ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド1

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 龍門本社ビル壊滅、及び事実上の組織崩壊から半月後。

 

 東京キングダムの地下300mにあるヨミハラでは、そんなこと知ったことかとばかりにいつも通り悪徳と退廃、そしてマッポーを体現し続けていた。

 

 路地では殺人、強盗、強姦や売春が当たり前のように行われており、何処かの街区で爆発や発砲音が聞こえない日々は一日とてない。

 

 そのケオスの坩堝めいた街に一軒のビルがあった。これといって目立った所のない四階建て雑居ビルであり、ただ垂直に伸びたRC造の違法建築はソトバめいて無機質であった。

 

 その中で唯一の個性と言えば、倉庫になっているであろうシャッターが降りた一階の上、二階の窓に一枚ずつ半紙を使って決断的なショドーで〝森田興信所〟と張り出されていることであろう。

 

 その下には人探し、物探し、アダウチ、なんでもやりますだの、ジッサイヤスイだの色々と胡乱なフレーズも貼ってあった。

 

 その二階オフィスにて、サツバツナイトこと森田・一郎にして、本名、藤木戸・健二。井河長老衆虐殺犯の抜け忍は新しい椅子の座り心地に満足していた。

 

 「まぁ、無難なところだな」

 

 「おめでとうございますセンセイ! 一国一城の主ですね!!」

 

 それを言祝いだのは、ブンブンと尻尾を振る彼の二番弟子、人狗族の葉月であった。ここしばらく金の力に興味を持ったのか〝誰でもできる株取引〟という本を付箋塗れにした彼女は、何処からか数億もの大金に伍するコーベインを持ってきて、立派な事務所を構えた師匠をサスガと言いたげな表情で見上げている。

 

 「これでもう師匠がオシイレで寝なくてすむし、ボクも個室があるなんて! しかもトイレとお風呂が別! ああ、お金ってスゴイ!!」

 

 「ああ、ドージョーも作れたし、装備もある。これでインストラクションが捗るというものだ」

 

 喜ぶ弟子を微笑まし気に眺めつつ、森田はゆるりと立ち上がると階段を登って四階に上がった。三階は各員の私室と客間を含めて六部屋の住居スペースとなっており、今回は用事がないので素通りされる。

 

 そして、全ての壁を取っ払った四階は、美事なタタミ敷きのドージョーに姿を変えていた。

 

 立ちこめる新鮮なオーガニック・イグサを用いた、日本人ならば心安らぐ爽やかな青い匂い。西向きの最奥には神棚が備え付けられており、鹿島大明神と香取大明神のオフダ・タリスマンが厳かに鎮座している。

 

 そして、その下には平均的、そして風林火山のショドー! これは森田の直筆であり、ジッサイ達筆で優れた審美眼がなければ読めぬエンシェント・ソウショで画かれており、彼がカラテ一辺倒ではない文化人である一側面を匂わせた。

 

 当人から言わせるとマキモノを読むため習得しただけに過ぎないのだろうが、それがドージョーに厳かさを演出し、踏み入る者に自然と礼をさせる。

 

 「ではインストラクションだ。まず、基礎鍛錬」

 

 「ハイ、センセイ!」

 

 元気よく応えた葉月は、いつの間にかジューウェアに着替えていた。帯は黒ではなく茶色。現在の葉月のカラテ力から考えるに、これくらいであろうと――無論、魔界や対魔忍基準である――森田が用意したもので、きちんと刺繍で葉月と名前が入っている。

 

 これを受け取った時、彼女はいたくよろこんですぐさま着替え、素振りを千本も行ったという。

 

 「まず体幹。プランク構え」

 

 「ハイ! センセイ!!」

 

 号令に従い、葉月は地に伏せた。肩幅に開いた肘で上体を支え、立てた足は一直線に。体幹を満遍なく鍛え上げるプランクの構えであるが、このままでは魔族の彼女には負荷が足りぬ。

 

 「うっ……くっ……」

 

 故に森田は、彼女の背と腰に50kgと刻印されている割りには、妙に小さな分銅めいた重しを乗せていった。魔界合金製で特別に密度が高いため、掌大でもこの重さを誇るウェイトは、一瞬持ち上げるだけであれば葉月にとってなんてことはないが、ずっと乗っかっていられると凄まじい重みで体を苛む。

 

 そして、師は仕上げとして弟子の頭部に水の入ったチャワンを配し、見える位置にセンコの刺さったセンコ立てを置いた。

 

 体幹を正しく鍛えるためワンの水を揺らさずにいること、そしてセンコは制限時間を表していた。

 

 センコの太さと長さからして大凡十五分。常人であれば一セット十秒から二十秒が妥当であるが、魔族である葉月の基礎能力を上げるにはこれくらい必要であると森田が弾き出したハードな時間設定であった。

 

 「では、励むように」

 

 「ハイッ……センセイ……」

 

 滲むような声を上げた葉月を見守りつつ――彼女はこの手の地味な鍛錬に一切文句を言わぬため、とてもインストラクションがつけやすかった――森田は対角線上に設置されたサンドバッグへと向かった。

 

 無論、ニンジャである彼が打突の訓練を行うサンドバッグだ。ただの砂や革が詰まったものではなく、恐ろしく野太い高層ビルディングの柱めいた内部に詰め込まれているのは砂鉄である。

 

 そして、直下には電磁石が設置されており、生中な打突では微動だにしない設計になっていた。

 

 「スゥー!! ハァー!!」

 

 そんな常人ならば一突き入れただけで拳が破損しそうな怪物めいた物を前に、森田はチャドー呼吸を行って全身の筋肉を活性化させたかと思うと、堂に入ったカラテシャウトを放って貫手を突き込んだ!

