ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・アフターマス12

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 いつものバーでバリキ・カクテルを二杯頼んだ藤木戸は、奥から心配そうな面持ちで出てきた静流に朗報を伝えられて安心した。

 

 「よかった、さくらちゃんがヨミハラの闇に飲まれていなくて」

 

 「運悪く俺がラーヴァナ=サンと暴れていなければ、そうなっていたかもしれん」

 

 「……藤木戸くん、また鬼武衆とカチ合ったの? あれだけ避けているのに?」

 

 重々しく頷いた藤木戸であるが、ジッサイ鬼武衆は、その性質上享楽主義的に殺し合いをすることが目的の異常者集団であるため、シマの形がほぼ不定形であり、気を付けても踏んでしまうことが多々ある。

 

 その上、若き頃に速疾鬼とやり合って以降、妙に気に入られてしまったマゾクスレイヤーは――恐らくカラテのワザマエと、不死身と呼ばれた彼女を殺しうる存在だと見抜かれたのだろう――絡まれると周囲がツキジめいた惨劇に見舞われるため避けているのだが、向こうが狙ってくるのだから性質が悪い。

 

 言うなればアサギ並のカラテを誇る自走地雷といったところか。

 

 「何と言うか、悪運がこびり付いているようね」

 

 「止めてくれシズル=サン。最近、割と真剣に厄払いでキョートに行こうか考えていたところだ」

 

 「それなら八坂さんがオススメよ」

 

 呆れながら三杯目のバリキを作ってくれた静流に藤木戸は礼を言い、しかしキョート観光なんぞのんびりできるのは何年後かと考えた。対魔忍であった時ですら、忙しくてクリスマスホリデーは疎か、オーボンでさえマゾクにアンブッシュするべくドラム缶の中で迎えたというのに。因みに新年は、これまたアンブッシュのためイワイサケ・タルに潜んで過ごしていた。

 

 「しかし、密殺中隊ね。アサギちゃんも考えたものよねぇ。これからの中隊構想の雛形として使えるし、藤木戸くんと適度に交戦させて情報を得ていれば中隊員にも箔が付く。どうせ、藤木戸くんがあらかじめ狙っていたノマド施設とかで対峙させるんでしょう?」

 

 「流石だシズル=サン。正にアサギ=サンは、そのアブハチトラズを狙っている。まぁ、これでしばらく何も知らない対魔忍をカラテしなくていいと思うと、少し気が楽だな。適度にインストラクションをつけるのは神経を使う」

 

 頻繁にという程ではないが抜け忍の追討部隊は今も派遣されているし、マゾクをスレイしようとすると対魔忍に鉢合わせになることも多い。その上でカラテ・インストラクションを施し、即任務復帰できる程度にボロボロにした後、静流に任せて地上に送り返すのは中々の手間だ。

 

 その度に予定が狂うので藤木戸としては結構難儀していたのである。以前、零子がやってきた時も、違法クラブの襲撃予定が二日前倒しになり、情報をたっぷり持ったキンボシ首を幾つか逃すことになったのだし。

 

 これでノマド壊滅とマゾクのスレイに集中できると思った藤木戸であるが、そこに静流はとても申し訳なさそうにファイルを差し出す。

 

 また厄介事かと眉を潜めた藤木戸であったが、想像通りそれは見ていて気分のいいものではなかった。

 

 「対魔忍が一人、MIA(任務中消息不明)。にも拘わらず、“増援”として送り出されようとしている五車の生徒が三人いるわ」

 

 「妙だ。MIA判定が出ているなら救出部隊としてアーチ級ニンジャ(上忍)を編成するはず」

 

 「ええ、妙よ、新人とそのお守りに中忍が一人だけなんてね。それもMIAになった対魔忍は、ここ暫く減った単独任務の最中で消息を絶っている。しかも五車生徒」

 

 「ニュービーのレッサーニンジャ(下忍)が単独で龍門の諜報だと? しかも、その増援がグレーター級ニンジャ(中忍)とレッサーニンジャ?」

 

 あまりのきな臭さに藤木戸は拳を強く握った。バリキの入ったショットを持っていれば、一瞬で微細粉末に成り果てていたであろう握力に皮膚が擦れる鈍い音が鳴る。

 

 「アサギちゃんの頑張りで汚職目的の依頼は大分弾かれるようになったけど、まだ上層部が完全に綺麗になった訳じゃないわ。それと、セクションⅢとのツナギをする官僚共もね」

 

 「内務省公共安全庁か」

 

 「流石の私達も国の内部に手を突っ込む権限はないわ」

 

 対魔忍は実のところ、日本国が承認した正式なニンジャクランであり調査第三部として公的機関となっている。

 

 その長たる山本・信繁は切れ者にして善の人であるが、関わっている官僚は膨大であるのみならず、公的組織故に政治家からのヨコヤリが多い。

 

 故に今でも対魔忍をブランディングした娼婦ビジネスをやりたがる腐敗カチグミから、強引に任務をねじ込まれて消息を絶つくノ一は絶えない。アサギが井河頭首となり、山本とのコネクションを得て随分マシになった方だが、それでも悪徳の芽は何時の世であろうと摘みきれる物ではないのだ。

