あなたなら、どうしますか?   作:お犬さん

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少し短めです




幕間1

 

 〜とある4歳児の視点〜

 

 私は、他の人間の事を見下していた。

 あるいは私は他の人間から拒絶され、そして私も彼らを拒絶していた。

 

 何故、私の言う事がわからないのだろう? 

 何故、そんな事すら思い付かないのだろう? と。

 

 ──私自身が今、彼にそう思われている。

 

 ……今、私の目の前に居るのは、8歳の少年。

 王国貴族である事を示す金髪に青眼。最近黄金と呼ばれ始めた私に匹敵する美貌を備えた彼の名は、カイム•レンフォール。

 

 噂によると彼は武の神に愛された子、あるいは武神の生まれ変わりと称されている。身分はレンフォール伯爵家の嫡男。

 ここまでが、先程彼に実際に会うまでに得ていた情報。

 

 ……ふざけないで欲しい。

 一体彼の何処が『武の神に愛された子』だというのか。

 彼は明らかに()()()()の存在ではない。

 

 彼を称するのに相応しい言葉は、敢えて言うならば

『ありとあらゆる神に愛された子』だ。

 

 武の才能以外、彼は誰にでもわかりやすい形で自分の能力を示していないというだけで、彼は頭脳においても私の遥か先を行っている。

 

 誰1人として、彼の事を理解出来ていない。

 ──それは、私も同じだった。

 

 私には、彼がどれほどの才能を持っているのかの底が見えない。

 彼は、会話の中で私に自分のレベルを合わせている。

 巧妙すぎる演技で隠しているが、私も彼と似た様な事を普段他者に向けてしているからわかるのだ。

 

 ……ああ、そうか。

 いざ自分に返ってくると、こんな感情を抱くのか。

 

 私はこれまでの他者への接し方を少しだけ反省した。連中はどうしようもない愚物だが、もし彼に私がそう思われていたらと考えると……私は恐怖で体が震えてしまうから。

 さりとてやはり、彼以外のあらゆる存在が愚昧である事に変わりはない。──それは、私も含めて。

 

 とはいえ、私は彼の演技に気付いているが、奴らは私の演技に気付かない。故に私と彼の差は、私と奴らのそれよりは近いと思われる。

 つまり、私が彼に追い縋る余地はまだ残されていると期待できる。いいや、余地がなければ作り出せばいいだけの話だ。

 

 私と彼は同類ではない。

 恐らく、彼には私の事が理解出来るのだろう。

 しかし、私は彼の事を測りきれない。

 

 そう。()()()()()

 

「いつの日か。いつの日か必ず、あなたの目に私を映してみせます」

 

 否。

 

 そうじゃない。

 違う。

 ちがうちがうちがうっっ!! 

 

 それだけでは決して満足出来ない。

 我慢ならない。

 

 私は絶対に、人生を賭して何としてでも欲しい物が出来た。

 だから。

 

「私があなたを、独占します。ふ、ふふふ……」

 

 あのどうしようもない節穴共から彼を解放してみせる。

 彼と私は、小さな家で一生2人きりで暮らすのだ。

 

 いや、2人ではないか。

 彼が望むならば、子供を産む事に抵抗はない。

 私と彼の間に生まれた子であれば、愛する事は十二分に可能だろう。

 

 ──ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは、今日この瞬間に『誕生』した。

 

「ふふふふふ……誕生日、あなたと同じですね? カイム様」

 

 

 嗤う彼女は、4歳だった。

 

 

 

 

 

 

 〜レンフォール伯爵視点〜

 

 私の息子、カイム•レンフォールは常軌を逸した武の天才である。

 

 元々、息子は成長が異常に早かった。

 当時の私は、子供の一般的な成長速度など知らず、さりとて普通はもっと成長は遅いものなのだろうとなんとなく考えてはいたから、息子の成長の速さを単純に喜んだ。

 待望の跡取り息子であったから、喜びもひとしおであったのだ。

 

 しかし、娘も生まれ、一般的な子供はどういう風に成長するのか改めて調べたら今ならばわかる。

 

 息子の成長速度は、明らかにおかしかった。

 人間の規格を外れているとまでは言わないが、天才を超えて神才とでも呼ぶべき天与の肉体を息子は与えられていたのだ。

 

 まさしく、息子は神に愛された存在だった。

 当初の私が望んでいた才能の形とは方向性が異なるが、むしろこちらの方が余程望ましい形ですらある。

 何故なら、我が家から将来の英雄が産まれたのだ。

 これを喜ばないわけがないだろう。

 

 そんな息子は、5歳の折に武に興味を持ち始めた。

 男子が強さに憧れるのは自然の摂理。

 ましてや優れた肉体を持つ息子が武を志すのは事前にわかっていた話だった。

 

 私は、すぐさま自らの財を用いて息子に指南役を与えた。

 こうなるだろうとは事前にわかっていたから、あらかじめ調査していた肝入りの剣士たちだ。

 

 

「旦那様、カイム様は屈指の天稟をお持ちです」

 

「レンフォール伯爵。ご子息に私が教えられる事は最早ありませぬ」

 

「まさしく天与の才……いえ、このお方こそが武神の生まれ変わり」

 

 

 思った通り息子は、あらゆる指南役に満足する事はなかった。

 当然だ。武神に愛された我が子を、そうでない者がどうやって満足させるというのか。

 

 ……我がレンフォール家は、決して武で名を馳せた家などではない。

 

 むしろ、政治や交易で財を成す家である。

 

 王都からは離れた地方であるが故に、未だ悪に目を付けられず。

 そんな中で特産物を売る事と、当主の商売勘で成り立たせている領地。

 勿論、王国の中では裕福な方であるのは間違いないし、暗部に手を染めたりもしていない。私はそれを誇りに領地運営をしている。

 

