ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン:マゾクスレイヤー・ハズ・カムバック5

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 悪巧みをするのは夜と相場が決まっているが、それは対魔忍の里でも変わらないらしい。

 

 「では、空遁の術でここを覗き見すれば良いのですね?」

 

 「そうだ」

 

 秋山・凜子を連れて藤木戸は街中でも目立たない軽自動車の中で、ハンチング帽を目深に被って人相を隠していた。

 

 500mほど先にあるのは和風の豪奢な館であり、忍が数名警戒に当たっている気配があった。これは担当が未熟というよりも、キチンと見張っていると敢えて気配を漏らすことで示威行為としているためであろう。

 

 「では、行きます」

 

 「うむ」

 

 本来なら厚く護られた施設を覗き見るには多大な苦労を要するが、凜子はそれを瞑目してジツを練るだけでやってのける。何せ任意の場所に五感を飛ばせるのだ。視覚は勿論、聴覚を跳躍させて盗み見と盗み聞きを同時に成立させるそれは、殆ど不可視のドローンと言っていい。

 

 アサギが次代のリーダーにと欲するのも頷けるジツだ。これがあれば敵は警戒網どころか施設の全容が丸裸にされ、罠を練っても全て見抜かれ、伏兵は遊兵と化すという、攻め寄せる側になることが多い対魔忍を圧倒的有利に導く技術だ。更に広範囲を警戒することでアンブッシュを完全に潰すのは、多くのステルス・ジツを得意とするニンジャにとっての悪夢に等しい。

 

 この性能を知ったアサギが、次代のリーダーにと望むのも理解できよう。実質、一人だけ神の視点で戦場を差配しているに久しいのだから。

 

 唯一の欠点らしい欠点と言えば、それを外部に出力できないことくらいだろう。これで録音から視界の共有までできたら「インチキも大概にしておけよ」という話なので、仕方がないのかもしれないが。

 

 さて、一体どうしてこれだけの性能を誇りながら、謎の作戦立案能力と詰めの甘さを持つのかが、藤木戸には理解しがかった。時代が時代なら国の一つ二つ打ち立ててもおかしくないジツであるというのに。

 

 「……庭に警備の忍が多数詰めています。五、六……いえ、八人」

 

 「閉門蟄居させられた別邸にしては多すぎるな。交渉側が派遣した増援といったところか」

 

 さて、ここは藤木戸が殺さなかった井河長老衆の生き残りが隠居させられている別邸であり、現在は政治的な力を奪われた老人が軟禁されているだけに過ぎない。

 

 アサギは見張りとして数人を貼り付けさせているが、その数は常識的な範囲に収まっており、逃亡を防止する抑止力程度のはずだ。

 

 それが庭だけで八人も詰めているのは明らかにおかしい。恐らく、人員が恣意的に入れ替えられるか、成り代わられるかでもしたのだろう。

 

 「……今、頭首の部屋に感覚を飛ばしました。誰かと会っています」

 

 「見覚えは?」

 

 「すみません、ないですね。男性、歳の頃は二十代頭、栗毛に眼鏡、垂れ目がちで柔和な顔付き。服装は対魔忍装束ではなくスーツ……少なくとも五車では見かけない顔です」

 

 「ヌゥー……それだけでは何とも言えんな」

 

 「……待ってください。僅かながら、魔の気配がします」

 

 「何? そんなことまで分かるのか?」

 

 「私の空遁の術は、五感全てを飛ばします。魔を感じ取る力も勿論」

 

 本当に凄まじいジツだ。これで半端な作戦ではなく、入念にして完璧な作戦を立てる頭があれば、アサギがどれだけ助かっただろうかと藤木戸は軽い頭痛を覚えた。

 

 まぁ、こうやって直接指示している限りは、独断専行もせず、ちゃんと指示を熟してくれるので、将来に期待と行こう。フローチャート式に物を考えられるようになれば、一流は無理でも実働には足るリンコ=サン更に改善になる可能性が絶無ではないのだから。

