ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン エピローグ

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 井河長老衆壊滅。及びノマド幹部朧の失踪とカオスアリーナ崩壊から二週間。人魔共に巨大な権力の喪失が大いなる混乱を巻き起こしていた。

 

 これが両陣営同時に起こったことだからマシであったが、片方だけであれば、特に対魔忍のみの混乱であったらどうなるか。心ある者はタイミングの良さをブッダに祈ったが、それがマゾクスレイヤーによって為されたことを誰も知らずにいた。

 

 斯様なケオス渦巻くヨミハラは、今宵も淫靡なネオンの光、それと同時に方々から鳴り響く銃声や魔法の炸裂音、そして悲鳴や蛮声で賑やかさを極めていた。

 

 そんな喧騒から離れた裏路地のバーに一人の男が入って来る。

 

 痩せ型の長身、しかし肩幅の広さから鍛え上げられたことが分かる体躯を草臥れたダブルボタンのトレンチコートで覆った姿は、無精髭もあって見窄らしく完全にヨミハラに溶け込んでいた。

 

 誰がどう見ようが、彼がその体に極限の近接戦闘能力を秘めていると見抜くことはできないだろう。

 

 無精髭の男は卓に着いて無愛想な店主が一瞥くれたのを確認すると、コートと同じくらい草臥れたハンチング帽を脱ぎながら小さく呟いた。

 

 「バリキを」

 

 「……あいよ」

 

 これまた愛想のない酒で焼けた声で応えた店主は、冷蔵庫からエナジードリンクを取りだしたかと思えば、上等な健康ドリンクで割り始めたではないか。

 

 どちらも地上で作られた合法な物であるが、カフェインの過剰摂取によって脳が一時的に興奮状態に陥る危険なノンアルコールカクテル。この店のオリジナルであり、覚醒効果は凄まじいが漢方とエナドリが混淆された何とも言えぬ味から、好んで頼む人物は少ない。

 

 ショットで作られたそれを受け取った無精髭の男は、グッと一息で飲み干すと、美味いとも不味いとも言わず、表情に現すことなくもう一杯寄越すようにグラスを押し出した。

 

 「おにぃーさん、飲みすぎは体に毒よ」

 

 二杯目が運ばれてくる寸前、店の奥から一人の女給が現れた。金髪を束ねた彼女はヨミハラらしく、かなり際どいスリットのはいったメイド服を着ており、他に客がいたらさぞ目線を集めたことであろう。

 

 「ドーモ、シズル=サン。飲まねばやっていられない時もある」

 

 「そうね、マゾクスレイヤーともなればね」

 

 しかして、その実体はただのチップ稼ぎで比較的安全なバーに勤めている未成年ではない。

 

 彼女の名は高坂 静流。五車に属する対魔忍の若き精鋭が一人であり、実習を兼ねた任務でヨミハラに長期潜伏し、諜報網と協力者のルートを構築するという、その若さに見合わぬ重責を負った諜報員であるのだ。

 

 「今は違う名を名乗っている」

 

 「そうなの?」

 

 「アサギ=サンから話を聞いていなかったのか?」

 

 彼女はアサギとの個人的な付き合いもあるため、起こったこと、今進んでいることを全て知っている希有な人物の一人であった。

 

 それと同時、一人で闇に潜ることを選んだマゾクスレイヤーの助力になればいいと、差し伸べられた手でもあったのだ。

 

 故に彼女は藤木戸がここにいることを知っても誰にも教えないし、抜け忍として手配されている彼に危害を加えることもない。高潔に、ただただ対魔忍の正義と魔族を戮殺するという狂気を兼ねた人物であることを理解しているからだ。

 

 「大混乱していて情報が断片的なの。それで、今はなんと?」

 

 「では改めて、ドーモ、シズル=サン。モリタ・イチローです」

 

 「森田さんね。免許証の見本みたい」

 

 バリキカクテルを続いて二杯。それは彼がアサギから教えられた静流とコンタクトする方法だったのだ。そのことを知っている対魔忍協力者の店主は、既に店の扉を遠隔のボタンでロックしており、何かあった時に備えてカウンター下に固定した散弾銃に手を添えていた。

 

 「呼び出しの合図を見た。何があった?」

 

 しかし、今回の呼び出しは静流からの物だ。ヨミハラで野放図に貼られているピンクチラシ――地上では風紀のため絶滅したそれは、地下だと現役だった――その何枚かが藤木戸の借宿近くに特徴的な貼られ方をしていたら、出頭を願うサインとなっている。

 

 「長老衆は一層されても、腐敗した政治家は残っているようなの。極めて不自然な任務がアサインされたわ」

 

