とある初恋の夢物語~回答編~   作:凪子22

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第6話

カキキエ隧道中央に佇む男女二人、男は腹部に穴を開け膝を折り女は土下座をするように男の膝にすがりついていた。

「う、⋯⋯あ゙ああぁっ」

己の内側から蓄積したどす黒い何かが溢れそうになり両腕で体を抱きかかえる。肉のアメーバを媒介に集めた地上の能力者達から集めた負の感情、痛み妬み嫉み、恐怖恨み、どろどろとして粘ついた物がはりついて千羽智紗音の体を突き破ろうとして今にも破裂しそうだった。

「も、う⋯⋯いやぁ⋯」

空っぽになった培養ポッドを見つめてポロポロと涙が零れ落ちる。終わった、かすかに残った希望も全て、八つ当たりだ自分もカブトムシ05のの事を言えない存在なのに。自分は死んでいる、千羽智沙音のAIM拡散力場から生まれた虚像で『先生』を連れたショッキングピンクの女の子にいじくられた化け物のくせに、どうしても妬ましくてしょうがなかった。

(本当はカブトムシのあの子がここに来た時やっと終われるって思ったくせに…)

自分で先生に埋め込まれた機械を取り出せば全ては終わるのに一人で死ぬのが怖くて何もかもかなぐり捨てた化け物の成れの果てになるのも怖くて、ここでうずくまって誰かが殺しに来てくれるのを待つしかなかった弱虫のくせに。

(“返せ”なんて言える資格なんてないのにね…)

思い出す意識がはっきりしていく中ショッキングピンクの女の子に言われた言葉を。

(叔父貴、まぁあんたの『先生』からの伝言なんだけどさ、垣根帝督になり替わったカブトムシってやつは必ずここに来る)

(それをどうするかは好きにするといい、君が何を願うのかで結末は変わるだろう。楽しみにしているよ、だってさ)

 

何を言っているのか分からなかったけれど、きっと最悪の結末になる、だって先輩はもういなくなっちゃったんだから……。

「…っくっそ思ったよりもひでぇなこりゃ」

「………ぇ」

聞こえるはずのない声に顔を上げた。

「うそ、だ⋯」

「派手に暴れやがって⋯思ったよりも再構築に時間取られるなこりゃ」

再会できたことへの喜びより困惑が勝る、ありえないと思っていた、化け物になった智沙音に突きつけられるのは死だけで、あのカブトムシはそのためにここに来たのだと。

「殺しに、来たんじゃないの⋯⋯?」

「⋯⋯⋯」

そっと抱き寄せられる。体の内側から暖かい何かがじわりと広がって行く。

「悪かったな、助けてやれなくて」

「⋯⋯っ」

そんな事ないと、自分よりもっと酷い目にあったはずだと言いたいのにのどがつっかえてうまく言葉に出来なくて、目頭も熱くなって伝えたいことがいっぱいあるのに声が出ない。

「うっ、ふぇ…うわあ゛あああああああああ゛ぁぁああああ゛ぁぁぁぁあぁん!!!!」

「わ゛がんないよぉ…もうなにが本物なのかっ…に゛せものなのかわかんないよぉ!」

「…ったく、俺に固執しすぎなんだよお前」

垣根は癇癪を起した子供をなだめるように背中を軽く叩く。

「だって…だぁ…ってぇ……あたし死んじゃったんでしょう?、先輩も死んじゃって…でも体があって意識があって、偽物なのに…って、わ゛…わかんないよぉ…」

「もうどっちが本物とかそういう次元飛び越えてんだよ俺ら」

「ちがう…ちがうよ、認めちゃったら先輩が居た事否定したことになっちゃう…そんなのだめだもん…」

ぐしゃぐしゃに泣き腫らした顔で必死に首を振るそんな智沙音の目元を垣根は指でぬぐう。そしてそのまま、その頭を引き寄せた。

「ばーか、その程度で俺が消えるわけがないだろ」

胸の中で泣きじゃくる智沙音の頭を優しく撫でながら垣根は続ける。もはや本物も偽物もないどちらも本物でどちらも偽物だ、カブトムシ05とはそう折り合いをつけた。

「でも、それにひ、ひどい事しちゃってるし今更生きたいなんて…許されるわけないもん…」

「なら尚の事逃がすわけにはいかねぇだろ、死んで終わりだとか甘えんじゃねぇよ」

「う、」

「それになぁ………ちっ、ガラじゃねぇな一回しか言わねぇぞ」

「お前がいねぇと俺が困るんだよ傍に居ろ」

ぶっきらぼうに言い放たれたその言葉に、智沙音は目を見開く。その一言で今まで抱えていた怨念めいた物が嘘のように薄らいで行くのを実感する。

(あぁ……そっか)

きっともう答えはとっくに出ていたのだ。ただ、それを認めたくなかっただけで。

(あたしって本当に馬鹿だ……)

認めるのが怖かった。なんて安い言葉に溺れるほど簡単で大切な事。どんな姿で在り方が変わってしまったとしても、この人が好きなんだって……。

 

「もっとせんぱいと一緒にいたかった、先輩の事もっと知りたかった…い、生きていたい!」

「遅せーんだよ、早く言え」

 

「少し我慢しろよ」

背中から手をゆっくり智沙音の赤く光る胸元に侵入させていく、核のような三角柱に巻き付いたムカデ状の機械を取り外し握りつぶした。

ふっと意識を失う智沙音、慎重に壊れないよう大事に抱きかかえる。羊水の中にあった肉の触手がうねり、中央に引き込まれるように収縮していく、恐らく地上に蔓延っていた肉のアメーバも元の場所へと引いていくことだろう。

 

少女の願いを叶えるためにはまだもう一つ足りないものがある。必ず手に入れる、自分のためじゃない守りたいもののために。

 

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