 

 「何を話しているか、一言一句そのまま喋ってくれ」

 

 「分かりました」

 

 藤木戸は軍用ラップトップを開いて、凜子が読み上げた会話の内容をそのままニンジャタイピング力で素早く入力した。

 

 内容自体は時候の挨拶から始まって――どうやら本当にタイミングよく訪れたらしい――当たり障りのない会話をしているが、よく内容を読み込めば〝隠語と暗喩〟を多分に含ませた〝決起〟の相談であることが分かった。

 

 どうやら敵は、速戦に出るのではなく、まず五車の連携を断ちに来ているようだ。

 

 「拙いな」

 

 「どうかしましたか?」

 

 「連中、スキャンダルをリークしてアサギ=サンの地位を貶めるところから始めるつもりらしい」

 

 藤木戸は最初、クーデターでも起こして一気呵成にアサギを排斥して、改革以前の支配体制に戻すつもりであると予測していたのだが、そうではないらしい。

 

 雰囲気からして、アサギを追い落とし、一対魔忍に戻そうとしているきらいがある。

 

 つまり敵は、腰を落ち着けてがっぷり四つでやるつもりなのだ。

 

 この持ちかけを他の凋落した家にも持って行っていたり、反アサギ派の家にも流していた場合は、五車の議会でアサギは袋だたきに遭って責任問題から辞任に追い落とされる公算が高い。

 

 現在、アサギは事態を重く見て、計画を前倒しし味方を増やすべく古老達に〝旧井河虐殺事件〟の真相を話して地盤を再度固めに走っているが、それが間に合うかどうか。

 

 何せコトがことだけである上、やったことが過激すぎる。四年の前のことなので事件は風化しつつあるとはいえ、藤木戸の独断専行を見逃して処刑執行書類にサインしたに等しいとあったならば、あまりいい顔をしない者も多いだろう。

 

 確かに葉取・星舟は独断的にして権力欲が強すぎたために敵も多いし好かれてもいない。

 

 だが、必要だったからと言って自らの血族を手にかけた罪は、想像よりも重い物だ。たとえそれが五車全体のためであると頭では理解しても、本能的に拒否する者は多かろう。

 

 せめてあと一年時間があれば。アサギが強力な味方を作って複数人で説得する態勢を作っていたならば、事態はもっと簡単に運んだというのに。

 

 これは事件が〝そんなこともあったな〟と記憶が薄れるまで待ったのが悪かったのだろうか。

 

 いや、所詮は結果論だ。本来は二人と共通の友人しか知らなかったことが、どういう訳か外に漏れたのだから仕方がない。仮定の話をああだこうだ言っても始まらない。

 

 「どうします? 捕縛しますか?」

 

 「待て。関与している者が誰か全体を把握するまで下手に動くべきではない」

 

 今乗り込んでも、得られるのはジッサイのところ権力を失った老人の皺首一つだ。その程度では陰謀を挫くには足りないし、魔の気配がする人員を遣いに出しているということは、どうせ星舟がノマドから借りた使いっ走りであろう。

 

 捕まえてインタビューしたところで、搾り取れる情報には限りがある。これだけを頼りに関係者を糾弾する訳にもいかぬので、もっと確固たる情報が必要だった。

 

 制止されて凜子は少し納得が行っていないようだったが、知恵捨てと一言呟いて役割に徹することにしたようだ。藤木戸は自分の教育が行き届いていることに満足し、会話を記録しつづける。

 

 「……待てよ」

 

 「どうしました?」

 

 「リンコ=サン、オヌシ、無機物を一方的に送ることはできるか?」

 

 「それは、まぁ」

 

 ならば次は小型の監視カメラとレコーダーも送り込ませるべきだなと、藤木戸は凜子のジツが何処まで便利であるかの認識が不足していたことに今更気付いた。

 

 とはいえ、敵も老獪。表面上は当たり障りのない会話を装っているので証拠にするには弱いが、アサギへの報告には十分役立つだろう。

 

