ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・アフターマス10

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ヤスブシンのショウワ・エラ・アトモスフィアが漂う四畳半に三人の人間はジッサイ多い。

 

 しかし、チャブを挟んで相対する三人のニンジャが四畳半という狭い空間に詰め込まれている以上にピリピリした空気を放つ原因があった。

 

 「けんにぃ、なにコイツ」

 

 「センセイ、どなたでしょう、この方」

 

 ヨミハラの仮宿にて引き合わせた二人は、何と言うか非情に相性が悪かった。

 

 片や魔族、片やその魔族を討つべくジツとカラテを磨いた対魔忍なのだから致し方なし。

 

 ましてやさくらは、マゾクスレイヤーが常の如く「マゾク、殺すべし」と禍々しいチャントもかくやに意気を上げていたことを知っているのだから。

 

 「二人とも、先ずはアイサツだ。礼がないニンジャはニンジャとして扱われない」

 

 「……ドーモ、サツバツナイト=サンの弟子、葉月です」

 

 「……ドーモ、葉月=サン、マゾクスレイヤー=サンの一番弟子、さくらです」

 

 はぁ? と二人の間に剣呑な空気が漂い視線が斬り合った!

 

 葉月は唐突に現れた女が群れの序列マウントを取ってきたことに憤り、さくらは魔族悉く殺すべしと口にしていた藤木戸の心変わりに理解が及ばぬが故。

 

 「……長い話になる。チャでも飲んで落ち着け二人とも」

 

 言って藤木戸であり森田は――以降、煩雑故藤木戸で統一する――二回は使っている茶葉で薄いチャを煎れて、戦いを止める防壁のように置いた。

 

 「へー、そんなことが」

 

 「センセイにそんな過去が」

 

 ざっくりかいつまんでヨミハラに来るまでのこと、そしてヨミハラに来てからのことを語った藤木戸の努力もあって、サツバツ極まる空気は一旦収まった。

 

 一体何だろうか。このフタマタ現場を見られてしまった男のような居心地の悪い空気は。何かが凝っているのではないかと藤木戸は部屋の窓を開けてみたが、入って来るのはヨミハラ特有の澱んだ空気。遠くから血と違法薬物の臭いがする分、より悪い物になりそうだと思って彼はぴしゃりと窓を閉めた。

 

 「そんな訳で、俺はノマドを潰したいし、全てのマゾクをスレイする必要はないのではないかと思い至った訳だ」

 

 「そっか、そうなんだ。けんにぃも丸くなったねぇ」

 

 うりうり、と肘で藤木戸の腕を突っつくさくらに葉月の眉尻が上がった。無礼であろうと言いたいのだ。

 

 しかし、これがさくらと藤木戸の間合い。睨まれても何が悪いのかと改めることをしなかった彼女は、部屋を見回して言った。

 

 「しかし妹弟子、掃除があまくなーい? 何か空気悪いんだけど」

 

 「ボクは昨日来たばかりです!! というか妹弟子!?」

 

 「キタナイのはすまないサクラ=サン。ここにはザゼンを組みに来るのと武器の手入れをするだけでな。掃除が行き届いていないのだ」

 

 ふいと目を逸らす藤木戸。男の一人暮らしなんてこんなものだと言えばそこまでであるのだが、元が汚すぎて清潔であることを好む彼も、真面目に掃除する気になれなかったのだ。それでも日に二度は換気しているし、軽く拭き掃除もしてはいたのだが、流石はお手伝いさんが来る家の次女だけあって受け容れがたかったらしい。

 

 「あー……それとサクラ=サン」

 

 「なぁにけんにぃ」

 

 「俺はいつ、オヌシを弟子にした?」

 

 「はぁ!? 子供の頃から散々カラテ・インストラクションつけてくれたじゃん!? ジツのアドバイスとかも色々さぁ!!」

 

 無配慮な藤木戸の言葉にさくらがキレた! しかし、藤木戸にとっては近所の子とカラテで遊んでやっていた認識なので、弟子入りさせたつもりがなかったのだ。

 

