ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・マゾクスレイヤー・ハズ・カムバック・エピローグ

 麦には何故か、井河本邸の広い客間のタタミが白い玉砂利に見えた。

 

 いわゆるオシラスというヤツだろう。

 

 パァンと淑女らしからぬ音を立てて、午前中で何とか精神を立て直したらしいアサギがやって来た。居住まいは完璧に正されており、シャワーも浴びてきたのか見た目だけはきちんと整っているが、その目はツキジに並べられるマグロのように生気がない。

 

 恐らく、クーデターを未然に防ぐべく必死に奔走していた自分がバカみたいに思えてきたのであろう。

 

 「ハハーッ」

 

 「もういいから」

 

 藤木戸が美事なドゲザをするのに合わせて、昨夜の一件に関わった密殺中隊の面々全員が倣ってドゲザした。帰ってきて呆然とコトの次第を聞いたアサギ、本日二度目のドゲザの列である。

 

 しかし、それに対する反応は冷淡であった。

 

 「面を上げて」

 

 「いいえ、悪いです」

 

 「悪いと思ってるなら、私がこれで何でも許すと思ってるのをあらためなさい!!」

 

 割とどころではなく巨大な横車を押した藤木戸は――尚、予告した通り股間テンプラ寸前動画は五車中にばら撒かれている――幼馴染みに本気で悪いとは思っているのだが、これっぽっちも後悔していないので平常運転。

 

 ただし、漏れ出るサツバツたる剣気を浴びている他の面々は気が気ではなかった。

 

 ジッサイにこの場でテウチにされるかどうかが問題ではない。本能が警鐘を鳴らすのだ。絶対に真面に打ち合うなと。鍛え上げてきた対魔忍としての本能が、何があろうと勝てはしないと体を制止する。

 

 「いやもう、ホント……なんでこう……変な方向にばっかり思い切りが良いの……」

 

 アサギはザブトンに座ると体面も何も知ったことかと卓に肘を突いて、片手で頭を抱えた。

 

 「あのね、さっきから携帯鳴りっぱなしなの」

 

 「ハイ」

 

 「閉門蟄居させたとはいえね、元ではあっても権力者なの。江戸時代でもあるまいし、普通に外出は許可してたし、人付き合いもあったのよ」

 

 「ハイ」

 

 「後釜に据えた子のメンツってのもあるの。親類が裏切り者だった辛さは、私が誰よりも分かってるつもりだし」

 

 「ハイ」

 

 「はいじゃないが?」

 

 淡々と答える藤木戸にアサギが半ギレでハヤブサ・ジツを使い、その場から立ち上がったことも認識できぬ速度で彼の前に立った。冷たい目で幼馴染みを睥睨しつつ、自分のためにやったことと分かりつつも怒らずにはいられないのだ。

 

 それくらい、劇薬めいた治療であったからだ。

 

 「そこんところ、どう思ってる?」

 

 「一番手っ取り早く解決させたと思っている。反省はしているし申し訳ないとも思っているが、後悔はしていない」

 

 「っ~~~~~~~~~~!!」

 

 アサギは他の面々がいなかったならば、頭を掻き毟っていたであろう。この幼馴染みは昔から極端なところがあった。

 

 自分が子供同士のちょっとした悪戯で泣かされたら、恭介と組んで相手を全裸にして吊るし反省を促すという、少々イカレた報復をしでかしてくれたので理解していたつもりだったのだが、ここまでやるかと思ったのだ。

 

 「報告書」

 

 「ハハーッ」

 

 頭を上げぬまま捧げ持たれた報告書を受け取ったアサギは、ざっと目を通したのだが、内容はこれまた腹立たしいまでに仕上げられていた。

 

 誤字誤変換一つないのは当然として、必要な物が過不足なく纏められており、ご丁寧に映像データまでUSBで添付されているため、もうコレ一個送りつけたら事態の説明が済む程度にはお膳立てされているのが、自分を心底から思ってやったことと分かるが故に腹立たしい。

 

