ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド18

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 「なんだと!?」

 

 師の突然の声に葉月は思わずプランクの姿勢で、頭に載せて保っていたチャワンを落としかけた。

 

 何事かと300kgの重量が掛かった状態で目だけをやれば、師は携帯を片手に――最近誰かが違法基地局を設置したのか、通じるようになった――ワナワナと震えているではないか。

 

 「それで、任務は……」

 

 ぼそぼそとやり取りをしている師の怒りがドンドン高まっていくのを感じ、葉月はプランクと重り以外の理由で嫌な汗を掻いた。

 

 携帯を握っている後ろ姿から漏れているのは殺気だ。ゆらりと周囲の空気が揺らいでいるようにさえ感じる怒気には、絶対に触れてはならぬと言う凄みを感じる。

 

 「まだヨミハラにいるのか?」

 

 幾度か言葉を交わした後、藤木戸は辛うじて怒気を発散せずに済んだのだろう。それでもメキメキと嫌な音を立てる携帯を投げ捨てたかと思えば……。

 

 「イヤーッ!!」

 

 憤りを発散するが如く、カラテ・シャウトと共に直突きをサンドバッグに向けて放ったではないか! おお、見よ、それは紛れもなくヒサツ・ワザ! 全身の筋肉を律動させて一拍の内に放つポン・パンチではないか!

 

 怒りの一打を受けた砂鉄要りサンドバッグ無惨! 衝撃が背後に貫通して小揺るぎもすることなく、打点の背後部分の多層織り特殊カーボネート外殻が破れて大量の砂鉄がドージョーに舞った!

 

 「……し、師匠……? 何が……?」

 

 「……すまない、ハヅキ=サン、あとでドージョーを掃除しておいてくれ」

 

 「それはいいんですけど……」

 

 「古い知人が誘拐された」

 

 「誘拐!?」

 

 ヨミハラに溢れてはいるが、非情に物騒な文言に弟子は思わず声を上げた。チャワンの水が少し揺れたが、それを師は咎めない。

 

 「俺に一番弟子がいることは前に話したな?」

 

 「は、はい、ボクの姉弟子に当たる人だって……でも、年下だとか」

 

 「その弟子の母親……対魔忍においてもアサギ=サンに勝るとも劣らぬ妙手、シラヌイ=サンが消息を絶った」

 

 藤木戸の一番弟子、水城ゆきかぜの母親、水城不知火は藤木戸が下忍時代、長柄相手に如何に戦えばいいかのカラテを仕込んでくれた師の一人であり、藤木戸家は水城家と昵懇であったため幼少期からの付き合いがある恩人だ。

 

 シースルー生地と防刃繊維を組み合わした特殊なスリーブレスレオタードの対魔忍装束を着込んだ彼女は、ジッサイ鬼神の如き強さをのカラテとジツを両立させた理想的なニンジャであり、今の藤木戸でさえ勝てるかどうかというワザマエを持つ。

 

 年齢を感じさせぬ若々しさを持つ美貌と意志の強そうな鋭い目が麗しい彼女が、どのような目的で罠に掛かったかは今更論ずるまでもない。その豊満であるバストを狙われたに違いなかった。

 

 「クソ、外道は俺が大体殺したと思ったが……カスミガセキには未だウジ虫が多いと見える」

 

 「あ、あの、師匠……? ボク、地上に詳しくないんですけど、流石に名前を聞いたことがあるんで、そこにカチコミかけるのは拙いと思うんですけど……」

 

 「本当なら国会議事堂に乗り込みたいところだ」

 

 しかし、それをやると五車に戻るどころかパブリックエネミー確定なので、怒りを抑えるべく藤木戸はサンドバッグの耐用限界を超えた一撃を放ったのだ。次はもっと頑丈なのを作って貰わねばと思いつつ、彼はハヤキガエ・ジツでサツバツナイトの姿になると、そのまま事務所の窓に足をかけて振り返った。

 

 「俺は最後の目撃地点を漁り、思いついた連中に片端からインタビューしてくる」

 

 「アッハイ」

 

 その目はセンコめいて燃え、ぼぅとした残光が怖ろしい。相変わらず、どういう原理で光っているのか弟子には全く以て謎であったが、ああなった師匠を止めようとすることほど危険なことはないと分かっていたので、何も言わずに見送ることにした。

 

 ネオサイタマ、もといヨミハラに血の雨が降ろうとしている…………。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 魔族には固有の魔法を持った者がいる。

 

 それこそイングリッドのような魔剣術から、人知を超えた作用と火力をもたらす物まで様々だが、正しく千差万別としか言えぬほどに多様である。

 

 今回サツバツナイトの前に立ちはだかったのは、魔剣使いであった。

 

 それも一山幾らの、ただ力を持った魔剣をたまたま手に入れて驕った粗製品ではなく、自らの魔力を浸した剣を自在に伸縮させ、幅を決め、盾にも武器にも使い、間合いさえ支配する巧みな剣術を操る妙手の傭兵だ。

 

 だが殺した。

 

 「油断ならぬ相手だった」

 

 「ひぃぃぃぃ……」

 

 その脇で一人のオークが無様に失禁しながら地面にへたり込んでいた。

 

 オークにしては珍しく筋肉質ではなく小太りな個体で、潰れた左目が特徴的な彼の名前はゾクト。闇の奴隷商人ではあるが、対魔忍と協力関係にあって〝やむを得ず〟奴隷として販売するしかなかった人物の行き先を報せ、奪還する助けとなっている二重スパイのような存在であった。

 

