ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

24 / 78
ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・アフターマス16

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ショウワ・エラ・アトモスフィアの濃厚なアパート、その廊下にて三人もの人間が――あと一人のスマキ――が部屋を覗こうとしていると実質狭い。

 

 「その、先生に何があったんでしょうか」

 

 その天才的頭脳を頭の悪いことにしか使わないことに定評のある佐馬斗を運んだ葉月は、彼が万が一暴れても直ぐ対応できるよう首に足を乗っけながら、心配そうに扉を見つめていた。

 

 「分かんないけど、けんにぃが私達を追い出すなんてよっぽどじゃない?」

 

 「……私はまだ事態にあまりついていけないんだが」

 

 ヤスブシンアパートの扉に耳をくっつけているさくらは、短い期間ながらコンビを組んで仲良くなったむらさきに事情を説明し、密殺中隊の真実を話したようだが、それでもアサギを想うが故に飲み込み切れていないむらさきは微妙な顔だ。

 

 未だにアサギを裏切ることがアサギのためになる、という論法を若いが故に納得できていないのであろう。

 

 そんな三人が部屋の前でデバガメめいた行為に手を染めていることを藤木戸は気付かずにいた。

 

 それ程に薬が回り、ニンジャ第六感が鈍りつつあるのだ。

 

 やはり撤退は正解であった。あの媚薬は時が過ぎるほどに回り、ニューロンを侵して正常な思考を困難たらしめる。撤退せずイングリッドのスレイに拘っていたら、脳味噌がどうなっていたか分かった物ではない。

 

 「ヨシ」

 

 彼はチャブをどけて畳の上に用意した物を見て呟いた。

 

 略式ながら、それはチャドーの一式であった。

 

 インセンスを焚く錫の香炉は、とっておきの伽羅香が焼べられており得も言えぬ芳香を放つ。

 

 そして、繊細な手付きでチャセンを差し込みコイ・チャを立てる漆黒の茶器は、彼がチャドー呼吸会得のため初ボーナスで思い切って購入した漆黒のイチラク! 使われているチャ・粉末も合法にして皇室御用達の最高峰オーガニック・ウジ・マッチャだ!

 

 更には脇に添えられているのは、お詫びくらいでしか中々見られないトラヤ・ヨーカンではないか! 倹約家にして近頃は活動資金のため日々の生活費を切り詰めている彼にしては珍しすぎるまでの贅沢をする理由は一つ。

 

 チャドー呼吸の効率化のためだ。

 

 「スゥーッ!! ハァーッ!!」

 

 今も継続的に続けているチャドー呼吸であるが、その効率は著しく落ちている。媚薬の解毒が追いつかず、丹田の熱は高まって対魔粒子が暴走寸前。未熟な内に体を門として開き、大気中の対魔粒子を効率的に取り込み、回すために必要だった茶器一式を用意したのは、媚薬で狂ったバランスを取り戻す補助のためであったのだ。

 

 いわばチャドーニュービー向けのチャドー・リチュアル! それが必要なまでに状況は悪い!

 

 「あっ、けんにぃだけ何か高そうなチャを飲んでる!」

 

 「お、おい、さくら。覗くなということはヤツなりの何か意味不明な儀式なんじゃないか? 私は見たことがあるぞ、生首に線香の束を突っ込んで火を付ける謎の儀式をしていることを」

 

 「いえ、それはセンセイなりの弔いであって……」

 

 外野が五月蠅いが集中してチャを立て、最適のタイミングでチャセンを外す。芳醇な泡が残り、どろりとしたチャと湯の融合が完璧であることを確かめ――彼はジッサイに裏千家カイデンであった――彼は作法通りにチャワンを取って、音を立てることなく一口。

 

 そして口に残ったコイ・チャの味を堪能しつつヨーカンを半口分に切り分けて取り込むと、ニューロンが活性化してチャドー呼吸の効率が格段に高まった!

