ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・アフターマス9

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 東京キングダムの路地裏に甲高い怒声が響き渡った。

 

 「はぁ!? なにそれ!? けんにぃ悪くなくない!?」

 

 「お、落ち着いてくれサクラ=サン。あと、ここで本名は止めてくれ」

 

 さくらは激怒していた。無意識にカゲが沸き立ち、物騒な形状を取り始めている。

 

 彼が五車を抜ける経緯となった事件の当事者でありながら、多くを知らされていなかったが故に怒りは尚更に深い。その上、毒を受けたせいで復帰直後に情報が入らなかったこともあって、何も知らされていなかった怒りが今になって噴出したのだ。

 

 それほどの重要事を半年も知らされていなかったことが、彼女の怒りに油を注いでいた。

 

 幾ら藤木戸から言いだしたこととはいえ、元は次期井河頭首である姉がやるべきであった汚れ仕事をマルナゲするなど、彼女の善性が納得できなかったのである。

 

 さくらはまだ若い。アサギや藤木戸なら合理的であると、この方がより将来的な被害が少ないとして呑み込めることを嚥下できない。その上で当人達が納得ずくであったと言われても、怒りが収まらないのだ。

 

 況してや、正式な師でこそなかったがカラテの基礎を造ってくれた上、何かにつけて忙しいアサギの代わりに面倒を見てくれた藤木戸が、里から抜けて日々のスリケンにも困るような有様であると知ったら冷静ではいられなかった。

 

 「お姉ちゃんもお姉ちゃんだよ! 昔から恭介さんとけんにぃに甘えっぱなしで!」

 

 「本当に落ち着いてくれサクラ=サン、東京キングダムの路地で騒ぎ回るほど危険なことはない」

 

 「あ、ゴメン」

 

 慌てて自分の口に手をやって沈黙を表現する彼女の幼さが変わっていないことに、森田、否、藤木戸は少しアンシンした。あれだけのことがあったのに変わらないでいてくれたことが心の底から嬉しかったのだ。

 

 少し安全そうな廃屋を探し――未だ遠方で速疾鬼が暴れている音がする――改めて場を整えた二人は、さくらが影の中にストックしてあったスシ・パックとチャでイクサの疲れを癒やしながら改めて話し始めた。

 

 「で、けんにぃは戻るつもりはないわけ?」

 

 「井河長老衆虐殺犯である俺に恨みが向いているからこそ、今の五車は上手く回っている。ただでさえマゾクは対魔忍より数が多く、強力なのだ。そこで里のユウジョウに罅が入っては連携が真面に取れなくなるぞ」

 

 「あー、まぁ、対魔忍って何かみんな直情的だもんねぇ」

 

 まるで他人事のようにいうさくらであるが、事実であった。ソウルにディセンションして強力なジツに驕ったニュービーの如く、真正面から突っ込んで殺せばいいだろうと考えている者は少なくなく、カラテにもジツを援用するせいで実質ジツ頼りの対魔忍も多い。

 

 その上で自分の実力に相当な自信があるのだから、性質が悪いことに余程親しい相手でもないと連携やシナジーを考えたりしないのだ。

 

 かといって、これは全て対魔忍が悪い訳ではなく、今までの五車教育方針の問題であったり、一族衆のみで結束する風土が悪く働いているのだ。

 

 強力なジツを持つ忍者を単独運用したがった旧上層部や――ジッサイ人手不足であった――悪びれもなく仲間内で固まって任務を熟す連中のせいで、対魔忍の結束意識は薄い。

 

 代表例を上げればカトン衆やフウトン衆であろうか。

 

 彼等は強力なカトン・ジツやカゼ・トン・ジツを相伝する名家の集まりであり、独自に部隊を編成しているのだが、構成員は同系統ジツのエキスパートばかりであって基本的に単一属性しか扱えない。

 

 ではそこにガンメタを張った敵が現れればどうなるか。

 

 炎を食う完全な炎から成るような魔族や、風に吹き散らされることのない不定形の魔族、そもそもエテル的概念的生物が相手となれば、余程法外なユニーク・ジツを扱うグレーター級対魔忍でなければ、屠ることはベイビーサブミッション。一瞬で強力なジツ・プロフェッショナル集団が瓦解する危険性があった。

 

 この現状をオカシイと思いませんかアナタ?

