ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・アフターマス・エピローグ

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 都内、とある料亭。シシオドシがカポーンと音を立てるフウリュウとゼンが一体化した一室で奇妙な光景が繰り広げられていた。

 

 「…………」

 

 客は二人。機密性に富んでいる故、呼ばれねば女将も仲居もやってこない部屋の中で、ジトッとした目付きで足下を見下ろしているのは、現井河頭首にして次期五車筆頭、及び最近は五車学園の教育主任に内示が出た井河・アサギであった。清楚な白いブラウスを纏った姿は豊満であり、最早釦への虐待に近い。

 

 一方で、彼女が見下ろすのは料亭に不釣り合いなトレンチコート姿の男。

 

 藤木戸だ。

 

 彼はドゲザしていた。

 

 実に美事なドゲザであった。

 

 態々忘れられたエンシェント・ルールに基づいて庭に降り――本来、地面でやるからドゲザと呼ぶのだ――玉砂利上に肩幅に開いた掌は完全に地を掴み、額は地面に擦りつけられていた。

 

 そして、その前、エンガワに置いてあるのは……トラヤ・ヨーカン! しかも漆塗りの箱に三本詰まった、最上級のワビを入れる際にのみ用意される最高級品である!

 

 「藤木戸くん、頭を上げて」

 

 「いいえ、悪いです」

 

 「いいから、頭を上げて」

 

 「ドーカ、ドーカ」

 

 「そのままだと喋りづらいから頭を上げなさい」

 

 「ハハーッ!!」

 

 アサギは、この形式張ったを通り越して、何かの模倣めいたやりとりは一体何なのだと思いつつ、呆れて額に手をやりながら嘆息した。

 

 この男は昔からそうなのだ。誕生日の時にケーキを落とされた際も、このドゲザのせいで彼女は泣き止んだこともあって以降、藤木戸が何かやらかしてドゲザして、それに恭介もつき合うのが通例になっていたのが懐かしい。

 

 今や、その隣で土下座していたであろう幼馴染みにして夫が、もうこの世にいないことを思い出さされて、一瞬だが彼女の涙腺を刺激した。

 

 「藤木戸くん、額に玉砂利付いてるわよ」

 

 「これはシツレイ」

 

 顔の汚れを払った彼に、料亭に迷惑だからさっさと上がるように促したアサギは、とりあえず上座に座って彼からオシャクを素直に受けた。

 

 今日は公的にはオフということになっているから、サケが入っても良い日なのだ。

 

 「しかし、やらかしてくれたわね」

 

 「必要だと思ったのでやった。反省はしている」

 

 「でも後悔はしてないと」

 

 いっそ開き直った方が早いのではないかと思うほど、藤木戸は堂々と首肯した。謝罪するつもりはあるのに、後悔していないとはこれ如何に。

 

 「色々理由があったのは分かるわ。龍門が私を的にかけて罠を張っていたこと。その差し金を引いていたのはエドウィン・ブラックだったこと。攻撃をしかけるには十分な理由ね。名目も体面も何とかなるだけの大事件」

 

 「あそこで潰していなければ、陰謀は更に根深く、取り除けない領域になっていただろう」

 

 「かといって普通、地対地ミサイルを累計五十発近くブチ込む!?」

 

 彼女のニンジャ膂力を受け止め兼ねた猪口に、びきりと音を立てて罅が入り、やってしまったとアサギは慌てて力を緩めた。女将は笑って許してくれるだろうが、そこいらで売っている安物ではないのだ。

 

 弁償くらい幾らでもできるが、密談に使える数少ない店からの受けが悪くなるのはよろしくない。

 

 「ただ襲撃を決めた時点では黒幕がエドウィン・ブラックであったことは判明していても、龍門のトップが誰だったか分からなかったから、露払いに必要だと判断して手配した」

 

 「用意した静流も静流ね……今度戻ってきたらお説教しなきゃ。あの子、藤木戸くんに甘すぎるわ」

 

 「シズル=サンは俺に脅されてやっただけだ。どうか寛大な処置を……」

 

 「あの子がそれくらいでM270なんて手配する訳ないでしょ。というか、東京キングダムやヨミハラに何台流れてるワケ? あんなもの」

 

