ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド2

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 明かりの落ちた自らのドージョーで森田はアグラ・メディテーションを行いつつ、その心の中でジツを練っていた。

 

 目の前に広がるのは、里から抜ける直前、密かに実家から持ち出した本来は門外不出であるはずのマキモノ・オブ・シークレット・ニンジャアーツ! ここ十代以上継承者がいなかったこともあり、エド・イラ中期が最期の更新となるアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツの手引き書は、森田が暗記して複写した秘蔵の品である!

 

 ノーカラテ・ノーニンジャ、しかし逆を返せばノージツ・ノーニンジャ。彼のカラテとジツの割合はジッサイ9:1ほどと大分偏っており、エドウィン・ブラックの交戦時にジツの鍛錬不足を痛感して、再度自分を鍛え直すことにしたのだ。

 

 然しながら、久方ぶりに読み返したマキモノには、あまり役に立つことは書いていなかった。

 

 ジツ自体があまりに強力であり、行使者本人を焼くため、如何に安全に運用するかの手引き書でしかなく、それを更に高次に持っていこうとする工夫が見られなかったのだ。

 

 いや、太古のニンジャをして、洗練させるよりも制御するのが限界であった、というべきであろう。

 

 事実、このジツを継承した者は殿となっての自爆、大敵を道連れとしての共倒れ、そしてジツの制御に失敗しての爆発四散などという非業の死を遂げている。

 

 例外なく全員がだ。井河傍流たる藤木戸家が存続している以上、辛うじて家は遺せているのだが――事実、彼は一人っ子だが父母は健在であった。そして対魔忍を既に引退し、五車からも出ている――血が絶えそうになった回数は数多。それ程にキケンで扱いが難しいジツなのである。

 

 故にサツバツナイトも、こればっかりは自分の独創性に頼ってジツを鍛える他ない。

 

 しかし、彼は崇敬し肖ってもいるニンジャスレイヤー=サンと違って、古の記憶をたっぷり蓄えた第二の師ともいえるナラク・ニンジャ=サンを魂に宿していないし、アビ・インフェルノ・ジゴク・ジツは不浄の炎ほど便利ではない。

 

 性質は確かに似ている。だが、今や森田の脳内にしか存在しない聖典にあった記述、傷口を焼き塞いだり体内の毒を滅却したり、果ては千切れた四肢を接ぐような異様な再生力をアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツで再現することは不可能だ。

 

 この炎は、本質的には浄化の炎。罪人の魂を燃して清めるために燃えているのであって、生者のために存在する物ではない。

 

 斯様なものを無理矢理引き出しているのだから、ジツ行使者に反動があり、使い勝手が悪いのは必定。むしろ、この死後や霊魂が確実に存在する世界において、ジツや魂を燃やす不条理として制御できている時点で破格であることを重々承知しておくべきではある。

 

 あるのだが……。

 

 「物足りん」

 

 「ハズレの次は物足りん扱いか貴様!!」

 

 バシィンと甲高い音を立てて、ムチが虚空を打った。真新しいタタミを傷付けぬよう気を遣って、況してやサツバツナイトに当たらぬよう放たれたフェイク・アンブッシュを敢えて避けなかったのは彼の胆力が太いからか、それとも同期の腕を信頼しきっているからか。

 

 「ドーモ、ハスマ・レイコ=サン。サツバツナイトです」

 

 緊急脱出用の天窓から現れたのは、濃紺の対魔忍スーツに身を包んだ零子であった。その四肢は豊満なバストに負けぬくらい豊かであった。

 

 「まったく……また言葉の綾とか言うんじゃなかろうな」

 

 森田興信所発足から五日、どうやらアサギは積極的に「ちゃんと仕事してますよアピール」のため密殺中隊を増強したようで、そこには信頼が置けて能力もあり、同時に心の底では藤木戸を信頼していた蓮魔・零子がアサインされ暗殺者として差し向けられたようだ。

 

 「今のは自分に対しての感想だ。勘違いさせたならスマナイ」

 

 「お前の言葉はいつも唐突過ぎて人を勘違いさせる。気配を読んでいたなら少しは気を払った方が良い」

 

 同期というよりセンパイ染みた苦言を呈しながら、零子は彼に向かってフロシキに包まれた箱を寄越した。

 

 「これは……!!」

 

 「長らく食べてないだろう。五車堂の寿司だ」

 

 零子が土産として持ってきたのは、豪華なスシオリであった! やたらと寿司が好きな――酷い時は三食寿司だった時期があるらしい――彼を思い、故郷の味がそろそろ恋しかろうと、贔屓にしていたスシ・イタマエが在籍している店のスシを持参してくれたのである!