 

 「イヤーッ!!」

 

 一際強靭な複合炭素繊維で編まれたサンドバッグが悲鳴を上げて後退する! 磁力の力を押しのけて後ろに弾けたそれに、コンマ0.1秒と間を空けず叩き込まれる第二撃!

 

 「イヤーッ!!」

 

 大きく傾いだバッグを敵に見立て、完璧なカタから繰り出される刺突と蹴りのラッシュに超重量のサンドバッグがどんどんと壁に向かって跳ね上がる!

 

 「イヤーッ!! イヤーッ!! イヤーッ!!」

 

 最早、空中でコンボを決められた格闘ゲームの敵キャラめいた砂鉄サンドバッグに最後のケリ、首を刎ねるつもりでの強烈な勢いで足剣が叩き込まれ、僅かに天井に触れたところで森田は攻撃をやめ、勢いよく磁力に惹かれて戻ってきた本体をスモトリめいた姿勢で受け止める!

 

 「スゥー!! ハァー!!」

 

 一度も呼吸を挟まず行われた乱打は三分間にも及んだ! しかし、これは森田、サツバツナイトにとってアップに過ぎない! 体が十分に温まったことを確かめると、彼は様々なワザを繰り出して技量を練り上げる!

 

 葉月に貸したプランクのセンコが燃え尽きるまでサンドバッグを殴り続けた彼であったが、不意に動きが止まる。

 

 重い重いサンドバッグを受け止めた森田は、激しく動いたにも拘わらず汗一滴も掻いていない額を敢えてテヌギーで拭った。

 

 「センセイ?」

 

 「来客だ。五分休んだら素振りをするように」

 

 「ハイ! センセイ!」

 

 研ぎ澄まされたニンジャ聴力とニンジャ第六感は常にアンブッシュを受ける立場であることを自覚しているが故、鍛錬中でも途切れることはない。弟子にシュギョーを続けるよう命じると、森田はそのまま二階へと降りていく。

 

 すると、そこにはドアをノックしようとしている一人の女性がいた。

 

 「あら、藤木戸くん。道場にいたの」

 

 静流であった。先の一件で〝二週間の謹慎〟という名目での休暇を堪能した彼女は、十分な休息を得たからか肌つやがよく、諜報任務で酒精漬けの日々を送っていた先月と比べると随分と健康的に見えた。深紅のスーツを押し上げるそのバストは、実に豊満であった。

 

 「ノーカラテ・ノーニンジャだ。日々の鍛錬は欠かせん」

 

 「骨が折れても、血尿が出ても続けるくらいですものね。で、藤木戸くん、もしかしなくても私が……」

 

 厳かに頷いて、森田はオフィスへの入室を促した。

 

 「顧客第一号、ということになる」

 

 「それは光栄ね」

 

 微笑んだ静流にチャとヨーカンを饗した森田は、代わりに数枚のフォルダを受け取ることとなる。

 

 森田興信所、つまるところの探偵業の表看板に従った依頼の数々だ。

 

 彼はヨミハラに溶け込んで悪辣なる魔族をスレイし続けるため、森田・一郎としての身分をこの地に根付けることに決めたのだ。故にこそのオフィス、故にこそのドージョー。密殺中隊の何も知らない対魔忍が迷わず寄ってくる誘蛾灯にして、彼を憎む敵手を誘う罠でもあるオフィスを維持するためには仕事が不可欠だ。

 

 それに、陰謀の種とはどこに眠っているか分かった物ではない。ただのトンチキ騒ぎかと思えば、ヨミハラを騒がす大騒動に発展することもあると経験則から知っている彼は、小さな予兆でも見逃さないよう表向きの探偵業にも気を抜く気はなかった。

 

 「行方不明、仇討ちの下調べ、密輸武器の納入路探索、ヨミハラ特有のキナ臭い物も多いけど……」

 

 「猫探し? この街でか?」

 

 「心にゆとりを持つためにペットが必要な人もいるものよ、藤木戸くん」

 

 ふーむと顎に手をやり、ニンジャスレイヤーに肖って暗黒探偵業を隠れ蓑に選んだ森田であったが、彼は書類の全てに目を通して瞑目した。

 

 これ、実は滅茶苦茶大変なヤツだな? と心から思って…………。




ブランクピリオド、つまり空白。対魔忍ユキカゼまでの間の話なので、時系列は色々バラバラです。

つまり出したかったキャラを出すだけ。
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