 「いやいや! あんだけボコボコにされて弟子じゃないは無理があるって!!」

 

 「それに訂正するなら、俺の一番弟子は多分ユキカゼ=サンだと思うのだが……」

 

 「なにそれ!?」

 

 「いや、正式に頼まれたのは思えば彼女が最初だったなと……シラヌイ=サンから家庭教師として雇われたのが、正しく師弟と認識してインストラクションを付け始めた頃であって……」

 

 何故だ藤木戸! どうしてこの空気の中、そんな拗れそうなことを言う! とニンジャ読解力の持ち主である読者は思っただろうが、彼にとっては重要なことなのだ。

 

 ただインストラクションするのと弟子にするのとは訳が違う。弟子には師匠として不始末が発生した際、ケジメなどの責任が発生するのだ。

 

 しかし、あくまでさくらの師はアサギと認識していた藤木戸にとって、彼女は弟子ではなく、ただ可愛がっていたというだけの間柄になる。

 

 「姉弟子ではありませんでしたね」

 

 くすくす笑う葉月にさくらは容易く怒りの絶頂を迎えた。元々カンニンブクロが大分暖まっていたこともあって激発は笑い声一つで十分だったのだ。

 

 「上等ぉ! 表出なさいよ犬っころ!」

 

 チャブに足を乗っけてユノミを蹴散らしながら――幸いにも中身は空であった――指を刺すさくら。犬畜生扱いに我慢ならなかったのか葉月も立ち上がって、藤木戸が何処からか調達してきたカタナを手に取った。

 

 「誰が犬ですか勘違い女!」

 

 「言ったわねこの……」

 

 「サクラ=サン」

 

 「ひっ!?」

 

 ジゴクめいた低い声。セイザしていた藤木戸の眼が酷く冷めている。

 

 その視線は足に向けられていた。卑猥な意味ではなく、食べ物を乗せる場所に足をやっていい道理もなし。スゴイ・シツレイを咎められた彼女は血の気を少しだけ引かせ、ぴゃっと一歩下がった。

 

 「表でやれ」

 

 「「アッハイ」」

 

 至極当然の叱責を受け、二人は武器を手にすごすごと表に出るのであった…………。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 「インストラクションだハヅキ=サン。サクラ=サン、アンブッシュを」

 

 「ええー? 普通に決闘じゃダメなの?」

 

 「ダメだ。勝負にならん」

 

 師の断言にムッとしたが、葉月は意を唱えなかった。

 

 事実、目の前で対魔忍装束を身に纏ってクナイダートを弄んでいるさくらからは、年齢に見合わない濃密なカラテの気配がしたからだ。

 

 葉月とてノマドを皆殺しにすると意気を上げただけの戦士。相手の力量を見る目はあるつもりだった。

 

 ただ、オンオフが激しすぎて読み違えてしまったのだ。

 

 この正式に対魔忍になったのが少し前に過ぎないにも拘わらず、濃密なカラテの気配を放つ少女は強い。それこそ、真正面からかち合っては勝機が見つからぬほどに。

 

 「なんか癪だけど、けんにぃが言うなら良いか。分からせてあげるのにも丁度良いし」

 

 「……どこからでも来てください?」

 

 「あ、そう? じゃあ遠慮なく」

 

 どぷんと彼女はギラギラと輝くネオンが放つ光によって生まれた自分の影に潜ったかと思えば、0,1秒後に背後からクナイダートを遠慮なく頭部に向かって投擲してきた!

 

 「いやーっ!!」

 

 素早く振り返ってそれを弾き返す葉月。しかし、アンブッシュとは一撃で終わるものではないのだ!

 

 「イヤーッ!!」

 

 「いっ、いやー!!」

 

 何たることか! 瞬きの間の後にさくらは、弾き飛ばされたクナイダートと同じ位置に現れ、強烈な突きを放っていたではないか!

 

 そう、読者の中にニンジャ動体視力をお持ちの方があれば分かっただろう! 飛翔するクナイダートのカゲを潜って、迎撃の後隙を狙い即座に出現して見せたのである!

