あなたなら、どうしますか?   作:お犬さん

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5話:偉大なる英雄

 

 あなたは14歳を迎えた。

 あなたの肉体はまだ最盛ではないとはいえ、生来の成長の早さも相まってかなり強靭になりつつある。

 

「完全にワシを超えたようだな……ワシは既に小僧には不要な存在。これからは王都でお前の噂を聞く事を楽しみにするとしよう。さらばだ」

 

 あなたは既に、ヴェスチャーならば容易に倒せるようになっている。それはつまり、あなたは既に英雄の領域を超えた事を意味している。既にあなたに対抗出来るのは、近隣諸国の表向きの人類だと、帝国の逸脱者フールーダと十三英雄のリグリットしかいない。

 

 満足そうにするヴェスチャーは、一門を連れてレンフォール領から去り、王都に戻った。

 

 あなたがおおよそ4年もの間、世間の変遷を見て自らの予測の正確性を確かめながら家族のために執筆していた未来予想本4冊は、遂に完成を迎えていた。後は適切な渡し方を考えるくらいである。

 

 あなた自身には知る由もないのだが、あなたはジーニアスという職業を最大レベルまで修めている。

 故に、あなたは本の執筆に多大な時間をかけても不要な職にレベルを割く事を無意識ながら避ける事が出来ていた。

 それでも、あなたは貴族長男としての行動をしている以上、ノーブルという戦闘に一切関係ない職業レベルも僅かに取得してしまっている。しかしそれはこの世界の1人の人間として生きる以上は、余程異常な生活でもしていない限り避けられないのだ。

 

 目論見通り王国最強の剣士となり、家族のための仕事を終えたあなたは改めて考える。

 

 あなたはとっくの昔に、法国には隠されてはいるが、人類最強の特殊部隊があるという事に気付いている。そして、その中にはあなたより強いと思われる存在が複数居ると。

 故に、あなたはやはり法国へと旅立ちたいという欲を深めていた。

 

 その前に、自分はあの指輪を入手しなければならない。

 あなたは改めて野心を心に燃やしている。

 

 そんな風にして過ごしていたある日。

 

 あなたはその日のラキュースとの訓練を終え、廊下を歩いている。

 アインドラ家の令嬢たるラキュースはずっとレンフォール家にいる訳ではなく、定期的に彼女の実家とレンフォール家を往復していたわけだが、ここ暫くは泊まりで修行する期間だった。

 そのため、彼女はいつもの様に自らに割り当てられた部屋にいるとあなたは考えていた。まあ、ラキュースが家の何処に居ようとも好きにすればいい話である。

 

 などと考えて夜中の廊下を歩いていたあなたは、書庫のドアから光が漏れているのを発見した。

 

 弟妹や両親は普段あまり書庫には入らない。

 そのため、その部屋はあなたが以前までは使っており、そして蔵書を読破して家族のための執筆も終えた今、使われる時間はかなり減っていた。

 そんな部屋を別に誰が使っていても問題はないのだが、なんとなく、誰がいるのだろうかとあなたは考える。

 

 

 使用人が夜中に書庫に入るなどまずあり得ない。常識のない使用人が居れば話は別だろうが、そんな者はレンフォール家の使用人には居ない。スパイを入れようとする貴族は勿論居たが、あなたの目を掻い潜るなど不可能なのだ。

 

 父はその日の仕事を終えて、既に部屋にて休んでいる。お疲れのようだった父が書庫に居るのは考えづらい。

 母は夕方以降、ましてや夜に本を読んで勉強に励むような事はまずしない。10歳の妹、6歳の弟を先程部屋で寝かしつけたのはあなただ。

 

 つまり、書庫に居るのはラキュースなわけなのだが……彼女は一体何をしているのだろうかと思い、あなたがドアの隙間から中を覗いてみると。

 

「くっ……鎮まれ……ここで解放するわけには……!」

 

「しかし、この禁断の書物と共鳴して……!!」

 

 あなたは、自らの弟子たるラキュースが特に魔力などない普通の本に向かって、右手を疼かせている姿を目撃した。

 ちなみに本のタイトルは、十三英雄の伝説。少年たちの心を掴んで離さない内容の一般に流通している書物であり、決して禁断ではない。

 

 ──あなたは転生者だ。

 肉体は14歳だが精神年齢としては既に大人。つまり、ここは見なかった事にして立ち去ってあげる事が正しき大人の行動。

 わかりきった話だ。別に、13歳の──つまり前世における中学生の年齢のラキュースが闇に目覚めた所で、それは単なる年相応の可愛げのある様でしかない。微笑ましく見守る、あるいは気付かぬフリをするべきなのだ。

 

 しかし、あなたは逡巡していた。

 

 おや。これは異な事である。

 あなたは一体何をしているのだ? 

