あなたなら、どうしますか? 作:お犬さん
イビルアイを仲間にし、レンフォール家に戻ったあなたたち3人。
まずはパーティとして、これからどうしていくのかを話し合う事にした。
というかそもそもパーティを組む事自体リグリットが突然言い出した事であり、あなたたち全員にとって想定外の話だったから、擦り合わせは必須だった。
「ふむ。お前は法国に行きたいのか? 何故だ?」
ラキュースも初めて聞いたという表情をしている。
あなたは1人で行くつもりだったから話をしていなかったというだけなのだが、とはいえ一応弟子に軽く謝りながら、法国には隠された強者……人類最強の存在がいる事を知っていて、それに興味がある事、そして人類最大国家とはどのような物なのかを実際に目で見てみたいと思っていると答えた。
「なるほど……わかった。ほとんどの冒険者は対モンスター用の傭兵みたいなものだが……お前のような奴が敢えて冒険者を志すならば、そのような考えに至るのは自然だな」
「とはいえ、法国に行くならば私は行けん。リグリットもだ。数年後にお前とラキュースだけで行くと良い」
イビルアイはともかくリグリットは何故? とあなたは一瞬思った。
目の前の仮面を被った260歳程度の少女イビルアイが吸血鬼であり、そしてこの世界では吸血鬼がアンデッドとして扱われている事はあなたは知っている。
だから、いくら指輪で偽装しているからといっても彼女が法国に行きたがらない理由は理解できる。
しかしリグリットは純粋なる人間だ。いくら魔法で時間を止めていてイビルアイ同様に260歳程度とはいえ、種族は人類なのである。
とはいえ、考えてみると……リグリットはどうやらアーグランド評議国への伝手を持っているらしい。そして、その伝手というのはあなたの予測では──
とにかくそうすると、リグリットも人類史上主義を旨とする法国には行きづらいという事なのだろうか? とあなたは考える。
「ああ、そんな所だ。法国と評議国の間には種族の違い以外にも色々あるんだが……まあ、そのうちな。それより、評議国は確かに初の冒険には適さないが、それは法国とて同じだろう。暫くは国内や帝国、聖王国辺りで活動すべきだろうな」
「……というか、そもそもお前たちはカッパーですらないだろう。まずは冒険者組合に登録に行くぞ」
確かに、あなた1人で動くならば国境越え程度どうとでもなるが、ラキュースやイビルアイを連れた3人旅だとすると、冒険者として最低でもミスリル級にはなっておいた方がスムーズだろう。
強者を探るにしても、冒険者パーティとして表立った手段で調査するならば、事前に高位冒険者になっておくべきとあなたは考えた。
これはパーティを組む事の弊害とも言えるかもしれない。
しかし、それ以上のメリットが存在している事をあなたは既に理解している。
例として。イビルアイの使う、短時間で冒険者組合にまで行く事が出来る『転移』の魔法がそのわかりやすい例だろう。
転移があるならば、例えば地理的に行く事はないだろうと考えていた聖王国に行く事も可能になる。とはいえ聖王国にあなたは魅力を全く感じていない事は未だ変わっていないから、実際に行くかどうかは別の話ではあるが。
というわけで、早速そのメリットを使ってもらい、すぐさま冒険組合の前に立つあなたたち。
すると、またもやイビルアイが。
「そういえば、パーティの名前はどうするんだ? 決めているのか?」
あなたはラキュースの目が一瞬光り輝く姿を見逃さなかった。
勿論、物理的に光っているわけではない。せいぜい少し身体がピクっとして表情が期待するかのような物に変わったくらいだ。
そんな彼女を見たあなたは確信した。
あなたの同志ラキュースならば、きっと良い感じの名前を思い付いているだろうと。
「私が決めていいの!? なら……『蒼の薔薇』にしましょう!!」
思っていたよりも無難な名前だったため、あなたは嬉しいやら少し拍子抜けやらの気持ちだった。
もし例えば『暗黒騎士団』みたいなのが来たらどうしようかと考えて内心少し期待していたあなただったが、普通に良いネーミングだったので、心の中では少し残念がりながらも賛同した。
