ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

7 / 78
ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン 7

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 定期的に電子音が鳴り響く部屋でマゾクスレイヤー、藤木戸は目覚めた。

 

 軋む体を起き上がらせれば、そこは病室であった。体には点滴が挿入されており、自分がかなり重篤な状態であったことを知る。寝ている際は無意識にでもチャドー呼吸をするよう条件付けした体が、彼の命を辛くも救ったのであろう。

 

 ベッドサイドには検温の記録があるが、それは二度しか使われていない。どうやら一日眠っただけで起き上がれるほどに体は回復したらしく、傍らに置かれていた尿瓶が使われていなかったこと、排尿用のカテーテルバッグが吊されていないことに彼は一抹の安堵を覚えた。

 

 「これは…………」

 

 それと同時、ベッドサイドにある書き置きを見つける。

 

 冷蔵庫、とだけ書かれた筆跡には覚えがあった。他ならぬ友、アサギ=サンの物だ。

 

 「アサギ=サン……彼女が一番辛いはずなのに、もう起き上がれるのか」

 

 点滴の管を抜いて、すこしふらつく足取りで病室備え付けの冷蔵庫を開けると、そこには上等そうな寿司桶が入っていた。五車でも指折りのスシ・イタマエが握ったトクジョウセットで大トロを含めた20カンは、痛んだ体を大いに癒してくれるだろう。

 

 「ありがたい」

 

 スシには滋養がある。あらゆる傷を癒やす万能の食べ物だと古事記にも書いてある。無論、この世界においてスシ食って傷が塞がるなんて不思議現象が起こりはしないのだが、食うと対魔粒子の巡りが良くなる気がするのだ。

 

 彼は手を合わせると、一口一口、噛み締めるようにスシを補給して体を癒やした。

 

 好物のタマゴを最後にゆっくり咀嚼してから、藤木戸は人心地ついたのでナースコールを押して看護師を呼び、状況の説明を求めることにする。

 

 ここは五車系列、対魔忍のための病院であることは幾度となく重症を負って緊急搬送されたことのある藤木戸は内装から分かっていたため、迅速に動くことができたのだ。

 

 そして、看護師が来るのを待っていると、意外にも訪ねて来たのはアサギであった。

 

 「アサギ=サン!?」

 

 「藤木戸くん、流石ね、あれだけの状態からもう起きられるなんて」

 

 「……すまない、アサギ=サン。キョウスケ=サンのことは全て俺の手落ち……」

 

 「いいのよ。気付けなかった私にも問題があるわ……」

 

 倒れ伏す参列者の群れ、そして哄笑を上げながら首を掻っ捌く恭介の姿が藤木戸の脳裏にフラッシュバックする。

 

 今すぐにでもセプクしてケジメを付けたくなるジゴクであったが、その葛藤がアサギには見えたのだろう。

 

 彼女は肩に手を添えて、小さく首を振った。

 

 死ぬなと。簡単に責任を取ろうなどと考えてくれるなと、やさしみと戒めが掌には同居していた。

 

 一息吐き、藤木戸も考えを改める。己がセプクしたところで恭介が還ってくるのか。参列者の魂が戻ってくるのか。

 

 否だ。ただ感傷によって、魔族を殺す者が一人減るだけだと言い聞かせる。

 

 「……誰も、生き残っていないのか? サクラ=サンは?」

 

 「毒遣いが何人か生き延びたわ。あの子も何とかね。きっと朧のことだから、私を傷付ける道具の一つとして、毒を弱めに盛って生かしておいたのでしょうね」

 

 悲しく笑い、彼女は窓際に行くとガラリと開け、風に髪を靡かせながら切なげに呟いた。

 

 これも忍びの宿命なのかもしれないわ、と。

 

 「何時までも泣いていられない。この怒りは別の使い方をすることにするわ。恭介も、私がずっと泣いていて喜ぶはずもないし」

 

 「アサギ=サン……」

 

