ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド3

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 諜報の世界は極めて厳しい物だ。

 

 何ヶ月も所属がバレたら殺されるやも知れぬ相手と、まるで気の置けない相手のように振るまい、その裏で必要な情報を漁って転送する。

 

 必要とあれば邪魔な標的を排除し、その痕跡を一切残さず始末する必要があるのみならず、任務の性質においてはそのまま残らなければならないこともあった。

 

 従事中、心にのし掛かる重さは想像を絶する物があり、神経を常にストレス物質が焼き続ける地獄は、実際に果たしたことがある者にしか分からない。

 

 しかし、それはとてつもないスリルをもたらす。

 

 日常を生きていれば絶対に獲得できないような。それに安全が確約されている、バンジージャンプやジェットコースターのような偽りのスリルでも得られない感覚が。

 

 これに溺れて、逃げ出せなくなっていく者は多い。

 

 ある者は闘争に求め、ある者はヒリつくようなギャンブルに浸かり、ある者は身を投げ出すようなエクストリームスポーツに興じる。

 

 しかし、その全てに勝るのが諜報任務であろうと信じる兵士がいた。

 

 ヨミハラ、とある娼館のサーバールームに脱ぎ捨てられた衣装があった。扇情的で局所を最低限のみ隠す、いや、僅かな挙動でまろび出ることを期待させる衣装のセンスは一旦置こう。

 

 そして、春を売る施設である娼館にサーバールームといった、高度な電子的設備が設置されていることも。

 

 何にせよ珍しいことではないのだ。ヨミハラにおいて最も多い職種故、気軽に出店して、内部を密かに回想し良からぬことの隠れ蓑として売春業を行うことは。

 

 この娼館はノマドの息が掛かっていないように見せかけて、実体はヨミハラ中の情報を彼の組織がため集約する情報拠点の一つ。データセンターは同様の施設と連携されており、真偽定かなる噂から、その噂を調べ上げて真実に辿り着いたものまで様々な物が詰まった無形の宝物庫。

 

 際どい娼婦装束を脱ぎ捨てて、メタリックブルーの特殊な装束に着替えた女は、いつバレるか分からぬヒリ付くようなスリルを堪能しながら、サーバールームを管制するコンソールに取り付いて、急かされるようにキーをタッチしていた。

 

 「やっぱり、このサーバールーム自体はスタンドアロン化されているし、他情報拠点との接続も有線のみでのクローズドネットワーク。誰か専門家が構築の手引きをしているわね」

 

 コンソールには様々なスクリプトが展開されており高速で情報を処理しながら回っており、傍らで開かれたメンテナンスハッチの回線には様々な回線が中継されて、電波を送ろうと試みているが、サーバールームは電波暗室構造になっているのか無線でデータを外部に漏洩させることはできなかった。

 

 「薬の流通経路、マフィア間抗争の結末、それから武器のルート……」

 

 ブツブツと自分にしか聞こえない程度の声量で独り言をつぶやきながら、彼女は宝物庫の中身を存分に見聞して、唇の端をつり上げた。

 

 危険な娼婦、それも〝何でもアリ〟のオプションを付けて潜入した甲斐があったというものだ。

 

 「バックドア構築、回線経路は……ここね……これなら外から掘り出して繋げれば、全部筒抜けにできる」

 

 全ての作業を終えて、微笑みと共にエンターキーを押した彼女は、撮影した作業前の状態にサーバールームを復元すると、また淫靡な衣装に着替えて何食わぬ顔で待機室に戻っていった。

 

 「おい、ご指名が入ったぞ」

 

 「あら、そう? じゃあ、頑張ってこようかしら」

 

 待機室で化粧を直し、何食わぬ顔で待つことしばし、バレていやしないか、誰かサーバールームの動きに気付いていないか。自分が不在だった時間に違和感を抱いてはいかなというスリルに身を焦がしながら文庫本を読んで待っていた彼女に声が掛かった。

 

 筋骨逞しい体をはち切れんばかりのスーツで覆ったオークのボーイは、どういう訳か軽機関銃をぶら下げていた。米連製の放出品で非合法なのは勿論のこと、通常は腰に拳銃を吊っているだけなので妙だった。

 

 まさか、バレた?

