ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・アフターマス17

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ニュービー三人が「あんなになっても生きてるなら不死なんていらないなぁ……」と心胆から思い知らされたインタビューの後、藤木戸はいつものバーを訪れていた。

 

 そしてバリキを頼んで静流を呼び出すと、情報をダビングしたHDDをそっと引き渡す。そこには暗号化された佐馬斗の研究データとノマドの重要情報が大量に詰まっているため、今後の対魔忍勢力を大いに助けてくれることであろう。

 

 「助かるわ藤木戸くん。これだけの生データがあれば、連中の陰謀がかなり暴ける。私が足で稼ぐ必要がなくなる訳ね」

 

 「助力になれて何よりだシズル=サン。ところで、頼みがあるのだが」

 

 「また無茶なお願いなんでしょうねぇ……」

 

 色々諦めた所のある静流は胸の下で腕を組んで溜息を吐いた。そのバストは豊満であった。

 

 「コレを用意できないか?」

 

 「……本気?」

 

 渡されたメモの一式を見て、彼女は目をぱちくりとさせた。

 

 正直な話、藤木戸の気が狂ったのではないかと思うような品揃えが列挙されており、何を考えればこんな物を欲するのか理解できなかったのだ。

 

 「敵は周到に罠を張っている。巨大な箱罠だ。龍門はノマドから技術を掠め取っていた。そしてアサギ=サンを狙っている」

 

 「それは分かるけど……」

 

 「故に物理的に粉砕する。何事も最終的に暴力で解決するのが一番だ」

 

 「貴方ね……」

 

 諜報任務で方々に潜り込み、男に媚びを売って一緒に酒を飲む必要がある故、大体アルコールで浸されているニューロンが宿酔い(ふつかよい)宿酔い以外の理由で静流を苛んだ。

 

 「フーリンカザンだ、シズル=サン」

 

 「侵略すること火の如く、ね。確かにここはヨミハラ。そのブラックマーケットで手に入らぬ物なしというけども」

 

 「別にクレムリンを引っ張ってきてくれと言っている訳ではない。何とかならぬか?」

 

 彼女は藤木戸に支給されている活動費と、自分が握っている脅しの種やら情報、物資の仕入ルートを頭の中でこねくり回し、ついでに愛用である軍用PDAを取りだして、自分の裁量で動かせる金を色々勘案して最終的に首肯した。

 

 「半日頂戴。何とかしてみせるわ」

 

 「助かる」

 

 「まぁ、やるしかないでしょう……あの〝エドウィン・ブラック〟が関わっていると分かっちゃね」

 

 殆ど絶望に近い言葉が静流の端正な唇から漏れた。

 

 引き出したデータ、そして何よりもイングリッドが前線にいたことで今回の黒幕が分かったのだ。

 

 厳密には龍門とノマドは別口であった。首領の正体は別であるが、とある存在が人界を彷徨いていることだけは確かとなる。

 

 エドウィン・ブラック。曰くニンジャにおけるヌンジャめいた最古の吸血鬼、不死にして不滅、デイウォーカーであり魔界を統べる九貴族の一角。

 

 それがぷらぷら地上まで現れた上、今回の一件で全てを差配していたなどと佐馬斗から引き出した情報で分かってしまえば、電話帳並に分厚い横紙でも破るしかない。

 

 あの妙にフットワークが軽いことで畏れられる吸血鬼の王は、対魔忍の中でも殺して良いのかどうなのか意見が分かれている存在だ。

 

 穏健派は始末すれば――そもそもできるかの問題があるのだが――魔界のパワーバランスが崩れて政変により地上に煽りが来ないかと心配している。

 

 一方でタカ派は強力な魔族にして魔界騎士を率いる巨頭の首を狩れば、組織の力は著しく崩れ、ヨミハラに開いた魔界の穴を閉じることも可能かも知れないと抹殺を望んでいた。

 

 しかし、そんなことは今重要ではない。

 

 彼がアサギを、特別に濃い対魔の力を秘めている存在に目を付けたことが問題なのだ。

 

 次代を引っ張っていく彼女の身に万が一があれば、長老衆が揺れている今、混乱から回復しきっていない五車は下手をすると空中分解しかねない。

 

