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翌日、暗黒国際メガコーポの隠れ蓑を被ったマフィア、東京キングダムにある龍門の本拠にて門衛をしていた兵士は暇そうに大あくびをした。
「おい」
「いいだろ、真正面から来る馬鹿なんていねぇんだし。突っ立ってるだけなんて眠くて仕方ねぇよ」
相方に怒られても彼は耳をほじって聞こうとせず、むしろ真っ正面からぶつかってくる馬鹿がいたら拝んでみたいねと指先に付着した垢を吹き飛ばしつつ笑った。
「お前なぁ……」
「本当はお前だって暇なんだろ? ったく、貧乏くじ引いたぜ。守衛役じゃカードもできねぇ。一勝負勝って、ヨミハラにでも繰り出したいところなんだが……」
「お前がカードで勝ってるとこなんて見たことねぇぞ」
「うるせぇなぁ」
勤労意欲に足りない門衛は、また暇そうにチェストプレートの合間に両手を突っ込んで柱に背を預けたが、その瞬間、鳴り響いた轟音に一瞬身構えた。
しかし、その音源は遠方。少なくとも十数ブロックは離れている。
「なんだ、また抗争か。元気だねどいつもこいつも」
「あんまり気を抜くなよ。この間はサツバツナイトに検問所を潰されて、その後は鬼武衆との抗争で二百人から死んだんだ。ここも何時……」
「心配し過ぎなんだってお前は」
言って男は勤務中にも拘わらず、煙草を取りだして咥えたではないか! なんたる不覚悟!
ライターを取りだして数度火花を散らしても中々火が付かないことに苛ついた彼が、同僚から火を借りようと顔を上げた瞬間……欲していた物が向こうから来た。
「……は?」
「みっ、ミサイルだ!!」
弛緩した闇の中を飛翔するのはミサイル! そう、先程の轟音はこれの発射音だったのだ!
到来するのは一発、二発、いや無数! 東京キングダム各所から撃ち出されるのは、旧式化したせいで半島事変にて〝平和支援のため〟として大量に放出された、米連の旧式MLRS、M270から発車されたM31地対地ミサイル!! 既に現役を退いていたそれは、ズサンな取引で半島に渡ったために大量に裏社会に流れ込んでいたのである!
それが静流によって大量に買い上げられ、一斉に撃ち出されたのだ!!
「たいっ、退避ー!!」
「あ、あわっ、あわわわわ!!」
退屈な夜は、轟音と共に終わりを告げた。全てはインガオホー…………。
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「あーあーあーあー……」
スゴイ物を見てしまったと言わんばかりに呆れた声をさくらが重ねた。
場所は龍門のメインビルを見渡せる、二ブロック先の放棄された高層マンションの屋上。元々の黄色い対魔忍装束に加え、魔殺のメンポを被った姿は藤木戸のリスペクトなのだろうが、こうも呆れ顔をしていてはイマイチ似合っていない。
一方で藤木戸、サツバツナイトは毅然として、同時に決断的な目で崩れ落ちるビルを眺めていた。傾いだ電波受信機の上で両腕を組み、マフラーめいた布を夜風に揺らす姿は予定通りにコトが運んでいようと満足した様子はない。
「これマジ……?」
「流石はシズル=サン。良い仕事をする」
「あわわわわわ……こわい、地球の武器怖い……」
そして、あまりの火力にドン引きしている葉月。犬耳はぺたんと寝ており、尻尾は無意識に太物の間に挟まれていた。
彼女も魔界育ち故、人知を超えたイクサを幾度も見てきたが、これだけの破壊が特別な実力者の力ではなく、金だけで引き起こされることに驚いていたのだ。
魔界はあくまで個人技の世界。地球からすると理不尽な魔法やジツが飛び交う文字通りの人外魔境ではあるものの、地球は地球でマッポーにしてサツバツの極みだ。
なにせ、筋によっては人気車種の新車を買える程度のお値段でブラックマーケットに地対地ミサイルが発射用車両と一緒に出回っているのだ。その上、やろうと思ったら自分達の母星を何度も砕けるだけの核を持っている上、それがニンジャでもない普通の人間が扱えるのだから凄まじい。これをマッポーと言わずしてなんと言えばいいのか。
「第二射だ」
「え? マジ!? うわマジだ!!」
そして続いて発射される第二陣! 既にツキジを通り越してネギトロめいた死体だらけの本社ビルではなく、東京キングダム各所に散った龍門の詰め所に弾頭が宅配される! サツバツ!!
