ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド4

 どのような強力なジツであっても弱点がある。

 

 この世に完璧も完全も存在しないように、一切の欠点がないジツというのは存在しないのだ。

 

 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 一人の対魔忍がオークの屍が積み重なる中で荒い息を吐いていた。

 

 異様なナリの対魔忍であった。

 

 全身を覆うピッチリしたスーツではなく、米連の特殊強化外骨格めいた姿なれど、実用性重視の彼の国と違ってヒロイックなバイザーや角、そしてマフラーで飾ったデザインは白と金、そしてオレンジを基調としたカラーリングが施されており、どこか朝の児童向け番組を想起させる。

 

 「まだっ、まだぁ……正義のヒーローは、こんな所で倒れたりしないんだ……」

 

 そう、装着者が言うとおり正しく正義のヒーローといった風情のそれは、外骨格ではなく物質化した対魔粒子からなる甲冑であった。

 

 そのジツの名を対魔法衣。物理的、魔導的に装着者を守る強力な装甲である上、膂力を何倍にも増強する強力無比なる鎧であるが、大いなる欠点があった。

 

 どれだけ頑張っても三十分が限界という、短い継戦時間だ。

 

 「良い様だな、自称正義の対魔忍」

 

 放棄された東京キングダムの首都外殻放水路、その一角をオークの汚らしい血で染める企てを行った一人の魔族が、崩壊した鉄柱の上から傲岸に彼女を見下した。

 

 「くっ、卑怯だぞ! こんな、部下を使い潰すような真似をして!!」

 

 「戦略だよ。雑兵なんぞ幾らでも生えてくる。特にオークのように下等な生殖猿はな」

 

 この魔族は対魔法衣の弱点を完全に把握し、波状攻撃を行うことで継戦時間を削りにかかったのだ。さすれば、どれだけ強力なジツであろうと限界がくれば勝手に解けてしまう。

 

 正に今のように。

 

 「あっ! あっ、ダメ! 待って!!」

 

 ボロボロと結晶化した対魔粒子で構成されていた装甲が剥落して大気中に解け消えていき、その下に覆われていた対魔忍装束の少女を露わにしていく。

 

 オレンジがかった茶髪は激戦で掻いた汗でしとどに濡れ、大きくつぶらながら強い意志を宿した瞳は困惑に揺れる。そして、今まで甲冑に隠されていた肢体は、そのシルエットに劣らぬほどに豊満であった。

 

 「チェックメイトだな、詩嶋・麦」

 

 「くっ、くっそぉ……!」

 

 強力無比なれど僅か三十分という短い活動時間を、雑兵で押し包んで浪費させるという戦術で無力化した魔族は傲慢に笑った。

 

 チッチッチッチッチ……。

 

 しかし、まだ対魔忍、麦の心は折れていなかった。

 

 ヒーローとは、力があるからヒーロなのではない。最期まで戦い抜く覚悟を持っているからこそヒーロなのだ。

 

 彼女は半身に構えて拳を握り、体内で僅かとなった対魔粒子を活性化させ徒手格闘の準備に入る。

 

 チッチッチッチッチ……。

 

 「健気だなぁ、自称ヒーロー。さて、その我等ノマドに対する暴虐、そしてこれだけ雑兵を減らした罰、どうやって償って貰おうか」

 

 「勝手に言っていればいいさ! まだ終わってない! ヒーローは必ず勝つ! 何故なら、その覚悟を持って戦場に立つからだ!!」

 

 チッチッチッチッチ……。

 

 「空元気もここまで来ると愛らしいな! では、その罰は体で以て支払って貰おう! 失った分のオークを孕んで、兵力を補充するまで使い倒して……」

 

 チッチッチッチッチ……。

 

 「って、さっきから誰だやっかましい!! 舌を鳴らすのを止めろ!!」

 

 良い気分になって鉄柱の上から叫んでいた魔族が、さっきから延々鳴り続いていた異音に対して遂にキレた!

