あなたなら、どうしますか?   作:お犬さん

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8話:名声と選択

 

「はい。前回の打ち合わせ通り、法国への手紙は既に認めました。次は……え? 私も一緒に? ……え、ええと……し、少々お待ちください」

 

 あなたは目の前で狼狽するラナー王女を見て、自らの友人をびっくりさせる事が出来たことを内心で喜んでいた。

 

 可愛い子は揶揄いたい。

 ……この時のあなたの心は小学生並みであった。

 

 何せ相手は11歳の少女。むしろ幼女に近いと言ってもいい年齢の、あなたが見てきた中で前世今世合わせて間違いなく1番可愛い女の子なのだ。

 あなたにとって彼女は仲の良い友人であると共に、少し意地悪をして愛でたい対象であった。

 

 

 ──御前試合を優勝したあなたは、現在ラナーと共に次の行動を成すための幾度目かの打ち合わせをしていた。

 各所へと手紙を送ったり、彼女に連れられる形で主要な貴族と改めて挨拶をした矢先の話。

 

 あなたは次なる目的地として、帝国か聖王国に王女と『蒼の薔薇』が共に訪れる事を提案したのだ。

 

「聖王国か帝国のどちらかに、私とあなたが一緒に……? す、すみません、狼狽してしまって」

 

 あなたの言葉にこれ以上なく動揺した姿を見せ、普段の彼女では絶対にしない単なる繰り返し言葉を述べるのみの状態となった目の前の11歳の美少女。

 彼女は自らを落ち着かせるための息を吐いて。

 

「──確かに、今ならばそれも可能でしょう。むしろ……御前試合を超えたあなたの新たなる英雄譚として相応しいとも言えますね」

 

「毎回の事だけれど、2人は一体何の話をしているの? そして、ティエール……行くのはあなたたち2人だけではなく、私たち『蒼の薔薇』が一緒とカイムは言っていたのだけれど?」

 

「最近私の影が薄くなっている気がするのだが、気の所為だろうか……」

 

 あなたとラナー王女がいつものように行間を端折りまくる会話をするせいで、珍紛漢紛といった顔をしているラキュース。

 そんな彼女が突っ込みと忘れずに牽制を入れた事。そしてパーティ随一の実力者でアンデッドの美少女で長寿なのに子供っぽいなどという属性を多々持っているにも関わらず、キャラの薄さに悩み出した260歳児を見たラナーは冷静になる。

 

「帝国の4騎士や武王、聖王国の聖騎士団長……王女たる私を連れて訪れ、公衆の面前で彼らを模擬試合にて打ち倒す姿を見せれば、最早アダマンタイト級への昇格及び残る秘宝の下賜など赤子の手を捻るが如き話。付随して私の影響力も飛躍的に向上するでしょう」

 

 理解の声を上げると共に、最初からそう言えばいいのに、と言いたげな顔をするラキュースとイビルアイ。

 ラナーはそんな2人を無視して。

 

「私の国境の通過も、民意をある程度制御した今となっては容易な話。……全てを布石とし、機を見る瞳に大胆不敵さ。流石はあなたといった所でしょうか。……まさかこの私がこうも振り回されるだなんて……」

 

 あなたとラナーは、これまで短い期間にも関わらず民意を操作して望む状況を作ろうとしていた。

 

 例えば、御前試合を見ていた数多くの実力者……もっと具体的な例を挙げると、最近子供が産まれて豹変したレエブン侯の、子飼いの元冒険者にあなたが未だアダマンタイト級でないのは何故なのか? などと言わせたり。

 黄金と称される美姫と共にする、彼女に匹敵する美貌を持つ若き英雄……そんな絵物語に語られるような新たなる英雄が、王国の誇る五宝物を全てを身に付けて冒険をする姿を見たいなどと民に言わせたり。

 

 貴族については、以前にも述べたようにあなたたちは主要な人物は既にあらかた取り込んでいる。

 王派閥も貴族派閥も、田舎貴族とはいえ貴族嫡男の英雄であり、どの派閥にも所属していないあなたを自らの傘下へと取り入れようと躍起になっているから、そんな彼らを逆に利用する事などあなたからすればあまりにも容易な話だった。

 

 そのため、あなたたち『蒼の薔薇』のアダマンタイト級への昇格や、既に入手している剃刀の刃以外の残る3秘宝の入手は時間の問題ではあった。

 しかし、その待ち時間を一気に0にすると共に、他国の強者との手合わせなどの冒険心を満たせるという一挙両得の策をあなたが打ち出したというのが顛末である。

 