 

 それを繰り返し体内の毒素を代謝して呼吸に混ぜて排出すれば、暴れ廻っていた情動と体内の熱が急速に引いていくことが如実に分かる。

 

 これぞ太古に禁じられた暗殺拳の秘奥! 藤木戸のなんかが危ない状態は辛うじて回避された!!

 

 「ふぅ……油断ならぬ相手であった」

 

 楽に処理したように見えて、実際はこの様。正に油断ならぬ相手であった。自分が完全に落ち着きを取り戻したことを確認すると、藤木戸は表でデバガメしている三人+αに入室を促した。狭い廊下に陣取っていられては、他の入居者が戻ってきた時に迷惑だ。

 

 「けんにぃ、何してたの?」

 

 「毒を受けた故、それを除去するためチャドーしていた」

 

 「あー、私もまだ教えて貰ってない秘奥義かー」

 

 「茶道で解毒……?」

 

 ニューロンが大分カラテに侵されているさくらは当然の様に受け容れていたが、普通の婦女教育を受けている紫は、ナンデ茶道をすれば毒が消えるんだ? とさも当然の疑問を抱いた。茶道で体の傷が癒えたり毒が消える。オカシイと思いませんか? アナタ。

 

 そして、人界のことを知らない葉月は、そんな秘奥がとカラテの奥深さに唸るばかり。

 

 「まぁ、折角用意したのだ。普通にチャを楽しみながら話をしよう」

 

 「ヤッター! けんにぃのオチャ美味しいから大好き!」

 

 「見るからに高級そうなんですが、ボクなんかがいただいて良いんでしょうか……」

 

 車座になって――佐馬斗は土間に転がしておいた――一つのチャワンでチャを共にするのは結束を固めるのにジッサイ良い。

 

 さくらと紫は良家の子女らしく慣れた手付きで飲み、葉月はインストラクションを受けながらコイ・チャを飲んだが、その苦さに顔を顰めている。どうやら人の舌に合わせて調整されたそれは、人狗族には濃すぎたらしい。

 

 「ハヅキ=サンにはウス・チャの方がよかったかもしれんな」

 

 「ヨーカンだよハヅキ=サン、その苦いのの後に食べるのが美味しいんだから」

 

 「それより藤木戸……さん」

 

 さくらからかいつまんで話を聞いた紫は、一応年長者なのだから呼び捨てをやめて、当人の口から真実を聞きたいと申し出た。

 

 故にチャを立てながら彼は事実だけを淡々と説明する。

 

 「そんなことが……アサギ先生……なんてお労しい」

 

 すると、滂沱し始める紫。彼女はあの陰惨たるジゴクの結婚式に任務の都合でどうしても出られなかったが故、悲劇があったことは知っていても、その真相までは知らなかったのである。

 

 それだけのことがあったにも拘わらず、滅私奉公で対魔忍のため、平和に暮らしている人々のため働いているアサギへの想いを強くして涙を流し続ける紫の気持ちが分かったのか、藤木戸は懐紙を渡すだけに反応を留めた。

 

 五分ほども泣き続けた頃、ようやく落ち着いた紫は、少し化粧を直してくると場を辞して、少ししてから戻ってきた。泣きはらして腫れぼったかった目が元に戻っていたので、顔を冷たい水で洗って来たのであろう。

 

 そしてダンゴウが始まる。

 

 「ムラサキ=サン、俺はこれから桐生をインタビューする故、情報を抜いたらオヌシはヤツを連れて五車に戻れ」

 

 「何? 殺さないのか? その方が世のため人のためになりそうなクズだが」

 

 「業腹ながらヤツの頭には魔科医としての異常な技術が詰まっている。それを対魔忍の治療に使えれば、今も媚薬や毒の後遺症で苦しんでいる者を救える」

 

 「なるほど、持ち帰って強制労働させる訳か」

 

 言い方はブッソウだが、その通りだ。ジッサイ性的感度だけを3,000倍にするとかいう、意味不明な技術の持ち主なのだから、それを治す技術くらいは当然作っているのだろう。任務の後遺症で苦しむ対魔忍は多いため、今後のアンタイ・マカイ治療に大いに役立つはずだ。

