ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド13

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 「ぬ、ぬぅー……」

 

 パチン、パチンと木と木がぶつかる心地好い音がドージョーに響き渡る。

 

 まだ新しいオーガニック・イグサの香りが漂うヨミハラの森田興信所四階、そのドージョーでショーギが行われている音であった。

 

 「けんにぃ、それ待った……」

 

 「マッタはない。イクサで待ってと言って待つヤツがいるか?」

 

 「ぬぅー……」

 

 クローンアサギ、及びクローン藤木戸壊滅計画から随分と時間が経ち、各々が記憶の中で過去にあった重大事にして久しい。捜索は依然として続けられてはいるものの、最早それはさして重要なものではなくなり、たとえ発見しても現状を調査し位置を把握する程度のものに縮小された。

 

 元より研究者達は完璧だと思っていたクローンなれど、魂が籠もっていないが故に“粗製に過ぎない”とアサギが最終的な結論を下したがために、このような沙汰が下ったのであった。

 

 さて、これはただ単に遊んでいるように見えて、実は重要なカラテ・インストラクションであった。

 

 ショーギとは厳しい遊戯だ。何と言っても取られた駒を敵に使われる上、それが盤上にエントリーすると趨勢が様変わりすることもあるのは、正しく対魔忍の現状めいているのみならず……。

 

 「まけっ……まっ……した……!」

 

 いま、さくらが宣言したように、相手からオーテ・ツミを宣言されて決着が付くのではなく、自分から負けを認めなければならない作法があるからである。

 

 「んあー! だめだー!」

 

 「インストラクションだサクラ=サン。力押しだけでは物量に押し潰されて負けることもある。本陣を前にして倒れれば、正に〝土俵を前に犬死に〟だ」

 

 藤木戸は基本的に難しい戦略を使っていない。オーソドックスなご機嫌中飛車メソッドをやっているだけであって、さくらには力押しの弱さを教えるため棒銀メソッドを使わせている。

 

 棒銀は強い戦術であるが、対処法を知っていれば軽くいなされて簡単に瓦解する。それを使わせることで、力強い駒によるゴリ押しが如何に脆いかを教え込むためのインストラクションなのだ。

 

 「あー……でも五連敗もすると流石にクサクサするー……」

 

 「盤上の負けを噛み締めて勝利に繋げるのだ、サクラ=サン。実戦で負けさせる訳にはいかんからな」

 

 実際の作戦でトチってKIAやMIAを出しながら学ぶ訳には行かないので、いくらでも取り返しの付く駒で経験を積ませる。藤木戸の身分を守るためにやったとはいえ、中隊長になったのならば、これくらいの思考能力はなくては困るという愛のムチだった。

 

 「それに、今までの五車がとってきたニンジャ戦法はよくなかった。そうだな……」

 

 言って、藤木戸は駒を集めると自陣側に玉を一つ置くと、そのまま回りを十個以上の歩で囲み、銀や桂馬を配した上で、さくらの側に向けて角と飛車を一つずつ置いた。

 

 「たとえるならこんな具合だ」

 

 「そういえば、大体大所帯でも三人とか四人編成だもんね。それで、大体の対魔忍は角とか飛車ほど強くないし」

 

 アグラを組んで頬杖を突いたさくらは、じゃあ私が角で、けんにぃがこうかな、といって飛車をひっくり返して龍にした。

 

 「アレ? ワンチャン行けそうじゃない?」

 

 「何とかならないこともない。だが、困難極まる。指し手としてはだ」

 

 藤木戸は角と龍を取り除き、金と銀、そして香車二枚と歩を五枚置いた。

 

 「こちらの方が全然やりやすいし、駒を落としづらい」

 

 「あー、なるほど」

 

 「それにだ」

 

 実際はこうだ、といって懐からテヌギーを取りだした藤木戸は、自陣側にそれをフワッと被せた。

 

 「これで指したいか? サクラ=サン」

 

 「いや、ちょっとゴメン被るかな」

 

 実際の戦場は霧に覆われている。敵の布陣など調べなければ分からない、歩だけしかいないと思って突っ込んだら奥に龍だのなんだのが隠れていることなど珍しくもないのだ。

 

 故にこそ、中隊長は頭を捻りに捻って事前に情報を集め、作戦を練り、予備案を用意し、土壇場で大駒を叩き付けられた時に撤退する道も作っておかねばならない。

 

 ノーカラテ・ノーニンジャではあるものの、時にカラテだけで全てを押し通すことはできないのだ。

 

 「でもお姉ちゃんとかけんにぃは駒一個で指してるようなもんじゃ?」

 

 「……俺達はある意味で例外だ」

 