「けんにぃ、これ流石にやり過ぎ……」
「今回ばかりは雑兵相手に割く体力も対魔粒子もない。忍び込むのも困難故、窮余の策だ」
無情に切って捨てる歳の離れた幼馴染みに流石のさくらもドン引きであった。やる必要があるならとことんやる男だというのは、以前から知ってはいたが、ここまでやるとは思っていなかったのである。
しかし、彼にとっては憎きノマドの首領、魔族の中でも最大のダイキンボシであり、その首を取ればイサオシどころか情勢を覆せるエドウィン・ブラックの情報を握れるやもしれぬ好機比ぶれば、全てが安い物なのだ。
この後、絶対にアサギ=サンからブチギレ鬼電が掛かってくるのは分かっているし、何時間でもドゲザする覚悟もできている。なんならケジメで指の一本か二本くらい覚悟しているが、最後の幼馴染みと比較すれば妥当な出費と言えよう。
「うわ、鬼武衆が群がってる……」
「祭りに誘っておいた。ダシモノとヤタイには十分満足して貰えたようだ」
そして、東京キングダム各所でイクサが始まった。ミサイル攻撃から辛うじて生き延びた龍門構成員や、本体が地下にある社屋から押っ取り刀で駆けつけた重装備の警備部隊やドローンが、祭りだ祭りだと討って出た鬼武衆との戦闘を始める。
恐らく、この調子だと世間では「また鬼武衆か……」で流されることになるのだろう。
「さて、機は熟した。行くぞ、サクラ=サン、ハヅキ=サン」
「あの中に突っ込むのかぁ……流石に怖いなぁ」
「ハッ、ハイ、センセイ……」
焦土と化した龍門本社に突入するべく、さくらがカゲ・トン・ジツを使って二人を引き込んだ。
そして、戦っている人間のカゲからカゲへ渡り、隠されていた地下ゲートから増援がでる瞬間を狙って内部に入り込む。
そして、またカゲからカゲへ向かうのだが、頑丈に作った地下にも二桁単位で地対地ミサイルをお見舞いされると流石に影響があったようで、方々が崩落していたり、完全に押し潰された施設もあった。どうやら見た目に反して吶喊で作ったのか、ヤスブシンであったようだ。
「うわー、スゴイ……そりゃあれだけブチ込んだらこうなるよね……」
「佐馬斗の話では地下に研究所があるらしい。そこに行くぞ」
「お金、お金の力って凄い……お金があれば一族を再興できる? みんなを探せる?」
小破した施設の中をニンジャ野伏力を発揮しつつ、時にニンジャ第六感で敵を避けて進んだ三人はやがて最奥の施設に辿り着いたが……本来、大量の被検体を治めたシリンダーの群れが並んでいた施設が一部の倒壊によって崩れていた。
「うーわー……ひどい」
「ああなっては人に戻せないだろうから、ひと思いに殺してやるのが慈悲だ」
崩れたシリンダーの中には魔族の因子を混ぜられたのか、酷く変質した人型の物体が詰まっているが、それらは保存液から強引に出されたせいか全て痙攣して死んでいた。残った物も衝撃で罅が入ったり倒れて輸液官が外れているため長くないだろう。
「くっ……一体何が……」
そこで、瓦礫の中から手が出てきた。悪趣味な長いネイルをした手は自分に乗っていた残骸を押しのけつつ姿を現す。
赤みがかったパープルの髪、サディスティックに釣り上がった瞳、そしてこれまた悪趣味なカラーリップを塗った酷薄そうな美形。そして、ライダースーツめいた被服がパツパツになるほどの豊満。
「オボロ=サン!?」
「なっ!? マゾクスレイヤー!?」
ブッダミット! なんたることか! 瓦礫の下から現れたのは紛う事なき甲河・朧ではないか! 少なくとも見た目だけでは全く判断がつかないくらい本物であったが、サツバツナイトは己の魂の中に意識をやると、まだアビ・インフェルノのフートンに包まれて悶えている魂を感じる!
ではあれは? おお、ブッダよ! こんなことがあっていいのでしょうか!
当人に〝一切の自覚がない〟クローンを作るような所業が!
「……ドーモ、オボロ=サン、サツバツナイトです」
「くっ、アンタの仕業かい!? 毎度毎度巫山戯た真似を!!」
仕草も言動も、所作も朧そのものであるが、アビ・インフェルノ・ジゴクの中で悶えている魂が絶叫していることから分かる。そして、自分が一度、マゾクスレイヤーに殺された自覚がないことからして明白だ。
アレは本物ではない。作られたオイランドロイドめいた哀れな存在。
「カイシャクしてやるオボロ=サン。ハイクを詠め」
決断的にジュージュツの構えを取りながら、この存在はたとえ朧に似ていても慈悲をかけるに値すると判断したのか、サツバツナイトはニンジャとして最後の情けを口にした…………。
アイエエェェェェ!? UA数30万越え!? 30万ナンデ!?