みーちゃんからの手紙は、結婚式への招待状だった。
物凄く重い鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けている。くらくらする頭を押さえながら、なんとか招待状の方に目を移した。
相手は…………
「はっ………!?」
高円寺………くん………!?
みーちゃんが高円寺くんと結婚…………!?
「はぁぁぁぁっ!!!?」
招待状に書かれていたのは、王美雨と高円寺六助の結婚式の日程。
式は来月の中頃、東京の高円寺家の私有地で挙げられる。
衝撃が二重に来て、私は強いお酒を飲んだ時の酩酊を感じていた。
あのみーちゃんが結婚…………それも傍若無人を極めたような高円寺くんと?
みーちゃんは平田くんのことが好きだった。でも平田くんは、テストや特別試験で退学者が出て少しずつ元気を無くしていって、入学当初のような輝きは3年生の頃には無かった。
それでもみーちゃんは、平田くんに密かに想いを寄せていたんだけど………結局3年間告白はしなかった。
そのみーちゃんが、高円寺くんと結婚!?
というか、そもそも高円寺くんがみーちゃんのこと好きだったの………?全く知らなかった…………
あんな、あんな一番結婚しなさそうな男が…………
ああダメ…………
ちょっと落ち着かないと………………
冷えたお水を飲んで、一旦呼吸を整えた。
招待状の内容を改めて整理すると、来月東京の港区にある高円寺くんの私有地で結婚式が開かれる。
そして、私に結婚式でスピーチを読み上げて欲しい。これが大まかな内容。
私とみーちゃんは、高育時代に仲が良かった。少なくともあっちはそう思ってる。私は内気だったみーちゃんを色んな子に紹介して、最終的に彼女は友達を増やすことが出来た。
だから、私をスピーチ役として選んだってことね。
………
結婚か……………
考えてもなかったなぁ………同級生が結婚するなんて。
………………
………………………
あれ………
私、今嫌な気持ちになってる………?
別にみーちゃんのことは嫌いじゃない。あのクラスの中だと、相当に良識的な人だった。Dクラスは色々と人格に問題がある人が多かったから。何でみーちゃんみたいな子がDクラスに、って思うこともあった。
なのにどうしてだろう………
変な焦りみたいなのを一瞬感じた。
自分が皆から置いていかれるような、嫌なイメージが頭をよぎった。
最初は私と横で走っていた人たち。
もしくは後ろをついてきていた人たち。
そんな人たちが、私を追い抜いていく。私には追いつけないスピードで、ぐんぐん前に進んで行く。
最後には私だけが、ひとりぼっちで走っている。
薄気味悪い妄想と片付けるには、あまりにも生々しいインスピレーションだった。
時間は過ぎて、結婚式当日。
私は白藍色のドレスを着て、招待状に書かれていた式場の住所に向かっていた。
今日は今まで見た中で一番と言えるぐらいの濃い青空で、太陽の光がそこら中に充満している。2人の式が祝福されているとしか思えないような天候。
高円寺くんはやたらと運の良い人だったから、これもまた彼の力……なのかな。
電車に乗って、タクシーに乗って、向かった先に式場があった。
「わ…………」
何………ここ………
美しい…………
美し過ぎる……………
汚れの1つも無いような純白の西洋建築。明らかにここだけ異世界だと思わせるような、周囲との隔絶。
側に漂う東京湾の海面の揺らぎと合わさって、私は巨大な名画でも見せられているような、美に魅入られる感覚を味わっていた。
「桔梗ちゃん」
名前を呼ばれて振り返る。
するとそこには………
「心ちゃん?」
高育の同級生、井の頭心が佇んでいた。
若葉色のドレスを身に纏い、薄く化粧を施した、大人の色を滲ませる心ちゃんが。
あの時の子供っぽい雰囲気とは、似ても似つかない。月日の流れが予想よりもずっと長いものだったと、私は直感的に理解させられた。
「桔梗ちゃん、久しぶりだね…………」
「うん………高育の卒業式以来……かな?」
「桔梗ちゃん、やっぱり凄く綺麗になってる………」
私を見て目を細める心ちゃん。
しかし、驚いているのは私の方だった。
あの心ちゃんから、こんな艶めかしい雰囲気が漂う。以前の私は想像もしなかった光景。
少し強く吹いた風に靡く髪を、心ちゃんは左手で押さえた。
「あれ………」
その時、私は心ちゃんの左手に輝く何かを目にする。
「それは………」
「あっ、これ?これはね……」
いや………それは……言わなくても分かる。
左手の薬指で銀色に輝くそれは、女ならば知らない者はいない。