 今はその計画を練っている前段階らしいが、それを計画途中で潰せることは大きい。

 

 しかも、ノマドはノマドで朧の企みが失敗してアサギを改造できていないので、コトを急ぐしかなかったのであろう。龍門を利用する形で井河頭首をなぶり者にした上で〝何らかの現象〟を引き起こそうとしてたようであるが、藤木戸には知ったことではない。

 

 邪悪な魔族は悉く殺す。

 

 策を練っているのであれば、物理的に全てを破壊してご破算にする。

 

 今までやって来たとおりにコトを進めるだけだ。

 

 「ああー……でもこれ、絶対怒られるわよね私……アサギからも内務省からも……」

 

 「その時は俺も一緒にアサギ=サンにドゲザしよう」

 

 「土下座で許される案件かしらコレ……最悪切腹かもしれないわよ」

 

 「なに、抜け忍の俺が独断でやることだ。掴まってインタビューされた上、脅されたとでも言っておくといい」

 

 しかし、やる必要があると冷静にして明晰な頭脳が告げている上、仕方がないかと静流は独断専行をすることを決めた。

 

 組織的に褒められたことではないが、報告してアサギが変に「自分が発端なのだから」と前線に出てこられても困る。

 

 今回の狙いは彼女なのだ。敵にとって一番嫌なのは、アサギが出張ってくれないこと。そうでないなら全ての前提が破綻する。

 

 ならば、人が嫌がることは率先してやりましょうの原則を守るだけのことである。

 

 「では頼む。俺はもう一つ話を付けに行く」

 

 「話?」

 

 「……秘密兵器だ。できれば秘密にしておきたかったという意味での秘密だが」

 

 藤木戸は苦々しそうにバリキ・カクテルを呷り、お代を置いてバーを後にした…………。 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 東京湾に浮かぶ人工島、ズサンな夢の跡たる東京キングダムは広大であり様々なギャングが覇権を争っているが、その中でも鬼武衆と呼ばれる鬼の集団は一風変わったギャングである。

 

 求める物は利権や麻薬ではなく、偏にイクサ。派手に暴れられれば何でもよく、闘争という快楽のみを欲したカルトめいた集団である。

 

 そこには彼なりの理があるのだろうが利を一切追求しないという点で異常さが際立つ。

 

 その異常さは、たとえば二つの組織が抗争を始めて全面戦争になった場合、明らかに不利な方に助力して大暴れの機会を得ることを望む、という時点で明白であろう。

 

 このマッポーの世の中で暴力のみをひたすら求める、これ以上ないマッポーな組織の塒を藤木戸、いや、サツバツナイトは堂々と真正面から訪れていた。

 

 「つ、つえぇぇ……」

 

 「う、腕の骨が折れた……」

 

 本部前にゴロゴロとオークやオーガ、そして時折人間が転がる様は正にツキジ! しかし、常と違うのは彼等が皆、スレイされていないことであった!

 

 そう、サツバツナイトはカチコミに来たのではない! 交渉に来たのだ。

 

 「良い度胸だなぁサツバツナイト!!」

 

 そして、それを出迎えるは既に抜刀した速疾鬼。怒っているような、笑っているような得も言えぬ表情で背後に側近達を引き連れて、サツバツナイトを出迎えた様は言葉を交わす寸間すら惜しいと言わんばかり。着崩したキモノから動かなくてもまろび出そうなほど、そのバストは豊満であった。

 

 「ドーモ、ラーヴァナ=サン。サツバツナイトです。今日はオヌシにマツリの誘いがあって来た」

 

 「お前がいたら何時だってそこは最高の祭りさ! こないだので欲求不満もいいとこだったんだ! さぁ、始め……」

 

 「時にラーヴァナ=サン、ハナビは好きか?」

 

 はぁ? と脈絡もない問いに首を傾げた速疾鬼。彼女にサツバツナイトは再度訪ねた。花火は好きかと。特にデカくて何発も上がる物は。

 

 「まぁ、嫌いじゃないね。こっからでも隅田のはよく見えるし、酒のアテにするくらいには……」

 

