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シャワールームから出たさくらは、頭を拭いながら、これは割と直ぐに大所帯になってしまうのではと思いつつロッカールームに出た。その胸は姉より更に豊満であった。
現在、ロッカーに名札が張ってあるのは四人。中隊長であるさくらと、監督役である上忍の蓮魔・零子、藤木戸が理由なく裏切るはずがないと信じている詩嶋・麦。
そして、つい先日、えらく泣きを入れて頼んだのか、新たに八津・紫のネームプレートも加わった。
というのも、密殺中隊がアサギの信認篤い、実質子飼いの部隊であると見做されているのもあるが、直々に仰せつかった桐生・佐馬斗の世話役というのが相当に嫌だったのだろう。
まぁ、〝アレ〟の相手を延々させられるのは自分も嫌かと思いつつ、さくらは短く整えた髪をドライヤーで乾かした後、ヘアケアを行い化粧水を馴染ませて、軽くデオドランドスプレーを振って密殺中隊専用のシャワールームを出た。
そして、向かう先は官舎のダイニングだ。
ここは五車学園から少し離れた所にある、中隊戦用に設えられた小さなアパートめいた建物。アサギとしては将来的に中隊構想を推し進めるにあたって、部隊を一纏まりで生活させることで即応性を高めると同時、中隊員が単独行動して撃破されづらくするべく、共同生活を送らせる案を練っているのだ。
その叩き台として密殺中隊の官舎が建てられたのであるが、内部は質素ながら設備も充実しており、自分達で掃除しなくてはならない問題はあったが、作り置きの料理が支給されることもあって生活の便は非常に良い。
「コーラコーラっと」
「……井河、なんという格好で彷徨いてる」
ぺたぺたと素足で歩きながら冷蔵庫のコーラを求めていたさくらは、思わずうぇっという声を上げてしまった。
「レイコ=サン……」
「年頃の婦女子がインナーと短パンで出歩くとは……将来的に男性が所属することになったらどうするんだ」
あまりに奔放な格好で出歩いているさくらを咎めたのは、訓練上がりの零子であった。彼女も風呂仕度を整えており、鍛錬の汗を流すつもりであったのだろう。
「気を付けまーす」
「あまり気を抜いていると井河主任に……いや、藤木戸に叱らせるぞ」
「ちょっ!? そこでけんにぃ出すの狡くない!?」
途端に慌て出す後輩にして中隊長を笑った後、零子は少し真面目な顔をして小脇に抱えていた書類をダイニングの卓上に置いた。
茶色いファイルには〝部外秘〟や〝複写禁止〟の判子が捺された機密書類であることが嫌というほど誇示されており、内容が重要なものであることが分かる。
「第二次、藤木戸・健二捕縛作戦かぁ」
しかし、それを解いて中身を改めたさくらの感想は、どこか等閑なものだった。
まぁ、無理もない。実績作りという体でアサギが仕事してますよアピールのため回してくる仕事であって、ジッサイはヨミハラでサツバツナイトと合同任務をしましょう、という茶番の筋書きなのだ。
「えーと、何々? 高級クラブ〝エソテリカ〟にて活動の兆候アリ。同所にて元五車対魔忍三名がキャストとして囚われており……」
「井河、機密書類を堂々読み上げるな」
「いやー、でもこれって〝いつもの〟じゃないですか」
「それでもだ。お前も来年で卒業だろう。体裁を繕って大人になることを覚えろ」
「はぁい」
気温差で汗を掻いたコーラのペットボトルを呷りながら、彼女は自分の部屋にあるシュレッダーに書類を放り込みに上がった。
依頼の書類は、ぶっちゃけるとペラ紙一枚なのでさしたる価値もないのだが、見た後は処分するように言われているので仕方がない。そこら辺をちゃんと出来るようになってきたからこそ、そして、もっと長じて欲しいからこそアサギはさくらを中隊長に任じたのであろう。
任務の決行は来週。作戦をそれまでに練らねばならないのだが、零子はさくらが一人の対魔忍としては一角のものであっても、頼れる中隊長の演技をできるようになるまで、どれだけ時間が必要かと額に手をやるのだった…………。