 「今回の一件は魔族の襲撃として上層部が処理したわ。けど、私達の友人が教えてくれたことがある」

 

 「……これは!」

 

 彼女が寄越した携帯UNIX……もとい、小型の軍用PDAには通信記録、及びそれを文章化した物が入っていた。

 

 盗聴記録は井河長老衆の物であり、あろうことは奴儕めは朧と連絡を取っていたのだ。

 

 そして、野放図に、勢力均衡など知ったことかと魔族の幹部や組織をスレイしていくアサギや藤木戸を始末しようとしていた過去の履歴まで書かれているではないか。

 

 全ては対魔忍という存在の価値を貶めぬため。自分達の価値を高く保つための、下らぬ陰謀のため。

 

 「では、長老衆は魔族と組んでいたというのか!」

 

 「ええ、自分達の価値を担保するため。そして、朧の蛮行を見逃したのは私や藤木戸くんのように魔族を大量に殺す対魔忍は邪魔だったから」

 

 防弾仕様のPDAが握力に悲鳴を上げて液晶に罅が入った。とてもではないが看過できる話ではない。

 

 「私は、これを札に長老衆を粛正……」

 

 「待ってくれ、アサギ=サン」

 

 藤木戸は起き上がると、五体が万全に動くことを確認すると病室のロッカーへ決断的な足取りで歩み寄った。開くと、そこには予備の対魔忍装束と傷だらけのメンポがしっかりと入っている。

 

 「それは俺の仕事だ。全てはインガオホー。アサギ=サン、君がやると禍根が残ろう」

 

 「けど藤木戸くん! これは井河の宿業で!!」

 

 「俺も傍流たりとはいえ井河だ。それによもや、ふうま一門のことを忘れたとは言うまいな、アサギ=サン。あれもインガオホーだ」

 

 「あっ、あれは……」

 

 藤木戸達がまだ対魔忍として認められる前、対魔忍の中でも強大な勢力を誇る一門、ふうま一族が現状の対魔忍の有り様を受け容れられず反旗を翻したことがあった。

 

 歴史上類を見ない、対魔忍同士での大反乱劇。それは壮絶な争いとなり多くの死傷者を出すと同時、あまりに大きな禍根を生んだ。

 

 当たり前だ。親族を殺した殺されたの間柄になるのである。今や反乱に失敗したふうま一族の残党は再び五車の対魔忍に所属を戻しているが、その恨みは絶えていないと聞く。

 

 未だ魔族が跋扈し、しかもそれが対魔忍上層部と根深く絡んでいたという今、〝最強の対魔忍〟に瑕疵がつくのは大きな痛手だ。アサギは凄まじい戦闘能力とジツによって、一族内からのやっかみがただでさえ強いのに〝身内殺し〟の汚名まで被っては、井河の運営に支障が出ないわけもなし。

 

 アサギ達にとって憎い仇であったとしても、長老衆も誰かにとっては良い祖父母や良い父母であるのだから、恨みの矛先を次なる対魔忍の柱に向けてはならぬのは道理である。

 

 彼等には今後も魔族を狩ってもらわねばならぬのだから。

 

 「長老衆が片付いたならば、次代頭首のアサギ=サン、君が全てを差配することとなる。故にこれは、俺の仕事だ」

 

 「だけど、それをやったら貴方の立場が……」

 

 「俺は、ことを終えたら里を抜けよう」

 

 「えっ!?」

 

 素肌が一瞬とて見えない早着替えジツで――密かに憧れて練習したのだ――ニンジャ装束を纏った藤木戸、いや、マゾクスレイヤーとなった彼は紅梅色の瞳をセンコめいて光らせて、地獄の底から唸るような声を出す。

 

 「奴儕を許してはおけぬ。俺の魂が殺せと叫んでいる。最早ヤツらはマゾクと変わらぬ」

 

 「だ、だけど」

 

