TS魔法少女になった。クソマスコットに騙された。   作: 宇巳広拾

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日朝以外のマスコットは大抵クソ

 世界は、人々が想像するよりもずっと未知に溢れている。それは輝かしいものかもしれないし、恐ろしいものかもしれない。知ることで日常を彩るかもしれないし、知らなければ良かったと後悔するかもしれない。

 

 

 

 どこかで、邪教が終焉の神を降臨させんと策謀を巡らしているかもしれない。あるいは、秘密結社が覚醒した異能力者の保護に回っている何て噂も聞いたことがある。都市伝説で言えば、黄昏時の鳥居は異界に繋がっているとか、富士山の不死鳥伝説なんかも有名だろう。

 

 

 

 もしもこれらが事実だとしたら、あなた一体どうするだろうか。刺激を求めて探し求めるか、それとも恐怖に呑まれて竦んでしまうか。ただ一つだけ言えることがある。少なくとも、それらと関わるべきではない。

 

 

 

 欲に目が眩んだものは、漏れなく酷い目にあうと語り継がれてきたのは何故か。彼女のようになるからだ。

 

 

 

深い、深い、闇。三日月が仄かに眩い、夜。少女が浮いている。少女───絶叫。

 

 

 

「ああクソ! キショいんじゃボケ!」

 

 

 

 空間に開いた狭間。そこから湧き出る虫! 虫! 虫!

 

 

 

 巨大な百足から雲を作る飛蝗の群れまで選り取り見取り。生理的嫌悪感に煽りに煽る地獄のような光景だった。

 

 

 

「インドア派には荷が重すぎるわ! あんのクソ狐め……!」

 

 

 

 両手を伸ばす。それは本来のものと比べるとあまりに華奢で。与えられた呪い祝福である。

 

 

 

 脳を回す。術式を構築する。両の手に魔力が集っていく。

 

 

 

「───しゃあ! 吹き飛べ化け物!」

 

 

 

 炸裂。夜闇を鮮烈な光が切り裂く。同時、轟く爆音と凄まじい風。ばたばたと、フリルが過剰な服が煽られる。リボンで結ばれた異様に長い白雪の髪が後ろに靡く。ああ、彼・の声もまた男性と言うにはあまりに高く、得られる情報から判断すると少女にしか思えない。

 

 

 

 それでも彼は間違いなく肉体性別男で、ただ───

 

 

 

「やあ、白ハク。調子はどうだい?」

 

 

 

「死ね!」

 

 

 

 現れたのは浮遊する狐に見えないこともない謎生物。白の暴言も気に留めず、のんびりとした様子で、泰然と。

 

 

 

「そんな暴言使っちゃ駄目だよ。魔法少女にあるまじき言葉遣いだ」

 

 

 

「死ねッ! この詐欺狐!!」

 

 

 

───ただ、魔法少女は物理性別を超越して変身するというだけのことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は一週間前まで遡る。その男───須臾しゅゆは只の高校生として普通の日常を送っていた。朝起きて、学校に行って、ぼっちを満喫して帰宅する。帰ったらPCをつけてゲームして、あるいはラノベを読んでアニメを見て、もしくは将来の引き籠り計画のための技術習得に励む。そんな普通の日常を。

 

 

 

 それは夜のことであった。好きなラノベ原作アニメを見て、無闇矢鱈とされる巨乳化に脳を破壊され、貧乳神に祈りを捧げていた時のことである。突如、背後から声をかけられた。

 

 

 

「やあ、僕と契約して魔法少女にならないかい?」

 

 

 

 どこか既視感を感じる、けれど何処か違うセリフ。俺はそれを、脳が二次元に侵され始めたことによる幻聴として処理した。

 

 

 

「やあ、僕と契約して魔法少女にならないかい?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「やあ、僕と契約して魔法少女にならないかい?」

 

 

 

 しかし、いくら何でも己の脳はここまで明朗な壊れたNPCを出力することはない、そう考えて顔を上げ───謎生物マスコット。

 

 

 

「…………なるほど、夢か」

 

 

 

「夢じゃないから僕と契約して魔法少女にならないかい?」

 

 

 

「………しつこい」

 

 

 

 とりあえず会話の間を繋ぐために一言入れてから、天井を見上げて視線を逸らして深呼吸。頭を整理して、これが夢でも二次元の侵略でもないことを確認する。どうしようか、現実逃避してもいいだろうか。こういう妄想をしたことはあるが、突飛過ぎて理解が追い付かない。

 

 

 

「お前が何なのかはおいとくが、そもそも俺は男なんだが? こういうのは少女に持ち掛けるのが普通だろ」

 

 

 

「そうだね。だけど、君は何故かとんでもなく適正が高いんだ。不思議だね?」

 

 

 

 オタク脳は限られた情報からより多くの情報の把握を可能とする。数多浮かんでくる近似例を基に精査。とりあえず分かることは、魔法少女には適正がある。その適正は少女の方が高い傾向にある、あるいは少女にしか備わっていない。その中で俺だけがイレギュラー特別であり、原因は不明。

 

 

 

 特別。心躍るフレーズだが、如何せんテンションが上がらない。それはこの状況にあまり現実感を持てないのと、何より───

 

 

 

「いや、それでも俺があんな恰好したらクソキモイだろ。顔の悪さには自信があるぞ」

 

 

 

 画面が暗転した瞬間によく見る、あの顔。至福の瞬間にぬっと出てくるコイツに、何度いらついたことか。これが魔法少女衣装に身を包もうものなら吐く。

 

 

 

「いいや、その心配はいらないよ。変身したら少女になるからね」

 

 

 

「まじっすか。ちなみに美少女確定? リセマラできます?」

 

 

 

「ふむ、人の美醜感覚で判断するなら美少女じゃないかな」

 

 

 

「───よっしゃ! 悪いな同士たちよ! 俺は全人類の夢たるTSをこれより成し遂げる!! ってことでよろこんで契約します!!!」

 

 

 

「そう言ってくれると僕も嬉しいよ」

 

 

 

───こうして、男須臾は魔法少女白になった。それは皆が利を得る、理想的結末。この馬鹿も、その時は新たな肉体により広がった可能性を考え、よだれを垂らしながら妄想していた。しかし、しかしである。

 

 

 

「初めてにしては中々じゃないか。僕の見込み通りだったね」

 

 

 

「死ねッ! この詐欺狐擬き!」

 

 

 

「ふむ? 君はどうしてそんなに怒っているんだい?」

 

 

 

「聞いてねえぞ! こんなハードだとはな! 普通に死ぬ奴じゃねえか!」

 

 

 

 眼下、いくら殺せども絶えることなく迫りくる蟲の軍勢。爆破して、毒を撒いて、圧縮して。それでも死の具現は裂け目から無限に湧き出てくる。

 

 

 

「はっはっは。それは契約内容も聞かずに契約した君の責任じゃないかな? 自業自得というやつだよ」

 

 

 

「このクソ狐があッ!」

 

 

 

「そもそも君も喜んでいたじゃあないか。あっ、なるほど。これがツンデレってやつなんだね。いやあ、照れちゃうね」

 

 

 

「死ねええええ!」

 

 

 

───世には数多の未知が存在する。それは邪教だったり異能力者の組織だったり、あるいは異世界に不死鳥、そして魔法少女。

 

 

 

 あなたはそれらの未知を退屈な日常を彩る刺激だと思うかもしれない。しかし、心せよ。世界の裏側に触れたが最後、平凡な日常に戻ることは出来なくなるから。

 

 

 

 さて、ここに甘言に釣られた愚か者が一人。TS魔法少女の日常が始まる。

 

 

 

 

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