「実は………婚約してるの。式はいつ挙げるか決まってないんだけどね………」
「婚約…………心ちゃんが…………」
恥ずかしそうに私から目をそらす心ちゃん。しかし、その心の内がどれ程幸福で満たされているのか、私は言われずとも悟った。
私も確かに、あの時一度、あんな屈託のない笑みを浮かべていた。いつもの無理やり頬をつねったような作り笑いじゃない、勝手に出来上がってしまう微笑みを。
今ではもう、その方法を忘れてしまったけれど。
「私ね……桔梗ちゃんのおかげで人と話すことが怖くなくなったの。桔梗ちゃんが色んな人と私を繋ぎ合わせてくれて……私1人じゃ出来ないことだった」
「……………」
「だからね…………桔梗ちゃんには感謝してもしきれないんだ。もう本当に………何て言ったら良いのか…………」
「心ちゃん……」
何、この感じ。
「さぁ、入ろう。久しぶりにみーちゃんに会えるよ。あと、高円寺くんとも」
高円寺くんのことを思い浮かべたのか、みーちゃんはくすっと笑った。
「………そうだね」
胸に鈍い何かを乗せたまま、私たちは式場の中に足を踏み入れた。
式場の内装は外装と同じで、日本を思わせないハイカラだった。
こんな神秘的な場所がこの世界に存在するなんて、と少し溜め息を漏らしたほど。
心ちゃんは目を光らせながら「私もこんな所で式を挙げてみたい」と言っている。
確かに………
これを見せられたら、憧れるのも無理は無い。
そうなんだけど………
私はやっぱり、何かが胸につっかかっている感じがして気分が晴れない。
その後、私たちは案内人によって控え室に呼ばれた。
その扉を開けて目にしたのは…………
「……………………!!」
目もくらむような白に包まれた、王美雨の姿。
そしてその隣には、黒いスーツを纏う、あの時と何も変わらない自信に満ちた笑みを浮かべた高円寺六助。
「桔梗ちゃん!心ちゃん!」
私たちの姿を見た瞬間、みーちゃんは化粧に彩られた顔をくしゃっと歪めた。
「みーちゃん………ご結婚おめでとう!」
心ちゃんは久々に再会したみーちゃんと手を取り合って、彼女の結婚を祝福している。
「あ………みーちゃん。ご結婚おめでとう!」
ウェディングドレスに見惚れて少し反応が遅れた私も、みーちゃんに祝いの言葉を投げかけた。
「ありがとう桔梗ちゃん……!私、ずっと桔梗ちゃんに会いたかったの……!!」
みーちゃんは私の手を取ると、急に涙ぐんだ。
「ちょ、どうしたのみーちゃん」
「ごめん……久々に桔梗ちゃんの顔を見たら、急に涙がこみ上げてきて………」
すると、隣にいた高円寺くんがハンカチでみーちゃんの涙をそっと拭った。
「Welcome to our wedding ceremony !! 櫛田ガール、そして井の頭ガール」
「高円寺くん……」
「随分と懐かしい顔ぶれだねぇ。まずは我々の門出を祝おうという心意気に感謝の意を表そう」
高円寺くんはとても洗練された所作で、紳士的な礼を私たちに見せた。
あれ……高円寺くんってこんな人だっけ?Dクラスにいた時は、他人なんてどうでも良いってスタイルだったけど………
「高円寺くんも結婚おめでとう。招待状を貰った時はびっくりしちゃった」
私は取り敢えず、高円寺くんにもお祝いの言葉をかける。
それに心ちゃんも頷いた。
「本当だよね。あの高円寺くんが、って。私も腰を抜かしそうになったよ。おめでとう、高円寺くん」
「フフッ、祝言痛み入るねぇ。君たちも今日は存分に楽しんでいきたまえよ!!」
高円寺くんは高らかに笑いながら、控え室を出て行った。
やっぱり、ちょっと調子が狂うな………
「なんか高円寺くん、変わった?」
私はみーちゃんに尋ねた。高育での印象とは違うところのある高円寺くんの振る舞い。みーちゃんはその言葉を聞くと、くすくすと笑う。
「変わった………っていうより、六助くんは元々は紳士なんだよ。ただちょっと破天荒なだけで」
「六助くん、かぁ。ねぇ、どっちがプロポーズしたの?」
心ちゃんが興味津々な様子で尋ねる。でもその答えは大体予想がつく。みーちゃんは頬が真っ赤に染めて、両頬を押さえながら私たちから身体を背けた。
「六助くんの方から…………」
「えぇっ!?」
私と心ちゃんは同時に声をあげた。ちなみに演技じゃなくて素の声だった。
「高円寺くんから……!?」
「そ、そんなに驚かなくても………」
「いやいや、驚くよ!全く想像出来ない………高円寺くんがプロポーズしてるところなんて」
とはいっても、みーちゃんの方からっていうのも考えづらかったかな……?
