ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド14

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 「ツバキ=サン、写真を一枚良いか?」

 

 「え? どうしたの急に」

 

 体の傷が癒えるまで森田興信所に厄介になっている元対魔忍にして、藤木戸の友人である傭兵は少し困惑した声を出した。

 

 「今度、また潜入任務をやることになった。そこでブローカーとして振る舞いたいので、女人の写真が欲しい」

 

 「興信所ってそんなことまでするの?」

 

 呆れたように問う友人に、藤木戸は苦虫を噛みつぶしたような表情で頷いた。

 

 と、言うのも先日龍門のアジトを叩き潰すのに情報を集めるため、かなりの横車を静流に押させたせいで貸しが一つできてしまい、難易度の高い割りに報酬の塩っぱい仕事を振られてしまったのだ。

 

 それは、ヨミハラではよくあることだが、嬢の引き抜きに対する報復の下調べで、さるラウンジのエース嬢を引き抜いていった不逞者のガラを確保して欲しいというものだ。

 

 静流的には、その店は界隈でもクリーンな方で町内会にも参加している、ヨミハラ基準で真っ当な店なので貸しを作っておきたいとかで、違反行為をやらかした人物に誅伐を下させたいらしい。

 

 というのも、この業界では基本的に客を装ったスカウトはスゴイシツレイにあたる厳禁行為なのだ。これは表側、東京などで普通にやっている自称飲食店でも変わらず、見つかった者は免許証を添えた全裸ドゲザで済めば良い方で、ともすればケジメもあり得るという。

 

 それだけのことをしでかした不逞の輩を放置しては店の威信に関わるため、どうしてもとっ捕まえて責任を取らせたいというのが店の主張。然しながら、やっていることはただの人探しに他ならないので、金は相場と変わらず、そこから静流が仲介料を10%さっ引いていくので――しかも成功報酬だ――依頼料は寂しい。

 

 何より、藤木戸としては「別に殺すまでもない悪党だな……」という感じなので、基本的にやる気が湧かず、さりとて静流に冷たい目で「ふーん、マゾクスレイヤーは貸し借りも精算できないの」と言われれればやる他ないので、仕方がなしにやることにしたのだ。

 

 「で、ブローカーを装って、横の人脈が欲しいからとか理由をつけて紹介して貰うと」

 

 「そういうことだ。そこで商材を持っていないと怪しまれるのでな。故にオヌシの写真を一枚貰いたい」

 

 「……私の写真なんかで役に立つの?」

 

 「オヌシは美形であろう」

 

 スッと何も取り繕うことなく、何を当たり前のことを言っているのだと言われて、ツバキは頬に朱がさしかけるのをジツで止める必要があった。

 

 この男には、時折こういうところがあるのだ。

 

 「それ、誰彼構わず言っているんじゃないでしょうね……」

 

 「俺は見たとおりのことしか言わん」

 

 食えない野郎だと思いつつ、仕方がなしにツバキは薄化粧を施して、普段と印象が違う顔作りにして一枚写真を撮らせた。因みに、豊満に見える方がウケがいいとのことで、ロングニットセーターを着せられた姿は、強調されて実に豊満であった。

 

 「これでよし」

 

 ポラロイドで写真を撮った藤木戸は満足したように幾枚かの写真を広げて、これだけあれば顔の広いブローカーを装えるだろうと頷いた。

 

 「……何コレ」

 

 「友人達に協力して貰った」

 

 「なんでノリノリのが何人かいるのよ……」

 

 藤木戸が用意した写真にツバキはドン引きした。

 

 というのも、今回の件を解決するため提供して貰った写真では、葉月はメンポを外して恥ずかしそうに胸を寄せるポーズを取っているし、零子は凄く嫌そうな顔で目を隠しており――業界的に、こういう写真の方が対魔忍っぽくてウケるそうだ――さくらはノリノリでダブルピースを見せ付けている。

 

 因みにアサギは界隈で名前と顔が売れすぎているため除外だ。そんな物を持っていったら、一発で対魔忍関係者だとバレる。

 

 「ハヅキ=サンにはできるだけセクシーなのをと頼んだら、センセイのためならとやってくれたが」

 

 「健二、弟子になんてことさせてるのよ」

 

 「いや、俺は微笑むくらいで十分カワイイと思ったのだが……」

 

 ふーんく、と顎に手をやって首を傾げる朴念仁の後頭部を一発ぶん殴ろうかと思ったツバキであるが、どうせ殺気に反応して止められるので止めた。わざわざ血液でハリセンを作るのも馬鹿らしいし、何よりジツの無駄遣いである。