 「清くなるべき対魔忍には、同じく清い旗頭が必要だ。即ち、君だ。そして、そんな君が誰の許しもなく長老衆を虐殺した俺を咎なしとしてしまってはメンツに拘わる。ケジメをとらせ、最低でもセプクにせねば誰も納得するまい」

 

 故にヤツらを根絶やしに、俺は里を抜ける。そう強く宣言し、彼はメンポを被った。

 

 「……里を抜けて、どうするつもり?」

 

 「しばらくはヨミハラにでも潜み、マゾクを刈り続ける。朧という幹部を失った今のノマドは統率を欠いているだろうから、あそこはいい狩り場だ」

 

 アサギは溜息を吐き、目頭を揉んだ。昔から言って聞くような男ではなかったし、自分の中で決まったことは必ず成し遂げてきた。何を言おうと翻意することはない。

 

 ならば、甘えてしまおうと思ったのだ。

 

 彼女とて井河の人間。婚約者を、いや、夫となった恭介を奪った憎い仇に成り果てようと、親族を手に掛けるのは良心が咎めるところがあったのは事実。

 

 それを押しつける形になってしまうが、マゾクスレイヤーの言うことは尤もでもあるのだ。

 

 「……若い子は見逃してあげて」

 

 「二十より下は見逃そう。だが、それより上は慈悲はない。自分達の行いがどのようなものか、分別が付くだけの年と経験を重ねていよう」

 

 言外に未成年以外は老いていようがなんだろうが殺すという宣言を、苦悶と共にアサギは呑み込んだ。

 

 父との確執は事実だが、よき想い出が絶無だったわけでもないし、この件が起きるまでは慕っていた親類もいるのだから。

 

 「……形だけでも追討令は出すわ。追っ手にも本気で殺すようにと強く命じて」

 

 「そうしてくれると助かる。適度にカラテ・インストラクションをつけて追い返してやろう。それから、ヨミハラで囚われている対魔忍も適度に助けていくつもりだから、面倒を見てやってくれ。協力者を用意してくれると助かる」

 

 「注文の多い抜け忍ねぇ……」

 

 「里抜けしようとしているニンジャを見逃そうとしている次期里長がいるんだ。すこしのワガママは許してくれ」

 

 メンポの下で力強く微笑むと、彼は窓枠に足を掛けようとしたところで……アサギに抱きしめられて動きを止めた。

 

 「お願いよ、藤木戸くん。死なないでね」

 

 「アサギ=サン」

 

 「もう、幼馴染みは貴方だけになっちゃった。恭介を失っただけでも耐えられないのに、貴方まで死んだら、私は困った時に誰を頼りにすればいいの」

 

 彼は首に回された友人の手を取り、強く握った。

 

 言葉にせず、死なぬと誓いを込めて。そして、全てをやり遂げると宣言するべく。

 

 井河の長老衆は魔族に魂を売ったりとはいえ、歴戦の猛者揃いだ。楽なイクサにはなるまい。

 

 いや、確実に激戦となる。腐っても対魔忍、ユニーク・ジツを扱う者もいれば、カラテに覚えもある者もいるだろう。

 

 だが、全員殺す。決意を手を握る強さに変えて、彼は優しく友人の抱擁をとかせた。

 

 「カラダニキヲツケテネ」

 

 「ええ、貴方も」

 

 「……ユウジョウ!!」

 

 色つきの風となって病室の窓から消えたマゾクスレイヤーに向かい、アサギも小さく呟いた。

 

 ユウジョウと。

 

 そしてその夜、彼女は報告を受け取ることとなる。

 

 井河長老衆、藤木戸・健二の蛮行により壊滅という一報を…………。 




対魔忍アサギ部分は完結。次回エピローグ。
アサギ=サンは感度三千倍から逃れているので――流石に桐生を連れてくる時間はなかった――原作より少しマシくらいに落ち着きました。なので私はゲイのサディストではない。イイネ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。