ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド21

 かの有名なゼークトの組織論の一節に、無能な働き者、これはもう射殺するしかないとあった。

 

 藤木戸は今、丁度そんな気持ちである。

 

 「……では、事務を希望と」

 

 「はい」

 

 目の前に座っている凜とした少女を見て、コイツは何をしにきたんだと藤木戸は割と真剣に悩んだ。

 

 青に近い艶を持つ黒髪は艶やかで長く、キリッとしたつり目がちの瞳は強い意志を秘めて凜と輝く。そして何より、そのバストは中等部とは思えないほど豊満であった。

 

 彼女の名は秋山・凜子。数日前に密殺中隊に配属が決まり、何を思ったか自分ならば、彼の邪悪なる抜け忍、藤木戸・健二の首を獲ってこれると豪語したらしく、ならどうすると問われ潜入からの不意討ちを具申したらしい。

 

 まぁ、その意気は買おう。中学生というのもあって、まぁお年頃だしねと皆優しい目をしていたという。跳ねっ返りの若者は、実戦経験を積んだ熟練からすると可愛らしいものだ。

 

 凜子は学業優秀、品行方正、生徒の見本であると教師が絶賛するような“お勉強ができる子”と“言われたことは完璧に熟せる子”だ。皆、喜んで送り出したという。

 

 なので密殺中隊は、まずは口出しせず好きにさせてやることにしたようだが、中々とんでもないことを凛子はやり出した。

 

 その潜入の方法が夜討ちでも朝駆けでもなく、真逆の傭われて淡々と隙を伺うという迂遠さから、藤木戸は瞬時に「こいつは賢く見える馬鹿だ」と察した。

 

 というのも、最初から密殺中隊と藤木戸はズブズブの関係どころではなく、藤木戸ありきで結成された任務部隊だけあって凜子の情報は情報が流れているのだが、何故斯様な姑息なことをするのか意味不明な戦闘力を有しているからだ。

 

 狼が羊の皮を被って群れに潜り込む、藤木戸のような潜入スタイルならばよい。

 

 問題は、真面に皮も被ろうとせず、ハロウィンの安っぽいコスプレめいた偽装で餓狼が大人しい座敷犬を装おうとしている滑稽さにあった。

 

 「……ウチは募集の張り紙を出した覚えはないのだが」

 

 「ヨミハラ一の探偵と聞いて、その一助になりたいと思って参りました」

 

 尤もらしい志望理由を挙げるのは結構だが、せめてもっとこう……なんかあるだろ、と藤木戸は即座にカラテに移りたい気分を抑えた。

 

 何処かの任務で助けられて憧れたー、とか、身内が世話になったのでどうしてもーとか。就活でアピールに困った大学生かオヌシはとツッコみたくなるのを苦労するのに、藤木戸は中々の精神的自省を要求されたという。

 

 さて、凜子は五車の里で奨励される対魔剣法、逸刀流においては中等部だてらにカイデン手前までいっているらしく、奥義を授与される時も近いと噂されるタツジンだ。

 

 その上、彼女のジツ、クウトン・ジツはアビ・インフェルノ・ジゴク・ジツを持っている藤木戸を以てして「何だこの理不尽なジツは」と思わせる性能をしていた。

 

 クウトン・ジツそのものは希少なれど法外というほどでもないのだが、彼女の場合は最早ユニーク・ジツと言った方が近しい応用性が凄まじすぎる。

 

 元来空間を操るジツであるのだが、千里眼の如く遠くを見渡すことは勿論、瞬間移動に等しい移動も能う上、その対象は〝自分に限らない〟ときた。

 

 つまり、最も得意らしいイアイドで待ち構え、的を目の前に出現させた途端に真っ二つという道理もへったくれもない〝ズル〟ができる訳だ。

 

 しかも、その瞬間移動は“自分もすることができる”ため相手に常に嫌な二択を想像させる上、アサギを以てしても、飛ばされた瞬間の認知が一瞬遅れる領域にあるという。

 