 早く立ち去ればいいだけではないか。

 

 しかし、あなたは迷う。ひたすら悩み惑う。

 いやむしろ、書庫に入って行きたくてうずうずする様子をあなたは見せていた。

 

 ──その理由は。

 

 以前にも触れたが、元々あなたは、前世においてサブカルチャーに傾倒しており、更に言うならばファンタジーを好んで嗜んでいた。加えて言えば、あなたはこの異世界にて自分がどこまで行けるのかを知りたくて、ひたすらに己を鍛えたり、アイテムを求めたり、法国へ武者修行の旅に出たがったりするような人間である。

 あなたは未知が大好きで、王宮を探索したがったり、伝説の英雄と会うことを喜んだりする人物で……

 

 端的にわかりやすく言うならば。

 あなたもまた、厨二病だった。

 

 あなたは漆黒の闇が大好きで、リスクがあり滅多に使えない力をカッコいいと思い、家庭科の裁縫でドラゴンを選ぶような人間であり……右手を疼かせるラキュースを見たあなたは、この異世界にて同好の士を見つけた気持ちになっていたのだ。

 

 普通に考えて、異世界に厨二病の概念などあるはずが無い。王都には何度も出向いているが、当然ながら厨二概念の影も形も見当たらなかった。

 勿論、前世においてあなたは自らの趣向を世間様に出しはしなかった。しかし、この世界においては隠す隠さない以前に、それをわかる相手が──

 つまり、ラキュースはこの世で唯一無二の存在なのではないかとあなたは思い、彼女と語り合いたい欲が溢れて仕方がなかったのだ。

 

 普通に考えたら、ラキュースが秘められし力に目覚めた以上、他にも似たような禁じられし力を持つ者もいるだろう。しかし、あなたは史上屈指の万能の天才ではあるのだが、この時だけはラキュースを唯一の存在だと勘違いし……端的に言うならば、この時のあなたはラキュースと一緒にアホになっていた。

 

 しかし、あなたはラキュースの師匠でもある。

 いや、あなたとラキュースは1歳違いでしかないため、接し方としては師弟というよりは仲の良い友人のような関係性を築いていたのだが、それでもあなたは自らを威厳ある師匠なのだと思い込んでいた。

 

 あなたは──断腸の思いにて立ち去る事にした。

 

「え? だっ誰か居るのっ!?」

 

 あなたは気付いて欲しかった。

 ラキュースがあなたを発見するのを待ち望んでいた。しかし、あなたは天才だった。彼女にバレずに逃げ切るなど簡単すぎたのだ。

 

「ねえ、カイム。昨日の事なのだけれど……」

 

 悲しいかな。

 あなたは演技においても天才だった。ラキュースを誤魔化すなどあまりにも容易すぎたのだ。

 この時ばかりはあなたは自らの才能を恨んだ。

 あなたは面倒な『察してちゃん』になっていた。

 

 ──こんなやり取りをしたりしながらも、ラキュースとの訓練は、既にかなり良い所まで進んでいる。彼女はあなたの手解きの結果、既にミスリル級にまで至っているのだ。

 あと2年もあればオリハルコン級に、更に2年……つまり彼女が17歳になる頃にはアダマンタイト級の強さに至るだろうとあなたは考えている。

 勿論これは、あなたとの修行がなければもっと遅れていただろう。故に、リグリットからの試練は既に果たせているのではないかとあなたは思っていた。

 

 あなたはリグリットを呼び出す。

 

「確かに、ラキュースは随分と強くなったようだね。わかった、坊やに指輪をあげよう……と言いたい所だが」

 