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「あれ? 妹弟子だけ? けんにぃは?」
「だから、妹弟子じゃありません」
ぐるる、と不快そうに喉を鳴らす葉月だけが合流ポイントにいた。
ヨミハラで有り触れた棄てられたビルの一角に集った対魔忍と森田興信所であるのだが、肝心の藤木戸が不在であることにさくらは首を傾げる。
「センセイは現在、先行してクラブ〝エソテリカ〟に潜入中です」
「えっ!? 危なくない!?」
「……対魔忍のように内部に潜入するためにボーイをやってるんじゃありませんよ。客として通ってるんです」
そう言われて、さくらはとても嫌なことを聞いたというような顔をした。
慕っている歳の離れた幼馴染みが、ほとんど違法行為をウリにしているようなクラブに諜報のためとはいえ、客として出入りしているのが気に食わなかったのだろう。
「センセイはとても真面目なので、すけべぇなサクラ=サンが想像しているようなことはしてませんよ!」
「すっ、スケベ!? 誰がよ!!」
「井河」
零子に叱られて、いけないとさくらは表情を取り繕った。
実際のところ、藤木戸は諜報のため客として入り、カウンターで黙々と酒を飲んでバーテンやキャストから情報を仕入れているだけで、VIP席で受けられるような〝サービス〟は固辞していた。
ただ、客ではなく斡旋業者のように振る舞って、パイプを構築しようとはしているため怪しまれていないのだ。
「今日はメインキャストの誕生日とかで、イベントがあるそうです。何本もシャンパンが開くような饗宴が催され、主要客も揃い踏みで、キャストも全員出勤だとか」
「すご、一網打尽にする超チャンスじゃん。けんにぃ、そんなことまで調べられたんだ」
「こちらが見取り図です」
「青写真? よく手に入れられたな」
足が一本なくて傾いた机の上に広げられたのは、クラブの地図だった。それを見て、よくぞそれだけの機密情報を引っ張ってきたなと思った紫であるが、葉月曰く関係者の関係者を辿って〝インタビュー〟した結果だと答えた。
「インタビュー……か」
「はい、インタビューです」
佐馬斗にした拷問の凄絶さを思いだしたのであろう。その場にいた三人の顔色が少し悪くなる。おお、一体どれだけの陰惨な仕打ちの末に、この紙が机の上に乗ったであろうか!
「それで、密殺中隊側で作戦を練ってきましたか?」
「いやー、正直、これだけ戦力揃ってたら平押しでいいんじゃない? って結論に至っちゃってさー……」
てへへーと笑うさくらに対し、葉月は眇めになったあと、懐から封筒を取りだした。
「なにこれ」
「さくらさんがそう言ったら渡せと言われてあります」
「何々……えっ!? ゼロ点!?」
藤木戸がさくらとのやり取りを事前に想定し、メッセージを託してあったのだが、やはり頭対魔忍な作戦を練ってくるのではなかろうかと事前予測していたのか、その評価は大変に辛いものであった。
「まず、センセイが考えた作戦ですが、ムラサキ=サンとムギ=サンにはこちらに着替えて欲しいそうです」
「……パーティードレス?」
「またえらく際どいなー……」
指名された二人は、寄越された紙袋の中身を見て顔を顰めた。それぞれのメインカラーに従って用意された高級そうなドレスなのだが、背中がガバッと開いていたり、謎にスリットが深かったり、完璧なヨミハラ仕様なのだ。
それは年頃の二人ならば嫌な顔もするだろう。
「一つ断っておきますと、センセイのチョイスじゃないですよ。文句はシズル=サンにいってください」
「高坂さん……」
紫はドレスを掴んで肩を落とした。藤木戸が選んだのであったら、それはそれで嫌だが、同性に〝これが似合う〟と選ばれたのも嫌だったのであろう。
「お二人は武装なし、完全なボディチェックを潜り抜けても戦闘できるニンジャなので、内側からの攪乱を行うため、あとでセンセイが同伴した客として中に入ってください」
