ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・アフターマス11

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 公共設備が乏しいヨミハラにおいても、多少ながら普通に暮らしている人間向けの物がある。

 

 風呂もその一つだ。

 

 いや、風呂自体は沢山あるにはある。しかし、その殆どは暗黒退廃施設であって、風呂の名目を借りたほとんど違法行為を行うだけの施設。

 

 しかし、カラテ・インストラクション後に藤木戸が訪れたセントーは、極めて珍しい猥褻の一切ない普通の浴場であった。

 

 ここには珍しいことに真っ当な仕事に就いている人間やオーク、少数の魔族が訪れて体を綺麗にして癒しているので、藤木戸も殊更殺気を漏らすようなことはない。それに体を清潔に保つ貴重な施設をあたら失っては、今後自分が困るからだ。

 

 このセントーを見つけるまでは大変だった。態々コンロで湯を沸かして体を拭い、あまりに小さなシンクの冷たい水で頭を洗うのはジゴクめいた苦行であったから。

 

 滝行で冷たさに慣れている藤木戸であっても、わびしさと虚しさを感じるシンクでの洗髪は、また別問題なのだった。

 

 「隣、シツレイします」

 

 「おう」

 

 ワッシワッシと体を洗っていたオークの隣に一言断って腰を下ろすと、藤木戸も妙に出が悪いセントー特有のシャワーを浴びて頭を洗う。毎日は忙しくてこられないが、二日に一回の洗髪と十五分のゆったりした入浴がサツバツナイトの数少ない癒やしであった。

 

 「あんちゃん、すげぇ体だな」

 

 不潔であることがデフォみたいなオークに似合わず、脇や足の指の間まで丁寧に洗っていたオークが声をかけてきた。セントーは民間の交流施設みたいなところもあるので、特段不思議なことではない。

 

 「……少しカラテを」

 

 「空手か、そいつぁいい。俺のはホレ、土建筋よ」

 

 グッと上腕筋を誇示するオークのそれは凄まじかった。女の太股よりも太く、血管が浮いて力強い。気さくな彼は土木業をやっているようで、その結果鍛え上げられた肢体のようである。

 

 一方で比較すれば藤木戸の体はホッソリと見える。筋肉の束が帯となって寄り集まり、凄絶なまでの密度で構成されており、いざイクサとなれば酸素と対魔粒子が行き渡って隆起する。平時では隣のオークと比べると頼りないが、それでも鉄筋を叩き折るのではなくねじ切る膂力を秘めているのだから、ニンジャという生物は凄まじい。

 

 しかし、彼が言及したのは全身に走る傷のことであろう。大小様々な切り傷、弾痕やら擦過傷に火傷が癒えた痕跡に、時折「どうしてここに傷があって死んでいないのだ?」と疑問になるような大傷も見受けられる。

 

 その一つ一つに縫い跡などがなく、ニンジャ治癒力で直したケロイドめいた疵痕の群れにオークは驚いたのであろう。

 

 「しかしあんちゃんも傷だらけだが、近頃は物騒でいけねぇなぁ。仕事漬けで参ったぜ」

 

 「食い扶持が増えるならよいことなのでは?」

 

 「建てた端から吹っ飛ばされると体が幾つあっても足りねぇって話よ。こないだもカオスアリーナが吹っ飛んだせいで、撤去作業に狩り出されてえれぇ目に遭ったわ」

 

 「それは……大変でしたね」

 

 吹っ飛ばした張本人である藤木戸には、それしか言うことが見つからなかった。オークは苦労話を色々としながら、二回目の洗体に入ったが――何でもオキニの娘が石鹸の匂いが好きらしい――どれもこれも吹っ飛ばした覚えがある建物だらけだったので、藤木戸は風呂の心地よさとは関係ない汗を掻くのだった。

 

 「まぁ、俺らみたいに戦いに疲れたオークにも仕事があるのはいいことだが、勘弁してもらいてぇよなぁ……」

 

 「ソウデスネ」

 

 努力します、と言いかけた藤木戸であったが、ニンジャ精神力で耐えて無難な回答に成功した。

 

 「さぁって、仕上げはサウナだ。汗臭い体で合いに行く訳にゃいかねぇからな~」

 

 ぱぁんとタオルを背中に叩き付けてオークはサウナの方に向かっていった。更に汗を掻いて皮脂や汚れを排出し、より綺麗な体になってオキニの嬢を訪ねるつもりらしい。彼のような紳士的な個体もいるのかと驚いたが藤木戸であるが、自分も見習って普段より幾段か丁寧に体を磨いてから、湯船に体を浸けた。

 

 「スゥー……ハァー……」

 

 そして、湯の中でザゼンを組み、チャドー呼吸をする。アグラ・メディテーションの快復力に湯船の癒やしを加え、ニンジャ快復力はスシに匹敵するほど高まる。体の疲労が抜けて行き、活力が漲り対魔粒子が活性化するのを感じながら考えることは一つ。

 

 将来の……財布!

 

 「金が足りん」

 

 独り言ちた藤木戸であるが、なんと情けないことであろうか! いや、だが実際ニンジャであろうが生きて行くのには金が要る。

 

 今までは一人だったので何とかなかったが――アサギからの支援あってのこそではあるが――食い扶持が三倍になったらどうなるか?

