ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド11

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 オークの首が飛んだ。重武装し、ボディーアーマーを纏った近代的な装備を纏ったオークの首が正面ゲート、金属探知機ゲートの両脇、そして守衛室に詰めた都合一二の首が一瞬にして。

 

 読者の中にニンジャ動体視力の持ち主はいらっしゃるだろうか。

 

 いや、たとえニンジャ動体視力を持っていたとしても、アーチ級ニンジャでもなければ彼女のグレーター・ツジギリの軌跡すら見えなかっただろう。

 

 首が飛ぶと同時にパァンと甲高い音をが響く。

 

 アサギのハヤブサ・ジツ、その神髄。五体を強化し、通常の一千倍という速度で瞬間的に機動する彼女の速度は最早光速に近しく、刹那に振るわれる刃は超音速を越えてソニックブームの乾いた音を立てるのだ!

 

 そして、瞬き一度でも足りない短時間で守衛の首を全て刎ねたのである! ゴウランガ!!

 

 「悪いけど、今日は最初からトップスピードで行くわ。口上も命乞いも聞かないけど勘弁してちょうだい」

 

 カンニンブクロが最高に暖まったアサギは施設の中を駆け巡る! それは最早、色つきの風を通り越して視認不可な残像すら残さぬ光のちらつきめいており、通り過ぎた後に残るのは首を刎ねられた戦闘員か、逃げられないよう両膝の腱を断たれた研究員のみ! 何たるツキジめいた光景か!

 

 ジゴクの如き光景を作り上げながらもアサギは淡々と、黙々と出会う全てを切り払って進む!

 

 おお、見よ! これぞ最強の対魔忍! 一切の負荷なく、全ての瑕疵を与えられず、全力を出せるアサギの全力機動! 風が吹き荒ぶ後に残るのは死あるのみ! ただ前進制圧するのみで全てが終わる、謀略なくば制圧不能な暴の化身!!

 

 元より警備室は沈黙していたが、仮に万全であっても警報を鳴らす余裕すらなかったであろう! そして、異変を察知して逃げ出そうとした者達の行く手を隔壁が阻む! 同時、施設に三箇所あった退避用のエレベーターがC4爆弾によって爆破され、甲高い音を立ててレールを滑って最下層へ堕ちて行く!!

 

 今正に、この場はアサギのためだけのサップーケイ・キリングフィールドと化したのだ!!

 

 「始めたか、アサギ=サン。では、俺も働くとしよう。サクラ=サン、いつも通りバックアップを」

 

 「りょーかい……うわー、にしてもおねぇちゃんコワ……ガチギレじゃん……」

 

 とぷりとカゲから現れたサツバツナイトも活動を開始した。真っ先に向かうのは武器倉庫であり、施設内の異常を感じ取ったクローンオーク達が駆け抜けながら小銃を銃架より取り上げているが、サツバツナイトは、その間を泳ぐようにすり抜けて手刀で全ての首を刎ねた! サツバツ!

 

 「イヤーッ!!」

 

 裂帛のカラテ・シャウトを上げて屠るオークの数はあっと言う間に数十に膨れ上がり、廊下という廊下が血に染まるが、それでもアサギの素早さには適わない。サツバツナイトが十屠る間にアサギは十五を屠っていくのでキルスコア差は広がるばかり。

 

 「やはり本気のアサギ=サンには追いつけんか……」

 

 この差を埋めるのであれば、光速で近づこうが身を焼き焦がすアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツを全周展開するという対策法もあるのだが、それは飽くまで窮余の策。本気でカラテにて対抗しようと思えば、殺気を読み切って攻撃を〝先に置く〟他ないアサギのカラテはサツバツナイトからしても驚嘆の域にある。

 

 朧やノマド、アサギを手にかけんとする者達が策を弄し、精神を攻めようとするのも納得の暴虐であった。

 

 「ここね」

 

 そして遂にアサギは自らのクローンを生産する工場へ辿り着いた! 培養ポッドには一から三十の数字が割り振られており、その半分以上は空。つまりロールアウトが済んだということだろう。

 

 「行け! アサギにはアサギをぶつけるのだ!!」

 

 隣の戦闘評価室で研究員が叫ぶ。すると中からゾロゾロとアサギのクローンが計十体ほど現れるが……。

 

 「邪魔よ」

 

 その首は、まるで冗談のように刎ねられた! 再び発動したハヤブサ・ジツの前に、不完全なハヤブサ・ジツしか使えないクローン達では反応できなかったのである!!