 なんでここまでのジツとカラテを持ちながら、この女は偽造した身分証と下手な履歴書を持って現れたのか、藤木戸は大いに悩んだ。

 

 まぁ、この場所を見つけ出したところまではよかろう。密殺中隊の面々も教えなかったそうなので、自力で探し出したのは流石のクウトン・ジツというところ。

 

 ただ、それなら寝てる所なり風呂に入っているところなりにエントリーして殺しにくればいい話で、なんで潜入からの暗殺に繋がるのかが等号で結べない。

 

 自分なら隙を伺って意表を突く登場をしてアンブッシュで仕留める。

 

 そして、藤木戸はその機会を何度か与えているつもりであった。

 

 チャを煎れるといって後ろを見せたり、あの書類は何処にやったかと書類棚に頭を突っ込んでみたり、果てはこうやって首を晒すように応接セットのソファーで書類をじっと見ている。

 

 自分では隙だらけもいいところなのだが、何をしているのだろか、この小娘はという感想が拭えない。

 

 いや、慎重だったらいいのだ。あれだけの手練れが徒党を為している密殺中隊でさえ、今まで殺しきれぬ藤木戸・健二。その底力を測るべく観察しているというなら理解も及ぶのであるが、それならもっと遠巻きにジツを使ってやればいい。

 

 何故わざわざ来る? それが最も理解できなかった。

 

 いっそ、カマクラ・エラの武士めいて事務所の前で名乗りを挙げて、ツッコんでくる方が余程効率的であろうに。

 

 「ウチとしては正直人手は足りているのだが……」

 

 「そこをなんとっ……」

 

 か、と最後まで言うことはできなかった。

 

 「うっ、なっ、これは……か、体が……」

 

 「安心せよ、麻痺毒だ。死にはせぬ」

 

 藤木戸はズズーっと自分のチャを啜りながら履歴書を放り出し、はぁ……と深い溜息を吐いた。少し遅れて効いてきた、ヨミハラ特性の麻痺毒が効果を発揮して凛子はソファーに頽れたのだ。

 

 「オヌシ、本当に対魔忍か? 敵地で出された物を疑わず喫食するヤツがあるか」

 

 「なっ、わ、私が対魔忍だとどうして……」

 

 「もっと殺気を消せ。立ち姿が完全に戦う者の姿勢のままだった。左に重心が寄っているのは、普段カタナを提げているからだな? クセから丸見えであったぞ」

 

 正直な話、藤木戸ならもう二桁は余裕で殺せているのだが、何かヒサツ・ワザか計略でもあって来ているのかと考えて暫く観察していたのだが、そうでもないのが何とも言えない。

 

 凜子は恐らく、密殺という名を真に受けて、信頼を勝ち取り密かに始末しようと目論んでいたのであろう。

 

 一番拙いのは、普通に敵地で敵が手ずから煎れたチャを口にしたことだ。これが解除困難媚毒や、脳髄まで達して効果を発揮する洗脳用のマイクロマシンだったらどうするつもりだったのだろう。

 

 そこまでいかずとも、対魔粒子の流れを狂わせてジツの行使を困難たらしめるような薬でも、十分死に値するであろうに。

 

 「はぁ……と、いうことだサクラ=サン」

 

 「……いやぁ……これはちょっと……ひどい」

 

 「さ、さくら、ちゅ、中隊長……!?」

 

 パン、と手を叩くと影からにゅっとさくらが顔を出した。今日辺り来るだろうなと思っていたので、採点するべく訪ねて来ていたのだ。

 

 正直、さくらは凛子と組み手をして彼女の性能と理不尽さを分かっていたので、真正面からカチコミを掛けるだけでも六〇点、つまり赤点回避くらいはさせてあげるつもりだった。

 

 しかし、これでは……。

 

 「えーとね……ごめん、凛子ちゃん、ゼロ点だわ」

 

 「ゼロ? え、なに……?」

 