 しかし、マゾクスレイヤーであったころの彼は「そんな迂遠なことをせず殺せば良いのだ」と考えていたこともあって、ほぼ個人的に敵対しており、今回訪ねて行った時もゾクトが殺される! と思って護衛を嗾けたのであった。

 

 結果としては、傭われたオークや魔族の傭兵が皆殺しにされ、自分のアジトをツキジにされた現状であるのだが……。

 

 「では、オヌシは知らぬと言うのだな?」

 

 「しっ、し、知るもんか!! あの〝幻影不知火〟だろ!? そんなのが裏市場に流れてきたら、今頃お祭りだ!」

 

 正直、魔族へのスタンスを変えた今でもコイツは殺しておくべきだと強く思っているサツバツナイトであったが、静流やアサギからクソ野郎だが本当に困った時は使える情報ルートなので〝まだ殺すな〟と言われているために今日も殺す気はなかった。

 

 ただ、穏やかに話をしにノックを三回したというのに、向かってきたゾクトが悪いのである。

 

 まぁ、今まで散々付け狙ってきた藤木戸も自業自得だと思っているので、そこは納得しよう。

 

 だが、手を緩めるつもりはなかった。

 

 「パスワードを吐け」

 

 「分かった、分かったよ! 入力して見せてやる! 頼むから殺さないでくれ!!」

 

 「それはオヌシ次第だ」

 

 傭兵の首をぶら下げたのとは、逆の手でセンコの束を弄びながら――役に立たなかったら、これを咥えるのはお前だという脅しだ――ゾクトの尻を蹴り上げると、彼は小便を滴らせながら自分のラップトップにログインして全てをサツバツナイトに晒した。

 

 それは奴隷商人にとって命に等しい商材ではあったが、本当の命と比べて重いかと言われれば否だ。

 

 コイツは殺すと言えば殺す。それも惨たらしくだ。今まで数多の実績でもって凄惨な光景を展開してみせたサツバツナイトは、あのカオスアリーナ倒壊の日に前座として行った〝ノマド首百列〟の夜以前より残虐無比な殺し屋として知れ渡っている。

 

 文字通り〝爆発四散〟したとしか言えない凄絶なカラテによって殺された遺体を何度も見てきたゾクトにとって、逆らうという選択肢はないに等しかった。

 

 「ほら、見ろよ! 俺のデータにも、闇のオークションにも掛かってない! あの〝幻影不知火〟が奴隷業界に入ったとあっちゃ、フォーラムは今頃沸騰寸前……いや、爆発してるとこだぜ!?」

 

 特別な招待がなければ作れないアカウントでのみ入れるオークションサイトにも、アンダーグラウンドのWebフォーラムにもそれらしい投稿はない。藤木戸は持ち込んでいた米連製のソフトでキーワード検索をかけてみたが、出てくるのは不知火にまつわる畏怖や、捕まえたらどうしてやろうかという気色の悪い妄想ばかり。

 

 本当に裏には出回っていないと、最初のアテが空振りに終わった彼は、舌打ちを一つしてUSBを引っこ抜き――遠慮なくバックドアも作らせて貰った――魔族の首にセンコを咥えさせ、ターボライターで着火してゾクトの股の間に置いた。

 

 「ひぃぃぃ!?」

 

 「それが燃え尽きるまで動くな。今回は殺さないでおいてやる。だが……」

 

 「分かった! 分かった!! 絶対に動かねぇ!! 地震が起きようがお袋が死のうが動かねぇから!!」

 

 「それと、シラヌイ=サンを捕らえれそうな手練れが詰めている娼館に覚えはあるか」

 

 不知火はヨミハラの偵察任務で消息を絶った。対魔忍救出作戦の先鋒で、藤木戸とアサギが散々なくそうとした大駒の単騎運用を政府からのゴリ押しでやらされたせいだ。

 

 これに関わったものは全員惨たらしく殺すと心の中で決意を固めながら問うたサツバツナイトの目は、より一層強く輝いていたのだろう。ゾクトは更に失禁! 目を上下左右へ必死に動かしながら、娼館のアテを取りあえず並べていく。

 

 因みに、不知火が調査するはずだった娼館は、既に関係者を戮殺した後だ。任務に関わって消息を絶ったのだから、いの一番に当たるのは当然のこと。しかし、大したカラテの持ち主もいない場所だったので、次のアテとして、手広く商売しているゾクトの元を訪れたのだった。

 

 ゾクトはこう言った危機において迷いがない。容易く同業者の情報を売り渡し、それを聞いたサツバツナイトは決断的にヨミハラへと踏み出す。

 

 「ツバキ=サン、そっちはどうだ」

 

 『ダメね、全員に聞いたけど知らないの一辺倒』

 

 「それは……」

 

 『つま先から血が針に変わっていく痛みって想像できる? 健二』

 

 同時に動いて貰っていたツバキも空振りだったようであるし、彼女も長い傭兵暮らしでインタビューの方法は弁えているようだった。自分では到底できない爪責めを以てしても情報を得られなかったのであれば、知らないのは確実なのだろう。

 

 「……俺も今から片端から当たる。それと、殺した連中の首を集めておいてくれ」

 

 『……何に使うの?』

 

 「メッセージだ。デカイ手紙を書く」

 

 その夜、百と十数余ほどもある暗黒前後施設関係者の首がヨミハラ中央の交差点に飾られ、血文字にて〝幻影の対魔忍を解放せよ〟とド派手なメッセージが刻まれたが、結局、水城不知火が帰って来ることはなかった。

 

 捜査から二週間。周到にして綿密な調査にも関わらず発見できなかったことから、アサギは唇を噛み破りながら不知火のデータにMIAの判を捺すのであった…………。

 

 




オハヨ!(めっちゃ寝た)
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