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「イヤーッ!!」
「いぃぃやぁぁぁ!!」
戦いの序盤は緩やかに、しかし激烈に始まった。
アイサツの礼を解いて0.1秒、ニンジャのイクサはそこから始まる。
攻撃してはならぬのはアイサツが終わるまでのこと。礼を示した後、その刹那からイクサの火蓋は切って落とされているのだ。対応できなかった
「ちぃっ!?」
酷く甲高く、同時に鈍い音を立てて手甲を兼ねた、朧の主兵装たる鉤爪に大きな裂傷が生まれた。
「馬鹿の一つ覚え、早漏みたいに数を投げてくるかと思ってたけど、今度は数をこなせなくなったわけ!?」
「否! 俺のカラテと
イクサが始まると同時、マゾクスレイヤーはスリケンを投擲していた。それが忍者同士の戦いで彼が取る定石、つまり様子見であるが――この程度で死ぬ相手にカラテは要らぬという、一種の物差しでもあった――今回は初撃に必殺の威力を込めている。
彼が崇敬するニンジャスレイヤー=サンの師ことローシ・ニンジャは、インストラクションとして速さで競うとキメたのであれば百発のスリケンが効かぬからといって一発に威力を込める、つまりヤバカレバカレで力業に走るのではなく、等しい技量で十倍の攻撃を加えよと教えた。
しかし、悲しいかな、それは血中カラテよりスリケンを精製できるニンジャに限った話。藤木戸の装備、スリケンホルスターには全部で二十のスリケンしか装填できぬ。
だが、作中にはそのインストラクションとは真逆のようでいて、師の教えに従った暗黒カラテの奥義、ヒサツ・ワザがある。
ツヨイ・スリケンだ。
全身の筋肉が縄めいて隆起し、足腰から上体までの筋肉が捻転する動きが完全に合一。千発のスリケンを放てる力が一発のスリケンに集中する様は、ヤバレカバレで速球を投げるのとは訳が違う。
当たれば確実に致命となる一撃、それを再現するため、マゾクスレイヤーは血が滲むような訓練を積んだ。
そして、行き着いた先が腰だめにスリケンを構え、左の親指と人差し指で満身の力を込めて保持し、それがすっぽ抜けるほどの力を込めた右手で投擲するという、デコピン・メソッドめいた変則ツヨイ・スリケンであったのだ!
『つぅっ……腕甲に一発で罅が!? 特殊魔導合金だよコイツは!?』
余裕たっぷりに性的表現を込めて煽るようなことを言ったが、ジッサイ朧には余裕はなかった。
主武装たる鉤爪、それは魔界の金属を鍛えた攻防一体の、彼女のみが扱える最強の武器であるのだが、それに罅が入ったのだ。
そして彼女は、どちらかと言えば暗夜にて躍る忍者である。〝徒手格闘において最強〟と名高いマゾクスレイヤーと真面にカラテをできるほど鍛えてはいない。
「イヤーッ!!」
「くぅぅ!?」
更なるツヨイ・スリケンを弾き返せば、三連装の鉤爪、その一つが大きく欠けた。
そして、彼女はニンジャ状況判断によってゾクリと寒気を覚えることとなる。
マゾクスレイヤーは明確に、頭部や胸部ではなく、態と弾き返せるような位置を狙ってスリケンを投擲してきていた。
「コイツ、アタシの得物を!! それに、この爆破は!!」
「今更気付いたか。活人剣インストラクションだ。貴様は殺しても、乗り移れる肉体があればしぶとく甦るそうだな。ならば、余人のおらぬ場で四肢を丁寧に捥いで、イモムシの如く惨めに一生を終えさせてやろう」
マゾクスレイヤーの狙い、それは朧の抹殺ではなく完全な無力化。
朧の異能系の
しかし、今やこの破壊されたカオスアリーナであった戦場近郊に生者はいない。観客や闘士、奴隷オークは爆発によって死に絶え、逃れたスネークレディとパワーレディも既に遠方に退避してしまっている。
そして彼女の主戦力たる朧忍群は、娼館やナイトクラブの虐殺を処理すべく出払っており手練れは不在。警備に残される程度の者は皆、瓦礫に押し潰されて爆発四散していた。
「クソがっ!!」
「逃がすと思うてか!! イヤー!!」
せめて人のいる場所に、そう思って空蝉の術を発動して空間転移しようと試みた朧ではあったが、それはマゾクスレイヤーも読み切っていた。
カワリミ・ジツ、忍者が扱う回避技法の中でも最もメジャーといっていいそれは、発動の刹那に入れ替わる物に纏わり付くよう対魔粒子を発する。
それ即ち、鋭敏なニンジャ第六感を持つマゾクスレイヤーにとって、ツヨイ・スリケンを置くように放つだけで読めるような代物でしかないのだ。
「んあっ!?」
咄嗟に手甲を盾としてツヨイ・スリケンを弾くことに成功したが、それは一秒の拘束を生んだ。
だが、それだけでマゾクスレイヤーにとっては十分過ぎた。
「イヤーッ!!」
今ぞ仇討ちの時とばかりに、地面を爆ぜさせる勢いで跳躍。一秒の刹那で間合いを詰めて得意のワン・インチ距離に持ち込んで暗黒カラテの基礎技、カラテチョップを叩き込む。
しかし、朧も伊達に抜け忍となって生き延びていない。硬直から脱するや否や攻撃を受け止め、鉤爪を折られながらも片腕をもぎ取らんと振り下ろされる一撃に反応して見せた。
「イヤー!!」
「舐めるっ、なっ!!」
そして、彼女はそこいらの凡百な空蝉の術使いではない。たとえ体に誰かが触れていたとしても、連続でチョップを叩き込まれている防御中であろうと、転移事故など起こしはしない。このままカラテの比べ合いでは絶対的に不利と判断した彼女は、すぐさま術を使ってマゾクスレイヤーの死角に跳んだが……。
「イヤーッ!!」
「なにーっ!?」
ツヨイ・スリケンは後ろ手にも投げられるのだ! 左肩に直撃したスリケンは頑強な改造対魔忍スーツを貫通! 左肩を付け根からえぐり取った!