 「……見せてくれ」

 

 すると静流は、さも当然の様に〝部隊秘〟だの〝アイズオンリー〟だのと判子が捺された茶色いファイルを取りだして机上に乗せた。

 

 開いて見れば、そこにあるのは任務の概要と選出メンバーのリスト。書式は守られており、判子も正式なものであるが……対魔忍養成学校である五車学園から四人の対魔忍見習を〝東京キングダム〟に派遣しろ記してある内容だけが酷く異質であった。

 

 任務自体は魔界産違法薬物取引を防ぐため、強襲班を送り込む下準備として情報を集める簡単な偵察任務とされているが、このヨミハラの直上、第二首都建設計画が頓挫した結果、見捨てられた孤島と化して悪徳の受け皿となった地に見習いを派遣するのはあまりに危険だ。

 

 ヨミハラと比べればマシではあるが、彼の地にも魔族やヤクザ、危険な魔界産ドラッグで体を強化したギャングや、構成員に魔族を多数取り込んだマフィアが跋扈しており、学生では到底太刀打ちできないタツジンも数多潜んでいる。

 

 「……童女ばかりだな」

 

 「ええ、半分は中等部、高等部でも幼めの外見。それから黒髪ロングで背は小さめ、なのにグラマーな子ばかりを集めた四人分隊。しかも全員彼氏がいたことのない処女。明らかにおかしいわね」

 

 さて、あまりに嘆かわしいことではあるのだが、かつての長老衆は過分に優秀な芽を摘むのみならず、政府からの便宜を図って貰うために〝人身売買〟にも手を染めていた。しかも、圧倒的力を持つ〝元対魔忍〟の娼婦というブランディングまで行ってだ。

 

 若い女性というのは、それだけで欲を満たす商材たり得るのだ。故に時折、こうやって態と能力が足りない対魔忍を任務に送り込み、MIAとして扱うことで奴隷娼婦として売り飛ばす契約を結ぶことが横行していた。

 

 今回の任務、その不自然さからして、これもまたそうなのだろう。まるでブッダの高鼾が聞こえてくるようなマッポー具合ではないか。

 

 どうやら長老衆を殲滅しただけでは足りなかったらしい。上層部には未だ穢れた金に未練がある者が多く、下卑た欲望を秘めた悪党も政財界に事欠かない。

 

 忌々しげにファイルを閉じた森田は、バリキカクテルを一口で呷ると勢いよくトレンチコートを裏返した。

 

 そして、現れるのは赤黒いニンジャ装束。色合いは以前纏っていたものより更に黒に近くなり、暗夜に紛れることに特化した風合いに変化していた。

 

 懐から取り出される鋼鉄製のメンポもまた、刻印されている文字が変わっている。

 

 決断的にして禍々しい書体にて画かれるのは殺伐の二文字。新たな装束を纏ったマゾクスレイヤーは、お代をテーブルに置くと静かに立ち上がった。

 

 その紅梅色の瞳は下卑た欲望に対する怒りでセンコめいて燃え上がり、緩やかに歩を進めているだけでも残光を残すほど。

 

 「その姿の時は何と呼べば?」

 

 「……サツバツナイト」

 

 「この殺伐とした世に似合いの名前ね。ねぇ? 夜にかけてるの? それとも騎士?」

 

 「好きにとって貰って構わない」

 

 彼はぶっきらぼうに言って、店の換気ダクトの下に立った。ここは緊急脱出口で、情報員や対魔忍が正面玄関や監視網を抜けて店から出られる出入り口となっているのだ。

 

 「それで、やってくれるのね」

 

 「マゾクは殺す。それに類する者も殺す。悪徳に組みする者も殺す。最後の一人の首をセンコとして、キョウスケ=サンや死んだ皆の供養を終えるまでだ」

 

 「途方もないわね」

 

 若き身空で重い重宝任務を背負った女は、それより更に重い物を背負った男の背を見送る。

 

 「Wasshoi!!」

 

 謎のかけ声を上げて出て行った男が止まることはないと知っていたから。

 

 きっと永劫に。その阿鼻地獄の炎が止まるまで…………。

 

第一部 ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン END




ということで対魔忍アサギを軸にしたストーリーは完結。ここで一旦シメとなります。
抜けニンジャとなりヨミハラをスレイすべき魔族を求め彷徨うサツバツナイト。
五車からの支援もなく、追っ手をかけられようと止まるなサツバツナイト! 奔れサツバツナイト!

時間軸的に対魔忍RPG登場キャラは大体卒業直ぐか実習生となります。
ちょっと分かりづらいけどシカタナイネ。
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