 

 「サクラ=サン、オヌシも例外ではない。カゲ・トン・ジツは強力無比だが……」

 

 「ノーカラテ・ノーニンジャ、でしょ。忘れてないよ。クナイダートは一日千回は投げてるし、忙しくても鍛錬に二時間は割いてるもん。マキワラ突きだって忘れてないよ」

 

 「そうではない。俺なんかのために危険極まる東京キングダムに来たことを問題視しているのだ」

 

 さくらも行動に大概場当たり的なところがある。いや、ジッサイ彼女は頭が柔らかい方であるし、自身のユニーク・ジツを柔軟に使いこなせるだけの地頭も持っているのだが、どうにも感情に任せて動く節がある。状況判断とフーリンカザンを使いこなせていないのだ。

 

 「俺なんかのためにって何!? けんにぃの馬鹿!!」

 

 「……悪かった。訂正する。だが、話を聞いてくれサクラ=サン。アサギ=サンが里で何をしようとしているのか」

 

 激昂するさくらを抑え、藤木戸は噛み含めるようにアサギの策を語った。

 

 アサギは上層部の腐敗を一掃するだけではなく、対魔忍同士の連携を深めようとしている。折角同じ場で学ぶ五車学園という場所があるのに、今のままではモッタイナイにも程がある。

 

 故にジツ同士にシナジーのある者同士での連携訓練を重点な、と力強く説いて、独力に頼りがちな五車を根本的に変えようとしているのだ。

 

 例えばカトン・ジツとフウトン・ジツ、この二つのジツは自然現象も組み合わさっていることもあり、組み合わせれば非情に強力だ。火災旋風という炎が風に煽られて強力になる現象があるように、未熟なカトン・ジツでもフウトン・ジツの助けがあれば何倍にも燃え上がるのだから、即席でもいいからその場で連携を組めるようにしたいというのがアサギの考えなのである。

 

 そのため、彼女は〝中隊構想〟という物を練っており、少しずつ浸透させるため努力中なのだ。多彩なジツとカラテを持つ対魔忍達を家の柵や古い心情から解き放ち、効率的な部隊として運用する。

 

 これができれば、対魔忍が掴まったり殺されたりする危険性はずっと下がるであろう。

 

 「お姉ちゃん、そんなこと考えて……」

 

 「そして、そのためには俺が今は井河の恨みを集めている必要があるのだ。五車の連携を高め、ユウジョウを育ませる。そして、いつの日か情勢が落ち着けば長老衆の悪事を公にしても、里の混乱を最低限に抑えることが能おう」

 

 「でも、そんなけんにぃだけを生贄にするみたな……」

 

 「今すぐ長老衆の悪事を公にしてみろ。まかり間違ってふうま抜け忍衆のように藤木戸抜け忍衆ができたらどうするんだ。里に不満を持っていた連中のミコシにされるのは御免被る」

 

 そういってズズーッとチャを啜る藤木戸の言うことは尤もだった。

 

 彼の人望は意外と篤い。助けられた者もいれば救助された者もおり、カラテ・インストラクションで窮地を逃れた者もいる故、人生の芸風が大分違うと思っていても、慕うに足る上忍だと認識している対魔忍の方が多いのだ。

 

 その彼が井河の悪徳を粛正したにも拘わらず、抜け忍として追い討ち命の対象となったならば、多くはないが少なくない忍びが不満を覚えよう。里から離脱して合流しようとする同期や後輩が現れてもおかしくない。

 

 そうなればアサギと藤木戸の努力は水の泡だ。

 

 「故に俺もアサギ=サンも耐え忍んでいる。ツヨイ五車のため、負けぬ対魔忍のため。俺は必要ならば地下百尺に埋められるステイシになる覚悟だ」

 

 「けんにぃ……」

 

 その努力が実れば、遠い未来のことではあるが、藤木戸への追討令を打ち消すことも適うであろう。

 

 今はまだ遠い、一歩目を踏み出したに過ぎない遠大な道に過ぎないのだが。

 

 アサギは最悪、これが成るのは今の子の代、最悪孫の代でも、いや自分が見られなくてもよいと想っていた。それ程に根深い、極めて困難な道のりなのだから。

 

 「故にサクラ=サン、今回のコトは俺とアサギ=サンに免じて許して……」

 

 「ちょっとお姉ちゃんと話してくる! それでもけんにぃへの扱いはあんまり……」

 