 

 彼はしばらくじーんと震えた後、小さく呟いた。

 

 「ユウジョウ」

 

 「やかましい。黙って食え」

 

 満更でもなさそうに言いながら対面に腰を下ろし、零子は自分の分もスシも取りだして食べ始める。時刻は深夜、少し遅めの夜食といったところであろう。

 

 正座してピンと背筋を伸ばした姿は彼女の生真面目さ、受けた教育の高等さを感じさせる凜とするもので、ただスシを補給しているだけだというのに大変美しいものであった。

 

 「しかし、物足りない? 鍛錬の鬼であるお前が足りないとは。エドウィン・ブラックと交戦したとは聞いていたが、あの怪物、更に速疾鬼との三つ巴で生き延びて尚も足りないなど、少し傲慢ではないか?」

 

 「しかし、ジッサイ足りなかった。俺のジツが洗練されていたならば、奴儕を揃って討ち取り、ムネンの内に死んでいった者達のセンコにできたはずだ」

 

 「……待て、お前が忍術?」

 

 ぴくりと零子の眉尻が上がった。マゾクスレイヤーであった頃の彼と幾度となく任務を共にし、共闘した彼女でも彼がジツを使っているところを見たことがない。むしろ、他の五車の者達と同じで〝ジツが使えないからカラテで高みに登った〟と思っていたのだ。

 

 そこに唐突にジツを持っていたと告白されれば、付き合いの長さもあって引っかかりの一つも覚えよう。

 

 「レイコ=サンも知っての通り、藤木戸家はカトンの家系だ」

 

 「そうだな、火遁衆に属さない一本独鈷の火遁遣い。御父君は戦傷で引退なされているが、強力な対魔忍であったことは私も知っている。真逆お前……」

 

 「切り札とは味方にも秘めておく物。違うか?」

 

 ある意味で正論を言われて、零子は舌打ちをこらえた。この男は人生の芸風が違うのみならず、私生活が全く謎なのもあって――というよりも、常に鍛錬していて恐ろしい程に私が見えない――この歳になっても知らないことが飛びだしてくるのだから性質が悪い。

 

 「それで、自分の忍術と向かい合っていたと」

 

 「そうだ。だが、どれだけ頭を捻っても碌な強化案が浮かばん。レイコ=サン、オヌシはどうやって自分のトウシ・ジツを磨いた?」

 

 「難しい質問だな」

 

 将来的に教育者になることを志している零子にとっては忸怩たる思い出あるが、ジツの使い勝手というのは個々人に依拠する物であって、どうしても言語化し辛い。

 

 故に言えることは一般的であるが、その言葉は森田のニューロンを強く打った!

 

 「守破離だな」

 

 「シュハリ……!」

 

 教えを忠実に守って自らの物とし、何れその固定観念を破り、離れて自らの物とする古のインストラクションだ!

 

 そして、森田は気づいた。自分はニンジャスレイヤー=サンをソンケイするあまり、その模倣に固執して、自らの特性を活かそうとしてこなかったのではないかと!!

 

 「……たしかこの辺りに記述が……」

 

 「おい、どうみても一家相伝っぽい代物だろう。私の前で広げて良いのか」

 

 「レイコ=サンなら、そんな無粋をしないと信頼している」

 

 ストレートに言われて、言葉に詰まり頬を赤らめる零子。そこまで同期に信頼されていて、忍びの一人として悪い気はしなかったのだろう。いつの間にか森田が饗していた熱いチャを音を立てずに飲み、彼女は色々と誤魔化すのであった。

 

 「あった」

 

 「参考になりそうか?」

 

 「困難だが、不可能ではない」

 

 マキモノ・オブ・シークレット・ニンジャアーツ、その古い記述の更に古い頃、エド・イラの初期にある〝実現しなかった発想〟が森田のニューロンを打った!

 

 これならば、これならばジツを更なる高みに持って行けると確信できる一文であった。

 

 「センセイ! どうなさいました!? って、対魔忍!?」

 

 無意識に気が昂ぶってしまったのだろう。部屋でシュギョーの疲れから泥のように眠っていた葉月が空気の変動を感じ、カタナを手に駆け上がってきた。寝間着として渡した浴衣は寝ている間にはだけたのか、その相対的に豊満な色々がチラついて青少年のなんかがアブナイ状態にあるではないか!!

 

 「落ち着け、ハヅキ=サン。彼女は密殺中隊の者だ」

 

 「ああ、密殺中隊の……いや、センセイ個人に向けた暗殺者の部隊員だから安心しろって、よく考えたら何かおかしくないですか?」

 

 冷静になると酷く矛盾したコトダマに葉月は一瞬正気に返ったが、師から名目と現実は違うと言われ、違和感をとりあえず呑み込むことにした。

 

 「そうだ、レイコ=サン、折角なので弟子に稽古を付けてやってくれないか。俺では中距離戦を仕込むのに限界がある」

 

 「本当に人を都合よく使おうとするな貴様……魔族を強くする、というのは少し思うところもあるが、まぁ仕方ないか」

 

 「えぇ!? 今からですか!?」

 

 いやいやと森田は首を横に振った。今日もかなりハードな鍛錬を貸したので、これ以上は明らかにオーバーワークだ。どうせ激戦を繰り広げたという報告書をデッチ上げるため、一日二日は滞在していくのだろうから夜が明けてからで良い。

 

 「うへー……明日は組み手稽古ですか……きゅーん……」

 

 「なんだ、藤木戸の弟子の割りに情けないな。アイツは出稽古に一日五回出て、両足の骨が折れても戦い続けた狂人だぞ」

 

 「せ、センセイ、そんなことしてたんですか……?」

 

 「若かったんだ」

 

 無茶な鍛錬でカラテを磨いた若い頃を思い出し、それを考えると割と自分は過保護なのでは? と思いつつ、森田は静かにマキモノを丸めた。

 

 決断的な覚悟を込めるよう、紐を結ぶ力に強くして…………。

 

 




あくまでニンジャヘッズに過ぎないことを忘れてはいけないのです。
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