 まだ何かあるのだろうか。

 ……なんていうのは冗談で、あなたはまだ試練は終わっていない事はわかっていた。

 リグリットはあなたたちに何かをさせたがっている様子だったのは、あなたからすればとうにお見通しでしかない話だったから。

 

「これから、とあるやつと戦いに行くよ。あんたたち2人とわしの3人でね」

 

 それもまた、1点を除けばあなたの予想通り。

 というか、強くなってやる事など何かと戦う以外にないのだから。

 しかし、リグリットも一緒に戦うというのは予想外だった。

 

 一体どれ程の強者なのだろうか? あなたは心を躍らせる。

 何故なら、あり得ない話だが、相手が例えフールーダであったとしてもラキュースとの2人がかりであれば楽勝だとあなたは考えていたし、ましてやリグリットも居るならば最早彼では相手にならないからだ。

 

 何処ぞの秘境にでも潜るのだろうか? あるいはアゼルリシア山脈に棲むと噂されているドラゴンが相手なのだろうか? 

 

 あなたは逸るが、行く前に、あなたたちは3人で連携の確認をした。

 ラキュースとリグリットにあなたは自らのセンスを用いる事で完璧に合わせてみせる。

 

「初見の連携すら上手いのか、坊やは。──いや、もう坊やとは呼べないね。カイム、あんたは既に英雄どころか逸脱者と呼ばれる領域に入っている」

 

 リグリットが改めてあなたの才能を見て驚愕する。

 

「これでまだ14歳で未完だなんて、本当に恐るべき事だよ。カイムはきっと、わしらのように歴史に名を残すだろう──これからの戦いは、わしからカイムに残せる最後の贈り物だ」

 

 あなたたち3人は、リグリットの転移魔法で移動する。

 王都との往復で使わせてもらっているあなたは体験済みなのだが、あなたは別の興奮を覚えていた。

 

 十三英雄の1人から課される最後の試練のために、仲間と共に強敵へ挑みに行く。

 ──これは……まさしく憧れていた冒険そのものではないか、と。

 

 

 そして、辿り着いた先には。

 

「リグリット。こいつらは誰だ? お前は餓鬼を連れ歩く趣味にでも目覚めたのか?」

 

 正面に居るのは、仮面を被った金髪の小さな魔法使いだった。

 彼女の名はイビルアイというのは事前にリグリットから聞いていた。その名を知らなかったあなたは、世にはどうやらあなた程の天才であっても噂話すら耳にしないような強者がいる事を知り、喜んだ。

 

 そんな彼女の言葉に対し、ラキュースは子供扱いされたのを怒ってイビルアイに食ってかかっている。お前も小さいではないか、のように。

 

 そう、それは一見すると実に微笑ましい姿。

 

 ──しかしあなたは、身体を武者震いさせていた。

 

 目の前の存在は、信じられない程に強い。

 

 あなたにとって、これまで出会った中で一番強いのは十三英雄の1人たるリグリット。あなたはそのリグリットにすら、まともにやり合えば勝てる可能性を感じていた。いやむしろ、リグリット相手ならば有利なのはあなただとすら感じていた。

 

 しかし、目の前のイビルアイはどうだ。

 ──あなたは、彼女に対する勝ち目を見出す事が出来なかった。

 

「インベルンの嬢ちゃん。あんたはこれから、この2人とパーティを組むんだよ」

 

 リグリットは、あなたにとっても全く予想外な発言をした。

 力試しの最後の相手ではなかったのだろうか? 

 いや、目の前の存在の第一声を考えるに、誘いに素直には頷くまい。

 

 ──つまり、力を示すとはそういう事か。

 

 あなたは瞬時に理解した。

 冷静に考えたら試練の難易度があまりにも高すぎるが、強者を前に高揚するあなたは、そんな事は最早全く気にしていなかった。

 

「何を言っている? 遂に耄碌したのか? 私がパーティを、しかもこんな奴らと組むだと?」

 

 イビルアイはあなたの予想通りの発言をする。

 ラキュースが更に怒ったり、リグリットが煽ったりする中、あなたはひたすらに彼女との戦い方だけを考えていた。

 