 藤木戸が予備の御猪口を勧めて、もう一杯サケを飲んだ彼女は、まぁ賢い選択だったから大目に見るわと、今度は正しい握力コントロールで卓上に戻した。

 

 「結局米連が介入して有耶無耶になった訳だし、その米連も何故か凄い殺気だった鬼武衆の逆撃を受けて撤退。事前攻撃として連中がやったことにできて政府も言い訳が一つ減って助かったみたいだしね。内務省は上から下への大童だったけど」

 

 「……ここまでやってエドウィン・ブラック=サンを逃したことは、生涯で最大の失態だ。ケジメも辞さないつもりだ」

 

 「それは仕方ないでしょう。魔界の王がぷらぷら唐突に現れることなんて、誰にも予測できないわ」

 

 それに、今回は自分がターゲットとして進行していたが、藤木戸も的の一つであったと当人が口にしたのだ。

 

 つまり、元々彼がアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツを使えることはブラックに割れていたのである。

 

 その配下たるイングリッドが知らなかったことは不思議ではあるものの、彼の魔界から人界進出自体の原因が未だ不明であるため仕方がない。情報がどこから漏れていたのかもだ。

 

 何せ五車にいたころ、彼は他の対魔忍からジツが使えないと思われていたくらいなのだから。

 

 このことを知っているのは、もう現世には二人しかいないはず。この場にいるアサギと、ジツの持ち主である藤木戸だけのはずであった情報が漏れていたことは不思議でならない。

 

 とはいえ魔界の王なんぞが何を考えているか、情報ソースがどこかなど、深く思考を巡らせる方がドツボにハマる。人間相手の政治でもなし、対応としては藤木戸のように来た順に殺すという明快な方が、むしろ敵としては厄介だからよいのだろう。

 

 「とはいえ、ヤツが明確な目的を持って人界に干渉していることが分かっただけで有益だったわね」

 

 「何故、俺とアサギ=サンに注目しているかは分からなかったが……」

 

 「一目惚れされるようなことをした覚えはないわね」

 

 冗談めかして言うアサギが徳利を差し出したので、藤木戸も返杯を受け取ってサケを口にした。良い酒だ。精米歩合は恐らく60%ほどと控えめの吟醸だが、雑味がなくて辛みが撫でるが如く舌を刺しながら喉を下っていく酒精の強さは絶妙としか形容できず、後味は抜けるように爽やかで舌上に不快な物を残さない。

 

 おそらく、アサギが個人的に昵懇な酒蔵から仕入れている、お気に入りの銘柄なのだろう。

 

 「しかし、今まで一切が謎だったブラックの情報を得た功績は大きい。藤木戸くんが五車に戻る口実作りにもぴったりね」

 

 「だが、俺はまだ」

 

 「勿論、将来的なことよ。まだ五車は一枚岩になれていない。短くて二年……現実的なところを言うなら五年は先のことかしら」

 

 五年か、と思えば長いようでいて、あれだけのコトをしでかした割りには短いものだ。藤木戸は異を唱えず、用意されていた前菜をサケのアテとして舌を楽しませることにした。

 

 「それと、回収された下忍の子なんだけど……」

 

 「どうだった?」

 

 「ダメね、朧のクローン? に心を完全に破壊された所で魔族の因子を埋め込まれたようで、眠り続けているわ。妙に協力的になった佐馬斗に面倒を見させているけれど、目を覚ます兆候は今のところナシ」

 

 そうか……と悲しげに頷く藤木戸。そう、彼はさくらが離脱する際、まだ助かる目があるかもしれないと思い、策略の依頼で掴まっていた対魔忍の少女、沙耶を助け出していたのだ。

 

 しかし、朧が負わせた心の傷は重く、魔族の因子も根深いが故に目覚めることはなかったという。佐馬斗曰く兵器に改造しようとしていた施術が中途半端なところで止まっていたせいで、脳が人間のまま捨て置かれていたため苦しみから覚醒を拒否しているとのことだ。

 

 しかし、生きているのであれば、もしかしたらがある。少し苦くなった酒を飲み込みながら、彼はオーガニック・マグロの刺し身を摘まんで心の痛みを誤魔化した。

 