 

 一瞬の硬直にオークも気付いたのだろう。さっさと立てとばかりに銃口をくいと持ち上げて急かす。

 

 そして、待機室を出ると扉の両脇をまた、自動小銃で武装したオークが二人張っていたではないか。ドラムマガジンを装備した大口径のそれは、どちらかというとバトルライフルめいたもので、頑強な装甲に対応しようとして用意されていることが在り在りと分かる。

 

 『……しくじった、か。私のスリルもここまでかしら』

 

 三人のオークに挟まれて連行される女の行く先は、硝子張りのVIPルームであった。

 

 そこには店のオーナーが葉巻を咥えて不貞不貞しく座っており、隣では如何にもナードらしいボサついた髪のアジア人が座っていた。

 

 「まぁ、察しは付いてるだろうが……驚いたよ、お前がスパイだったなんてな」

 

 オーナーは煙をぷかりと一つ吐けば、勤務態度はよかったし、客の要望にも喜んで応える雌犬だったから油断していたと独り言のように言う。

 

 「だが、最期のツメが甘かったな。監視カメラをループ状態にしたのはよかったが……」

 

 「が、がが、画像処理に、え、ええ、AIを使っている……すす、数分おきにスキャンして、ああ、明らかに、動きが、いいい、一致してたら、つ、通報する、仕組み……」

 

 アジア人はノマドに雇われた技師なのだろう。監視システムをAIで強化し、古典的な守衛であれば騙せる小技を無効化していたのだ。

 

 「ま、本来なら沈めて終いなんだが、それも芸がないからなな。ちょっとした出し物のアテになってくれや。それで負債はチャラにしてやる」

 

 オークに背中を蹴倒された女は、VIPルームに設置された、八畳ほどの広さがある水槽めいた空間に隔離されてしまった。

 

 そして、オーナーが手元のリモコンを操作すると、地面の四隅がせり上がって棺桶のような檻が現れる。

 

 その内の一つが開けば、現れたのは……魔界産のサルだった。

 

 ただの猿ではない。極彩色の被毛に恐ろしいまでの密度で筋肉が詰まった四肢、そして何よりも知性があることを窺わせる下卑た笑み!

 

 「こっ、これはっ……」

 

 「まぁ、そういうのと〝ヤらせて〟喜ぶ客も多くてな。ウチの裏メニューってやつだ。お前、何でもアリなんだろ?」

 

 じゃあ、猿に犯されてバラバラにされた上、脳味噌啜られるのも仕事の内だろう? そう邪悪に笑うオーナーに女は顔を引き攣らせると同時に笑った。

 

 スリルの行き着く果てが、こういう物だと分かっているつもりではあった。

 

 脳味噌がヒリ付いている。回避策はと冷静な部分が逃げ道を探しているが、衣装に隠せる程度の暗器でどうこうできる相手でもなさそうだ。既に観戦モードに入り始めた守衛のオーク含めて、娼館全てを殲滅できるほどの備えはない。

 

 置いてきてしまった装備があれば、この程度の状況、スリルでもなんでもないが、こうなれば……。

 

 「きゃっ!?」

 

 考えを巡らせている間に猿が彼女を組み敷いた。

 

 「さて、イーシャ……いや、イーオと呼ぶべきか。精々暴れて客を楽しませてくれよ。映像もちゃんと編集して売ってやるからな。ああ、お前の雇用主にも送ってやるから安心しろ」

 

 「くっ!!」

 

 彼女の名はイーオ・オライオン。米連の特殊工作エージェントであり、サテライトの異名を持つ妙手だ。つり目がちの琥珀色をした瞳は意志が強そうで、整えた眉と相まって強い女を体現したような顔付きをしているが、さしもの状況に歪みつつある。そのバストは大変豊満であった。

 

 透明な檻の中を逃げ回って活路を探す彼女だが、武器もなく、頼りのスライミー・スキンもなく魔界の生物と戦わされては、生身の人間である以上打つ手はない。

 

 スリルが行き着く先、それはいつも決まっている。

 

 破滅だ。

 

 そうヒリ付くのを通り越して、体が焦げ付く感覚を覚えながら逃走を繰り返す彼女であったが、埒が明かんとオーナーは手元のリモコンを操作した。

 

 全ての猿を一気に解き放つつもりなのだ。

 

 「きゃあ!?」

 

 三匹の猿に群がられて遂に動きを止められたイーオ! 彼女の被服は剥ぎ取られるのではなく、ズラされてしまおうとしている!