 「あ、会話が終わりました。退去するようです」

 

 「後をつけられるか」

 

 「瞬間移動でもされない限りは確実に」

 

 本当に法外なほどに便利なジツだ。これ一つあれば諜報から暗殺、拉致までなんでもできるのだから、逆にどうしてあそこまで残念な策を実行したのか藤木戸は本当に理解できなくて首を捻った。

 

 それこそ、風呂に入っている時だったり、女を抱いていたりして、最高に油断しているところをイアイドの構えを取った状態で引き寄せて斬り捨てれば、どんな強者とて一刀で撃破できようものを。

 

 さしもの天も、ここまでツヨイ・ジツの持ち主に頭の柔軟さまで与えては、色んな物が崩壊するとでも判断して、バランスを取ろうとでもしたのであろうか。

 

 その後、密かに家を出た青年を付けること数件分、似たようなやり取りをしているばかりで決定的な証拠は得られなかったが、五車中枢から遠ざけられた面々がクーデターの下準備に参加させられようとしていることだけは分かった。

 

 そして、その大半が乗り気であることも。

 

 夜半過ぎまで密かに邸宅回りをした青年は、そのまま五車の数少ない宿泊施設へと入っていった。今日はそこに泊まって、明日も工作を続けるつもりらしい。

 

 「ヌゥー……」

 

 「藤木戸さん?」

 

 尾行していても目立たないようにリクライニングさせていた座席に体を預け、藤木戸は唸った。

 

 どうするのが最適か。

 

 いや、正直、答えは出ている。脳内のレッドゴリラ=サンが囁くのだ。最終的に暴力で解決するのが一番だと。

 

 ただ、アサギが穏当に解決させようと頑張っていることもあって、藤木戸の目から迷いが消えることはなかった。

 

 何より、暴力に訴えかけるなら一気呵成にやらねばならぬ。そうすれば敵は尻尾を巻いて次の機会を虎視眈々と狙い続けることに……。

 

 そこまで考えたところで、藤木戸はふと隣の凜子を見た。

 

 「……リンコ=サン、ジツの射程距離はどれくらいだ?」

 

 「え? 1kmほどですが」

 

 「それは人を空間転移させるのも一緒か?」

 

 「連続しては少し無理がありますが、まぁ概ね」

 

 どれくらい休んだら人を連続して運べる? と問われ、凜子は猛烈に嫌な予感がした。

 

 ああ、今晩私、もの凄くこき使われるんだと。

 

 一人五分、いや十分くれればと言ったところ、分かったと藤木戸は車をホテルに寄せて、交渉役の青年を拉致するよう命じた。

 

 「はっ? なっ……」

 

 「イヤーッ!!」

 

 「ぐぼっ!?」

 

 何があったかも分からぬまま後部座席に転移させられた青年は、アンブッシュで鳩尾に強力な一撃を貰って意識を飛ばした。

 

 そして、藤木戸は完全に意識を失っていることを確認してから首根っこを引っ掴んで頭を起こし、無理やり眼球を開かせると表面を軽く指でなぞる。

 

 すると、案の定、茶褐色のカラーコンタクトの下から人間には有り得ない金色の瞳が姿を現したではないか。

 

 「やはりな」

 

 「あの藤木戸さん、コイツを潰せば逃げられるんじゃ……」

 

 「いいかリンコ=サン、それは時間を掛けた場合だ。一晩で全て済ませば、敵は逆に混乱して逃げる時間を失う。暴力で解決するには中途半端ではいかん。全てを一撃の下に叩き伏せてこそ暴力は光り輝く」

 

 「一晩……一晩!?」

 

 今夜だ、今夜中に全てにケリを付けると言って、藤木戸は捕虜に本格的なインタビューをするべく官舎へ車を走らせる。

 

 そして今宵、凜子は今の魔族を除いて都合七人もの老人や中年男性を拉致させられ、対魔粒子の使いすぎてクタクタになって、翌日は学校を休むこととなった…………。

 

 




オハヨ!
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