ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド19

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 水城不知火の失踪から半年。陰謀の全容は洋と知れず、密かに関与しているという情報を持つ官僚や政治家が、〝息抜き〟のためヨミハラにやってくる度に藤木戸が捕まえて“インタビュー”を実施していたが、今回の陰謀は根が深かった。

 

 ニードトゥノウ、知るべきことのみを知れの原則が行き届いており、全員が小さな悪事をリレー式で行っていることによって、全貌が掴めなくなっていたのだ。

 

 両手を十回以上血に染めても恩師の一人を見つけられないことに忸怩たる思いをしながら藤木戸はアサギに頼んで少し無茶をしていた。

 

 「えーと……呼び出しの場所はここのはず」

 

 魔都東京。昼と夜では雰囲気がガラッと変わる発展と退廃が入り乱れる日本の中心地、銀座にて一人の少女が地図を片手に場違いな所にいるなぁと落ち着きのない様子で周囲を見回していた。

 

 彼女の名は水城ゆきかぜ。行方不明になった水城不知火の実子であり、名家たる水城家の総領娘である。ツインテールにした髪は長く艶やかで、肌が焼けやすいのだろう、年中日焼け状態の彼女は年齢に相応しい健康的な可愛さで溢れていた。そのバストは清々しいまでに平坦であった。

 

 今回はアサギから直々にここに行くようにと指示されて時間通り来たのだが、誰が訪ねてくるでもなく、困り果てていたところだ。

 

 集合時間ちょうどになっても誰かが声をかけてくることなく、大人の街に子供一人で来たことに困惑を隠せない彼女であったが……背後にて俄に湧いた気配に反応するだけのことはできた。

 

 「イヤーッ!!」

 

 その控えめなカラテ・シャウトは雑踏に紛れて殆ど誰に耳にも入らなかったが、振り返りながらの肘鉄には、大人の胸骨と肋骨を全て粉砕する威力が秘められていた!

 

 しかし、それは掌でやんわり受け止められ、手首、肘、肩と三段階に分けて威力を減衰させることで勢いを失った。

 

 対魔忍の卵である彼女は――来年には中等部に進学を控えている――急に手練れに襲われたことに驚いて、次の手をどうするべきか思考を素早く巡らせたが、視界に飛び込んできた顔を見て動きを止めた。

 

 「セ……ンセイ」

 

 「ドーモ、久し振りですユキカゼ=サン。藤木戸・健二です」

 

 「センセイ!!」

 

 三年近く前に唐突な別れを告げて里を去って行った師との再開に感極まって、涙を流しながら抱きつくゆきかぜ。藤木戸はそれを優しく受け止めて、背中を優しく撫でてやった。

 

 「センセイ、センセイ、センセイ……」

 

 「……背が伸びたな、ユキカゼ=サン」

 

 「ぐすっ、当たり前でしょ……三年ぶりだもん……いつか、お母さんみたいになるんだからね、私も」

 

 「そうだな、ユキカゼ=サン。ここではなんだ、少し落ち着いたところで話をしよう」

 

 そういって藤木戸がゆきかぜを導いたのは、銀座のど真ん中で営業している鉄板焼き屋であった。完全個室製で、焼き上がった物を持ってくるまで店員が来ないこと、防音が利いていることもあって、ちょっとした密談に対魔忍がよく使う店であった。故に店員も色々と心得ており、平日の昼間にトレンチコートの眼光鋭い男と、まだ中等部に進んでもない少女を連れていても何も言わなかった。

 

 そう、読者諸氏には以外やもしれないが、藤木戸も常にスシだけ食って生きている訳ではないのだ。

 

 「さて、何にする、ユキカゼ=サン」

 

 「私、あんまり詳しくないから……」

 

 「ならモダン焼きがお薦めだ。ここは本場大阪からの出張店だからな」

 

 小さな無線で豚と烏賊のモダン焼きをそれぞれ一人前と、自分には辛口のサケを、ユキカゼにはコーラを頼んでやってから、藤木戸は居住まいを正した。

 

 そして、深々と頭を下げる。

 

 「すまないユキカゼ=サン……力を尽くしたが、シラヌイ=サンを見つけ出すことはできなかった」

 

 「な、なんでセンセイがそんな! センセイは……その……信じられないけど、井河長老衆を沢山殺して、抜け忍になったんでしょう? どうしてお母さんを……」

 

 「俺が抜け忍になったのは、深い理由がある。まだオヌシに全て話すことはできないが、対魔忍になった時に説明することを約束しよう」

 

 だから今は、黙って話を聞いて欲しいと言われ、ゆきかぜは静かに首肯した。

 

 「少し前、五車は危機にあった。俺はそれを正すため抜け忍になったが、今はヨミハラで事務所を構えて、対魔忍を密かに支援している」

 

 「……! やっぱり、やっぱりセンセイは今も正義の対魔忍だったんですね!」

 

 「ああ、その心を捨てた日は一日たりとてない。今は個人的に邪悪な魔族を狩り、囚われた対魔忍を救う活動を行っている」

 

 その中で不知火を探すことに全力を挙げたが、どうしても見つけられなかったことを心から詫びた。

 

 今日は、そのためアサギに無理を言って場所を用意して貰ったのだ。

 

 「センセイがそこまで頑張ってくれて、母も喜んでくれてると思います。きっと、きっと生きてるから、私は諦めてない!」

 