 

 「そんな! クローンは完全なはず! 忍術の再現もできていた! それがどうして……」

 

 「この程度で完全? 笑わせてくれるわね。それとも芸人志望? だとしたら中々の才能だから応募してみたらどうかしら」

 

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 クローンアサギ製造の研究主任が両膝を切られて頽れる。それに脅える助手達に向かってアサギは艶然と、しかし殺気を込めて決断的に微笑んだ。

 

 「安心して、今は殺さないから」

 

 まぁ、死んだ方がマシって思いをすることになるかもしれないけど、と一言添えた後、刃が閃いた……。

 

 一方でサツバツナイトは「Wasshoi!!」というかけ声と共に自分のクローンをテストしていた戦闘評価室にエントリーしたが、とんだ拍子抜けだと溜息を吐きかけた。

 

 部屋の中には幾つもの焦げ痕があった。大方、実験と称して最大火力を出させようとした結果、アビ・インフェルノ・ジゴク・ジツが暴発でもしたのだろう。藤木戸がアレを曲がりなりに制御できるようになったのは、ジゴクの鍛錬を越えて成人を果たしてからだ。

 

 故に、ただのクローン故に制御があまいジツと勘違いされたのか、威力を落さねば扱いづらいカトン・ジツと勘違いして運用しているのだろう。

 

 「火遁……」

 

 「イヤーッ!!」

 

 それにカラテが備わっていない。扱うジツは確かに藤木戸家相伝、強力なカトン・ジツではあるのだが、暴発からの爆発四散をおそれてかアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツも使ってこないし、身体的なリスクが強すぎるジツを補うカラテも疎かに過ぎる。

 

 比率で言えばカラテが3、ジツが7といったところであろうか。どれだけ外見が似ていようが、これではサツバツナイトと比べるべくもない。

 

 その上、目に生気がない。恐らく延髄か脳に何らかの加工を施して、ジョルリニンギョウめいて操れるような加工が施されているのであろう。

 

 邪悪で操り安い朧と違って、精神性を完璧に再現した場合、即離反されることを想定したのであろうが、これでは元の強みが活かせない。カタテオチも良いところだ。

 

 だとすれば、こんな魂のないジョルリニンギョウの打突にもジツにも魂の乗せようがない。

 

 これはもう、生物ではない。終わらせてやった方がブッダも微笑む慈悲深い行為となるニンギョウだと断じ、サツバツナイトは自分のクローン達をスレイしていった。

 

 しかし、自分と同じ面をカラテ殺すのはイマイチ気分が良くないなと思いつつ、魂の籠もっていない拳やカトンを簡単にいなして、彼は最後に残ったクローンの首を刎ねる。

 

 「そ、そんな、DNAデータも再現率も完全な……ぐわぁぁぁぁ!?」

 

 「ドーモ、ハジメマシテ、龍門のみなさん。サツバツナイトです。しかし、随分と人を馬鹿にしたことを抜かしてくれる。余程惨たらしく殺されたいとみえるな」

 

 巫山戯たことを抜かす藤木戸班の研究主任の首をネックハンギングツリーでつり上げ、呼吸が可能なギリギリの高さに持ち上げて絞り上げる。自分のクローンを残虐に殺戮した恐ろしさ、そして人を痛めつけることへの一切の容赦がないことに恐怖して失禁、中には気絶する者もいた!