どっちだとしても驚きの結果。何故ならこの結婚自体が驚きなんだから。
話を聞くと、みーちゃんが一時的に中国に帰国している時に、偶然高円寺くんと再会したらしい。
あの広い土地で偶然ってなると相当な確率だ。まさに運命の再会、と言ってもいい。
そんな劇的な再会をした時、高円寺くんが突然プロポーズしてきたとか。交際も経ないで、いきなり。
何でも高円寺くんはみーちゃんを高育に入学する前から知っていたらしくて、「妻にするならみーちゃん」と思っていた………ということ。
高円寺くんらしく、型破りなアプローチ。みーちゃんは戸惑いながらも交際を承諾して、そして今回結婚することになった。
「高円寺くんのどこが気に入ったの?」
「………六助くんって、本当に世界を楽しんでいるの。高育に通ってた時はあんまり分からなかったんだけどね………私には凄く眩しく見えて。だからこそ……そんな眩しい人の側にいてみたいって、思ったの」
高円寺くんへの想いを語るみーちゃんの顔は、紛れもなく恋する乙女の熱を帯びていた。
世界を楽しんでいる、か。
確かに彼ほど楽しそうに毎日を生きていた人はいない。自分を世界の主人公だと思って生きている顔をしていた。
簡単なようで難しい。私にはそれがよく分かる。自分を主人公にするために必死になってきた私には。
そんな高円寺くんの熱に、みーちゃんは恋をしたってことかな。
人から好かれるようには見えない性格の高円寺くん。でも……そのどこまでも自分を貫く生き方が、時に人に愛されるってことみたい。
………………
何だか嫌になるなぁ………
自分に無いものを持っている人を、まじまじと見つめるっていうのは。
「………………………………………」
「………?どうしたの、桔梗ちゃん」
「………!な、何でもないよ!本当に、今日のみーちゃんは綺麗だなって思っただけ!」
結婚。
結婚………
みーちゃんが………………
「……………………………………………………」
式が始まった。
式に参列した人は、思っていたよりもずっと少ない。というのも、みーちゃんはあんまり交友関係が広くないし、高円寺くん本人はもっと狭い。
高円寺くんなんかは実家が凄い一族なんだから大勢の人が来るのかと思ったけど、そういうのが苦手なみーちゃんのために参列はお断りしたらしい。
みーちゃんの意志を尊重する、それが今回の高円寺くんのポリシー。
高円寺くんがいる結婚式だけど、流れはスタンダードなもの。特別変わったことは起こらない。まさに王道、鉄板。
式は順調に進んでいって、遂に私のスピーチの番が回ってくる。みーちゃんが私だからと頼んできた、この日のための大役だ。
理想の「櫛田桔梗」が、これを断るはずがない。
私は全員の前に出て、原稿を両手に持つ。みーちゃん、高円寺くん、心ちゃん。皆の視線が私に注がれる。こういう場では、緊張する人が多いんだと思う。
けれども、私には非常によく慣れた演説の一回に過ぎなかった。
口を開き、軽く息を吸い込んでから、私は最初の言葉を口にした。
「まず最初に言わせていただきます。みーちゃん、高円寺くん。ご結婚おめでとう。心からそう祝わせていただきます」
式場の全員の姿が目に映る。
新郎新婦。その友人、知人。そして……………
卒業式の時に少しだけ目にした顔。みーちゃんの両親の姿が目に入る。
穏やかそうな父親、お淑やかそうな母親。2人とも、とても温かな目でみーちゃんを眺めていた。
きっとみーちゃんは、両親に愛されて育った子だ。
少し内気で引っ込み思案だったけど、根本にある温もりは愛情を受けなければ育まれない。
そういう両親に育てられて、今では愛する人と新しい道を歩み始める。
幸せ者だね。
幸せ者だよ。
本当に、羨ましくなっちゃうぐらい…………
「………………!?」
あれ……………
おかしいな。
ウェディングドレスのみーちゃんの姿が、どうしてか私の姿に見える。
その隣には幸太郎くんが。
式場には私の友人たちが沢山いて。
お母さんの姿もそこにはあった。
「おめでとう」
「おめでとう」
口々に皆の祝いの言葉が聞こえてきて。
私たち2人は、満面の笑みでそれを受け止めている。
そんな光景が、私の前に広がっていた。
「…………………………」
良いな、これ。
凄く良い。
大勢の人に囲まれて。私たちのこと祝ってもらえて。
こんなに幸せなことってあるのかな。
あ、お母さん。
口が動いた。
「おめでとう」って言ってくれたのかな。
色々あったけど………
最後には笑えて良かった。
ね、幸太郎く─────
