ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン 6

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 「っ!? ここは!?」

 

 心転身の術を行使し、マゾクスレイヤーの体を乗っ取った朧は唐突な視界の変化に呆然とした。

 

 ここは先程までいた結婚式場、ジゴクの、ケオスの体現となった場所とは違う。

 

 普通の部屋だ。

 

 和室の六畳間には座卓とパソコンがあり、本棚には異様な太さの本がみっちりと敷き詰められている。

 

 壁掛け棚に飾られているのは、何らかのグッズであろうか。刃が鈍らせた四方スリケン、決断的な字体で忍・殺と刻印されたメンポ。それ以外にも複製原画と思しきウキヨエが幾枚か、丁寧に額装して飾ってあった。

 

 それらに囲まれて、古ぼけたブラウン管のテレビと一枚のフートンが鎮座している。

 

 「これは、まさかマゾクスレイヤーの魂?」

 

 そこは朧の予想通り、マゾクスレイヤーの根源であった。男の一人暮らしらしい部屋で、引き戸の向こうには清掃は行き届いているが、あまり人を招く機会のなさそうなダイニングがあった。

 

 余人の魂を乗っ取る時、朧が間々目にする光景だ。その人物の根源らしい場所であるのだが、どうにもここは風情が違う。

 

 怨敵たるマゾクスレイヤーの身辺調査は済んでいる。彼の部屋は本来、五車が宛がった社宅であり、これほどこぢんまりとはしていない。単独行動を許された上忍に相応しい2DKだが、報告書では特筆事項に〝異様なまでの生活感のなさ〟と記されるほど物がないはずだ。

 

 実際、今生での藤木戸は社宅を使うことがなかった。上層部から嫌がらせのように寄越される膨大な任務を熟すため、塒に帰ることもせず支局の仮眠室でアグラ・メディテーション状態でチャドー呼吸で休みを取るばかりで、鍵を回した経験など引っ越し作業で入った時だけなのだから。

 

 故にここは実家か何処かかと思って見回した朧ながら、直ぐに笑みを強くする。

 

 心転身の術は法外な、それこそ人の(のり)を外れるほど強力なジツではあるのだが、全く何のリスクも制限もなく乗っ取れる訳ではない。それができているのであれば、彼女はとっくにアサギなど亡き者にできていたであろう。

 

 対象が弱っている、或いは朧より弱い精神性がなければ心転身の術は成立しない。

 

 しかし、マゾクスレイヤーの精神世界に入り込めたということは、最早彼が立ち上がれないほど疲弊しているということの証左に他ならなかった。

 

 「口ほどもないねぇ! まぁいいさ! ここから更なる地獄に叩き落として……」

 

 ブン、と鈍い音がした。

 

 何事かと思い目をやれば、いつの間にか古ぼけたブラウン管のテレビに電源が入っているではないか。

 

 これはあくまで心象風景、そんな馬鹿なと思っていると、ノイズ混じりの画面に様々な光景が映し出されていく。

 

 それはツキジめいたジゴクの連続であった。

 

 魔族によって殺された人々が連なる山。

 

 食肉を処理するように鉤爪で吊された死体の数々。

 

 玩具のように玩弄されて壊れ、人形のような目をした乙女達。

 

 そして、戦いの中で散っていった対魔忍の亡骸が並ぶ霊安室と膨大な墓碑。

 

 「なっ、なんだい、この気味の悪い……」

 

 『マゾク、殺すべし』

 

 ひっ、と、あの傲岸不遜の極みにある朧から引き攣るような声が絞り出された。

 

 ニンジャスレイヤーにおいて、ナラクは殺されたモータルのニンジャに対する憎悪が生んだ、ニンジャを殺すニンジャの概念であった。

 

 しかし、魔界と地球が繋がって以降、魔族の暴虐、彼等が持ち込んだテクノロジー、そしてそれに乗って人の心を捨てた者達の残虐さは剰りにも、剰りにも無情にして悪魔めいて膨れ上がっていた。

 

 ジゴクの一言では最早足りぬ。対魔忍として前線に出ていた藤木戸が魔族を恨むには十分過ぎるだけの下地が、既にこの世にはあったのだ。

 

 『マゾク、殺すべし』

 

 そして、アビ・インフェルノ・ジゴク・ジツ、八大地獄の中でも最も重い責を負った亡者が落ちる地獄の炎は、藤木戸の中に存在しないナラクを醸造した。

 

 即ち、マゾクスレイヤーを名乗るのは彼の奇矯さとヘッズ故の重篤さのみならず、自らの趣味によって名乗り出す以前に土壌がこの世界そのものに出来上がっていたからなのだ。

 

 『マゾク、殺すべし!!』

 

 誰も入っていなかったはずのフートンが膨らみ、捲れ上がったそこからぬるりとブレーザーに覆われた腕が現れた。

 

 「ひっ」

 

 「この程度で、俺の心が折れると思うてか、朧=サン。精神戦なら望むところだ」

 

 なんたるウカツ! 朧は忘れていたのだ! この男が狂人であることを!!