 

 音の方向に向かって振り返れば、そこにあるのは人一人が辛うじて立って通れる細い排水路。その奥から反響してくる、口をすぼめて口蓋と舌を触れあわせる音は、人が猫と戯れようと誘う時の音と似ていた。

 

 いいや、正にその通りであった。

 

 「チッチッチッチッチ……」

 

 「なっ!? きさ、貴様は……」

 

 「あ、貴方は!!」

 

 暗闇の中から現れたのは、赤黒い衣装を纏った一人のニンジャ! 決断的なショドーが施された殺伐の二文字を見間違う者は、今やこの東京キングダムとヨミハラにはいない!

 

 「サツバツナイト!」

 

 「マゾクスレイヤーさん!!」

 

 サツバツナイト! 不義と悪徳を働く人魔全てが魘される悪夢のエントリーだ。

 

 しかし、どういう訳か、サツバツナイトの手にはイナバ=サンのチュールが握られているではないか。封を切って先端を僅かに露出させた、猫が麻薬中毒者もかくやの勢いで群がるオヤツを持って彷徨っている姿は全く以て意味不明!

 

 「ドーモ、サツバツナイトです。猫探しをしている中、ドンパチ喧しい。営業妨害も甚だしいぞ」

 

 そう、サツバツナイトは表の顔、森田・一郎としての仕事でここに来ていたのだ!

 

 何でも、ヨミハラでも上等な、彼の地には珍しい高度な疑似恋愛を楽しむエド・イラのヨシワラめいた超高級店のトップ嬢が飼っていた愛玩猫が逃げ出してしまったせいで、捜索の依頼を請け負ったが故、当て所なく猫が惹かれることに定評のあるオヤツを持って彷徨っていたのだ!

 

 「ね、猫だと!?」

 

 「そうだ。この子だ、見ていないか」

 

 スリケンのような勢いで投じられた写真を反射的に魔族は受け取っていた! そこに映っているのは、着崩したキモノも麗しい美女が抱いている一匹のブリティッシュショートヘアー! 彼は反射的に、こっちのオイランと前後したいと思ったが、冷静になると答えてやる義理が何処にもないことに気付いた。

 

 「猫なんぞ私が知る……」

 

 訳ないだろう、とは言い切れなかった。

 

 今度は本物のスリケンが飛来して魔族の額に突き立ったからだ。

 

 「まぁ、元より期待はしていなかった」

 

 ふぅ、と嘆息を付くサツバツナイト。彼は軽い身のこなしで飛び上がり、あっと言う間にスレイされた魔族の掌から零れ落ちた写真を回収する。

 

 そして、頽れた死体が落下したせいで開いた鉄柱の上に陣取ると、彼は対魔忍を包囲しているオーク達を冷徹に見下ろした。

 

 「と、頭領がやられた!」

 

 「ど、どうする?」

 

 「どうするたって……」

 

 顔を見合わせてオロオロするオーク達。しかし、彼等に選択肢はなかった。

 

 「邪悪なるマゾク、殺すべし」

 

 一人の対魔忍を寄って集って殺そうとしていた者達の悪徳を、彼が見逃す道理がどこにもないからだ。

 

 「イヤーッ!!」

 

 色つきの風が暴れ廻る度にオーク達の頭部が熟れすぎたザクロめいて破裂した! その間合いは常より長く、拳より先にいるオークの頭部さえ砕けていく。

 

 そう、サツバツナイトは里を抜けてしばらくしてから失った兵装、ヌンチャクを取り戻したが故に思う存分振り回していたのだ! 鎖が首を切断し、棍の部分が打ち砕く! 赤黒い暴風が抜ける度に残るのは、体の一部がネギトロめいて粉砕された死体の山! 一瞬で地下空間は血生臭いツキジと化した!

 

 殲滅に要した時間はわずか瞬き三十回分! あっと言う間、正しく起死回生の展開に対魔忍、麦は自分が助かったことが信じられないまま謎の安堵を覚えると同時、懐かしき再会に涙した!