 彼女は魔法使い。

 つまり一見すると、初手で速攻を掛けるのがセオリーだが、優れた魔法使いは結界などの防御手段を備えている。

 どう考えても極めて硬いであろうそれを抜けるには……

 

「相変わらずぐちぐち五月蝿いね。わしが勝ったら黙って言う事を聞くんだよ。──カイム、あんたはこの指輪を嵌めな」

 

 リグリットがあなたに例の指輪を渡す。

 あなたは一瞬驚くが、受け入れる。

 確かに、目の前の存在が相手ならば強力な装備は必要だろうと。

 

 指輪を装備したあなたは、自らの力が向上するのを感じる。

 これならば、可能性はあるかもしれない。

 

「ふん、奴の指輪か。この餓鬼に使いこなせるのか? ──いいだろう、せいぜい足掻くがいい!」

 

 イビルアイとの戦いが始まった。

 

 死なない様に手加減はされているものの、それでもあなたがこれまで見た事もないような圧倒的な魔法を連発するイビルアイ。

 それに対して、最前線に立つあなたをラキュースが神聖魔法で補助する。加えて、リグリットがアンデッドを放ったり魔法を放ったりして的確な援護射撃をする事で、手加減された上での話であるのは間違いないにせよ、あなたたちはこの強者に互角に渡り合っていた。

 

「!? 餓鬼、お前は一体……!!」

 

「驚いたかい? こいつは王国に生まれた歴史上最高の天才だよ。そして──掛かったね! 嬢ちゃんの相手はカイムだけじゃないよ!!」

 

 イビルアイはリグリットの罠に嵌る。

 一瞬動きが止まったイビルアイを見逃さずに、あなたは彼女に対して、ラキュースの補助魔法を受けて光り輝く剣を突きつけて。

 

「ま、まさか。──この私が負けた? 信じられない」

 

「卑怯だぞ、リグリット! こんな餓鬼が居るだなんて聞いてないっ!!」

 

 あなたたちに敗れたイビルアイは悔しさのあまり泣き喚いていた。

 これにはあなたも困惑していた。

 まさか、指輪を嵌めるまではあなたですら勝ちの目を見出せない程の、今まで見てきたあらゆる存在を遥かに超えた圧倒的強者たる彼女が、こんな無様な姿を晒すとは……

 

「──これからあんたたちは3人でパーティを組むんだ。気に入った奴が居たら新たに加えても良い。好きにしな」

 

 そう言った直後、リグリットはあなたとラキュースを引き寄せ、イビルアイには聞かれない様に小声で。

 

「カイム。嬢ちゃんはこんな奴なんでね。本当は誰かとパーティを組みたくて仕方ない、寂しがり屋の泣き虫なんだ。上手く転がしてやりな」

 

「ラキュース。あんた、焦るんじゃないよ。あんたの才能はわしが保証する。──そして、あのお姫様には負けるんじゃないよ」

 

 リグリットはあなたとラキュースにそう言い渡し、去って行った。

 

 あなたは圧倒的強者との戦いの興奮と勝利に酔いながら、そしてリグリットの一部あなたには理解できなかった言葉を聞いて何故か頬を赤くするラキュースと、子供のように未だにぐずり続けるイビルアイを眺めながら、並行して考える。

 

 あなたは、これまで自分1人で何もかも成せると思っていた。

 しかし以前、あなたの停滞は、リグリット、ラキュース、ヴェスチャーによって解決した。 

 そして目の前の存在は、指輪も仲間もないあなただけでは決して勝てない存在だった。

 

 勿論、あなたはこれまでも独り善がりで孤立したりしていたわけではない。むしろ、家族のために時間をかけて辞書並みに厚い書籍を執筆したりしていた。ヴェスチャーに師事して修行効率を上げたりもしていた。しかし、ここで重要なのはそれではなく。

 

 あなたは一方向ではなく、誰かと共に歩む喜びを知ったのだ。

 

 あなたにそれを教えたリグリットは、正しく偉大なる英雄だ。

 これが、試練の本質だったのだ。

 あなたは真の意味で理解した。

 

 

 

 

 






ハイジーニアスにしたかったですが、それがあるのかわからないのでジーニアスにしています。
冗長になるのは避けたいですが、どこまで設定を語るべきか難しいですね。
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