ようこそ綾小路がいなかった教室へ   作:せご曇(せごどん)

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「知ってるかな?夢っていうのは"呪い"と同じなんだ。途中で挫折した者はずっと呪われたまま……らしい。あなたの罪は重い」

(『仮面ライダーファイズ』木場勇治の台詞より引用)



俺に言わせればな、夢ってのは"呪い"と同じなんだよ

 

何それ………

 

何なのそれ…………

 

あの女が交通事故………?重傷で搬送された………?

 

何なの………?

 

訳わかんない…………!

 

「はっ…………はっ……………!」

 

とにかく……

 

とにかく急がないと………!

 

早くY病院に行かないと………!

 

 

 

 

 

「あ………………………」

 

看護師によって誘導された先には、紛れもなく無機質な病室の「白」があった。

 

「櫛田さんは夜道を歩いている最中、急加速するトラックによって撥ねられました。その場にいた方々のお陰で何とか病院に運ばれるまでは一命を取り留めましたが…………それでも危険な状態です」

「……………………………………」

 

目の前のベッドに寝かせられた女。私と同じ金色の髪、忌々しくも似てしまっている目鼻顔立ち。

 

随分長い間見ることはなかった、櫛田雛の顔そのもの。その女が、酸素マスクに繋がれて、顔に血の色の滲んだ傷を負って、目を閉じたまま動かない。

 

「最善を尽くします。ですからどうか………」

「…………………………」

 

 

 

私は病室の外に出た。あまり座り心地の良くない横長の椅子に座って、前のめりになって頭を垂れている。

 

………………

 

知らないうちに老けていた。所々に皺が見られた。あの女はもう40歳を過ぎてる。中学を卒業して、高校時代は全く顔を合わせていなかったから、違いがはっきりと分かった。

 

……………………。

 

一体、何を思えば良いのかな。

 

何で東京に来たのか?

 

それは今分かった。クソ親父が東京の出身だったから。子供の頃から、ある時何日か家を空けることが度々あった。きっとあの頃から、東京でクソ親父のことを探してたんだ。

 

でももう私が生まれてから20年以上経つ。クソ親父が東京に住んでる保証はない。それどころか生きてるかどうかだって分からない。

 

もし死んでたら、あの女は亡霊を追いかけてることになる。それなら言葉の掛けようも無いほどの、哀れな夢追い人だね。

 

……………。

 

こんなことを考えてるってことは、私は動揺してないみたいだね。

 

普通、身内が命の危機ってなったら、こんな落ち着いていられる?少なくとも私はそうは思わない。両手を合わせて、必死に祈るんじゃないかな。「神様、助けて下さい」って。どんな無神論者だったとしても、その時だけは熱心な信徒と化す。それが家族のはず。

 

でも私は違う。そうはなってない。

 

それぐらい希薄な関係。私たちの間には血の繋がりぐらいしか接点が無い。本当に、たったそれだけの関係みたい。

 

寂しいね、それって。あの女は私みたいに横の繋がりを沢山持ってない。あの女は紛れもなく「愛されてない」人間だった。

 

きっと、そういう乾いた心を一瞬でも潤してくれたクソ親父にくらって酔ったんだろうね。本当に、何も残らない人生。

 

本当に、何も…………

 

 

 

「大丈夫………痛くない………大丈夫だから………」

 

 

 

「…………何でだよ」

 

だから何でそんなこと今思い出すんだよ…………!

 

あの女のあんな姿見て気の迷いでも起こしたの……?もしかしたら最後かもしれない………これでお別れかもしれない………

 

今になって欲しくなったの?あの時諦めただろ……!そのためにここまで血反吐を吐いて生きてきただろ……!

 

今さら否定するつもり……!?

 

あんなの自業自得だよ……!いつまでも終わった恋にみっともなくしがみついて………!人生の若い時間を全部ドブに捨てて……もう後戻りも出来ない歳になって………!

 

全部………あんたが悪いんでしょ……!!

 

周りに誰もいなかったのも………

 

たった1人の家族に優しい言葉も掛けてもらえないのも………

 

全部自業自得……!因果応報……!

 

あんたが悪いの……!

 

全部………

 

全部あんたが………!!

 

私は祈らない………!あんたなんかのために祈ってあげない……!