 「ならば明日、デカイのを一緒に打ち上げぬか? それも六尺や八尺ではないのを」

 

 「……聞かせなよ」

 

 話を聞く気になったのだろう。器用に自分の身長と大差ない大太刀を納刀し、速疾鬼は自分達が主に屯しているテラスに繋がった空間でサツバツナイトを招いた。

 

 「まぁ、先ずは一献」

 

 「仕事の間は酒を飲まんことにしているのだが」

 

 「酒も交わせない相手と祭りの話はできんだろうよ」

 

 「……いいだろう」

 

 ドカンと目の前に置かれた、速疾鬼が大体常時片手に持ち歩いているのと同じ大きさの朱塗り酒杯に五合近く注がれたキツいサケを一瞬睨むと、サツバツナイトはメンポも外さず――果たしてどうやっているのか全く謎だ――パワハラ上司に無理強いされるサラリマンの如くイッキに呷った。

 

 「ケッコウナオテマエデシタ」

 

 「おおー、やるねぇ。あのヤマタノオロチでさえ潰れる八塩折酒のサケを一気たぁ」

 

 「ヤマタノオロチか」

 

 そういえば常に金欠で、サケが買えるだけの小銭があればどんなイクサにも参加する奴がいたなと思い出したが、流石にアレを加えるのは拙いかとサツバツナイトは忘れることにした。あの豊満を全く隠す気がない前面が大きく開いた鎧を着た傭兵は、小銭で釣れるが、また小銭で簡単に釣られることを忘れていなかったからだ。

 

 一度、どうしても人手が必要な時に静流の紹介で雇ったことがあるのだが、その時はケチな小銭で寝返られて大変な目に遭ったのだ。あの時分は魔族悉く殺すべしと思っていたので、元より利用するだけ利用して殺すつもりであったのだが、熟々その場で殺し損ねたことが惜しいと無意識に奥歯が鳴った。

 

 「おん? あの安酒飲みとなんか因縁でも」

 

 「オヌシと同じく、何時か殺す。それだけだ」

 

 「はっはっは! そりゃいいや!! どうせやっすい金で裏切られたんだろ? 殺しとけ殺しとけ!」

 

 堂々たる殺害宣言に鬼武衆の側近、峠金鬼や長谷川風鬼が殺気を漏らしたが、速疾鬼は呵々と笑って刃を引っ込めるように言った。

 

 「やめときな、お前らじゃどうにもならんよ。あと椿隠行鬼、お前もだ」

 

 「ツバキオンギョウキ=サン、アンブッシュなら受けて立つ。好きにしろ」

 

 舌打ちと共にテラスの庇に潜んでいた暗殺マニアの椿隠行鬼も姿を現す。アンブッシュされることに慣れているサツバツナイトは、彼の暗殺欲求から漏れる殺気をこの場に現れた時から感じ取っていたのである。

 

 「まぁ、デカイ花火が上がる祭りだってんなら嫌はないさ。ただ相手が……」

 

 「エドウィン・ブラック=サン」

 

 「あぁ……?」

 

 「エドウィン・ブラック=サンだ」

 

 速疾鬼は目を眇めるとサツバツナイトが空けた酒杯にサケを表面張力で盛り上がるほど注ぎ、イッキに呑み乾して酒臭い息を空間全体に広がる勢いで吐いた。

 

 「請け負った! ソイツぁいい! 最高だ! あのクソ野郎の鼻っ柱を折れる祭りなら大歓迎だよ!!」

 

 「では話は決まったな」

 

 サツバツナイトは立ち上がると、祭りが始まる合図は東京キングダムの何処にいても分かるだろうと告げた。

 

 そして、開催会場も一発で分かると。

 

 「野郎共! 祭りの仕度だ! 上から下まで全部武装させろ! 明日は盛り上がるぞ!!」

 

 応! とむくつけき返答を背で聞きながら、仕度は整ったとサツバツナイトはニンジャ野伏力を発揮して、静かに街の雑踏に消えていった…………。  




サプライズ、エドウィン・ブラック理論。大体全部アイツのせいなので出張ってくると強制的にクライマックスフェイズに突入する。
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