ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド16

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 彼女は今日、本能的に運がない日だと悟っていた。

 

 朝起きて、寝起きの一杯と思って枕元を探るも指が触れるのは空のパックや瓶ばかりで中身が入っておらず、面倒だなと頭を掻きながらなけなしの小銭を握って商店で安酒を買って戻ってみれば、今度はアテがない。

 

 仕方なしに昨夜食って始末を忘れていたカップ麺の汁を肴に酒を飲むという、非情に退廃的飲酒行為に手を染めたのだが、それでも酔いが回りきらず、仕方なしに仕事をすることにした。

 

 しかし、贔屓の手配師は休日のつもりなのか捕まらず、他の連中は碌な仕事を持っていない。やっとこ真面な仕事を――といっても、娼館回りで悪さをしている淫魔族の始末だったのだが――手に入れて戻ってきたら、今度は手配師が消えていて骨折り損と来た。

 

 手に入ったのは、淫魔族の懐に入っていた財布から抜いてきた数千円の現金のみ。せんべろという言葉はあるが、本当に千円でべろべろに酔えたら何も苦労はないもので、いっそそこらで暴れているヤツらに適当に因縁付けてカツアゲでもしようかと思っていたところ、不意に殺気を感じたのだ。

 

 今日は運が悪い日、そう覚悟していなかったならば、反応が0.1秒遅れて、首と胴体が泣き別れていたことであろう。

 

 鬼族が打った銘刀を背後に掲げ、肩、背、尻の三点で保持して尚も体が浮かび上がるような衝撃は、真面に喰らっていれば、まず間違いなく首がもげていた。

 

 小さな舌打ち、そして地面に無音で降り立った者にカンニンブクロが一瞬で暖まった彼女はブチ殺してやると振り返るが……その顔を認識した瞬間、元々血色の薄い顔が青く染まった。

 

 アンブッシュに失敗したら、一度はアイサツしなければならないという、謎の奇癖を持つ人物が礼をしていたからだ。

 

 さもなくば、追撃で彼女は間違いなく殺されていただろう。

 

 「ドーモ、ヤマタノオロチ=サン、サツバツナイトです」

 

 「ちょっ、洒落んなってない! あたし何かしたか!?」

 

 脱兎の如く駆け出した彼女の名はヤマタノオロチ。そのアル中やエドっ子も「流石にちょっと……」と引く生態から中々信じがたいが一種の神格存在であり、鬼族特有の二本の角がよく目立つ凜々しい美女である。腹は丸出しで最低限の要所のみを護る鎧を纏ったバストは豊満であった。

 

 「まだ以前の借りを返して貰っていないのでな。イヤーッ!!」

 

 「あれは安い金で傭ったアンタが悪いんだろ!?」

 

 そして、そんな彼女を追うのは、ヨミハラで悪事を働く者にとっての悪夢ことサツバツナイト!

 

 彼がヤマタノオロチとエンカウントしたのには、これといって深い理由はない。イーオ経由で米連から回ってきた、違法に横流しされた米連製強化外骨格の流出ルートを探す仕事を終えた帰り道、たまたま後ろ姿を見かけたのでスレイしようとしただけである。

 

 無論のこと、彼が無辜の魔族に向かって唐突にカラテをしかけている訳ではないし、ヨミハラでは非情に有り触れたファック&サヨナラを目的とした違法行為染みた奇襲でもない。

 

 過去、まだマゾクスレイヤーと名乗っていた頃のサツバツナイトは、静流からの伝手で一度ヤマタノオロチを雇用し、土壇場で裏切られて酷い目に遭っているのだ。

 

 まぁ、その頃はマゾク悉く殺すべしと考えていた彼は、依頼が終わったら適当に殺しておこうと考えていたのでお互い様とも言えるのだが、インガオホーと締めるのは少し待って欲しい。

 

 というのも、裏口からの逃走を防止するため扉を塞いでおいてくれたら良いと簡単な仕事を振り、気前よく先払いで十万渡したのに、この魔族はあろうことか十万五千円でマゾクスレイヤーを裏切って刃を向けたのだ。

 

 そりゃあアンブッシュしてブチ殺してやろうという気にもなるだろう。

 

 「イヤーッ!!」

 

 「くっ……ざっけんな! 一銭にもならない上、アンタみたいなのと殺し合いなんてしてられるか!」

 

 「では、俺の財布に五万ほど入っていると言ったらどうだ! イヤーッ!!」

 

 「そんな端金で相手したくないねぇ!!」

 

 カラテと巨大な剣がカチ合い火花を散らし、ヨミハラの路地裏を鮮やかに染め上げる! 逃げるヤマタノオロチ、追うサツバツナイト。普段ならば一方的に背中を向けている相手ならば後者が圧倒して終わるのだが、流石は神格存在にして闘争の種族たる鬼というべきか、逃げ回って尚も決定打が入ることはない。

 

 「ならばこれでどうだ! イヤーッ!!」

 