 とはいえ、それではいけないのだ。五車を束ねる者として、ジッサイに靴の裏をすり減らして信頼とソンケイを勝ち取らねば人は付いてこない。

 

 如何に葉取・星舟がノマド幹部フュルストと結託し、閉門蟄居に処した者達のアサギへの逆恨みに火を付けてコトを企てたという大義名分があっても、ちゃんと対面して説明を行って、心折れるまで――古い用法であってメンタルを折る意味ではない――丁寧に接する。

 

 ここまでやらねば、人は〝道理が通っているだけ〟では絶対についてこないのだ。

 

 その労を分かっているのか。

 

 いや多分、分かって尚もこの方がダメージが少ないと熟考した上でやらかしているだろうからこそ、これ以上怒鳴りつけると自分が大人げないことになるのが、理性では抑え付けられない苛立ちを喚起するのだった。

 

 しかし、アサギも大人だ。もう起こったこと、やっちゃったことは仕方がない。そう諦める術は身に付けている。

 

 もっといいソフトランディングの方法があったのではと苦言を呈したところで、それは後からなら何とでも言えるというもの。事実として敵の策は構築中で、進行は想定より遅かったといえど、手っ取り早く色んなことが解決するのは事実だったのだから。

 

 「もうほんと顔を上げて」

 

 「ハハーッ」

 

 三度目の許しを与えて顔を上げさせ、アサギはジツを使わず元の位置に戻ると、少し乱暴に座って報告書を卓上に投げ出した。

 

 「とりあえず、これから里中を回って色々説明してまわるから」

 

 「ハイ」

 

 「名家は片っ端から。影響があった家も全部」

 

 「ハイ」

 

 「三日ほど、自由はないと覚悟なさい」

 

 「ハイ」

 

 「結構。密殺中隊は下がってよろしい」

 

 ここで帰れと言われて帰らないのも不敬であるため、密殺中隊の面々、つまり藤木戸以外は全員すごすごと控え室へと引き返していった。

 

 正直、これだけ怒っているアサギをさくら以外は見たことがないのもあるが、あまり刺激したくなかったのであろう。

 

 そして、一人残った藤木戸と相対したアサギは、他の気配が全て失せたことを確認してからへにゃりと笑った。

 

 この怒りは本心であると同時に仮面。

 

 密殺中隊の若い面々に、この男のような独断専行が許されると思うなよと、対外的に叩き込むためのポーズでもあったのだ。

 

 「まったく……らしいといえばらしいわね」

 

 「すまなかった。だが、ただでさえ傷付いているアサギ=サンの古傷に触れて、再び傷付けんとする奴儕は俺が……俺が我慢ならなかった」

 

 「もう四年も前のことよ」

 

 「たったの四年だ、アサギ=サン。キョウスケ=サンが死んだのも、俺が旧長老衆を手にかけたのも、たったの四年だ。この屋敷に漂うセンコの香り、毎日手向けているのが良く分かるぞ」

 

 それくらいで忘れられるものか。そう正座した膝の上で拳を握る藤木戸の紅梅色をした目が、一瞬センコめいた光を帯びた。

 

 未だ彼の心の中、アビ・インフェルノ・ジゴク・ジツで編んだフートンの中で朧は悶え苦しんでいる。

 

 しかし、それで失った物が戻ってくるでも、傷が塞がる訳でもない。

 

 四年前の一件で一番傷付けられたアサギが、それをだしにして政治的に弄ばれることを藤木戸は断じて容れることができなかった。

 

 此度の事件が全て性急に過ぎたのは、全てがそのためであったのだ。

 

 「これを見逃せば俺が俺でなくなってしまう。マゾクスレイヤーでもサツバツナイトでもなく、アサギ=サンとキョウスケ=サンの友たる藤木戸・健二としていられなくなってしまう。だからやった」

 

 「……甘い幼馴染みを持ったわね、私も」

 

 「だが、かなり手間をかけさせることになった。それは心より申し訳ないと思っている。ケジメとなるなら何だってしよう」

 