 ショーギを喩えにやっているので、都合の悪い真実に目を背けて藤木戸はそそくさと盤を片付けた。

 

 時に二回行動、下手すると三回行動する駒もおり、それが自分であることを理解している故、あんまり勘違いして欲しくなかったのである。

 

 特にさくらは、これから新鋭の対魔忍として部下を率いる立場になるのだ。新しく配備された歩が二回も三回も動けると勘違いされては困る。

 

 「さて、気が滅入ったならカラテ・インストラクションでも……」

 

 「健二、洗剤切れてたから闇市で仕入れてきたけど……」

 

 組み手でもして気を紛らわせるかと思って提案したところ、ビニール袋をぶら下げたツバキがドージョーにやって来た。

 

 ヨミハラのブラックマーケットで洗濯用洗剤をどうにか仕入れてきた彼女は、さくらと目が合うと礼儀として頭を下げて、そのままフラッと下に降りていった。対魔忍として戦っていたが、対魔忍でいられなくなってしまった彼女は、現井河の筆頭であるアサギの妹と、あまり密な接触をしたくなかったのであろう。

 

 「……けんにぃさ」

 

 「……何だ」

 

 「同期の知り合い美人ばっかじゃない?」

 

 肘で突っつかれて、藤木戸はつぃと顔を横に向けた。

 

 彼のカラテについてくることができ、同じく研鑽を積んできたのは蓮魔・零子を初めとしてジッサイ美人が多い。歳の離れた幼馴染みが気になるさくらとしては、そこら辺どーなのよと色々聞き出したいようだ。

 

 「ねぇ」

 

 「…………」

 

 「ねぇってば」

 

 「………………」

 

 「けーんーにーぃー」

 

 うりうりと肘で突っつかれて、たまたまだと苦しい答えをする藤木戸。

 

 これは事実であり、彼が同期の美人に粉をかけてまわった訳ではない。ただ単にシンプルな理屈。カラテができて実力もある人間とばかり仲良くしていたら、気が付いたら綺麗どころばかりだったというだけなのだ。

 

 決して彼は邪な目で同期を見ていない。

 

 むしろ、カラテだけで見ていたと言っても過言ではないだろう。

 

 「あのツバキって人もさぁ、けんにぃのこと珍しく名前で呼ぶし。学生時代、何かあったんじゃないですかぁー?」

 

 当て擦り半分、興味半分で聞いてみるさくらの肘から藤木戸は逃げて、ジュージュツの構えを取る。

 

 「いいかサクラ=サン、決して勘違いするな。カラテの腕がなければ、ユウジョウは時に弱点となる」

 

 「弱点?」

 

 「サクラ=サン、オヌシならムラサキ=サンの首にナイフを突きつけられて、降参しろと言われたらどうする?」

 

 問われ、何言ってんだコイツとでも言いたげな顔をするさくら。その答えは実に迷いなく明瞭だった。

 

 「むっちゃんでしょ? 好きにしろって言うよ。それくらいで死なないし。てか、何遊んでんの? って聞くかも」

 

 「つまりはそういうことだ。俺もアサギ=サンが同じ状況になっていたら、真面目にやれと言って終わる」

 

 しかし、そのナイフを突きつけられているのが、一般の学校に通っていた時の友人だったらどうだと問われ、さくらの表情がけわしくなった。

 

 「そ、れは……」

 

 「時にユウジョウは弱点となる。脅されれば明確な弱みとなる人付き合いを避けるべく、俺はカラテのワザマエが備わり、同時に卓越したニンジャとしか友誼を結ばなかった。それ以外のニンジャが人質であれば、カラテを怠ったオヌシが悪い、骨は拾ってやると言って迷わず敵を殺す」

 

 だから偏屈だとか変人だとか学生時代に言われたのだろうな、と遠い目をする藤木戸であったが、そこに「いや、どう考えても人生の芸風が違うからでしょ」と突っ込まないだけのやさしみがさくらにはあった。

 

 「サクラ=サン、オヌシは中隊長として必然、自分より弱い駒を幾つも抱えることになるのだ。なればこそ、指し方を覚え、同時に弱点にならぬよう鍛えねばならん」

 

 「……押忍」

 

 かなり極端ではあるが、対魔忍としては納得できる理屈であったので、彼女は大人しく受け容れて、同じく構えを取った。

 

 「では来い。殺す気でだ」

 

 「ハイ! イヤーッ!!」

 

 「イヤーッ!!」

 

 さっきまでの湿り気の強い空気を追い払うように裂帛のカラテ・シャウトがドージョーに響き渡り、クナイダートとブレーサーがぶつかり合う甲高い音が木霊した…………。

 

 




オハヨ!(今起きた)
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