 

 「マゾクスレイヤーさん! いえ……藤木戸先生!!」

 

 「……久しいな、シジマ・ムギ=サン」

 

 この二人、実は面識があったのだ。それもただの知り合いではなく、濃密なカラテ・インストラクションを介した。

 

 藤木戸は一時、五車学園での徒手格闘教諭補佐をやっていたことがある。その頃の彼は下忍に成り立てでジツが使えないと思われていたが、飛び抜けた近接格闘の腕から未熟な生徒の補助教員として、才能ある新芽達に特別インストラクションを行っていた。

 

 その一人が麦であり、彼女は学生だった頃にジツが使えなかったのだ。

 

 故に彼はノーカラテ・ノーニンジャの理論で彼女を慰め、鍛えてやっていたのだが、直後の任務で命の危機に陥った彼女は対魔法衣に開眼。一躍カラテしかできない下忍から、強力な物質精製忍法が使えるホープへと成り上がったのである。

 

 「こんなところで先生に会えるなんて! 助かりました! 私、もう駄目かもって……」

 

 「ところでムギ=サン」

 

 どこか冷たいサツバツナイトの言葉に彼女は一瞬固まった。怒られる覚えが大いにあったからだ。

 

 「カラテを疎かにしたな?」

 

 「い、いや、その、ヒーローの性といいますか、その、囲まれたらつい変身……」

 

 「タイマホウイ・ジツは俺も羨む強力なジツだが、継戦能力に不安のあるジツだ。雑魚はカラテで遇い、キンボシにこそ使うべしと徹底して教えたはずだが……」

 

 「ご、ごめんなさい! ヒーロー活動が楽しくて調子に乗ってましたぁぁぁ!!」

 

 即座に頭を下げる麦! しかしサツバツナイトの視線は変わらず冷たいまま!

 

 アーチ級ニンジャ装束を精製するなどという、藤木戸からすれば喉から手が出るほど羨ましいジツを持っているというのに、斯くもモッタイナイ使い方をして窮地に陥るなど、何のために教えを授けたのかという話だ。

 

 ジッサイ、麦のカラテならば対魔法衣など使わずともオークの五十や百を殺すことは難しくなく、いざという時に温存できた。

 

 いや、温存できるように鍛え上げさせたのだ。

 

 それがこの様かとサツバツナイトは小さく溜息を吐いた。

 

 「ならば、カラテを再び仕込まねばならんな」

 

 「え? ちょ、先生……?」

 

 「カラテだ、カラテあるのみ」

 

 疲弊しきっていた麦の体をひょいと持ち上げると、サツバツナイトは決断的な足取りでヨミハラへ向かおうとする。

 

 「ちょっ、まっ、待ってください! 私、一応先生を追う密殺中隊にアサインされて……」

 

 「なるほど、ヒーロー活動に注力し過ぎてアサギ=サンが活を入れるために差配したのか。それならば尚更カラテだ」

 

 「あっ、あああ、いやっ、ちょっと……」

 

 外殻排水路の穴から響く悲鳴は反響し、アイエエェェェェ!? と何とも間抜けな調子に変換されていた。

 

 尚、これは余談であるが、藤木戸がドロドロになりながら三日間探していた猫は、ただ単に娼館の布団室で遊んでいただけでジッサイは失踪などしておらず、テツケ以外貰えない草臥れ損に終わったそうな…………。

 

 




ムギ=サンもRPGからのキャラで、知人からツヨイ・オシ・ジツを喰らったので搭乗です。その外見は珍しく職場閲覧注意重点ではないので青少年のなんかに優しいですよ。

ただ、別バージョンはいつもの対魔忍なので、やっぱり職場閲覧注意な。

年代的にムギ=サンは後期ライダー組だから知らないのでしょうね。レジェンドのホンゴウ=サンは雑兵は変身せず駆逐して、ボス相手になってから変身するメソッドを。
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