 「私も伊達や酔狂で四年も井河頭首をやってないわ。お婆様……いえ、星舟の陰謀を捨て置けば、どれだけ里が乱れたかは分かっているつもりよ。それを考えたら、まぁ二、三日の徹夜は安い方ね」

 

 しかし、許可も得ず好き勝手やられたことだけは、ちゃんと怒ってるからねと念押しし、アサギは藤木戸に二つの命令を下した。

 

 一つは、これから次第を報告して回る行脚についてくること。

 

 そして、二つは正式に対魔忍に戻ること。

 

 「だがアサギ=サン!」

 

 「旧長老衆の悪行は、どうせ暴露するつもりだった。その末に里がバラバラになるのが拙かったから私は貴方に任せて、ガラでもない悲劇のヒロインを四年間も演った。けど、もうその心配も必要もないでしょう」

 

 「……というと?」

 

 「他ならぬ目溢ししてやった裏切り者の残党が、私を邪魔だと排除しようとしたのよ? それこそ、追求して私を追い落とそうとしたら、今醜態を五車のネットで晒されている連中の同類だと名乗り出るような物じゃないの」

 

 「ヌゥー……」

 

 「だから、これは密殺中隊の独断専行ではなく、私が前々から計画していたことにするわ」

 

 異論は認めないと言い含め、同時にケジメも要らないと先んじてアサギは藤木戸を掣肘した。

 

 どうせ、この男のことだ。まだぞろヤクザみたいにコユビがどうこう、セプクがどうこう言い出すに決まっているのだが、そんなもの何の役にも立ちはしないのだから、だったら里のために働けという話だ。

 

 「これからかなり辛い生活をして貰うわよ。対魔忍として後進の育成に徒手白兵講師が欲しかったし、ヨミハラで対魔忍が活動できる前線拠点は失えない。藤木戸・健二、それから森田・一郎としての二重生活」

 

 「それは……俺としては異論はないが」

 

 「労基も真っ青のタイムスケジュールになるから覚悟なさい。ま、一応公務員の私達には、そもそも適用されないけどね」

 

 「だが、体面はどうする。俺が仇という者は里に多い」

 

 「そこを何とかするのが私の仕事でしょう」

 

 胸を張って言い――そのバストは変わらず豊満であった――アサギは、藤木戸が横紙を破いたなら自分も破る覚悟くらいあると宣言した。

 

 「第一、それを言ったら貴方、私の仇なのよ?」

 

 「それはまぁ、そうではあるが……」

 

 「他ならぬ私が許し、私が命じたのだから黙れくらい言ってやるわ」

 

 ふうま一族が今も大人しく対魔忍をやっているというのに、お前達は大逆をやった連中より堪え性がないのか? とでも煽ってやれば多少は大人しくもなるでしょうと言い捨てた後、アサギは居住まいを正した。

 

 藤木戸もそれに倣い、背筋を立てる。

 

 「改めて命じます。藤木戸・健二。現在の任を解くので、対魔忍に復帰すること」

 

 「ハハーッ」

 

 「そして、私を能く助けてちょうだい」

 

 「……ハハーッ!!」

 

 深く深く頭を下げて、新しい命令を拝領した藤木戸。

 

 斯くしてここに旧井河上層部虐殺犯は消え去り、里のため汚穢に染まった者達を払った殺戮者が舞い戻ることとなる。

 

 「あと一つ」

 

 「ハイ」

 

 「色々終わったら、稲毛屋に行きましょう。久し振りに並んでアイスが食べたいわ」

 

 「ヨロコンデー」

 

 頭を上げた二人の視線が交錯し、笑顔が浮かぶ。

 

 そして、小さく、全くズレることもなく客間に優しくも固い固いコトダマが響いた。

 

 ユウジョウと…………。




オハヨ! 対魔忍ユキカゼまでのツナギとなる空白期間は終わりを迎え、いよいよ一番弟子がガンバリマスよ。

その前に一回トンチキシナリオを挟みますが、書き溜めが尽きたので暫くのんびり更新です。ヨロシクオネガイシマス!
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