 

 「さすればオヌシの面目も立つ。任務を上首尾に運んだことにしておいてくれ」

 

 「手柄を譲られたようで気に食わんが……」

 

 「俺は今、龍門で動いている陰謀の調査中だ。オヌシが未帰還に終わって、敵に異常を察知され撤退されれば全てが水泡。アサギ=サンを狙っているかもしれぬ陰謀を止めるためだと思って容れてくれ」

 

 「くっ……」

 

 しばし自分の矜恃や様々な感情と格闘して考え込んだ紫であるが、それがアサギ先生のためになるならと、唇の端を食いちぎって頷いた。

 

 彼女も分かったのであろう。今、別の任務にアサインされていたはずの自分が、唐突に龍門と関われば情報が何処かで漏れていることに聡い者が気付き、逃げられる可能性に。

 

 そして、藤木戸が逃げられないよう逃げられないよう、慎重に檻を作って追い込んでいる邪魔にしかならぬことにも。

 

 「では、これからインタビューを始める」

 

 チャの一式を片付けた彼であるが、まだ熱い湯が残っている薬缶だけは残してあった。

 

 そして、タタミの上にブルーシートを敷くと、その上に未だ意識を失っている佐馬斗を乗せたかと思えば……耳に熱湯を注いだではないか!

 

 「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 「オハヨ!」

 

 何たる暴挙! しかし、不死性を持つ魔族と合一している故、多少手荒に扱っても死なないことを知っている藤木戸は一切の容赦がない。

 

 この程度で死ぬようでは、むしろ魔科医の名が泣くぞと煽るくらいのつもりで軽いジャブを放ったに過ぎないのだ!

 

 「おはようではない! 何をする! この大天才様の頭脳に問題が起こったらどうしてくれるつもりだ!!」

 

 寝耳に水どころか熱湯をブチ込まれた佐馬斗は激痛に起き上がって文句を言うが、それを聞き入れるサツバツナイトではない。目覚ましの一発を終えたかと思うと〝禁〟というオフダを張ったバッグを押し入れから取り出し始めたではないか。

 

 「オヌシの脳は常に明後日の方向にキマっているであろう」

 

 実際、佐馬斗の作品は担当者がラリっていたとしか……としか言いようのない、ネジがトンだどころか最初からネジ穴が開いてないような代物ばかりだ。今更熱湯でニューロンが少々焦げたところで、そのイカレた人生の芸風が変わることはなかろう。

 

 そして、喧しい抗議の声を無視して〝禁〟のオフダを剥がしたカバンの中身を陳列していくと、一同がドン引きした。無論、佐馬斗も含めてだ。

 

 「さて、インストラクションだ。五車には対拷問訓練カリキュラムがない故、俺が繊細なインタビューの方法を教える」

 

 「え? ちょ、けんにぃ? マジで? これ人間に使うの?」

 

 「サクラ=サン、ヤツの首から下は魔族。脳味噌は外道。故に殆どマゾクだ。イイネ?」

 

 「アッハイ」

 

 「ちょっ、まっ、おま! 待て! この俺だって流石に色々考えて拷問してるんだぞ!? それを貴様! そんな原始的な……」

 

 「中々斬新な命乞いだ。余程俺の本気を引き出したいと見える。ではインストラクション・ワンだ。蝋燭と釘はジッサイ便利」

 

 「ぎゃあああああああああ!?」

 

 しばらく四畳半に聞くに堪えない悲鳴が響き渡ったが、そんなものヨミハラではチャメシ・インシデントであるため、隣の部屋の住人が壁を叩くこともなく、ただ淡々とインタビューは続き、佐馬斗は知りうる限りの情報を吐いたのであった。

 

 その後、あんまりな様子を気遣った紫のやさしみに心打たれた佐馬斗が電撃的に惚れ、すったもんだあるのは、また別の話…………。

 

 




チャドー、フーリンカザン、そしてチャドーだ。イイネ?

そして僅か数話で対魔忍ムラサキが終わってしまった! 何と言うことだ!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。