 そう、誤魔化した。大人になってから覚えたテクニックだが、何も解決はしていない。ただ、最悪から少しマシだと自分に言い聞かせているだけに過ぎぬ。

 

 歳を食うのは嫌な物だと心の底から思っている藤木戸の心中を察したのだろう、アサギは空気を変えるべく室内に持ち込んでいたアタッシュケースを三つ彼に寄越した。

 

 「中身は?」

 

 「開ければ分かるわ」

 

 促されて開けば、中にはなんと新品の対魔忍装束があるではないか! しかも、きちんとサツバツナイト仕様でブレーサーも脚甲も新品であり、スリケンもかなりの枚数が入っている上、非人道兵器たるマキビシや特注のヌンチャクなども入っていた!

 

 「これは!」

 

 「藤木戸くんは整備部と仲が良かったから、何人か秘密裏に密殺中隊に引き入れられたのよ。帳簿上は中隊員の物資補給という名目で、これからは装備を安定供給できるわ」

 

 「……助かる」

 

 実は目下最大の悩みであったのは、ブラックとのイクサで最後の対魔忍装束が繕って使えなくなるほど損傷したことであった。アビ・インフェルノ・ジゴク・ジツの反動もあるが、速疾鬼が振るった大太刀による切り傷も多くどうしようもなかったのである。

 

 それが正規品、しかもかなり気合いの入った形で帰ってきたことに藤木戸は大いに喜んだ。不足していた装備が戻ってくる、これだけで邪悪な魔族をスレイする活動が捗ることは必定である。

 

 二つのアタッシュケースには装備が入っていた。では、最後の一つには?

 

 開ければ、そこには大量のコーベイン! 時価数億は下らぬだろう煌めきに藤木戸は困惑した。

 

 「これは活動資金……というか、ヨミハラで処分して貰いたい物なの」

 

 「処分?」

 

 「魔界でも金が取れることや、錬金術があるのは知ってるでしょう? それが不法に持ち込まれて、人界の金レートが狂いかけているの」

 

 「なるほど、魔界の物は魔界に返す、ということか」

 

 「そういうこと。それに、道場がないと不便でしょう?」

 

 言われて、全くその通りだと藤木戸は有り難く活動資金を頂戴することにした。

 

 丁寧に封をしなおしていると、いつの間にか隣にアサギがいることに気が付く。彼女は肩が触れるギリギリの位置に座ると、空になっていた猪口に酒を継ぎ足し、ついでに持ってきていた自分の猪口にも手酌で注いだ。

 

 「……藤木戸くん、あなた、一瞬だけど死のうとしたでしょ」

 

 「アサギ=サン、どうしてそれを」

 

 「分かるわよ。幼馴染みだから」

 

 ブラックを前に一瞬、ヤバレカバレになろうとした自分がいたことを見抜かれて藤木戸は焦りよりも、絆を感じた。ここに来る前にザゼンを組んでアグラ・メディテーションで心を落ち着かせたつもりであったが、時が醸造した仲の前では無意味であったようだ。

 

 「何度も言うけど、死なないでね、藤木戸くん。最後の幼馴染みなんだから。貴方がいなかったら、この半年で私は多分、とっくに潰れてたわ」

 

 「……アサギ=サン、分かった。誓おう、二度とヤバレカバレは起こさない。君こそカラダニキヲツケテネ」

 

 「ええ。ユウジョウ」

 

 「……ユウジョウ」

 

 静かに猪口が寄り添い、同時に酒が口中へと消えていった…………。




ということで対魔忍アサギ2部分も終了。オツカレサマドスエ!

アサギ=サンは三千倍にもならず魔にも目覚めず、その代わり対魔忍勢力が強力になった上、真っ当な鍛錬を積めているので戦力的にはトントンというところですかね。
相対的にみんな幸せだな!! ヨシ!!

流石に書きためが尽きたので、しばらくのんびり進行になると思います。
先行公開はpixivファンボックスで、ある程度無料で行っているので、よかったらフォローしてやってください。

割と長いことになったアフターマスですが、お付き合い頂きアリガトウゴザイマシタ。
オツカレサマドスエ!
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