 

 それ程に魔族の根は深く、甘い誘惑の毒は濃い。

 

 「罠だな。狙いは恐らく……アサギ=サンか」

 

 「でしょうね。彼女が出ないといけないほど、コトを大きくしようとしている感じがするわ」

 

 二人して納得し、藤木戸はファイルを閉じた。

 

 「シズル=サン、どうにかしてこの三人の派遣をズラせるか。三日でいい」

 

 「で、いい、とか簡単に言ってくれるわね……やるけど」

 

 毎度の無茶振りにも慣れてきたのか、装備の不足やら帳簿上の隙を突いて任務の日程をアレコレするのは諜報員にとってはベイビー・サブミッションだ。小型端末を取りだしてポチポチやったかと思えば、静流はこれで到着が三日は遅れるはずと応えた。

 

 「流石だシズル=サン。俺にはハッキング・ジツは難しすぎる」

 

 「ちょっとしたコツと慣れ、あとは世間擦れすれば楽なものよ」

 

 ネット崩壊に伴ってハッキングがタイピング速度で決まっていたネオサイタマと違い、この世においては米連が幅を利かせているだけあって情報の扱いは非常に難しい。何せ最新型のインターネットとOSが生きているのだ。

 

 藤木戸のニンジャタイピング力は優れているものの、流石に自動で動くセキュリティ・プロトコルを突破できるほどではないので、常々この手の分野では困っていたのである。

 

 鍵であれば物理的に破壊すればいいだけなのだが、秘匿や暗号化された情報にはさしものカラテであろうと太刀打ちできぬ。専門家の助力を得られることの有り難さを噛み締めた彼は、改めて協力者に静流を選んでくれたアサギに内心で手を合わせるのであった。

 

 「行くの?」

 

 「早ければ早いほどいい。それに龍門は速疾鬼のマツリに巻き込まれて大混乱しているはずだ」

 

 速疾鬼は藤木戸がさくらによって離脱させられた後も、鬱憤晴らしでその場の龍門が射なくなるまで大暴れしたようなので、前線部隊の壊滅に伴って内部情勢は非常に混乱していることだろう。

 

 そこを突けば潜入及び内部からの破壊は容易いはず。

 

 「それと、俺のカンだが……マゾクの臭いがする」

 

 「魔族? 龍門はチャイナマフィア派生を装った中連(中華連合)の出先機関みたいなものだし、確かにヨミハラとの繋がりも深いけど、そこまで大物が属している情報はないはず……」

 

 軍用PDAの情報を漁りながら言う静流に、こういった手合いのやることは決まっていると藤木戸は返した。

 

 彼は米連の施設を趣味、もとい物資補給で襲撃する際に何度も見ているのだ。魔界産の技術を転用することで実用化にこぎ着けた兵器や、あまつさえ魔族の因子を埋め込むことで安定化した生体兵器を。

 

 碌な物ではない。そして、先のイクサで台湾危機や半島戦争があったからといって、連中は矢鱈と米連製の物資を持っていた。手製のジップガン(粗製銃)を持っている雑兵の方が少ないのは明らかにオカシイ。また、弾丸もちゃんとしたハンドロードではなくファクトリーロードの正規品を使っている。

 

 まるで自分達は中華連合と関係ありませんよ、と言いたいかの如く。

 

 これは臭い。何処からかキタナイ金と技術が注ぎ込まれている臭いがプンプンした。

 

 「それと、斬りごたえが違った。明らかに強化されている」

 

 「斬りごたえ?」

 

 「人にしか見えぬ雑兵とカラテした時の手応えが固すぎた。サイバネではないな。恐らくバイオサイバネだ」

 

 そんな微妙なことが分かるの? と問われて迷いなく頷く藤木戸。彼は数え切れないほどの魔族やそれに与する外道、あとついでにサイボーグなども暗黒カラテの餌食にしてきたから分かるのだ。

 

 「こわ……」

 

 「カラテだ、シズル=サン。オヌシもジツを鍛えるのは良いがカラテを疎かにしてはならん。カラテしているか否か、体は嘘を言わんぞ」

 

 じっと注がれる視線はその豊満……ではなく、少し下。下っ腹。腹を露骨に晒したハレンチメイド装束から除く下腹部には、縦に割れる腹筋のラインが入っているものの、ほんの僅かな緩みがある。鼠径部を晒すようなスカートに僅かに乗るような形で。

 

 「しっ、仕方ないでしょう藤木戸くん!? 仕事で沢山お酒飲むんだから!!」

 

 「ならば尚更カラテだ。カラテは全てを解決する」

 

 「あんまり腹筋バッキバキだと男の人は引いちゃうの!!」

 

 抗議をゆるっと受け流しながら、彼はバリキ・カクテルのお代を置いてバーを後にした。

 

 狙う相手が分かったならば、やることは一つだ。

 

 忍び込み、探り出し、殺す。

 

 「邪悪なるマゾク殺すべし」

 

 呟いて藤木戸はヨミハラの闇にニンジャ野伏力を用いて煙るように消えていった…………。 




愛用のヘッドセットが私のテオチで爆発四散したので怒りの更新です。
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