 八本指という闇組織の話は私も無論耳にしているが、我が地方にではまだ手が伸びていない……いや、もしかしたら既に入り込んでいる可能性はあるが、少なくとも私にまでは侵食していない。

 

 恐らく、僻地たる我が領土に手が伸びるというのは、それは既にほとんど王国全土に八本指の手が伸びているという事を意味するだろう。

 

 ──話が逸れたが、つまり我が家からは武に秀でた軍人など一度も輩出されていない。代々伝わる家宝も、武具ではなく絵画や調度品だ。

 

 そういえば、蔵に名工が打ったとされる剣があったか。とはいえ、魔法の力があるわけではない単なる鋼の剣に過ぎないのだが。

 息子が欲しがるならば、節目となる10歳の誕生日にでも渡せばいいだろう。

 ふむ、魔法武器を手に入れるための伝手は私は持っていないな……これまで必要とした事がなかったから。

 

 ──いけない。歳を重ねてから、いや、神才の息子が産まれてからというもの、余計な事ばかりを考えてしまう。

 

 あれも、これも。

 全てを息子に与え、存分に才能を伸ばしてあげたい。

 

 そうしたら、息子は王国軍の頂点、今でいう六大貴族の貴族派閥トップに位置するボウロロープ侯の立場に……なんて、凡人たる私は考えていた。

 

 カイムは、更なる上を見ていた。

 

 私は、息子が第三王女と親しくしている事を知った。

 王女と息子が何度も文通を交わし、そうして王城に招かれたため連れて行く事を強請られた際に、知ったのだ。

 

「なんと、なんという事だ……!」

 

 この身が打ち震えるのを感じる。

 

 息子は、我が息子は。

 王を、志しているではないか……! 

 

 私は、妻と相談する事にした。

 こうなると私1人ではどうにもならないからだ。

 悔しいが、私だけの力では貴族として成り上がる道筋は示す事が出来たとしても、王になる事への道などわかるわけがない。

 所詮私は1地方の領主に過ぎない。自分1人の力でキングメーカーになれるとまでは自惚れていないから。

 

 しかし、妻は私とは違った考えを持つようだ。

 

 妻は、カイムがラナー王女と親しくしている事には気付いていたらしい。しかし、息子がラナー王女と懇意にする理由は、王を志すからではないのではないか? と。

 

「わたくしには、あの子はもっと違った物を見ている様に思えるのです」

 

 違った物? 

 すると、妻は何やら言いづらそうにした。

 気にせず話して欲しいと諭すと。

 

「カイムは恐らく武にのみ優れているのではなく、知略、いえ万物に優れた天才で……いずれ家を、国を出て、世界に飛び立つのではないのか、と……」

 

 ……最早、私に息子を推し量る事は出来ないのだろう。

 妻の所感も、正しいのかどうかはわからない。

 結局、決めるのはあの子なのだ。

 

 勿論、私としては神才たる息子を手元に置いておきたい。

 

 しかし冷静に考えて、成長した息子を止められる人間が、一体どこにいるのだろうか? 

 なにせ、アダマンタイト級冒険者……王国最強格の剣士たるヴェスチャーが、数年経てばカイムは自分より確実に強くなると言っているのだ。

 

 妻の言う様に、カイムが優れているのは武に限らないのではないか? という事は私も薄々勘付いていた。あの子は、武にも知略にも優れた、言うならば物語に語られる様な伝説的な存在なのではないのか? と……

 

 つまり息子が望めば、それは現実になるのだろう。

 貴族の頂点として軍の総司令に就くにせよ、ラナー王女を迎えて王になるにせよ、国外に飛び立つにせよ。

 

 私に出来るのは、せいぜいが息子の道にある小石を取り除く事。

 

 しかし、それはそれで構わないのだ。カイムは私に未だ見た事のない夢を見させてくれている。

 彼がどういった結末に到達するのか……私は1人の応援者としてそれを見守ればいい。

 

 私は産まれたばかりの次男を見ながら、そう結論付けた。

 

 

 

 

 〜とある組織の会議〜

 

 

「今年の収穫はこんな物か。もっと増やせないのか?」

 

「無茶言わないの。ようやく王族へのコネを作れたばかりなんだから、まずそれを褒めなさいよ」

 

「第一王子か。上手く人形になってくれそうか?」

 

「勿論。抜かりはないわ」

 

「ふっ……よかろう。お前はそのまま第一王子を傀儡にせよ」

 

「他に何かないか?」

 

「そういえば……レンフォール領に、武神に愛された子と呼ばれる神童が現れたらしい」

 

「神童?」

 

「ああ。そのガキは8歳なのに金……いや白金に足を踏み入れているのだそうだ」

 

「冗談? 面白くないわよ」

 

「いや、アダマンタイト級冒険者のローファンがそのガキに惚れて家に押し掛けた事は確認済みだ。白金かどうかはともかく、神童である事に違いはあるまい」

 

「勧誘してみるか?」

 

「8歳のガキをか? ここはいつから保育所になった?」

 

「それに、アダマンタイト級冒険者のローファンと一門の者共が付いている。簡単には行くまい」

 

「わざわざ大した旨味もない僻地に危険を犯して遠征するには割に合わないわね。レンフォール領から王都への品の輸送経路なんて当然確保出来ていないし」

 

「まあ、田舎のガキが仮に英雄になった所で我らにはどうでもいい話だ」

 

「気になるならば10年後にまた声をかければ良い。……ふっ。あまりに皮算用が過ぎるな」

 

「そうだな。では他になければ解散としようか」

 

 

 

 

 







次話は少し遅れます。
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