死別曇らせ短編【異世界版】 作:TuT
ブルアカの“キキョウ”とは無関係です。
────────────────────────
ギルドの重厚な扉を開けると、任務掲示板を見る冒険者たちで賑わっている。
「××とキキョウか。今日はどの任務にする?」
「こんにちは。そうっすね···準ダイヤ
「明日からは長期ダンジョン遠征だからな。軽めの任務にしておきたい」
木製のカウンターへ行き、馴染みの受付のおっちゃんに適当な任務を探してもらう。
「了解。······じゃあ、東の森にいる
「それでいい。早速行ってくる」
言うが早いか、キキョウさんはすぐにギルドから出ていってしまった。相変わらず行動が早い。
「俺も行ってきまーす!」
「おう、気を付けてな···っと、ちょっと待て」
「んっ?なんすか?」
「お前···本当に“あれ”書いたのか?」
「書きましたけど···破いて捨てちゃいました」
「そうだな···“あれ”は洒落にならん。キキョウが見たらどうなるか···。お前ならあり得なくもないから、余計にたちが悪い」
◆◆
キキョウさんへ
長期ダンジョン遠征を間近に控えた今日、初めて手紙を書きます。
少しばかり長い手紙になりますので、暇な時に読んで下さい。
俺が敬語を使うなんて柄じゃないですし、文才もありませんが、どうか堪えてください。
直接の会話ではなく手紙という形式を採った理由は、貴方にこの情報が伝わるのを遅らせたかったこと。
そして、この手紙を
この手紙を読んでいるということは、続く内容も察しがつくでしょう。
貴方はとても賢い人ですから。
天国か地獄かは分かりませんが(おそらく地獄でしょう)、とにかく、これだけは確かです。
ご存知の通り、我々遠征隊は襲撃に遭いました。
その襲撃者どもの狙いは、俺だったのです。
私以外の犠牲者を出さない立ち回りを心がけたはずですが、大丈夫だったでしょうか。
日時は分かっていました。
しかし既に手遅れで、阻止は不可能でした。
その事を知って、私は妙に得心がいきました。
年貢の納めどきなのだ、と。
詳しいことは書けませんが、私は他国のスパイです。
技術者兼冒険者としての地位を活かし、この国の産業基盤に損害を与えるのが、私の役目でした。
しかしこの国で貴方と過ごしているうちに、それを果たす気は失せてしまいました。
「貴方と」と書きましたが、この結末を選択したのは私の意思です。
あまり気にしないでください。
それに私はもともと、そう長くない命でした。
私が使用する魔法や魔装具は全て、私の寿命を削る代物だったからです。
子どもの頃から懸命に努力してきましたが、貴方と違って私には才能がありませんでした。
これでは国から課せられた“役目”を果たすことができません。
そこで、私は独自の魔法や魔装具を開発したのです。
使用する生命エネルギーの割には貧弱な効果しか発揮できませんでしたが。
それでも強く聡明な貴方の隣に立ち、共に戦い、貴方を癒せる力を手にできたのですから、私は満足です。
私個人は満足しましたが、無責任に私だけがいなくなることは、やはりよろしくないでしょう。
残った私の魔力と寿命を注ぎ込み、私の
自我の無い人形の様なモノですが、私の記憶を持ち、私と同じ様に振る舞います。
戦闘力も、私と大差無いはずです。
貴方にも製作者である私にも、誰にも見分けがつかない自信作です。
これからは彼と仲良くしてやって下さい。
素っ気ないようで優しい貴方のことが、ずっと好きでした。
この言葉が貴方の十字架に
◆◆
「······やっぱ捨てるか」
彼の部屋から、小さな独り言が聴こえた。
扉は閉められていたが、鍛え抜かれた私の五感は辛うじてその言葉を
部屋を覗き見ると、紙を破り捨てる彼の姿が見えた。
彼が何を捨てていたのか気になった私は、彼が部屋から出ていった後に、こっそり部屋に忍び込んでゴミ箱の中身を自室へ運んだ。
大雑把に破り捨てられた紙から、不穏な文章の断片を読み取れた。
嫌な気配を感じ取りながらも、断片を組み合わせて元の形へと復元した。
それは手紙···いや、『遺書』だった。
────────────────────────
◯俺/私
複製体は一人称に素が出る。
◯キキョウ
遺書を読んだ後、「冗談だ」と聞かされたが、今ここに存在している××が
遠征を休み、しばらく落ち着いた生活を送ったため、その後は“表面上は”平常に戻った。
しかし疑念は燻り続けたままである。
真実は永遠に伏せられた。