 

 それを払いのけようと柄を押し出した葉月であるが、それこそがさくらの狙い! 彼女は触れても斬れぬ柄を握り込んだかと思えば、そのまま腰払い気味に人狗族を投げ飛ばして武器を奪い取った! ジュージュツの技術である! ワザマエ!!

 

 「なんだ、こんなもんなの? ちょっと武器に振り回されすぎじゃない?」

 

 つまらなそうにカタナを掌で回転させた後、倒れた葉月の首に添えるさくら。紛れもなくイッポンだ。

 

 さて、ニンジャのアンブッシュはアイサツ前に一度まで、と定められているものの、その一撃には議論の余地がある。

 

 投擲武器一発、拳や蹴りの一発だけでアンブッシュ一回なのか、それとも連続コンボを叩き込んでも良いのか。

 

 藤木戸は後者であると判断していた。原作でも議論の余地があったらしいのだが、作中においては判断は各自に委ねられるとあったこともあって〝キリの良いところまで〟を一回のアンブッシュと判断している。

 

 そしてさくらは、紛うことなきアンブッシュの申し子なのだ。

 

 研ぎ澄まされたカラテ、隠行に優れニンジャ野伏力を何十倍にも高めるカゲ・トン・ジツ。それを組み合わせた時のシナジーは倍を優に超え、サンシタどころかマスタークラスのニンジャでさえ備えていなければ碌な反応も取れずスレイされるであろう。

 

 さくらは正に〝ドヒョウを前に犬死に〟を体現したカラテの持ち主なのだ。

 

 ことマゾクスレイヤーとして藤木戸は、ジツとカラテの組み合わせを諄いほどさくらに仕込んだ。接近と緊急回避はある程度ジツに任せるが、攻撃と防御の主体はカラテ、あるいはカラテの牽制となるジツという形で完成した彼女の戦闘能力は、姉であるアサギにこそ何歩も劣るが五車の里で真面に戦って勝てる者の方が少ないほど。

 

 事実として、藤木戸とて片手で遇える領域にはないのだ。

 

 「ノーカラテ・ノーニンジャ、徒手になっても戦えるようにしとかなきゃダメでしょ。予備武装に脇差しかクナイダートでも持ったら?」

 

 「くっ……」

 

 悔しそうに歯噛みする葉月の肩に藤木戸の手が添えられた。

 

 「これからだ、ハヅキ=サン。カラテの道は険しく長い。一朝一夕でタツジンにはなれん」

 

 「……ハイ、センセイ」

 

 「やっぱり私の方が強いし、私が一番弟子でよくない!?」

 

 「そういう問題ではないのだ、サクラ=サン」

 

 「もー!」

 

 あくまで一番弟子に妙に拘るさくらであったが、ここは藤木戸にも譲れない一線がある。ここを割ってしまっては、直々に稽古を付けているアサギ=サンへの不義理にもあたるからだ。それはスゴイ・シツレイを通り越して、ケジメ物の案件であるため絶対に避けねばならぬ。

 

 故に固く否定し、ぽこぽこ殴られてもされるがままにする。

 

 「ではハヅキ=サン、インストラクションの続きだ」

 

 簡単なアンブッシュにすら対応できぬようでは、ニンジャのイクサに挑む権利もないというのは公然のニンジャ真実。故に藤木戸はあと百本のアンブッシュを仕掛けることをさくらに頼んだ。

 

 「えぇー、めんどくさい」

 

 「オヌシの鍛錬にもなる。対象を行かして確保したい時にアンブッシュからの気絶は役立つぞ。それともスマキにして五車に送り返してもいいのだが」

 

 「わかったよ、けんにぃ! 本気でやれそうなこと言うのやめて! あと昔から、その眼ぇ光らすのコワイんだけど!!」

 

 相手にアイサツさせる力量すらないものは、名乗りを上げることも許されず惨たらしくスレイされても文句を言えぬ。イクサの不文律を叩き込むべく、師は敢えて鬼になった…………。




オハヨ! カラテ・インストラクション&イレヂエによってサクラ=サンは大分アッパー照星入ってます。
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