 「……そうか。そう聞いて安心した。それに、カラテも怠っていないようだな」

 

 「ハイ、センセイ! 毎日六時間、鍛錬を欠かしていません! ノーカラテ・ノーニンジャですから!」

 

 心の底から慕っていた、少し妙な所はあるが頼れる師を唐突に失った彼女は、抜け忍の元弟子という誹りに負けず必死に頑張ってきたようだ。そのワザマエが弛まぬ努力で向上していることは、気配を察してからのアンブッシュで分かっていた。

 

 「よくぞ、その年齢でここまで練り上げた」

 

 弟子の頭を撫でて褒めてやりながら、藤木戸はゆきかぜの頭を優しく撫でた。

 

 「これからも精進するように。カラテの道は長く険しく、果てはない」

 

 「ハイ、センセイ!!」

 

 藤木戸は常々、カラテとジツ比の理想は7:3であると信じていた。カラテで雑魚を蹴散らし、強敵にオクノテとしてジツを用いたカラテを行使する。このゆきかぜは、彼が知る中で最も自分の教えに適性があると感じていたからこそ、こうやってキケンを承知で詫びに来たのだ。

 

 「ユキカゼ=サン、俺の一番弟子。俺は諦めない、いつか返しきれない礼を受けた不知火さんを見つけ出してみせる。故に、オヌシも心を強く持ち、常にカラテを忘れるな」

 

 「……ハイ! センセイ!」

 

 「ふっ、やはりいかんな、一番弟子ともなると、つい贔屓が過ぎる」

 

 普段の険しい表情を崩して、親しい友人やゆきかぜくらいにしか見せない笑みを浮かべ、藤木戸は自分も随分と丸くなった物だと少しだけ自重した。

 

 「む、来たか……ここは絶品だ。是非、腹一杯食べていけ」

 

 すると、静かに戸が叩かれる。入出を許可すると、店員が熱々のお好み焼きを二人前運んできたところであった。

 

 「……アレ? センセイ、青のりが掛かってません」

 

 「あー……その……俺はアオサがあまり得意でなくてな」

 

 少し恥ずかしそうに頬を掻く藤木戸。彼は青のりの青っぽい匂いがソースを邪魔すると思って少し苦手だったので、かけないように頼んでおいたのだ。

 

 「センセイにも、苦手ってあったんですね」

 

 「それは俺も人間だ。好き嫌いの一つ二つあるさ」

 

 コテで器用にお好み焼きを裁断しつつ、配ってやると、二人は手を揃えて奥ゆかしくイタダキマスと礼を述べて箸を付けた。

 

 「うわっ、おいし……ふわっふわ」

 

 「ここのは生地に長いもではなく山の芋を使っていてな。その拘りで生地はふわりとしているし、焼き加減も絶妙で焼きそば部分がパリパリだ。堪能していけ」

 

 「何枚でも食べられちゃいそう……」

 

 「成長期なんだ、遠慮せずお代わりすると良い」

 

 師に優しく振る舞われて、自然とゆきかぜの目から涙がぽろりと零れた。

 

 今までは気丈に耐えていた感情が、ついに溢れ出してしまったのだろう。

 

 無理もない。ソンケイしていた師匠は血濡れた名前を与えられて、井河全体からの恨みを買って出奔。自分はそんな男の元弟子という誹りを受けた上、今度は敬愛する母親の失踪だ。

 

 今までは水城家次期党首という自負で耐えてきたのだろうが、懐かしく愛おしい師に会って限界が来たのだろう。

 

 ポロポロ涙を流すゆきかぜを見て、藤木戸は何も言わず懐からテヌギーを取りだして渡した。

 

 そして、何も言わず頭を撫でてやり、お前は一人ではないのだと慰める。

 

 「私も、信じる……いつか、お母さんが帰って来るって」

 

 「そうだな。俺も諦めぬ。必ず見つけ出す」

 

 故にカラテを怠ることなく鍛錬せよと言うと、ゆきかぜは綻ぶような泣き笑いで応えた…………。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 陽が沈んだ魔都東京は趣を大きく変える。その高層ビルの天辺でトレンチコートをはためかせた藤木戸は、影に向かって喋り駆けた。

 

 「それで、いつまでつけているつもりだ。分かりきった尾行は退屈なだけだぞ」

 

 すると、室外機や屋上に通じる出口から対魔忍装束を着込んだ影がぞろぞろと現れた。

 

 「藤木戸・健二……父の仇、討たせて貰う」

 

 「祖母の仇……」

 

 「母の仇……」

 

 「そうか、井河長老衆の縁者か。なるほど、確かにお前達には仇を討つ権利がある」

 

 何か連れないかとゆきかぜを見送った後、東京をブラブラしていた藤木戸であったが、連れたのは残念ながらハズレであったようだ。

 

 アサギからの命令があっても、未だ諦め悪く親族の仇を討とうと、捕縛例を無視して抹殺を試みる長老衆の子や孫達。

 

 分かっていても、藤木戸の心が僅かにサップーケイに染まった。

 

 「ドーモ、井河衆の皆さん、藤木戸・健二です。そのアダウチ、受けて立つ」

 

 この恨みを受け止めるつもりで覚悟していても、一抹の寂しさと辛さは感じずにいられない。

 

 故に彼は、決断的にジュージュツの構えを取って迎え撃った。

 

 必要と断じて行ったが、彼等の恨み自体は正当であると考えるが故に…………。

 

 




オハヨ!
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