 

逝くなら逝け………!

 

1人で逝け………!

 

1人で………………………!!!

 

1人でぇ…………………!!!!!!

 

「櫛田さん!!」

「!?」

「お母様の容態が急変して………」

「あ…………」

 

 

 

 

 

「お母さんっ!!!!」

 

…………!?

 

医者があの女を囲ってる………!!

 

本当に………

 

本当にもう助からない…………!?

 

これで終わり……?

 

あの女との繋がりも………あの女との時間も………

 

これで………

 

これで…………!?

 

「………櫛田さん」

「先生………!?」

「…………手は尽くしましたが………」

「……………!?」

 

あ…………

 

私焦ってる………?

 

今焦ってる………………?

 

「………最後に………お母さんに言葉をかけてあげて下さい」

「あ…………」

「まだ僅かに意識はあります。これが最後です………」

 

あ……………

 

ああっ……………

 

「あ………お母さん………愛してる………」

「……………」

「私に言って…………『愛してる』って……………」

「………………」

「一度も言われたこと無い………言って………私に言って!!!」

「………………」

 

「言って!!!最後なんだよ!!?最後に一度くらい!!一度くらいっ!!!!」

 

 

「私を愛してよっ!!!!!」

 

 

「……………」

 

 

……………!

 

開いた…………!

 

口を………口を開いた………!!!

 

お母さん………

 

私に…………

 

私を…………………!

 

 

 

 

「──────────────」

 

 

 

 

 

 

 

「…………………ははっ」

 

最期の言葉。

 

今際の際に言うのがクソ親父の名前ね…………

 

「ふふっ……………」

 

あの顔、気持ち良さそうだった。

 

まるで私のこと、あのクソ親父と勘違いしてたみたいに。

 

確かに私に目を向けていた。私のことを見ていた。

 

でも、あの女は私だとは思ってない。

 

夢なのか幻なのか。あのクソ親父を思い浮かべて、気持ち良さそうに逝ったんだ。

 

 

『続いてのニュースです。帰宅中の女性会社員を後ろから襲い、性的暴行を加えたとして43歳の男が逮捕されました。無職の───容疑者は本日、会社から帰宅中の女性を後ろから押し倒し…………』

 

……………………。

 

あのクソ親父と同じ名前だね。

 

凄い偶然。

 

もしかして、本人なんじゃない?

 

だとしたら笑えるね。

 

あんたが命を落としてまで探しに来た男は、その間あんたが死んだなんて知りもしないで新しい快感を追い求めてたんだから。それも私の誕生日に。

 

そもそもあんたと寝たことすら覚えてないんじゃない?もし再会出来ても言われたかもね。「君、誰?」って。

 

あんたの人生、全部無意味。全部無駄。

 

無駄死に。犬死にだよ。

 

本当に笑える。

 

惨めで。

 

情けなくて。

 

何の意味も無い人生だったね。

 

何の………

 

何の……………………意味も無い………………

 

「…………………なんで…………」

 

なんで………………

 

「なんで私じゃないの……………!!」

 

なんであんな男に…………!!!

 

なんで私じゃなくてあの男なの…………!!?

 

何度も言った…………!

 

テストで満点取った時も……!!

 

リレーで1位取った時も………!!

 

作文コンクールに入賞した時も………!!!

 

お母さんどう? って………

 

何度も言ったでしょ………!!!!

 

なのに………

 

なのにいっつも………

 

あの男の名前ばっかり………

 

あいつの話ばっかり…………!!!!!

 

「なんでぇ!!! なんであいつばっかり!!!!」

 

何で私は愛さなかったの!!?

 

どうして!!

 

どうしてっ!!!!!

 

「ふざけんな……ぐすっ…………ふざけんなよぉ………!!!!!」

 

最低だよ!!

 

最期まで最低!!!

 

クズ!!!

 

どうしようもないクズ!!!

 

地獄に行け!!!

 

地獄に堕ちろ!!!!

 

……………………

 

……………………………………

 

 

 

一度くらい………

 

「……………一度くらい」

 

 

"愛してる" って

 

言って欲しかったな

 

 

 

 





サブタイトル:『仮面ライダーファイズ』海堂直也の台詞より引用

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