 「えっ!? 酒っ!?」

 

 背後から投げかけられるスリケンを回避していると、視界の端っこを掠める物があった。

 

 彼女愛飲のパック酒、おにころと書かれた一つ百円ちょっとで買える安酒界の帝王。

 

 ヤマタノオロチは無意識にそれに手を伸ばし、掴みかけたところで危うくスリケンが手首を掠めた。

 

 「あっぶねぇ!? いくら何でも無法過ぎるだろ!!」

 

 「チッ、流石に引っかからぬか……」

 

 「あたしを何だと思ってんだい!?」

 

 一瞬本気で取りに行こうとしたヤツが何をという話であるが、サツバツナイトはニンジャ反射神経で路地裏の自販機に小銭を突っ込み、0.5秒で確保したパック酒・トラップはある意味有効なのではないかと思った。

 

 今度、適当に穴でも掘って並べておいたら、次の日の朝には落っこちているかもしれない。

 

 「くぅぅぅ、こうなったら……!!」

 

 「ナニーッ!?」

 

 このまま追いかけっこをしていたら、一日が無駄になる上に下手すると死にかけると思ったヤマタノオロチは、一種の賭に出た。

 

 目に付いたクラブ、そのネオンがギラギラと喧しい飾り窓に飛び込んだのである。

 

 「サツバツナイトだ! カチコミに来たよ!! 急いで逃げな!!」

 

 「なにッ?」

 

 こう叫ぶと、中にいたバウンサーが俄に血気だって武器を手に立ち上がったではないか。

 

 そう、ここは旧龍門系のクラブで、サツバツナイトが地対地ミサイルを五十発も叩き込んだ上、鬼武衆を嗾けるという暴挙ですっかり落ち目になった連中の残党が経営している暗黒退廃飲酒施設! 屯している連中も当然その類いで、友人縁者をあの一件にて失った者も多い。

 

 一瞬でカンニンブクロが爆発した者達は、即座に闘争の構えに入る。

 

 ここでサツバツナイトを討ち取ればキンボシオオキイのもあるが、堕ちた龍門の名が一機にヨミハラや東京キングダムで吹き返す。千載一遇の好機は今ぞと、彼等はスライドを引いて初弾をチャンバーに装填したり、ショットガンをポンプして発射状態に持って行ったりした。

 

 「ヤマタノオロチ=サン! 姑息な真似を!!」

 

 「ほらほら! 仇を討つには今をおいて他にないよ!!」

 

 「やったらぁー!!」

 

 ヤバレカバレになった店内の魔族達は得物を抜いてサツバツナイトに襲いかかり、さしもの彼も対応を余儀なくされる。飛び交う銃弾や散弾、迎え撃つスリケン。店内はあっと言う間に闘争のケオスと化した!

 

 「じゃーな!!」

 

 「巫山戯るなヤマタノオロチ=サン! クソッ、邪魔だサンシタ共!!」

 

 如何に百戦錬磨のニンジャとて、流石にこれだけの数に襲われながら、ただの客や嬢を巻き込まぬよう戦闘を継続しつつヤマタノオロチを追うことは適わぬ。

 

 そして、彼女は店の騒ぎを良いことに、カウンターに並べられていた上等なシャンパンを――青少年のなんかが危ないパッケージのそれは、俗にオリシャンと呼ばれる暗黒法外価格酒類であろう――くすねながら裏口を破壊しつつ遁走!

 

 「だがせめて……イヤーッ!!」

 

 「ははは! 何処狙ってんだい! 二度とその面を見せるなよ!!」

 

 間近を掠めて行くスリケンを呵々と嘲笑いながら逃げ去るヤマタノオロチ! サンシタの迎撃に時間が掛かって撒かれてしまうサツバツナイト! ここに両者の戦いは、再びミズイリとなった!!

 

 「わはは! 結果的に良い酒も手に入ったしいいか! シャンパンとなったらやっぱりアテは魚……」

 

 逃げつつ塒に帰ろうとしていたヤマタノオロチであるが、ふと違和感が一つ。

 

 抱えている酒瓶が少しずつ軽くなっているような気がする。

 

 いや、気のせいではない。慌てて見下ろせば、瓶の底面付近に鋭利な切れ込みが入っているではないか!

 

 そう、せめてもの腹いせにとサツバツナイトが放ったスリケンが掠め、その鋭利さに砕けるのではなく切れ込みが入ったのだ!

 

 「あっ、ああl!?」

 

 無情にも溢れていく酒! モッタイナイと口を切れ込みに当てて飲もうとするが、時既に遅し! 唇に触れたのが最後の一滴であった!

 

 「あー……ああ…………」

 

 路地に膝を突くヤマタノオロチ。今日は全く以て、本当に底の底から運のない日であった。

 

 しかし、彼女には似つかわしい言葉が一つある。

 

 世は正にインガオホー。ああ、インガオホー…………。

 

 




オハヨ!
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