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カキキエ隧道の開けた場所に二メートル近い白い繭が鎮座していた。近くに座り込んで静かに繭を見つめる男、垣根帝督の残滓を取り込んだカブトムシ05はただ黙ってその時を待っていた。
千羽智沙音のDNAマップとAIM拡散力場の結晶体そして
但し千羽智沙音を産み落としてしまったら木原飽和の思惑に乗る事になってしまうのだが垣根はそれでも構わなかった。「生きていたい」智沙音が悪意に埋もれながら吐き出した願いのために垣根は彼女を救うと決めたのだった。
そんな垣根の傍に近づく男がまた一人、建宮斎字が垣根の隣に立っていた。
「よお、進捗はどうなのよ」
「………集中してんだ話しかけんな」
「おぉ怖、くわばらくわばら」
建宮は笑いながらおどけてみせる。垣根帝督は微塵にも動じず合成作業に集中する傍ら建宮は何も言わずに天井を見上げる。
しばらくの静寂の後垣根が口を開いた。
「……惨めだと思うか」
「話しかけんなと言ったくせに勝手よなぁ」
「失ったものを今更かき集めて必死になって取り戻そうとすんのは惨めに見えるのかって聞いてんだよ」
「惨めとは思わん、思わんしお前さんが自分の事をかっこ悪いと思ってんのならそいつは検討違いなのよな」
「好いた女のために必死になって助けようとするのは惨めでもなんでもないのよな」
「……………」
建宮の言葉に垣根はそうか…と笑みを浮かべる。その様子に満足そうに頷く建宮、そして二人は何も言葉を交わさず繭を眺めていた。
「んじゃ、ここいらで退散するとするか、こちらも色々とやることがあるのよな」
建宮が立ち去るのを目線で追いまた静かに繭を見つめる垣根、智沙音を産み落とす、だけどもどう生まれて来るかは垣根にも分からない。もしかしたら記憶を失ったまま生まれてくるかもしれないしまたはその逆になるかもしれない。
しかし垣根は呪われてもいいと思っていた。どんな形であれ守ると決めたのだから嫌われようとも好かれようとも、智沙音を守る存在になりたい。
(こんなクソみてぇな悪党でもヒーローになりてぇなんざ、本当、本当に似合わねぇ…)
そう自嘲し頭を抱えこみ、いつかの少女たちを思い出しながら垣根はただ静かに繭を見つめていた。
がんばれ…背後から救えなかった少女の声が聞こえたと同時に背中を押された気がした、垣根は踏み出せなかった足を一歩、歩き出せた気がした。
振り返っても誰もいない、いるはずもない声に励まされて垣根の何かが変わったのだった。
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それはいつかの夜、CRC、アリス=アナザーバイブル、上条当麻の復活とコロンゾンとの対決という怒涛の日々が過ぎたいつかの夜。
垣根はベッドのふちに座り白いカブトムシを抱き枕にして幸せそうに眠っている智沙音の頬を撫でていた。
ベランダの窓に月明りが差し込みカーテンがはらはらと揺れている、するとベランダの窓に影が入り込んだ。
黒いセーラー服青みがかったセミロングの黒髪透き通った白い肌の少女、千羽智沙音がそこにいた。
垣根は戸惑いを隠せず立ち上がりベランダに舞い降りた智沙音に近づこうとした。
「来ないで」
「っ…」
拒絶の一言に足を止める。
「まぁ、戸惑うのも分かるけどね。この場にあたしが二人いることが理解できないんでしょう?」
「要するに分裂しちゃったみたいなのよねあたし、そっちですやすや寝てるあたしは覚えてないんでしょう?都合が悪い事全部。あなたが偽物の事も学園都市が垣根先輩にしてきたこと全部覚えてないんでしょう」
「……………」
「あたしは覚えてるあの日の事もあたしがこの街に何をしたのかも」
「智沙音…」
垣根は自分が知っている智沙音とは違う雰囲気の千羽智沙音に戸惑いを隠せず立ちすくんでしまう。
そんな垣根に近づき智沙音は垣根の首を両手で締め上げた。
「あたしね」
「あたしね今、あなたを消したいの、今すぐに」
そう言って更に両手に力を込めた。
「…………おれはっ――」
「俺は、お前の事も守りたいって思ってるぞ…」
「!!」
思いがけない言葉に咄嗟に手を放す智沙音、垣根は少しだけ咳き込んで首から手を離した。智沙音はなんでと言いたそうな顔で垣根を見る。
「言っただろ、お前がいねぇと困るって」
「だって…あたしこの街が嫌い、大嫌い…でも君の事は…」
「それでいい、無理してまで抑え込む必要なんざどこにもねぇよ」
「何しでかすか分かんないよ?」
「止めてやる、何度だって気が済むまで止めてやる」
そう言って垣根は智沙音の頭を優しく撫でた、その手は暖かくてずっと撫でてもらいたいほど離れられなくなりそうで、だけど一緒に入られない今寝ているもう一人の智沙音は起きてしまえば消えてしまうから。
(俺は、お前の事も守りたいって思ってるぞ)
この言葉で十分救われている、まだもう少しこの夢を終わらせないで。
「うーん…むぅ。せんぱい?」
その子の事幸せにしてね―――
眠っていた智沙音に気を取られ、背後から声がした時にはもう遅かった。ベランダに舞い降りた智沙音消えていてカーテンが揺れているだけだった。
「せんぱぃ?どうしたの」
「なんでもねぇよほら寝ろ」
「ぇへへへ~は~い」
寝ぼけ眼の智沙音を寝かしつけ垣根もベッドに入り眠りにつこうとした。
後ろから智沙音がぎゅっと抱きついてくる、垣根はため息をつくがそれ以上抵抗する事はなかった。目を閉じてもう少しだけこの夢を見ていようと瞳を閉じた。
夢はいつか終わる、だけど今はこの夢物語をもう少しだけ……。