 さくらも最初は、ちょととワクワクしながらことの推移を見守っていたのだ。黙っていれば凄く賢そうなので、何か自分では思いつきもしない腹案を持って、事務員として潜入しようとしていると思ったから。

 

 だが、蓋をあければこの様だ。

 

 黙っていれば美人というのは対魔忍には多い属性ながら、よもや、黙っていれば賢そうというアレな人物だとは、僅かな交流時間では掴み損ねていたらしい。

 

 どうやら、学業優秀で成績優等、品行方正にして若干尊大な気はあれど冷静な態度が見るヒトを勘違いさせるようだ。

 

 しかも流されやすいと来た。これはもう、わりともう手の打ちようがない。

 

 「中隊長殿は不適格だと仰せだ。まぁ、もし俺がオヌシの知る通りの存在であったら、とっくにその首は肩の上に乗っておらんであろうな」

 

 「そだね。あ、小遣い稼ぎに媚毒漬けにして売り飛ばすのもヨミハラ流じゃない?」

 

 「そうだな、そういうこともあるだろう。あるいは、服従するしかないよう肉体を加工されて敵の尖兵になることもあった」

 

 「あー……手足に爆弾仕込んだり?」

 

 「それもいい使い方だ。だが、最近はニューロンに〝蟲〟を入れて、ジョルリニンギョめいて操る手段もあると聞く」

 

 目を白黒させる凛子を前に、さくらは藤木戸の隣に座ると、彼が呑んでいたチャを一口啜った。

 

 「うわ、けんにぃ、自分のにも麻痺毒入れてる」

 

 「分かるか、ほぼ無味無臭のはずだが」

 

 「口の中に暫く入れてたらピリピリするから、警戒してたら直ぐ分かるよこんなの」

 

 べっとチャワンの中に毒入りのチャを吐き捨てるさくらをはしたないと叱るようなことはしなかった。ジッサイ、この毒は麻痺毒に特別な恐怖的思い入れがある藤木戸が、いつか使ってくる手合いがいても対応できるよう、自らに慣らすよう時折呑んでいるだけであって、常人が呑んで良いものではない。

 

 「同じ物を飲めば警戒しないかと思ってな。それ以前の問題だが」

 

 「まぁ、こういうのって大抵拮抗剤あるもんね。けんにぃはチャドー呼吸もあるし」

 

 「う……」

 

 どしたの? と麻痺毒で上手く口が動かない凛子の口元にさくらが耳を寄せる。

 

 「うらぎって……いた……の、です……か……?」

 

 「まっさかー! あっ」

 

 そこまでいって、良いことを思いついたとばかりにさくらはチャシャ・キャットめいた笑みを浮かべた。

 

 それから藤木戸にしなだれかかり、淫靡に胸を撫でさする。

 

 「そう、実は私達、もうみんな健二様の虜なの。ごめんね凛子ちゃ……ンアー!?」

 

 ゴツンと、かなり腹に響く重低音音が事務所に轟いた。

 

 藤木戸が割とガチめに拳骨を振り下ろしたのだ。

 

 「けんにぃ酷い! 私馬鹿なのに、これ以上馬鹿になったらどう責任とってくれるつもり!?」

 

 「ヨミハラ流ジョークにしても行き過ぎだサクラ=サン」

 

 際どすぎる冗談に藤木戸のカンニンブクロも一瞬で暖まったようで、容赦のない拳による打擲が振り下ろされた。握りしめた拳を正拳ではなく、叩き付けるように横向きに振り下ろしただけなので随分マシだろうが、完全に体の軸を垂直に捕らえていたので足先まで衝撃が抜けるような一撃であったという。

 

 「はぁ……まず何処から説明したものか」

 

 この怜悧で頭が良さそうに見えて、実はとんでもないポンコツに今の状況をちゃんと説明して理解させるのに、どれくらいの手間が掛かるか、藤木戸には測り知れなかった…………。

 

 




オハヨ!
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