ラキュースの叔父が率いているアダマンタイト級冒険者パーティ『朱の雫』を強く意識している名前である事が明白で、可愛げを感じるあなただったが、英雄に憧れる気持ちはよくわかっていたために特に文句もない。
こうして、あなたたちは無事にカッパー級冒険者『蒼の薔薇』としてパーティを結成した。
冒険者登録の際に、子供ばかりで侮られるといったお決まりのイベントをラキュースは心待ちにしていたそうなのだが、そんな事は起きなかったため彼女は落胆していた。
何を言っているんだ? と言ってラキュースに呆れるイビルアイ。
しかし実はあなたも、まあ無いだろうとは思いつつも内心で少し期待していて。そして何事もなかった事実に対してラキュース同様に落胆していた。わかる、とラキュースに言いたかった。
だが、あなたは師匠の威厳を保つ為になんとか我慢した。
実際はイビルアイがラキュースに対して呆れ声を出している姿を横目にしていたのが最たる理由であった。
そして。
「この私が今更こんな依頼を……」
イビルアイはカッパー級冒険者としての代表的な依頼たるペット探しに対して嫌がる素振りを見せる。
しかし、あなたは既に理解している。
なんだかんだで、彼女は誰かとパーティを組んで雑用に勤しむ現状を楽しんでいるのだという事を。
何故なら、ペット探しやらお使い依頼やらの際に、毎回イビルアイはぐちぐち言いながらもパーティの先頭に立っていたのだから。
彼女は、自分が先立としてまだ若いあなたとラキュースを導かなくてはならないなどと……すっかりリーダー気分である。
魔法を用いて依頼を簡単にこなし、あなたたちからの尊敬を受けたいと思っているであろう様子がありありと見える。
あなたはそんな260歳児イビルアイを微笑ましく眺めながら、しかしとある事実に気付いて、はっとする。
確か、2年前に初めて弟子が出来たと喜んでいた人間がいなかっただろうか?
ついこの前、素直になれば良いというのに無駄なプライドが邪魔をして、ラキュースと厨二談義が出来なかった……何なら先程にも似た様な事をしていた愚か者がいなかっただろうか?
そんな筈はない。
あなたは目の前にいる、自らが燥ぐのを必死に誤魔化しながら、あなたたちの事をやたらチラチラ見てくるアホとは違うのだ。
あなたは自らをそう説得しながら、雑用依頼に励んでいた。
そこには似た者3人の姿があった。
──そうして初心者冒険者として過ごす事暫く。
あなたたち『蒼の薔薇』は、トントン拍子で依頼をこなし、ランクを上げていく。
無論、特にあなたがその気になれば、例えばカッパーからゴールドへの飛び級の様な事も容易に出来ただろう。
しかし、この世界でこれまで過ごしてきた経験を基にあなたはこう考える。
あなたたちが近い内にアダマンタイト級になる事は確実だ。実力的にはラキュースは未だアダマンタイト級に到達していないとはいえ、あなたとイビルアイはそれを飛び越えている強さなのだから。
むしろ、逆に考えると低ランクの仕事が出来るのは今しかない。級が上がってしまえば、体面的にも自らのモチベーション的にも低ランクの依頼はまず受領しないだろうから。
ならば低ランク冒険者として仲間と共に依頼をこなすという事もまた、この世界に生きる1人の人間として今の内に体感しておくべきなのだと。
時間の浪費である事に違いはないが、あまりにも効率性を意識しすぎる人生というのは人間的な人生の送り方ではないのだと今のあなたは思っている。
更に言えば、同志かつ弟子でもあるラキュースとは既にかなり仲の良いあなただったが、イビルアイとはまだ出会ったばかり。
パーティ仲があまり深まっていないアダマンタイト級冒険者などという訳のわからない存在を生み出すわけにはいかないのだ。
まあそうは言っても一般的な冒険者と比較すると昇格スピードが異例の速さになるであろう事は間違いない。
それに、例えばカッパーで1年停滞するというのは、楽しみも得られる経験も全くない無意味な時間だろう。その辺りの塩梅を臨機応変に対応出来ないあなたではない。