瞬きをすると、私の目線の先には王美雨と高円寺六助の姿があった。
他には心ちゃんの姿も。
お母さんが座っていた所には、みーちゃんの両親が。
皆、私を見ている。
でも、私を見ていない。
今日の主役は私じゃないから。
みーちゃんと高円寺くん。
今日という日は、この2人のためにあった。
そして私は、友達の結婚を心から祝う「櫛田桔梗」。
締めの言葉は、原稿を見ずとも分かりきっていた。
「───改めて結婚おめでとう、みーちゃん、高円寺くん。私は2人の幸せをずっと、ずっと願っているからね」
締めの言葉の後お辞儀をすると、盛大な拍手が鳴り響く。あの高円寺くんですら拍手をしている。
満場一致の喝采は、しかし私の幸福を祈るものでも、私の未来を祝福するものでもなかった。
一通りの進行を終えた後、外で記念撮影が行われることとなった。
みーちゃんと高円寺くんのツーショット、そしてみーちゃんの両親を交えた家族写真。
私と心ちゃんは、少し離れた所から家族団欒の光景を眺めている。
「良かったね、今日の結婚式」
「うん………」
「私もいつか、あの2人みたいな式を挙げてみたいなぁ………」
「………………………………………」
私は………何を思えば良いのかな…………
…………………………
「あっ」
「えっ?」
急に心ちゃんが驚いた声を出す。
すると──
「わっ」
何かが私の胸に当たった。反射的にそれを両手で受け止める。
「え…………ブーケ?」
このブーケはみーちゃんたちの………
「ごめんね桔梗ちゃん!」
呼ばれて顔を上げると、みーちゃんと高円寺くんがこちらに向かってきていた。
「風に飛ばされちゃって!!」
「風に……あぁ、そういうことね」
確かに、今日は少し風が強い。きっと2人にとっての追い風、という意味なんだろうけど。
「ナイスジョブだ櫛田ガール!…………おや」
「? どうしたの、高円寺くん」
「ふ〜む。こうして見ると……まるで君が花嫁かのように見えるねぇ」
「……!!」
私が………
「ハハッ、ジョークさ。いつかは君が花束を持つ主役になりたまえよ!」
「……………はは、そうだね。ありがとう」
……………
…………………
…………………………………
「桔梗ちゃん?」
「え?」
「どうして泣いてるの?」
泣いてる………?
私は頬に手で触れた。すると、本当に濡れている。
「……ううん、気にしないで。2人の姿に感動しちゃっただけだから」
「あ〜………分かるよ。私も式の途中ちょっと泣いちゃったもん」
………………
何の涙よ……
何の涙よこれ…………
何が悲しいの。
何が悔しいの。
何をそんなに……………欲しがっているの。
2人の結婚式から2年が過ぎた。私は27歳になっていた。
2人は今でも幸せに暮らしているみたい。年賀状、旅行先の名物、色々なものが定期的に送られてくる。
みーちゃんは今の自分があるのは私のおかげだって言った。
私が私のためにやっていた行動は、周りの子たちにとって掛け替えの無い変化をもたらしていた。
その対価として、私は喝采を浴びる。「一番」の信頼を得られる。
そう思っていた。
でも、私は皆の「永遠の一番」ではないみたい。
時間が経って、大人になって。
段々と皆、自分にとっての「一番」がバラけてきた。それは家族であったり、キャリアであったり、趣味であったり。
いずれにせよ、外に向ける意識が昔よりもずっと減っている。
勿論、相談に乗ってくれたり場を盛り上げてくれたからと感謝してくれる。きっと私が何か助けを求めれば、喜んで手を貸してくれると思う。
でも違う。
子供の頃みたいな。
あの頃みたいな、誰もが私に夢中になる理想郷。それが遠のいている実感がある。
特撮ヒーローに一生懸命な子供が、いつしか離れていくように。
プリキュアに夢中だった女の子が、段々と番組を観なくなるように。
私に夢中になる時間が、終わりを迎えている。
そんな焦燥感に苛まれる日が訪れた。
10月になったかな。
暑い夏も終わって、そろそろ涼しくなってくるこの頃。
私は仕事に一息入れるために、休憩室に向かっていた。
「あっ、櫛田先輩!お疲れ様です!」
「お疲れ様〜」
後輩の子が、私に元気よくお辞儀をした。
あの子はまだ私に夢中でいてくれる。よく懐いている可愛い子だ。
まだ主役でいたいな。
皆の「一番」でいたいな…………
「ねぇ、櫛田先輩ってさ」
「…………!」
ソファのある部屋の一歩手前。
私に関する話題が展開されようとしている場面に出くわした。私はビタッと動きを止めて、会話内容に聞き耳を立てる。
「結婚しないのかな?」
…………!!!
