笑うと僅かに撓む唇や翡翠色の瞳。新品らしい対魔忍装束に身を纏い、腰の裏に一対の忍者刀を装備したその体躯は、年頃に見合わず、下手をすると姉より多義的に豊満であった。
「サッ、サクラ=サン!?」
「やほ、久し振りけんにぃ」
彼女の名は井河・さくら。現井河頭首の井河・アサギの実妹であると同時に、幼少期から藤木戸が面倒をよく見てやった少女である。歳が少し離れているので幼馴染みというよりは、近所の可愛い妹分ということでカラテ・インストラクションをつけてやっていたのだが、彼女のジツは彼が知る時より更に研ぎ澄まされていた。
「どうしてここに!」
「ジョーキョーハンダン、そしてフーリンカザンってね」
悪戯っぽく笑うさくらであったが、その実、ただ単に彼女も勢いで東京キングダムまで来たはいいものの、けんにぃと呼び慕う藤木戸がどこにいるか知らなくて途方に暮れていたのだ。
人に尋ねようにも金を出せだの、奴隷娼婦に丁度良いだのと乱暴や前後を求めてくるばかりなのでスレイする他なく――この点、藤木戸の教育は明らかに悪い影響を与えていたと言える――碌な情報を得られないし、ヨミハラへの入り口など当然知らない彼女は、一体どうやって地下に行こうか困り倦ねていたところだったのだ。
そこで突然、遠方から爆発と戦闘音が聞こえ、それが激しくなっていったではないか。
これを感じ取ったさくらは、直感的にけんにぃ、マゾクスレイヤーが暴れているのだと察したのである。
駆けつけてみれば案の定、彼女のカラテをして「あ、これ二手か三手で殺される」と確信できる妙手と大立ち回りをしながら雑魚を殺し回っていたので、救出するべくカゲ・トン・ジツを使って助け出したのであった。
最初は邪魔になるのではないかとさくらも冷静だったのだが、そのイクサのやり取りの最中、張り上げていた速疾鬼への言葉で自分を探しているのだと知って、あまりに嬉しくなりヨコヤリを入れてしまったのであった。
「……なんたる偶然か。感謝する、サクラ=サン」
「いひひー、あんなに必死になって探してくれた上、私がけんにぃを助けちゃったかー、なんか良い気分ー。というかけんにぃ、私のこと好きすぎじゃない?」
まるで猫のように笑いながら上機嫌になったさくらであったが、彼女は直ぐに表情と居住まいを正してサツバツナイトの、否、藤木戸・健二の前に仁王立ちした。
「で、けんにぃ、井河の人間として聞きたいんだけど……なんで長老衆虐殺なんてやらかした訳? 別に親父のコトはあんまり気にしてないけどさ。昔からクソ野郎だったし」
なんたる切り替え。藤木戸の教え通り、彼女はフーリンカザンを弁え必要だと思えば果断に動くし、冷静になることもできるようだ。ただ、そのスイッチがハヤシとヤマの方に動きづらいだけで。
「…………」
どうやらアサギは彼女なりの考えがあって、藤木戸が里抜けした理由を語らなかったようだ。
勝ち気な瞳は釣り上がり、眼には嘘は許さないという強い光があった。
恨むぞアサギ=サン。内心で小さく呟いて、仕方がないと藤木戸はことの次第を全て説明するのであった…………。
アイエエェェェェ!? ブクマ8,000突破ナンデ!?
サクラ=サンは言わずと知れたヒロインなので検索の必要ないかもしれないけど、最近バリエーションめっちゃ増えたから調査重点な。