 

 「オヌシらにはインタビューしたいことが山のようにある。サクラ=サン」

 

 「うーわ……けんにぃの死体だらけ……やば、夢に出そう……」

 

 対人用タイラップで研究員を拘束していくさくらは、そのツキジを通り越してジゴク以外の何者でもない光景に思わず目を背けた。当たり前だ、歳の離れた、自分を大事にしてくれている幼馴染みの死体がゴロゴロ転がっているのだから。この光景がトラウマにならない訳があるまい。

 

 陰惨極まる光景にうんざりしながら研究員に手枷を付けていると、アサギがやって来た。その真っ白な装束には返り血の一滴すら付いておらず、刃には血脂一つ浮いていない。

 

 汗すら掻いていない有様であっても、全てが終わったことだけは分かった。

 

 「アサギ=サン……」

 

 「私は何ともないわ、藤木戸くん。貴方こそ大丈夫?」

 

 「自分の不始末にケリを付けたのと大差ない。問題はない」

 

 お互い、自分のクローンを虐殺してまわったのだ。精神面を気遣い合いながら、互いが無事であったことに安堵する。

 

 正直、二人ともクローンの完成度はもっと高いと思っていたのだ。

 

 仮にハヤブサ・ジツやアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツが十全に使えていたのであれば、数の差で圧倒されることもあったろう。

 

 だが、蓋を開ければご覧の通りだ。

 

 揃って溜息を吐いた二人であるが、サツバツナイトが拳を向ければ、アサギもそれに応えて拳をぶつけた。

 

 「ユウジョウ」

 

 「ユウジョウ」

 

 当初はジツの兼ね合いもあって、お互いがお互いのクローンを相手することを想定したのだが……双方共に、似ているだけとは言え親友を殺すのは忍びないとして、リスク承知で自分の相手をすることにしたのだ。

 

 今回はなんてこともない劣化コピーに過ぎない相手であったが、もしも油断ならぬ場合であったら、互いにアダウチしようと誓い合ったのが馬鹿らしく思える結果であった。

 

 「で、おねーちゃ……っと。隊長、この捕虜どうするの?」

 

 「桐生に引き渡す」

 

 決断的にして無慈悲な一言に全員が「うわぁ……」と言いたげな顔をした。

 

 特に紫は酷い。婦女がしていい表情ではなかった。

 

 彼は基本的につまらない仕事や自分の思索を邪魔されることを嫌うので、捕虜の尋問なんてアサギが言っても基本的に後回しにするか、完全に忘れてしまうのだが、紫が頼めば別なのだ。

 

 その代わり、デートがどうのこうのと、かなり軸がずれたアプローチをされるので、当人はその度に精神を疲弊することになるのだが……。

 

 「何なら俺がやるが?」

 

 サツバツナイトの提案に紫の表情が一瞬輝いたが、それはアサギが即座に却下した。

 

 技術系の尋問はスレイする目標を探すためのインタビューとは違う。藤木戸のそれは、死ぬ半歩手前まで追いやって「今確実に惨たらしく殺されるのと、俺がお前の雇い主を殺して命を拾うの、どっちがいい?」といういやらしい二択を強いるタイプなので、今回の一件に適しているとは言い難いのだ。

 

 ならば仕方ないと素直に引いたサツバツナイトに紫は縋るような視線を向けたが、アサギからの命令を無視するような彼ではない。ふいっと視線を逸らして、何事もなかったかのように沈黙を維持し始めた。

 

 「……アレ?」

 

 スンスンと鼻を鳴らしていた葉月に全員の視線が向いた。

 

 「……何か数合わなくないですか?」

 

 「何?」

 

 「ポッドは三十個ずつあるのに、アサギ=サンのクローンが一人少ない気が」

 

 慌てて確認すると、確かにその通りだった。培養中の数と死体の数が合わない。

 

 これは拙いと全員が冷や汗を垂らしながら施設中を探し回っても結局見つからなかったこともあり、この殲滅戦は各々の心に小さな棘を残すこととなるのだった…………。

 

 




オハヨ!(もう昼)
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