「するんじゃない?だって先輩、モテモテでしょ」
「でもさ、社内で誰かと付き合ってるって話、聞かないよ?」
「社内じゃなくて社外の誰かと付き合ってるとか?」
「もしかしてフリーとか」
「えー!ウソでしょ!あんな上玉1人にしないって男は………」
…………………………
「もしかしたら、そろそろ寿退職しちゃうかもよ?」
「えぇ!嫌だよそんなの!櫛田先輩いなくなったら私たちどうするの?」
「あり得るってマジな話。あのレベルの人なら大富豪との結婚も夢じゃないから。あんな人をお嫁さんに貰えるなんて、幸せ者もいるもんだねぇ………」
「止めてよ。寂しいこと言わないで。………でも、そうなりそうだなぁ」
「皆、もっと櫛田先輩といる時間増やそ。あと何年いるか分からないから」
……………………
……………………………
ああ……
そういうこと、なんだね。
私の築き上げたイメージは。
理想の「櫛田桔梗」は。
"独り身でいるなんてあり得ない"
皆、私がいなくなるのを嫌がってる。でも、私がすてきな人と巡り合って、ここを去るっていう未来が既に出来上がってるんだ。
私は皆に幸せを望まれている。
だからこそ、私が何もせずにそのままいるなんて、おかしいって思われる。
それでは私は幸せになれないとしても。
………………
………………………
どうして、こうなったのかな。
その後数ヶ月して、私は職場を去った。
理由は「皆」の望むように「フィアンセとの生活に専念したいから」。
皆、物凄い笑顔で見送ってくれた。
中には涙を流す男性社員も。
私は皆の「一番」だった。
間違いなく。
そう、間違いなく…………
………………
………………………
会社を辞めて、何か宛がある訳ではなかった。
再就職は簡単なこと。私にとってはその手の行事は一番得意なものだから。
でも、それをする気になれない。
他の職場に行っても、私はきっと同じことを繰り返す。
私の美貌、私の創り出す「櫛田桔梗」には、男女問わずただならない感情を抱く。
でもそうなると、また同じ疑問を抱かれる。
また私は、私ではどうにもならない現実にぶち当てられる。
……………
…………………
「はぁ……………」
夜の繁華街を歩いて回る。やけ酒を飲むみたいに色んなお酒を飲んで無理やり自分を誤魔化そうとする。
でも、気分はちっとも晴れなかった。
「おねーさん、浮かない顔してるね!」
「え?」
突然、男の声がした。
「何か辛いことでもあったのかい?」
「え、いや…………」
私は、いつもなら反射的に創り出す「櫛田桔梗」すら忘れて、純粋な困惑を見せてしまっていた。
「まぁこのご時世だ。悩みの1つや2つあるよねぇ」
「……………」
ちょっとイラッとした。
あんたに何が分かるの?胡散臭い顔して、怪しいビジネスでもふっかけようってつもり?
「そんな時はさ、一杯どうよ!」
「は?」
「ただの一杯じゃないよ!おしゃべりしながら飲むのさ。悩み事、きっと聞いてくれるぜ」
「………………………………………………」
怪しい。
何もかもが怪しい。
誰が行くかよ、あんたの店なんて。
……………
…………………
私の足は、勝手に男の後をついて行った。
何か気分を紛らわせられるなら、何でも良いと思っていたのかな。
しばらく歩くと、ピンク色の煌びやかな看板の目立つあるお店の前にたどり着いた。
「ここだよ」
「えっ、ここって………………」
キャバクラ………………………?
次回、√櫛田最終話。
サブタイトル:『ジョジョの奇妙な冒険第6部 ストーンオーシャン』ナルシソ・アナスイの台詞より引用
誰の曇らせが一番好き?
-
堀北鈴音
-
一之瀬帆波
-
坂柳有栖
-
軽井沢恵
-
椎名ひより
-
櫛田桔梗
-
佐倉愛里
-
長谷部波瑠加
-
松下千秋
-
佐藤麻耶
-
天沢一夏
-
七瀬翼
-
雪
-
茶柱佐枝