「やめてえええええええええええええええええええええええ!!!!」
……………悲痛な叫びを聞いた。怨嗟の想いを見た。
どんなにあがいても彼女には償えない、そう決めつけていた自分がいた。
死者は生き返らない、彼女の望みは叶わない。だからと言って投げ出していいものでもない。
「待ってたぜ、この時を」
一面真っ白な空間カキキエ隧道とは違うカブトムシ05の精神の間、この場所に来るのは十一月のあの日以来、またここに来るとは思っていなかった。
「いい加減善人ぶったおままごとは終いにしてとっとと明け渡せ、バグ野郎」
目の前にはもう一人の垣根帝督、十一月の時とは違う想像から産まれたものではなく紛れもない「元の人格」に近い個体、暗闇をすくったような暗い瞳からは復讐の炎は消えていない。
「…怖いと言ったんですよ」
「あ?」
「彼女はあれだけ恨んで叫んで私に憎悪を向けていたのに、いざ攻められると怯えて言ったんだ」
「…それが何だってんだ」
苛立ちと共に歯を食いしばる。
「…っ、あの子の想いを聞いて本当何も感じなかったのか!」
胸倉をつかみ激高する。あんなに近くに居ながら彼女の涙に思うところがなかったのかと、あの涙は、悲鳴は、慟哭は全て貴様に向けられたものなのに。
「っ…何も分かってねぇのはテメェの方だろ」
「ぐっ」
胸倉をつかみ返され詰め寄られる。
「俺をナメてかかったやつ、俺から奪い去った奴らも全て、何もかも踏みにじった全てだ!ぐちゃぐちゃにぶち殺して返り咲く!」
「そうすれば……あいつも報われるだろ」
呟かれた一言に息を吞む。「垣根帝督」の善意から産まれた己は彼女に対して加害者にしかなれない、カブトムシ05のままでは彼女を救えない。
このままもう一人の自分に委ねることそれが彼女に出来るただ一つの贖罪なのかもしれない。
(それは違う、絶対に間違っている!)
覚悟はもう決まっている。カブトムシ05は掴んでいた胸倉を振りほどき、目の前の垣根帝督に向き直る。
「報われるわけがないだろう!憎しみが消えても罪は消えないままだ、繰り返し続けて、そうまでしても彼女を苦しめるつもりか!?」
「…っ」
「うるせぇ…うるせぇよ……あぁそうだ、そうだよ俺には誰も救えねぇんだ…だったらはじめっから背負わない方が巻き込まれる奴がいねぇだろうが!!」
振り抜いた自暴自棄の拳をカブトムシ05は左手で受け止め、一瞬の沈黙の後カブトムシは声を絞り出す。
純白の翼が舞い散る中二人は向き合いお互いの鋭い視線が交差する、一方は覚悟を決めた目、もう一方は怒りと殺意に染まった目だった。
「本当に気付いてねぇのか、知ってて無視してんのかはしらねぇがな、そもそもお前は何であいつにそこまで肩入れしてやがる」
「…………………」
「初対面のはずなのに何であいつの事をここまでして救おうとしてんだって聞いてんだよ!」
「答えられるわけがねぇよなぁ?まさか自分が“千羽智沙音”って存在を守るように操作されてるなんてなぁ!?そういう能力なんだよ無意識化に干渉して自分の都合のいいように操る!それでもお前はあいつを救えんのかテメェは!!!」
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うすうすは気づいていた。カキキエ隧道に入ってあの肉の管に触れた時から何かしら干渉は受けていると、だが。
「それがどうしたというんだ」
迷うことなく言い返しその一言は垣根帝督の動揺を誘った。
「無意識化に干渉してまで助けを求めているのは彼女が救われたがっている何よりの証拠だろう!」
「操られていようが今はどうだっていい、私はあの子を千羽智沙音を助けます」
その答えに垣根は舌打ちをする。
カブトムシ05は垣根帝督の胸倉を掴み引き寄せ、お互いの顔の距離は目と鼻の先。
息のかかる距離に顔を近づけて言い放つ。
「貴様に彼女を渡すくらいなら、私が助ける。自分には誰も救えないと諦めているお前に彼女は渡さない」
「…………く…っそがぁ…」
何故こんなにも苛立ちが収まらないのかと激情に駆られそうになる、なぜこんなにも目の前にいる存在が許せないのかと。
(――――)
理解したくない。
(認めたくないんだよ…くっそ、今更
自分自身を悪党だと決めつけひた隠しにしてきた本音と善意が溢れそうになる。だがそれもすぐに押し込める。悪党に救いなどあってたまるものか、救われていいはずもないだろうと。
だけどあいつはどうだ、学園都市の闇なんて知らずに生きていたあいつは……。
「…くそっ!!やればいいんだろ!やってやるよクソッたれ!!!あいつを救えるのは俺だけだ何が渡さないだふざけんな!」
ピースは埋まった。足掻け、守りたかったもののために。