 「マッタ! ちょっとマッタ! 分かったから落ち着いてくれサクラ=サン!!」

 

 襟首をひっ捕まえて暴走しようとするさくらを留めると、仕方がないと藤木戸は懐からオクノテを取りだした。

 

 「これを使えサクラ=サン」

 

 「え? でもここって携帯使えないんじゃ。ってかデカ!」

 

 「米連より拝借したイリジウム携帯だ。地球上の何処ででも通じるし、一回だけなら足も付かない」

 

 これぞ藤木戸秘蔵の逸品、米連エージェントから鹵獲した特殊な衛生を用いる、理論上は何処からでも通話可能な携帯電話だ。

 

 しかしながら、衛星を介する上、元は米連の品。多用すると矢鱈物資を奪っていくこともあって敵視されているマゾクスレイヤーは、逆探知されることを嫌って多用することはない。本当に火急の用を報せる必要がある時に用いる物であったが、ユウジョウで結ばれた盟友の姉妹仲と比べれば安い物。

 

 たとえ、一回使えば足が着くかもしれないから破壊する必要があったとしても。

 

 もう在庫がこれを含めてあと二個だったとしてもだ。

 

 「……あ、お姉ちゃん? 私だけど」

 

 『さくら!? この番号をどこで!? というより何処にいるの!?』

 

 「無事、東京キングダムに着いたよ。今はけんにぃと合流して、ケータイ貸して貰ったの。何か衛星がどうとかいうスゴイヤツ」

 

 『イリジウム携帯? まったく、あの人ったらさくらにはいつも甘いんだから……少し待って、人の居ない所まで移動するから』

 

 姉妹の会話をしたかったのだろう。さくらは自然と立ち上がって藤木戸から間合いを取ろうとしたので、彼も忍者野伏力を発揮しつつ少し距離を置く。

 

 姉妹は十分ほど喧々諤々のやりとりをした後、やがて通話を切って戻ってきた。

 

 「けんにぃ、上手く行ったよ」

 

 「なにがだ?」

 

 「お姉ちゃん、しばらくヨミハラでけんにぃにカラテ・インストラクションして貰ってきてこいってさ」

 

 「はぁっ!?」

 

 あまりのことに驚いた藤木戸は、何があればそうなるとさくらの肩を掴んだ。すると彼女はにぃーっと悪戯っぽく笑い、両手を胸の前で合わせ、きっちり75度の礼を取って名乗った。

 

 「ドーモ、マゾクスレイヤー=サン、五車の平対魔忍改め、密殺中隊、中隊長のさくらです!」

 

 「ど、ドーモ、密殺中隊のサクラ=サン、マゾクスレイヤーです……なんだその物騒極まる名前の中隊は」

 

 「けんにぃ専門の暗殺中隊を作って、私を中隊長にしたら、しばらくけんにぃへのマークを甘くしても体面が立つでしょっていったら、すんごい唸ってから納得してくれた」

 

 すぅーっと深く息を吸って、藤木戸は天を仰いだ。

 

 「ほら、井河の恥は井河で雪ぐって言えば聞こえいいじゃん? だから私が頭目になった中隊を結成したことにすれば、みんなも溜飲さがるでしょって言ったらお姉ちゃんすっごい悩んだけど、最後には呑んでくれたよ」

 

 昔から悪知恵の働く子ではあったが、ここまでであったかと。

 

 そして、時折追討用の部隊を作ることを心苦しく想っていたアサギも、ここまで藤木戸に甘かったのかと。

 

 「その内、事情教えても大丈夫そうな人を入れたり、私への支援物資って名目でスリケンとか差し入れてくれるってさ。あとはカラテ・インストラクションで〝分からせた〟方が良い人を入れて叩き直して欲しいとも言ってた」

 

 「勝手に決めないで俺を挟んで欲しかった……というか、益々俺の悪名が広がらないか?」

 

 「勝手に決めたけんにぃへの私からの罰!」

 

 えへへーと爛漫に笑い、さくらは慕っている歳の離れた幼馴染みの腕に取り付くと――そのバストは姉より豊満であった――無邪気に言った。

 

 これからよろしく、抹殺対象サンと…………。




クリフハンガー・メソッドで止めておくのも何なのでレンゾク・ツヨイ・コウシン!

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