 聖王国と帝国のどちらに行こうとも、名声を高めるという目的は果たせる。

 

 あなたは、自らが方針を打ち出した以上、訪問国をどちらにするかは3人の希望を優先すべきと考えていた。

 

 ──あなたの意見としては。

 国としては帝国の方が明確に優れており、仮に2国のどちらと組むかという話だったならばあなたならば躊躇なく帝国を選ぶ。

 強者に会うという観点においても、武王だけでなくフールーダを有する帝国の方がどう考えてもいい。

 都の栄え具合、娯楽施設……観光という観点においても明確に帝国が優れている。

 

 とはいえ、あなたはパーティを私物化するつもりはなかった。仲間として、友人として対等に相談して選択すべきと考えていたのだ。

 

 

 まずはラナーの方を見る。

 

「当然ですが、後にもう片方に訪れる事は可能です。ですが……その意味は薄いでしょうね。どちらに行こうとも目的ならば達成出来ますし、私は構いませんよ」

 

 どうやらラナーもあなたと同じように今回は選択権を譲るつもりのようだ。

 繰り返しにはなるが、最低限の目的である名声を高めるという観点ならば、彼女が言うようにどちらでも達成可能。

 

 また、王女の言葉通りに例えば先に聖王国を訪れ、後に帝国。あるいはその逆というのも可能ではある。

 しかし帝国を後にした場合は当然の話として、皇帝ジルクニフはあまり歓待してくれないだろう。結果フールーダとは会えずに終わる……なんて可能性もある。仮に会えたとして、魔法談義が出来るかと言われたら望み薄だと思われる。

 そして聖王国を後にする場合、それこそ名声を高める目的は既に果たしたというのに、あらゆる面で帝国に劣る聖王国に一体何のために行くのか? となってしまう。

 

 その上で、ラナーの立場からすれば、帝国より聖王国の方が政治的に少しだけ利があるだろうとあなたは考えた。

 彼女自身もそう考えているだろうが、とはいえ微々たる物だろうという予測もあなたたち2人は共通で立てていた。

 

 理由は簡単。

 聖王女カルカ・ベサーレスは自国の掌握を上手くできず、物資も肥沃な土地を持つ王国側から購入している。

 そんな現状、彼女があなたたちに政治的に何かできるかと言われたら……まあ、ないとは言わないが……というくらいで。

 

 つまり、政治的な意味で今回訪問する国を選ぶ意味はあまりないし、2国両方とも訪れようとする意味もないだろうという事だ。だからこそ、ラナーからすればどちらでも大差はないのだと思われる。

 

 

 そして、次にラキュースの方を見ると。

 

「私は……少し待って。ちゃんと考えるわ」

 

 ラキュースはそう言って考えに耽る。

 ──あなたは自らの弟子のこういう部分を非常に評価していた。

 この歳にして、あなたという天才を前に思考停止に陥らない人間が世の中にどれほど居るのかを考えたら……あなたは彼女の事を誇らしく感じていた。

 

 知性により政治的メリットデメリットを瞬時に判断したラナーとあなたに比べたら、ラキュースの判断力はまだ未熟。しかし、未熟ならばそれを磨こうとして考える姿勢を素晴らしいとあなたは思っている。

 

「……私は、帝国が良いと思う。王国とはあまり良い関係ではないとはいえ、私たちが冒険者としてティエールと一緒に訪れる事はまだ可能だと思うし、何より……カイムの予想だと、そろそろ王国と帝国は戦争になるのでしょう?」

 

 あなたは頷く。

 あなたの予想では、皇帝ジルクニフが王国を自滅させようと目論んで、これから毎年緩やかな戦争を仕掛けてくるだろうと見ていた。

 

 あなたはそれに介入するつもりは全くなかった。

 これまでの行動の結果として、自分にとって大切な人々を守る算段は既に立てていたから。

 それに、そもそもそういった事に介入したいならば、あなたは冒険者になる事を選んでいないし、選ぶべきでもないのだ。

 

「なら……多分帝国に行けるのはこれが最後になるかもしれないし。私たちはともかく、ティエールは特にね」

 

 ラナーの事情を気にするくらいにラキュースが優しい事は十二分に知っている。

 しかし、理由はそれだけではないだろう。

 あなたは彼女が再び話すのを待つ。

 弟子は意を決したように。

 

「……後は……客観的に見て、帝国は聖王国よりも……王国よりも、明確に優れていると思うから。行けるうちに、行っておきたい」

 

 あなたは望む答えを彼女の口から聞けて嬉しく思った。

 