「……まぁ、理に適ってはいるな」
「……ですね」
紫は〝不死覚醒〟と呼ばれる、脳と心臓を同時に完全破壊されないかぎり蘇生する理不尽なタフネスを誇る上、元々の膂力もオーガを素手で八つ裂きにできる法外な領域にある。
そして麦は〝対魔法衣〟と呼ばれる対魔粒子からなるエグゾスカルを精製できるため、これまた無手でも凄まじい戦闘力を発揮できた。
そうであるなら、無警戒のままに招き入れさせ、破壊工作任務に充てるのが最適と言えよう。
「で、ムギ=サンは電気室を、ムラサキ=サンは警備室を抑えてください。VIPの逃走用にエレベーターが設置してあるので、電気室の破壊はマストだそうです」
「そういえば、議員や官僚も多く参加しているのだったな」
「はい。なので、電撃的な奇襲で全て抑えないと、質の悪い護衛の流れ弾でパッケージが損傷する可能性があります。だからセンセイは力押しではいけないと判断して作戦を組み立てました」
「けんにぃ、こんな器用なこと考えられたんだ……」
基本的にマゾクスレイヤーだったころもサツバツナイトになったあとも、藤木戸は最終的に全員殺せば良いのだと力押しをしているイメージが強いが、アレでいて結構考えて色々やっているのだ。
あの意外な所から意外な格好で現れるデオチめいた奇行も、全て計算尽くであり、情報源をうっかり殺してしまったり、逃がしたりしないよう冷徹な計算の末に行われている。
状況判断を正しく行い、フーリンカザンを実現するために情報は不可欠。故に彼はトンチキな奇行に手を染めているように見えて、下調べを欠かさない。
ただただ、崇敬するニンジャスレイヤー=サンのデオチ・ジツを真似してやっている訳ではないのであった。
「その後、センセイがVIPを抑えるので、ボクとレイコ=サンで強襲し、残敵を掃討します」
「えっ、ちょっと、私は?」
名前を挙げられなかったさくらが自分の顔を指さすが、それに零子は呆れたような溜息を漏らした。
「お前は中隊長、実質の指揮を執る立場だぞ。何かあった時のため、戦力が手薄なところに動けるよう待機しておかせるのが普通だ」
「レイコ=サンの仰る通りです。センセイは、サクラ=サンのカゲ・トン・ジツなら何処のカバーにも直ぐ入れるので、遊撃に当たって欲しいと」
「えー? 何かつまんないなー」
露骨にぶー垂れるさくらの後頭部を遂に紫が叩いた。彼女にも直情的なところはあるが、友人にもうちょっと考えて動けと言いたかったのであろう。
「では、準備に三十分時間が用意してあるので、お着替えお願いします。上手く言ったら、あと一歩まで追い詰めたという証拠に予備のメンポを持って帰って欲しいそうです」
「けんにぃのメンポを!?」
「それくらいの手柄がないと、アサギ=サンが動きづらくなるだろうと」
そりゃまたキンボシオオキイと驚くさくらを余所に、ドレスを渡された二人は広げて見て非情に憂鬱そうな顔をしていた。
「気が進まんなぁ……」
「あの、これ腰の所なんで布ないんです? パンツ見えちゃう……というか、何の意味があってこのデザイン? というか、おっぱいの所にも穴が……」
「詩嶋、もう深く考えるな。私のにも空いてる。ご丁寧に見せ付けるようの下着も入ってるぞ」
「えぇ……」
ヨミハラ仕様ドレスにドン引きする二人を残して各々配置につき、作戦開始を待つことに。
そして、作戦はサツバツナイトが立てた通り上首尾に運び、少しだけであるがさくらに作戦の重要さを思い知らせることとなる。
まぁ、その当人は猛者がいなかったこと、スレイすべき邪悪なマゾクの不在に不満気に帰っていったので、実のところ興が乗らなかったため策を弄したということは、当人の頭の中だけに存在する事実であった…………。
オハヨ!(遅め)
アイエエェェェェ!? UA50万越え!? 四半期1位ナンデ!?
ジッサイ対魔忍は平押しやめて、諜報特異なのが逃亡ルート塞いで囲んでボーで叩けば大体の問題が解決すると思うんですよ。なので大駒を単騎運用するのやめてもろて……。