──そうして、あなたは15歳、ラキュースは14歳になった。
イビルアイはとっくに年齢を数えていないらしい。まあ、おおよそ260歳でいいだろう。
あなたたち『蒼の薔薇』はミスリル級にまで上がり、王国で最も期待される新鋭のチームと呼ばれていた。
1年弱でカッパー級からミスリル級にまでなったあなたたちは当然かなり噂となっていた。
特にあなたが元アダマンタイト級冒険者ヴェスチャーの現役時代より遥かに強いというのは有名な話だったから、アダマンタイト級になるのは時間の問題として扱われていた。
新たなる英雄候補筆頭として、悩む事なく突き進むのみの若者たち。それが世間から見るあなたたちの印象である。
しかし、あなたは大きく分類して2つの点で思い悩んでいた。
1つ。
「実力の割に、なんだその装備は? 普通の服に、それなりの名工が鍛えてはいるみたいだが魔法の力がない剣。……というか、それで私に勝ったのか……」
イビルアイが言うように、あなたの装備はリグリットから試練の報酬として貰った指輪以外、あなた自身の実力と比較してあまりにも貧弱だった。
あなたの家は貴族ではあったのだが、武に優れた家ではなく、代々伝わる家宝も、武具ではなく絵画などの品であった。
故に、あなたの家で最も優れた武器は魔法の武器ではなく『それなりに名の知れた名工の鍛えた剣』でしかなかった。
あなたが仲間と共に冒険者として過ごす中、魔法のアイテムを入手していないわけではないのだが、どれも王都で市販の物であり、安価ではないものの一品物などではなかった。
あまりに高すぎる物には今のあなたは手が届かない。
状態異常対策などの理由でどうしても必要な場合は、ラキュースが実家のアインドラ家から持ってきたアイテムを借りたり、イビルアイが自前で所有しているアイテムなどを使わせて貰っていた。
つまり、ヒモである。あなたとしてはかなり情けない現状だった。
もっと金銭があるならば、もう少しまともなマジックアイテムを揃えられるのだろう。
あなたの才能を惜しみなく使えば、稼ぐ策はいくつか思い浮かばないわけではないのだが、冒険者活動が疎かになるだろう。
アダマンタイト級に昇格するのを待つのも手ではあるのだが……あなたは悩んでいた。
2つ。
アイテムはプライドを投げ捨ててヒモとして臆面もなく美少女2人から借りれば、一応どうにかなりはするから、2つ目こそがあなたとしては目下の最大の悩みなのだが。
それは、有名税。
もっと簡単に言うならば、家族への影響である。
あなたは元来、1人で風来坊をするつもりだった。あなたは別に有名になろうなどとは思っておらず、ただ腕試しをしたいだけ。
旅先では偽名を使えばいいと考えていた。それでも、鋭い者ならばあなたの出身などに勘付くだろうが……その程度ならばあなたはどうとでも出来ると自負していた。
例えば、根無草になったあなたは家族を捨てて最早何とも思わない身だと演技するのは容易だろう。
そもそも相手が個人あるいは少数ならば、最悪事故を装って斬り捨ててしまえばいいのだ。家族に仇なす者をわざわざ生かしておく理由は絶無なのだから。
反して、あなたが冒険者の英雄として実名で生きるという事は、必然的に周辺国家に名が知られて、家族にも影響は及ぶだろう事──端的に言えば家族を鎖にあなたを従えようとする輩は少なくない数いるだろう事は容易に想像出来た。
勿論、あなたは自らが冒険者として身を立てる事になってから、家族への本に対して多数の追記を加えていた。
考えうる限りの防護策。
加えて、いざという時の亡命手段まであなたは既に練っていた。
あなたは領民には興味がなかった。勿論、家のために領地を富ませるという意味では貢献できるように手記を記載したが、仮に領地が壊滅しても家族が無事ならばあなたにとっては構わないのだ。
領地への貢献に関しては両親や弟妹の心情を慮っているに過ぎない。
あなたは情がない人間ではないのだが、さりとて生来個人主義の性質を有している。