 

 「何か気になることでもあるのか? 報酬が欲しいなら用意するが」

 

 「そういう訳じゃないけど……」

 

 「ああ、たしか、サクラ=サンからの差し入れがあったな」

 

 言って立ち上がった藤木戸は冷蔵庫をゴソゴソしたと思ったら、プラスチックのパッケージに包まれたアイスを取りだしたではないか。

 

 「それ!」

 

 「懐かしいだろう。イナゲヤ=サンのアイスだ」

 

 五車名物、駄菓子の稲毛屋名物たるアイスは、五車の里で育った子供なら皆好物だった物としてド鉄板だ。最近はあの誰に聞いても「そういやあの人、俺がガキの頃からババァだったよな……」と駄菓子屋のフシギに思いを馳せさせる店主は、持ち帰りしやすいよう新商品を開発したらしい。

 

 藤木戸愛顧のスシ屋、五車堂と並んでサシイレとして貰って嬉しかった物なので、もう何年も五車に帰れていないツバキなら喜ぶと思ってとっておいたのだろう。

 

 「ああ、懐かしいわ……訓練上がり、並んで食べたわよね……」

 

 「カラテ・インストラクションでボコボコにされて、熱を持った体に染みるようだったのを覚えている」

 

 「口の中が凄く染みたわよね」

 

 同期の二人は訓練も一緒にやっていたので、よく店前の椅子に座って並んで食べたものだ。そこには同じく親しくしていた零子や、時にアサギと恭介も混じって皆でワイワイやったもので、二度と還ってこない過去に想いを馳せて遠い目をするツバキ。

 

 その気配を敏感に感じ取ったのだろう。藤木戸はやや考え込んだ後、アイスを大事そうに舐める彼女に言った。

 

 「そういえばだな、最近、依頼が増えて人手不足なのだ」

 

 「葉月は?」

 

 「少しはできるようになってきたが、まだ一人で動かすには不安が大きい。故に一人、手練れが欲しかったところでな」

 

 それに、カラテは一人では満足にできんと言われ、ツバキも察したのだろう。

 

 アイスを食べる手を止め、握ったまま膝の上に手をやって考え込むことしばし。舐めた部分が垂れかけてくるほどの時間を経た後、彼女は首を振って力なく笑った。

 

 「私はもう、魔族に近いのよ、そんなのがいたら……」

 

 「ツバキ=サン、オヌシはツバキ=サンのままだ。そこに何の問題がある」

 

 言われ、彼女はケツエキ・トン・ジツを用いても胸が高鳴るのを止められなかった。

 

 変わらないと言われても、魔に目覚め、魔族に近くなった自分がここにいることをずっと気にしていたのだ。

 

 「だからだ、ツバキ=サン。俺に傭われてみる気はないか? まぁ……あまり高給とは言えんが」

 

 「傭兵にとっては、三流の口説き文句ね健二」

 

 溶けかけたアイスを一口食んだツバキは、それを藤木戸に差し出した。

 

 彼も一口食べると、彼女は納得したように頷いて残りを頬張り、コーン部分をバリバリとかじる。

 

 そして、食べ終えると宣言した。

 

 「なら、傭われてあげるわ。傭兵兼空手のスパーリング相手として、ね」

 

 「……助かる」

 

 ふぅと一息吐き、ツバキは藤木戸に身を寄せた。

 

 「ちょっとやめないか、ツバキ=サン」

 

 「ブローカーを装うなら、商品を一人連れてった方が自然でしょ。固くならないの。慣れとかないと疑われるわよ」

 

 「ムゥ……」

 

 尤もらしいことを言われて、藤木戸はそのまま肩を貸すことにした。

 

 ジッサイ、女慣れしてないことは事実なのだから。

 

 「それと、もうちょっと眉間の皺を少なくすること。そんな人殺しの目をしてたら、ブローカーよりジョブキラーと勘違いされるわよ」

 

 「ヌゥー……特に力を入れているつもりはないのだが……」

 

 「それと、無精髭も剃りましょう。女を商売にしてる男で、そこを丁寧にしないのはいないわよ」

 

 「結構気に入っているんだが……ヨミハラに溶け込むのに便利でもある」

 

 「今回の仕事なら剃りなさいって話」

 

 「……伸びるのに時間がかかるんだが」

 

 他愛もない話を挟みながら、雇用契約は今ここに締結された…………。

 

 




オハヨ!
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