 

 狂った男の魂に触れることがどれだけ危険か考えるのを忘れるのが、どれほど危険なことか!!

 

 逃げようと足を引っ張っても抜けぬ、万力めいた握力で足を保持しながらフートンより這い出すのは……マゾクスレイヤー!

 

 センコめいた光を宿した貌が横倒しの状態でフートンの隙間から覗いた瞬間、朧は危うく精神世界にも拘わらず失禁しかけた。

 

 それほど真に迫り、沸沸と燃える憎悪の深さに気圧されたのである。

 

 「元より人間の世はケオスに溢れていた。それを更に加速させ、ジゴクを深くしたマゾク、許すまじ」

 

 「はなっ、離せっ!!」

 

 「そして、そのマゾクに便乗し、世を更なるマッポーに導く奴儕、尚許すまじ」

 

 「クソッ、クソッ!!」

 

 蹴っても蹴っても手は離れない。やがて、全身をフートンから現したマゾクスレイヤーは、勢いよく立ち上がると朧を逆さ吊りにして、その鳩尾に膝を叩き込んだ。先程まで自分が蹴り倒されていた報復と言わんばかりに。

 

 「イヤー!!」

 

 「ごぶっ!?」

 

 精神世界で魂をダイレクトに襲う蹴りに身もだえた朧を淡々と見下ろし、マゾクスレイヤーは独白する。

 

 「俺はこの世でジゴクを見た。マゾク、そしてマゾクに組みする外道が人を弄ぶジゴクだ。故に貴様らは赦せぬ。貴様らは悉く殺されるべき存在だ」

 

 「そんなっ……もんっ……魔界の門が……」

 

 「イヤーッ!!」

 

 「あばっ……!?」

 

 更なる鳩尾への膝! 悪党の言い訳染みた言葉など訊かぬと態度で表明し、彼は続ける。

 

 「ヒレツな言い訳は聞かぬ! 元よりこの世はマッポーの世。だが、マゾクはやり過ぎた。あれらはやり過ぎだった。人が本来持てぬ物を持ち込んで、人の魂を更に堕落させた。故に俺は、このジゴクを深くした連中を許さぬ」

 

 それが彼をマゾクスレイヤーたらしめる原因。ヘッズでもあった彼は、この世でジゴクを見過ぎた。なればこそ、ジゴクとコネクトした魂が叫ぶのだ。

 

 魔族、殺すべしと。

 

 「マゾク、殺すべし。それに類する外道、殺すべし。それを利用する者、殺すべし」

 

 禍々しいチャントめいた決意表明と共に、彼が先程まで収まっていたフートンが燃え上がった。赤黒い炎は正しくアビ・インフェルノ・ジゴクの炎であり、彼のジツによって生み出された魂の監獄だ。

 

 「俺の憎悪に、直接魂で触れたのが間違いだったな朧=サン。あれだけのことをやった後に」

 

 「ま、待ちなさい! あ、アレに、アレに……」

 

 「そうだ、貴様の魂はフートンで寝ておれ。今まで弄んだ命の代価で燃える、アビ・ジゴクのフートンでだ」

 

 「まっ、待ち、待って……!! そこまでのことをした覚えはない! 全ての魔族の咎を追うような殺され方をする(いわ)れは……」

 

 「独創的な命乞いだ。余程苦しんで死にたいと見える」

 

 「待って! お願いまっ……」

 

 「マゾク、悉く殺すべし」

 

 ジゴクの炎に包まれて、命乞いも言い終えぬまま朧はフートンの中で藻掻くばかりとなった。人を苦しめて、ただでさえジゴクの世を更なるマッポーに落として悦ぶ者には似合いの末路と言えよう。

 

 彼はフートンの監獄に朧を幽閉すると、一つ吐息して手を合わせた。

 

 「ナムアミブッダ……キョウスケ=サン……すまない」

 

 助けられなかった友人達のために祈り、彼は精神世界で膝を突く。憎悪の炎、自ら魂を浸した阿鼻地獄の炎で何とか朧の精神性を下しはしたが、彼にも限界が訪れていたのだ。

 

 そして、マゾクスレイヤーは、また一人のマゾクをスレイして深い深い、泥のような眠りに落ちていった…………。




反響が大きくてビックリしている。実は筆者のFANBOXで完結まで書き上がっているので安心して欲し……って、誰がゲイのサディストだ! 原作どおりやろがい!

ということで汚朧=サン決着。あんまり暗い展開でクリフハンガーしたくなかったので、更新しました。
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