「朧=サン、貴様のような姑息なカラテの持ち主が背後に飛ぶことくらい想定済み。俺のツヨイ・スリケンは卑劣な逃亡を逃さぬよう四方に放てるよう鍛えている」
傷口を庇ってしゃがみ込んだ朧と向かい合ったマゾクスレイヤーは、へし折った際にブレーザーに刺さった鉤爪の欠片を悠々と引き抜きながら振り返る。
そして、地に膝を突いた朧へ無情に告げる。
「貴様にはハイクを詠む暇すら与えん。そのままイモムシに仕立て上げてやる故、楽に死ねると思うな」
ハイクを詠む、それはニンジャが死ぬにあたって最後に残す言葉であり、殺す側が殺される側にかける最後の慈悲であるが、マゾクスレイヤーはそれすら許さぬと、ゆるりとスリケンを手に取ったが……朧の哄笑に動きが止まった。
「どうした朧=サン、狂したフリなら俺には効かんぞ」
「いやいや、面白くってねぇ……たしかにアンタは用意周到だったさ。流石にキツかったけど……こっちのが一枚上手でね」
「ナニーッ!?」
言うやいなや、朧は自らの首を折れた鉤爪で掻っ捌いたではないか! 吹き出る血潮! 止まらぬ嘲笑!!
「心転身の術は事前に標を打った標的も対象にできるのさ! そして、その下準備は終わっている! さぁ、最高の結婚式になるといいわねぇ!!」
「貴様っ!! 真逆!!」
それは朧忍軍の誰も知らぬ秘中の秘、この段に至ってやっと生きる窮余の策。
朧のウツセミ・ジツは事前に対象をマーキングしておくことでも発動できるのだ。ノマドという巨大暗黒メガコーポに属する彼女には敵が多く、マゾクスレイヤーの考える程度のことを思いつかない者が今まで現れなかった試しもなし。
一度に大量にストックしておくことはできないが、朧は最悪の状況に備えると同時、最高の余興として既に下準備を終えていたのだ。
即ち、彼女の魂は、既にアサギの婚約者、恭介を乗っ取る下準備を終えていた。
対魔忍暗殺は、それを逸らすための見せ札でしかなかったのである。
「アサギ=サン!!」
「簡単に逃がすと思ったかい!?」
失血で朧の体が機能を失いゆく中、瓦礫と化したカオスアリーナに大量の気配が集まってくるのが分かる。
ここはノマド資本の一大興業地点、ケオスの坩堝であると同時に金の生る樹なのだ。そこが爆破されたとあっては、ヨミハラ中のノマドや、ただ騒ぎに便乗したい連中が集まってくるのは道理である。
異常を察して朧忍軍も既にツキジと化した娼館や拠点から引き返している。それと同時、朧はここに引き上げてくるまでにヨミハラを厳重に隔離するよう、門衛に伝達してあったのだ。
「姑息なっ!!」
飛び上がって離脱しようとしたマゾクスレイヤーに多数のスリケンとクナイダートが襲いかかり、同時に銃弾が雨霰と浴びせ掛けられた。彼は色の付いた風と化して全てを回避するが、数が圧倒的に違う。
モータルの前でニンジャは絶対的な強さを誇るが、それ即ち殺せない訳ではない。マゾクスレイヤーはチャドー呼吸などの身体賦活に優れるが、殺せば死ぬ普通のニンジャだ。一発の弾丸が致命傷となり得る以上、下手に動くことはできぬ。
「退けぇぇぇ!!」
駆けつけてきた雑兵オークの首をカラテチョップの横薙ぎにてダース単位で切断! しかし後から後から湧いてくる軍勢への対応が追いつかぬ。弾幕を避け、忍術を躱し、カラテを挑んでくる巧者を捌いていてはカオスアリーナからの脱出すらおぼつかぬ。
「アサギ=サン! キョウスケ=サン!!」
友の窮地を救うべく上げるカラテシャウトと友人達の名は、しかしヨミハラの闇に虚しく響くのみ。
おお、ブッダよ、まだ寝ておられるのですか!
問うてみても答えが返ってくることはなく、虚飾のネオンがギラギラと笑いかけるように光るばかりであった…………。
原作を遊び直してみたんですが、朧=サンのカラテ描写がなかったので相対的カラテ弱者になってしまいました。あと心転身の術も発動条件などの記載が見当たらなかったので、完全に捏造です。
クロスするなら、される側にもアッパー調整重点な。