 

 必然、足りなくなる。カラテ・インストラクションに必要な道具を揃える金も要るし、四畳半に三人という訳にもいかなくなる。

 

 同じ場所で同衾する訳にも青少年のなんか的にもよろしくない故、もう一部屋必要なのだが、如何せんこのヨミハラで物件を借りるのは大変なのだ。殆どが退廃施設か放棄された廃屋であるが故に、都心で賃貸を探すのとは訳が違う。

 

 それにいざ行ってみれば不法居住者がいたりして面倒なことになることも珍しくなく、今のショウワ・エラ・アトモスフィアが漂う四畳半とて確保するのに賃貸屋を三軒もハシゴしてやっとだったのだ。内見の時点でニンジャ闘争に巻き込まれたことがある身としては、これから先の準備を思うと非常に気が重い藤木戸であった。

 

 ゆったり湯船で体を癒やし、流し湯も浴びて清潔になった藤木戸は腰に手を当てる伝統的スタイルで牛乳をイッキすると――思えば、あのマゾクの娘から貰った牛乳は美味かった――トレンチコート姿に着替えて表に出た。

 

 地下にあるヨミハラは換気が効き過ぎていて上着がなければ寒い。

 

 五分待つ。まだ来ない。

 

 十分待つ。湯冷めが怖くなり、なけなしの小銭で缶コーヒーを買うがまだ来ない。

 

 十五分待つ。缶コーヒーが湯たんぽの役割を為さなくなったので飲む。

 

 二十分待つ……。

 

 「お待たせー!」

 

 「センセイ、お待たせしました! お風呂なんて久し振りで、生き返った気分です!!」

 

 やっとホコホコと湯気を立たせた二人が現れた。葉月は久し振りの風呂が余程嬉しかったのか、千切れんばかりに尻尾を振っているではないか。

 

 藤木戸はスチール缶を片手でレシートの如く握り潰してゴミ箱に放り込み、カンダガワと呟いた。

 

 しかし、あれはたしか待っているのは女の方ではなかっただろうか。微妙な気分になりながらも、辛うじて湯冷めしていなかった彼はトレンチコートの襟を立てて帰ろうと言ったが……。

 

 「え? 掃除用具買うのが先じゃない?」

 

 「掃除……」

 

 「用具……?」

 

 藤木戸と葉月の言葉が重なった。二人で顔を見合わせて、さくらが何を言っているのだろうと小さく首を傾げる。

 

 「ゾウキンなら一枚あるが」

 

 「バケツもあります」

 

 「それで部屋が綺麗になる訳ないでしょ!? スポンジとかブラシにハイターとか色々! 私、ニュービーなんで案内してよ!」

 

 と言われても、ヨミハラ居住歴がそこそこ長くなりつつある藤木戸も、ノマドの情報を求めて徘徊していた葉月も真面なドラッグストアの場所など知らない。

 

 暗黒薬物販売店なら掃いて捨てるほどあるが、真面な品を扱っている場所が少ないのがヨミハラという街だ。少なくとも藤木戸は地上でよくお世話になっていたチェーン薬局を当たり前のことだが地下で見ていない。

 

 たまに健康ドリンクを求めて入り込むところでも〝感度100倍媚薬〟だとか〝妊娠確認ローション〟だとか、そんな怪しいブツがずらりと並んでいるだけで、即座に顔を顰めて踵を返した記憶ばかりだった。

 

 それにゾウキンも真面な物は貴重なのだ。シリコン製でブツブツが一杯ついたピンク色のものであればゾウキンでもブラシでも簡単に手に入るのだが、掃除用具となれば中々難しい。

 

 何故この町にはそんな物が大量に流通しているのか。そして、並べてあるということは需要があるのだろうが、誰がそれだけ沢山買っているのか。なのに前後のお供とも言えるゴムを扱っている店が極端に少ない理由は何なのか。

 

 深く考えれば考える程に度し難い街であった。

 

 「こんだけ広いんだからホームセンターとかあるんじゃないの?」

 

 「ほーむせんたー……?」

 

 再び首を傾げる葉月と同じく、藤木戸も記憶にないので首を横に振った。

 

 そんな気の利いた物はヨミハラはない。いや、暗黒退廃ホテルが綺麗なシーツや客室を用意している以上、探せば何処かにはあるのだろうが、専門用品店かなにかで発注される都度、施設に直接卸すくらいの扱いなのか、大っぴらに扱っているところはない。

 

 精々、個人で露天を広げている店の店主が普通の石鹸や洗剤を扱っているのに運良く出会うのを祈るのが限界だ。

 

 「なんのこの町!?」

 

 「それは俺も来てからずっと思っている」

 

 「まぁ、食事処より変なクラブ何かが多い街ですからね」

 

 理解不能の悲鳴を上げるニュービーに、ボチボチ慣れてきている二人は可哀想にと頷くばかりであった…………。

 

 




オハヨ!(本日2回目)

作者のサッカ・タイピング力には血中感想成分が不可欠なので、面白かったら感想いただけるとタイヘン嬉しいです。

それでも卑猥はない。イイネ?
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