リグリットの試練によって仲間の大切さは理解したが、あなたは自分の大切な人間さえ守れば後はどうなろうと関係がないというスタンスである事に変わりはないのである。
話を戻すと、家族を守るための様々な策を講じたあなただったが、純粋な暴力を相手にしてしまう場合、いくらあなたとはいえ遠く離れた地から武の心得のない家族を守るのは不可能なのだ。田舎貴族であるが故に、護衛騎士にも当然限界はある。
あなたの数少ない知り合いの強者たるヴェスチャーは王都で道場を開いているし、リグリットは神出鬼没。護衛を頼むのは難しい。
ならば、この2点を解決するにはどうするか。
「ふふ、私が思い付いているのです。あなたならば、とうの昔に解答に至っている筈。それなのに、実行しようとしないのは……ふふふ、ありがとうございます」
──あなたやラナー王女のような知恵者は、相手がわかっている事を前提に会話を端折る傾向がある。
異世界の前世持ちで、今世においても高校1年生相当の15歳を迎えたあなたはともかく、ラナーは未だ小学生相当の11歳なのにも関わらず、このような会話をしているのである。
「私の負担を気にされているなんて、嬉しいです。しかし、あなたはご自分のお望みを叶えるべきでしょう。そのためならば、その程度の事など苦でもありません。私にもその分のメリットはありますから」
ラナーが何を言っているのか。あなたは当然理解していた。
あなたの悩みは、大雑把に言うならば今のあなたにコネクションと金銭が足りない事が原因で発生している。
ならば、それを解決するためにはラナーを『使え』。
彼女はそのように言っているのだ。
「あなたの周りに蛆が集る現状は業腹ですが、何をするにせよまずはあなたを私の物にする事。その為であれば私は……」
かつてのラナーには、他者の考えを慮らない事により根回しが下手という悪癖があった。
しかし、今のラナーはあなたを手に入れる為になりふり構わなくなっている。今の自己に足りない物は何なのかを、自分より優れた存在と認めたあなたから吸収し、成長を遂げていた。
彼女は既に次兄やレエブン候、エ・ランテルの都市長パナソレイ、元ミスリル級冒険者である王都冒険者組合長などの王国の中では数少ない優秀な人間を選別、手中に収めている。
同様に、貴族経由で八本指の動向も把握していた。
ラナーは既に、11歳にして王国の制度や金銭の動きなどをある程度自在に操作出来るようになっていた。
あなたのパトロンとして、装備の提供や、あなたの家族への保護などは今の彼女にはあまりにも容易い話になっていたのである。
故に、ラナーはあなたの悩みを解決し、彼女はあなたという王国最大戦力を手に入れるという互いに利のある関係を築こうと主張しているのだ。
しかし、あなたは既にラナーの友人であり、特に理由はなくともラナーに何かがあれば助ける関係性である。
そのため、この取引は結局の所あなたにしか利のない話になってしまうから、あなたは逡巡していたのである。
あなたはラナーの人格が優れている事に感動していた。
「……カイム。あなた、ティエールと随分仲が良いのね」
ある日ラキュースが質問してきたため、あなたにとってラナーは8歳の頃からの付き合いで、話の進行がとてもスムーズな友人だと語る。
自分を助けてくれる、最早あなたにとっての第3の仲間と言って差し支えない存在なのだと。
「友人? ……私には、あいつはあの歳でカイムの外堀を全力で埋めようとしている狡猾な女にしか見えんが……」
「そう! そうよね!? 絶対に負けないんだから……!」
260歳児のイビルアイがあなたに聞こえない様にぼそっと漏らした台詞に、ラキュースは全力で同意していた。
あなたは?マークを浮かべていた。
ラキュースとラナーは何かを競っているのだろうか? 彼女たちでは得意分野が違い過ぎて争うも何もないだろうに……などとあなたは思っていた。
彼女たちは互いにティエールやアルベインと呼び合うくらいに仲が良い為、お互いにしかわからない何かがあるのだろうな、などとあなたは2人を後方から微笑ましく見守る面構えをしていた。
某漫画でシュートより速く走る超人に驚愕して筆が進みました。