 仮にラキュースが何らかの理由を以て聖王国にしたいと言った場合、それならそれで構わなかった。

 あなたたちは仲間なのだから、事情があるとするならば、多少の非合理も許容範囲である。

 

 ただし、仮にそういった事情がない場合。

 彼女がここで聖王国を選ぶような、貪欲さに欠ける弟子だとはあなたは思いたくなかったし、事実としてその心配は杞憂だったためにあなたは喜んでいた。

 

 さりとてそれを表現してラキュースの言葉を遮ってはならない。これもまた、弟子の成長の場なのだ。

 あなたは何度も頷きたかったが我慢した。

 

 彼女は続ける。

 

「関係を深めるという観点で考えるなら、戦争が予測される帝国よりも聖王国が良いように思う。とはいえ正直な話、私たち『蒼の薔薇』が聖王国と組むメリットはあまりないと思うわ」

 

 あなたは頷いた。

『王国貴族として』ではなく『蒼の薔薇として』考えるならば、帝国より優先して聖王国に組む価値は『少ししか』どころか『全く』ない。

 繰り返しになるが、あの国にはフールーダやリグリット、イビルアイのような超越者も居なければ、国力も低い。

 

 ──カルカ・ベサーレス個人は、恐らく素晴らしい人格者なのだろう。

 しかし、彼女が『蒼の薔薇』に何かメリットを齎すかと言われると……逸脱者フールーダと会って魔道の深淵を垣間見たり、優れた国土に触れて知見を深めたり、魔導学院やら闘技場やらの豊富な施設を訪れてみたり、歴代最高皇帝と言われるジルクニフに会ってみたりする以上の収穫を彼女がくれるとは、あなたは全く思わなかった。

 

 あなたはカルカの側近たるケラルト・カストディオが、表向きは信仰系第四位階魔法の使い手としながら、実際には第五位階魔法が使える英雄級の実力者である事を集めた情報から看破している。

 とはいえ、比較対象がフールーダでは流石に相手が悪い。

 

 もしあなたたちが聖王国に行った場合、あなたはレメディオスを模擬戦で打ち倒し、名声を得られただろう。最低限の目的ならば、果たせた事だろう。

 しかし、逆に言うならばそれ以外の物は得られないだろう。

 

 

 最後に残るのはイビルアイ。

 

「聖王国か帝国かならば、私個人の感情としてならば聖王国が良かったが……はぁ。ラキュースの言う通り、メリットを考えたら帝国にするのが当然の話だな。私も帝国を推奨するとしよう」

 

「イビルアイは帝国で何かあったの?」

 

「帝国はあの爺さんがな……とはいえ、別に構わんよ」

 

 イビルアイは再びため息を吐いてから、あなたの方を向く。

 

「──カイム。お前はいつだって前を向き、私が予想だにしない革新的な道を歩む。そんなお前とこれからもパーティを組むというならば、ラキュースと同様に私も停滞は選べん。……まさか、この歳にして前を向く選択肢を取らされるとは……」

 

 彼女はあなたの眼を真っ直ぐに見て。

 

「……認めよう。カイム、お前は大した奴だよ。この短期間で私の考えを変えてしまったんだ。リグリットが言っていたように、お前はきっと歴史に名を残す偉業を成すのだろう。今ならば、私も心からそう思える」

 

「……え? 今更なの? イビルアイはもうとっくにカイムの事を認めてたような気がするのだけれど?」

 

「ええい! せっかく良い感じになっていたというのに!! これから私はこいつをリーダーとして! 認めると言うんだ!! 正式にパーティのリーダーの座を譲ろうと思って……!」

 

「……? もしかして、今まではリーダーは自分だとか思っていたの……?」

 

「な、何だと!? 今までは私がリーダーだったよな!? 先立としてお前たちを導いて……そうだよな、カイム!!」

 

 

 ──こうして、あなたたち『蒼の薔薇』はこれから帝国を訪れる事に決定した。

 

 

 人生とは、選択の連続である。

 何かを選ぶというのは、何かを選ばないという事を意味している。

 例えばあなたが剣を選んで魔法を選ばなかったように、あなたはここで帝国を選んで聖王国を選ばなかった。

 八方美人なんて物は現実世界では通用しない。

 それは奇しくも聖王女自身が示している。

 

 つまり。

 あなたと聖王国の人々の道は、交わらないのだ。

 

 

 





 今の『蒼の薔薇』ならこういう選択になるよなあ……と考えて帝国になりました。
 キャラとして不自然な行動は出来ないというのはこういう事か。
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