 

 このまま彼女はスリルの贄となってしまうのか! このままでは青少年のなんかがアブナイ!!

 

 「あ? 一個開いてないぞ」

 

 「ここっこ、故障ですかね……」

 

 「くっ……離せ! 離せ! い……い……」

 

 痴態を楽しみにしていたオークは気付いていないが、興業かつスパイの粛正として見ていたオーナーは四つある檻の一つが空いていないことに気が付いた。

 

 ボタンを二度、三度も押しても反応がないので、本当に故障かと舌打ちをした瞬間……。

 

 「「イヤーッ!!」」

 

 さて、ここでニンジャ読解力を持つ読者諸君なら気付いただろう。二つに重なった悲鳴、いや、その一方が決断的カラテシャウトであることに!!

 

 KRA-TOON!! 檻の内部より蹴り開かれた扉がイーオに跨がっていた猿に直撃! そのまま壁際まで押し潰してストロベリージャムの如くぶちまける! 何たるサツバツ!

 

 「なっなんだぁ!?」

 

 そして、檻を自ら破壊した獣が解き放たれる! 獣といっても猿ではなく、全ての悪辣に対する殺戮者のエントリーだ!!

 

 「Wasshoi!!」

 

 力強いシャウトと共に飛びだしたサツバツナイトはチョップ一撃で猿二頭の頭部を粉砕! そして、オーナーに向き直ると、丁寧にアイサツをした!

 

 「ドーモ、ノマドの皆さん、サツバツナイトです」

 

 「さっ、ささ、サツバツナイト!? な、何故ここがバレた!?」

 

 「露骨なまでに臭いがないところは却って臭い物だ。よく覚えておくと良い」

 

 突然のエントリーに驚いたオーナーに堂々と宣言したサツバツナイトであったが、しかし本当にヤスブシンで扉が開かないとは思っていなかったぞと愚痴った。

 

 それから決断的な足取りで硝子の縁に歩み寄り、拳を打ち付ける。

 

 「はっ、はは! 馬鹿め! それは魔界性テクタイトの……」

 

 「イヤーッ!!」

 

 寸勁、そう読んでよい僅かな振りかぶりで、人界には存在しない透明度と硬度の硝子が砕け散った! 本来起こりえないことに、そして圧倒的な暴が解き放たれたことによってオーナーと技術担当は失禁! 自分達の僅かな後の将来を予想して気絶!

 

 しかし、そんなことはサツバツナイトに関係ない。開けた穴から飛びだして、守衛オークを瞬く間にスレイすると、インタビューのため連れ帰るつもりなのだろう。腰から縄の束を取り出して、瞬く間にオーナーとナードを縛り上げた!

 

 「その出で立ち、その姿……まさか、マゾクスレイヤー!」

 

 「……今の俺はサツバツナイトだ、イーオ・オライオン=サン」

 

 拘束した情報源二つを引っ提げ、彼は顎で出口に通じるドアを指さした。

 

 「米連とコトを構えるつもりはない。警備は黙らせてある故、行くがよい」

 

 「毎度毎度倉庫の物を盗んでいってヌケヌケと……」

 

 「その代金は払っているつもりだ。俺が有効活用し、平和になる。上等であろう。今日は両手が埋まっている故、自力で帰るがいい」

 

 一人で全てを終わらせ、一人で納得したニンジャは天井を蹴り破って何処かへ消えていった。

 

 しかし、去らないスリルの波。体がぞわつき、股ぐらが熱を帯びるような恐怖……サツバツナイトの刃圏に踏み込んで生き残った。

 

 そのかつて味わったことのないスリルに震えながら、イーオは乱れた着衣を戻し、割れた穴からフラフラと這いだした。

 

 そして、この世にはまだ自分が知らない、無上のスリルがあるのだと体を震わせるのであった…………。

 

 




どうして対魔忍世界の諜報員は娼婦に偽装したがるのであろうか。

イーオ=サンもケツアナこと決戦アリーナからの参戦組なので、思い入れがあるので登場していただきました。RPGでは設定が盛られまくって、とても素晴らしいので外見に興味がある場合はWikiなどを参照。

ただ重ねて職場閲覧注意重点な。
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